9話 魔力の可能性の一
(時はレイドが【殺猫】に吹き飛ばされた直後まで遡る…)
視点変更:リーシャ・レイレンス
「…っ、この魔物は…」
靄がかかっていて良く見えないが…私の知っている魔物じゃない。
「…参ったわね…【殺猫】だわ」
どうやらカルミアちゃんは知っていたらしい。鬱陶しそうにその【殺猫】という魔物を見ている。
「リーシャ、警戒しなさい。この靄がかかった猫は【殺猫】…特級の上位、固有能力は──っ!?」
突如として、【殺猫】の姿が靄と共に消えた。何処に行ったの…?と、私は全方位を見回す。…だけど。
「…!?正面!?」
刹那、正面から靄を纏った何かが現れ、私に向かって何かを振り上げていた。恐らく前脚か何かだろう。
「…っ、〝翔育〟!」
辛うじて無詠唱で魔法を発動させる。すると、私と【殺猫】の間にあった一本の雑草が巨大化した。【殺猫】はその雑草に阻まれ、私への攻撃を中断した。
〝翔育〟は第一段階無属性魔法、効果は〝一定時間、能力値を成長させる〟。つまり植物を異常に成長させた、と言うことだ。
私は地を蹴って【殺猫】との距離を離す。
「…面倒ね…呑まれろ、〝厭升〟」
カルミアちゃんが第五段階闇属性魔法〝厭升〟を放つ。〝厭升〟はその闇に触れるだけで精神に異常を来し、自尽にまで誘導させる魔法だが…。
【殺猫】は再び姿を消した。その瞬間、ゾッとするような感覚に苛まれ、気がつけば私の身体は動いていた。身を捻ると、そこを【殺猫】が繰り出した斬撃が通り過ぎていった。
あのまま立ち尽くしていれば、一瞬で斬殺されていたことだろう。気づけて良かった…。
「…あの能力は厄介ね…〝煽盾〟」
カルミアちゃんは私の元に寄って、私達を囲うように防壁を展開した。【殺猫】は、その防壁に吸われるように、防壁に突進する。
「やっばり〝闇裂〟は厄介ね」
「〝闇裂〟…?」
私がそう疑問符を浮かべると、カルミアちゃんは早口で答える。
「ええ【殺猫】の固有能力よ。効果は二つ。一つ目は隠蔽、自身の姿を隠す…二つ目は陰影移動、一定範囲内に陰や影があれば移動出来るの。今は〝煽盾〟で意識を引いてるけど、本来なら防壁も無視して内側に入り込んでくる。早めに仕留めるから、アシストをお願い」
「う、うん…!分かった…!」
「とは言っても…やっぱり武器無しじゃ厳しいかしら…〝顕現〟」
カルミアちゃんは魔法陣から赤い剣を取り出す。微かに纏っている炎が揺れ動き、途轍も無い熱を帯びている。
「リーシャ、支援魔法をお願い」
「うん…真を指し示し、敵を退ける力を此処に、〝縁神〟…!」
カルミアちゃんに支援魔法を付与した。カルミアちゃんの身体からは糸のように細く、輝かしい魔力が放出される。
「…これなら余裕そうね。ありがとう」
カルミアちゃんはそう言って、〝煽盾〟を解除して、【殺猫】に全力で肉薄した。【殺猫】は混乱により反応が遅れたのか、数瞬身体が硬直した。そして、カルミアちゃんの剣が振り下ろされる。その直前、【殺猫】はハッと我に返り、靄で見えない何かで応戦しようとするが…。
「…脆い」
カルミアちゃんの圧倒的な膂力によって、何かが砕け散るような音が響いた後、血と爪であろう破片が四散した。その後、【殺猫】は倒れ、そのまま動かなくなった。
「す、凄いねカルミアちゃん…」
私は正直にそう言った。【殺猫】の反応を上回る速度…私も殆ど見えなかった。
「リーシャの支援のお陰よ。支援が無かったら、私だってこんなに楽に倒せなかったわ、ありがとう」
「そ、そうかな…?」
恐らくお世辞だろう…だけど、自然と頬が緩んでしまう。これまで〝落ちこぼれ〟と蔑まれてきた私だからこそ、この言葉は嘘でも嬉しかった。
「…さて、レイドが吹っ飛ばされていったけど…大丈夫かしらね…もしかしてやられてたり…」
「まさか…レイド君に限ってそんなこと……」
無い…とは言い切れないけど。レイド君が死ぬというイメージが、何故か湧かない。私がレイド君に死んで欲しくないと思っているからなのだろうか?はたまた別の理由があるのだろうか。
「…ま、それは今考えることじゃないわ。ブレインが居なくなった以上、安全策を取るわ」
「…安全策?」
「ええ…と言っても、こんな暗い所じゃ光も届きづらい…光属性魔法はほぼ使えないから、〝瞬讃〟で帰ることは叶わないわね…」
光属性魔法の大半は、外部の光を経由して扱う。〝瞬讃〟もその一つで、光を伝って移動する為、光の届かないこの場所では、魔力を無駄に消費するだけになる。
故に、使えるのは私が知っている限りだと、第十段階無属性魔法〝転移〟のみ。だが、そもそも〝転移〟は移動には向いていない。〝転移〟は座標を設定して、その座標へと瞬間移動する魔法…カルミアちゃんが学園とかの座標を知っているならまだしも、多分知らないだろう。
…そもそも、レイド君とはぐれている時点で、カルミアちゃんも〝転移〟を使う気にはなれない…だから、私も〝転移〟の話題を出さないでいる。
「…飛行して脱出するとか…?」
「そんなことしたら敵の恰好の的よ…それに【泥黎狼】に見つかったらずっと追いかけられる未来が見えるわ…」
「…うわぁ…」
想像してみると、物凄く悪寒が走った。飛行中は【泥黎狼】でも大丈夫と信じたいが…【泥黎狼】の跳躍力が分からない以上、安全な高度がどのくらいか…。
「なら、どうやって…?」
「?来た道を戻れば良いんじゃない?」
「あ、そっか…それなら安全に帰れるかも──」
「!〝月光斬〟!」
「──うぇぇぇ!?」
私はそんな間抜けな声を上げた。何の前触れもなく、カルミアちゃんが魔法を放ち、その魔法の斬撃波が私の頬の横を通り過ぎていったからだ。
…って、頬が斬れてる…?ちょっと痛い。多分血が出ていると思う…いや、じゃなくて!
「な、なななな何するの!?カルミアちゃん!?」
「そう慌てないで…ほら、後ろを見て」
「う、後ろ…?って、うわぁ!?」
カルミアちゃんの言う通り、私は後ろを見た。そこには、真っ二つにされた魔物の死体があった。
「あ、ありがとう…」
「礼には及ばないわ。…それと、これは〝陰鷹〟ね。闇に潜む性質があるから、周囲を警戒しないとね」
「わ、わかった…」
カルミアちゃん場馴れしてるな〜…私もいつかこうなれるのかな?…いや、多分無理だろう。
来た道を戻り続けて10分。道中、何やら大きな地震が数度発生したのだが、特に何事もなく戻れている。
「…あと少しで光が届く場所に辿り着けるわね」
「…ということは、あと少しでこの森を抜けたも同然ってこと…」
森の深い場所から離れたからか、魔物の数は減り、出てくる魔物も弱くなっていて、私でもそれなりに対応出来るくらいだった。
…そして、光が届くまでもう少し。
「クオオオオオ!」
そして、この森脱出の最後の砦であろう。烏のような魔物が、私達の行く手を阻んだ。
「リーシャ、構えて。…こいつは、私でも知らない魔物よ」
「わ、分かった…!」
私が構えると同時、その魔物は動いた。
「クオオオオオ!」
翼を羽撃かせて切った風が、私達を襲った。
「〝耀火〟」
それにカルミアちゃんが炎で応戦する。風の斬撃は炎に届いた瞬間に呑み込まれて消失した。
「〝拝派〟」
私は自身とカルミアちゃんに支援をかける。第一段階光属性魔法の〝拝派〟…知覚能力・胆力を上昇させる魔法だ。
見た感じこの魔物は結構強そうだから、判断力を上げた。一瞬の気の迷いが命取りとなるかもしれないからね。
「クオオオオオ!」
烏は口から禍々しい魔力弾を射出。私達は横跳びで回避し…私は腰に携えていた小型の杖を取り出す。何気に久しぶりに使う気がする。
「神を信仰せよ、さすれば道は拓く。全は無より、無は全より起因する〝神霊信魂〟!」
私が扱える最大級の支援〝神霊信魂〟。第五段階無属性魔法で、身体能力と魔法威力を上昇させる…数少ない〝乗算強化〟型の魔法だ。それをカルミアちゃんに付与する。
「ありがとう、リーシャ。〝陽吹炎〟」
カルミアちゃんが放った炎は、先まで放っていた炎の数倍の出力で放出された。紅い炎は、逃げ場を全て塞ぎ、烏を呑んだ。
「クゥオオオオオ!?」
「…これでどうかしら…?」
私達は燃えている烏を確認する。まだ動いているので、死んではいない。その炎から逃れるため、藻掻いている。
「…〝魔光明〟ももう少しで切れる…これでやられてくれると助かるんだけど…」
これ以上時間をかければ、炎の灯りで魔物が寄ってくる可能性がある為、カルミアちゃんはそんな期待を抱いた…その瞬間。
「クォカアアアア!」
炎から出てきたのは、無傷の烏。あれだけやったのに、ピンピンしている。
「炎は駄目そうね…〝尖雷〟」
「クオォ!?」
超速の雷が烏の翼に直撃。普通なら翼を貫通する、いやしないとおかしいくらいの一撃…だが。
「…効いてない…?」
見た感じ、傷すら付いていなかった。〝神霊信魂〟を付与した第二段階魔法〝尖雷〟の威力は、通常の魔導士で云う第六段階魔法程度。カルミアちゃんなら第八段階くらいの威力になってもおかしくはない。
だが、その烏はまるで、喰らっていないようだった。
「…どういうことかしら…」
カルミアちゃんが不思議に思い、思案する。
「クオオオオオ!」
烏が双眸から光線を放ってきた。
「〝魔壁〟」
それをカルミアちゃんが展開した半球状の魔法壁で防ぐ。
「あの烏、攻撃は大したことないけど…耐久性は凄いわね。私の攻撃をものともしてない」
「そうだね…でも、カルミアちゃんの魔法を喰らった時は苦痛で悶えてたけど…?」
無傷ということは、それだけ身体が丈夫だということ。だけど、烏の痛がり方は尋常ではなかった。
「──もしかして」
カルミアちゃんが何かに気が付いたようだ。烏に向けて、ゆっくりと手の平を向ける。
「〝闇焼夷〟」
「クオオ!?」
カルミアちゃんが放った黒い炎が烏に直撃する直前、烏はギリギリで飛んで攻撃を回避していた。
「──やっぱりね」
「え?ど、どういうこと…?」
「簡単よ。あいつは魔法を無効化するの。でもそれには〝演算〟が必要…魔法の属性を当てはめて無効化している。痛がってるのはその演算が間に合ってないから。傷が無いのはおそらく、魔法を解読したら傷が癒える仕組みなんでしょうね…つまり演算不可能な〝錬魔力〟なら簡単に攻撃が通るってわけ」
「な、成程…って、私〝錬魔力〟も〝錬魔法〟も使えないんだけど…」
簡単に言っているが…〝錬魔力〟は技術自体が相当難しい。特級の魔導士でさえ、使えるのはほんの一握りらしいし。
「そうね…私も〝錬魔法〟は第二段階までしか使えない…けど、このくらいの相手なら十分でしょ。まあ見てなさい。…〝氷炎弾〟」
カルミアちゃんの手の平から、火属性魔力と氷属性魔力が漂う。その魔力が集まり、一つの魔力弾が出来た。
カルミアちゃんはそれを烏に向けて放った。
「クオオオオオ!?」
烏は同じように、その弾を飛んで回避する…だが。
「残念、本命はこっち…〝強風轟雷〟」
今度は風属性魔力と雷属性魔力。それらは一つとなり、先端が槍のような形状となった。
カルミアちゃんがその弾を放った瞬間、私の視界から弾は消えた。…速すぎたのだ。私の目で追えない程の速さ…さっきの〝尖雷〟でさえ、ここまでは出なかった。
「──クカオオオオオオ!?」
反応すら出来ずに、その攻撃は烏に直撃した。烏の身体には風穴が空き、烏はそのまま動かなくなった。
「…す、凄い…」
これが〝錬魔法〟…魔力を扱った技術の一つ。ここまで圧倒的なものだったなんて…。
「…そろそろ出ましょうか。あと数分もすれば光が届く所に出られるからね」
「う、うん──っ!?」
突如、後方の茂みが揺れた。また、魔物が来るの…?そう警戒したのだが…。
「…お、リーシャ、カルミア。無事だったか」
「レイド君…!?」
先程吹き飛ばされたレイド君が戻って来た。
「う、うん…レイド君こそ無事だったの?」
「ああ、ちょっと飛ばされた先で魔物に襲われたんだが…なんか大丈夫だった。そっちは大丈夫だったか?」
「ま、私が居たし、リーシャの支援もあったから楽勝だったわ」
「そうか…ん?こいつは…【闇魔烏】…絶級クラスだな。固有能力は〝闇魔転送〟…一度に一属性の魔力を虚空に転送する能力だ。解読すれば、それによって受けた傷も虚空に転送する」
「へえ〜…そんな固有能力だったんだ…」
中々強力な固有能力だ。〝錬魔力〟が使えない魔導士では勝ち筋すらない…そんな弱者を寄せ付けない力。
「…こいつの魔石、純度7割以上の闇属性か。十分だ…どうする?もうセリアル魔法学園に戻るか?」
「あ、うん!」
「そうね、戻りましょう」
視点変更:レイド
あの後、光が届く場所に出て、カルミアの〝瞬讃〟によって学園に戻って来た。たった1時間程度だったが、濃密な1時間だったな。
「…それで、これで材料が揃ったんだよね?何を作るか、もう決めたの?」
「ああ。ちょっと面白そうなものを作る予定だ」
「へえ、それは興味深いわね」
アーティファクトの作成準備は整った。ある程度の設計は計画しているので、後はその通りに作るだけ。
「…さて、放課後取り掛かるか」
視点変更:アルス・マルベーニ
「──なんなんだ、無能は」
忌々しい、今すぐにこの学園から追い出してやりたい。ヘルメスとの決闘の前日、俺はアイツに向けて魔法を放った。
理由は単純。気に入らなかったから、視界に入れたくなかったから。だから、身体が勝手に動いた。
第四段階雷属性魔法〝聲雷〟。確実に仕留める為の魔法を放ったのだ。
それをアイツは躱してしまった。気に入らない、気に入らない。目障りだ。
ドス黒い感情が沸々と…駄目だ、俺はアルス・マルベーニ。あんな無能とは違う、あんな、レイド・ホ──あれ?
「アイツの本名、何だったか…?」
9話終了です。
リアルの都合で、投稿が遅れています。暫くはこの状態が続くと思うので、理解していただけると幸いです。隙を見つけて書いていこうと思うので、出来る限り多く書こうと思います。
都合に片が付いたらバンバン書いていきますので。それでは。




