光の墓場《第0区》
地球に取り残された者たちは、誰も選んでそこにいたわけではなかった。
金がなかった者。
身寄りがなかった者。
政治的に「不要」とされた者。
都市の陰に埋もれ、名前すら登録されていなかった者。
そして、ただ“間に合わなかった”だけの者。
地下100メートル、東京湾岸の廃駅跡地ーーかつてはターミナルだった場所に、最後の人類の拠点が築かれつつあった。
コンクリートがひび割れ、鉄骨が崩れた構内に、人々は寝床をつくり、かろうじて残った空調設備の音だけが生の証を鳴らしていた。
ある日、暗闇のなかで、地鳴りのような声が響いた。
「……ここを、地上より“マシな場所”にする」
振り返った数十人の目が、その男を捉えた。
ハルト・アズマ(42)。筋骨隆々で、炭鉱育ちの硬派な男。
だが、誰よりも“人間”を信じる男だった。
「酸素がある。水も、掘れば出る。熱さから逃げられる。だから、まだ、やれる。終わってない。……俺たちは“捨てられた”んじゃない、“ここに残った”んだ」
その言葉は、一瞬の静寂を引き裂いた。
「何言ってんだよ、アンタ……!」
痩せこけた青年が声を荒げる。元ストリートチルドレンの**ユウタ(19)**だった。
「見ろよ、俺たちのこのザマ!あの富豪どもが火星行きの船に乗って笑ってる頃、俺の母ちゃんは“避難の基準に満たない”って言われて、部屋で熱中症で死んだんだぞ!」
「……同じだよ」
そうつぶやいたのは、少女のような風貌の青年リナ(16)。元難民二世。
顔には地上の火傷跡が残っている。
「私の国なんて、避難枠すらなかった。“人間扱いされてない”って知ったの、13歳の時だったよ……。だから、ここがマシっていうなら、それは地獄に屋根がついただけ」
重い空気が漂う中、一人の少女が進み出た。
「それでも、生きるしかないでしょ」
リン・タカミネ(17)。元・工学高校の天才生徒。父親は避難の権利を持ちながらも娘だけを地球に置いていった。
「この星を捨てて逃げた奴らのこと、私も許してない。でも……こんな闇の中で腐ってるだけじゃ、何も変わらない。だったら私は、“人間の光”を作る」
その言葉の翌日、リンは廃材の山から小型反応炉とLED部品をかき集め、手作業で回路を組み上げた。
酸素の残る密閉空間で、わずかな電力から人工の太陽灯を生み出した。
《ソルアーク》──人類最後の太陽。
「これで……野菜を育てられる…!」
その時のリンの声は、泣いているようにも笑っているようにも聞こえた。
「人間の“光”だよ、これは……誰にも奪わせない……!」