7話 地獄に咲き地獄で咲う
…それなりに深く進んだところ、漸く魔物に遭遇した。前方の全長50cm程の蛙を視認する。
「…あれは…【蹴脚の蛙】か。特級クラス、固有能力は〝超蹴〟。ただの蹴りだが、喰らえば肉が弾け飛ぶから気を付けろ」
「…関係無いわ。呼び覚ませ、〝紅蓮〟」
カルミアの放った魔法は、凄まじい勢いで蛙に直撃した。蛙は形すら保てず、灰になった。灰になった後に残ったのは、直径2cm程度の透明な魔石だった。
「…無属性の魔石。純度は四割か…そこそこだな。カルミア、これはお前が持ってろ」
「分かったわ。と言っても、使うことはないと思うけど」
俺は魔石をカルミアに投げ渡し、カルミアはそれをしっかりと掴んで、腰のポーチに入れた。
「レイド君…どのくらいの純度の魔石が要るの…?」
「そうだな…ざっと属性色の割合が八割以上の物だな」
「……普通三割〜六割程度なんだけど」
「なに、此処なら問題ない。大体は七割、魔物のレベルが高ければ九割以上も手に入る。…因みに純度八割以上の魔石を持つ魔物は〝帝級〟、九割以上は〝神聖級〟に匹敵すると云われている」
「待って、それって…ノルマ達成の為には〝帝級〟レベルの魔物を倒せってこと…?」
…それを悟った二人は、絶望の底に叩き落されたような表情になったのだった。
…森のそれなりに深い位置まで来た。道中に【クレイジー・アント(上級クラス)】、【熾天蜥蜴(上級クラス)】、【硬毛兎(上級クラス)】、【ミノタウロス (特級クラス)】に遭遇したが、カルミアが焼き払ってくれた。
今のところは運が良い。普通はもう絶級クラスに遭遇してもおかしくないからな。
「…随分と暗くなって来たね…」
「本当ね…〝魔光明〟」
カルミアは〝魔光明〟を発動する。〝魔光明〟は第二段階闇属性魔法で、魔物に認識されない特殊な魔力の光を作る。光量はやや少ないが、無いよりはマシだ。
「…何か居るわね」
「……見えた、あそこだ」
そう俺が言った瞬間、その魔物は迫ってきた。
「グルァァァァァァ!」
「…!【シルバーベア】か…リーシャ、支援を」
「んっ…天命を此処に、〝護閃〟…!」
リーシャがそう唱えると、俺の身体が軽くなった。〝護閃〟は第一段階無属性魔法、効果は身体能力と魔力量を上げる。
俺は突進してきたシルバーベアを、脚に魔力を集中させて蹴り上げ…。
「魔の刃は魂を断ち切り、喰らう凶器なり。〝魔閃斬〟」
俺の放った〝魔閃斬〟は、上空高くまで吹き飛ばされたシルバーベアの顔面に突き刺さった。血の雨が降ってきたが、落ちてくる前にカルミアが燃やしてくれた。
「…魔法の速度が上がってるな…成果が出たっぽいな」
わざわざ【気概の間】で魔法を射出しまくっただけのことはある。速度がそこそこ上がった。まあ、それでもセリアル魔法学園の魔導士と比べると雲泥の差だが。
「…お、この魔石…七割か」
「…そういえば、シルバーベアって此処で最弱なんだっけ…?」
「そうだな…こんな深いところで見つかるってことは強い個体だったんだろうが、それでも此処では最弱の種なのに変わりはないな」
「…でも変ね。実力的にはこの深さでで生き抜けるくらいじゃないと思うけど…」
その言葉を聞いた瞬間、俺はハッと顔を上げた。
「…まさか…気を付けろ、これは…」
「キュアアアアアア!」
俺が警告を促そうとしたが、遅かった。謎の咆哮と共に、俺の目は見えなくなり、耳は聞こえなくなった。
「…くそ…【剥奪の花】か…」
【剥奪の花】。個体値に関して言えば最弱だが、危険度で言えば上位。それは固有能力が関係している。
【剥奪の花】の固有能力は二つ。この時点でかなり珍しくて厄介だが…問題はその効果だ。一つ目は〝強奪〟対象の身体的機能、精神的機能を剥奪する。身体機能を剥奪されればその部位は仕事をしなくなり、精神を剥奪されれば洗脳や鬱にだって出来る。さっきのシルバーベアも然様に洗脳されたのだろう。ただ、これは対象一人につき剥奪出来るのは二つまでだし、心肺とかの直接的に死に関わるものの剥奪は出来ない。精神剥奪もそこまで強力なものではない為、大した問題ではない。
厄介なのは二つ目…〝王の花〟だ。〝強奪〟は、【剥奪の花】を倒すことで解除されるのだが、〝王の花〟により、それが困難となる。〝王の花〟は周囲の生命力を奪い取り、それで自身を回復させる。
…まさに【剥奪の花】。命を剥奪するのに特化した花だ。
「…だけど、問題じゃない…魔力を練れば…」
その時、俺の周囲から溢れる魔力は、半径1m程の球状になって、俺を中心として囲んだ。
魔力は、自身の身体から発せられるエネルギー、つまり身体の一部。触れられれば分かるし、存在も認識出来る。
「…!」
俺の魔力が、地面から接近してくる鋭利な形状をした物を捉えた。恐らく鋭利な形状の茎、もしくは根か。
俺は最小限の動きで攻撃を躱し、そして腰に携えていたナイフで、それを斬った。
「…だけど、これじゃあ消耗するばかりだな…」
魔力を纏う範囲を拡張させるのは、はっきり言うときつい。というのも、自身の魔力を魔法無しで操作するのは途轍も無い集中力が必要となるのだ。
集中力に長けている俺だって、魔法を経由しない魔力操作が出来るまでに半年かかった。それだけ、その魔力操作は難しい。
「っ…!?」
俺の頬を、鋭利な何かが掠める。集中が切れてきた、これ以上維持するのは無理だ…と、そう思った瞬間。
「…ん?」
視界が戻り、木々のざわめきも聞こえるようになった。
「…リーシャ、カルミア、無事か…?」
「ええ、無事よ…」
「うん…ってそうだ、さっき何か踏んで…」
そう言ってリーシャが足を上げると…小さくて赤い花がリーシャの足に踏み潰されていた。
「…これって…もしかして…?」
「…ああ…そいつが俺達の身体機能を奪っていた…【剥奪の花】だ…」
「…なんというか…小さいわね」
【剥奪の花】の特徴は…大きさがバラバラ。全長が10mを超える大きな個体も居れば、5cm程度しかない小さな個体も居る。今回は後者だったため、足で踏み潰すことが出来た。
「…いずれにせよ、助かった。巨大な個体だったら、踏み潰せなかったからな…助かった、リーシャ」
「…なんか、素直に喜べない…」
「…ま、まあ、取り敢えずこれでまた探索出来るわね、それじゃあ…」
「っ!」
「「えっ?」」
突如、リーシャとカルミアは突き飛ばされた、俺の手によって。
「っ…ぐうっ!?」
俺は魔力を腕に集中させて防御の姿勢をとったが…その突進により、弾丸のように吹き飛ばされた。
「レイド!?」
「レイド君!?」
視点変更:リリア・カルリスタ
「…よし、これで必要な素材はあと一つ…」
生徒会の出し物に使う材料集めの役割分担はあの後、強制的にセイン会長が決めた。私の調達先は【泥黎の大森林】へと決まり、現在調達の最中である。
残る材料はあと一つ…純度7割以上の〝水の魔石〟が必要なのだが…見つからない。
魔石は魔物に埋め込まれているが、その属性は不明、同じ個体でも使う属性が違うことだってある。
だから、この見つからない状況に少し苛立ちを覚えていた。
「…もっと深くまで潜るしかない…か」
…と、そうして深くに潜ろうとした刹那。奥から、何かが超高速で飛来してきた。
「…!」
すぐに剣を構え、断ち切ろうとした…が。その姿を見て、私は息を呑んだ。
「…レイド君か…?」
そう、見覚えがあった。ヘルメス君とやらに勝利し、【盈虧の魔室】で魔導士達にボコボコにされていた人物だ。
取り敢えず、私は吹っ飛ばされていたレイド君の服を強引に掴んで止める。レイド君は「うっ」と呻き声を上げて、地面に手をついた。
「…大丈夫か?」
「ええ…大丈夫です…リリア副会長ですか…?」
「そうだ…それより、何故君が此処に居る。此処は危険区域の【泥黎の大森林】だぞ」
「…少し、やりたいことがあっただけですよ…」
そう言って、レイド君はゆっくりと立ち上がる。
…少し話しただけなのに、私は苛立ちを覚えていた。
(…彼は恐らくあの決闘で〝罰雷〟の詠唱をしていなかった…なら、その青はなんなんだ…)
私は彼の胸にあるバッジを見る。〝最下級〟…その称号は、そう簡単に与えられるものじゃないし、与えないものだ。そう、それこそ〝手を抜く〟以外には…。
だから、何か隠している彼を見るとイライラする。見て分かる。何かを達観している、だけど誤魔化している。心が読めない、掴めない。本当に…気に入らない。
「…それで、此処に居るのは君だけか?」
「…いえ、さっきまで一緒に〝下級〟のリーシャ・レイレンスと〝絶級〟のカルミア・ライミールと居たんですが…【殺猫】に吹っ飛ばされて今に至る、って感じです」
…カルミア・ライミールと関わりがあるのか…?1年部とは思えない程の魔力量と魔法知識を蓄えていて2・3年から〝焔〟という二つ名で呼ばれているあのカルミアと…?
「…【殺猫】程度なら問題ないだろう、カルミアなら余裕な筈だ…まあ、君は彼女達の元に戻れ。〝もしかしたら〟があるかもしれないしな」
「…不吉な事を言いますね、先輩」
「…さあな」
…彼に好感を持てないからか、少々意地悪を言ってしまった。悪い癖だ…直さないとな。
「…?何だ…?」
突如、大きな地鳴りが発生した。この森林を、大きく震わせる程の地震が。
「…これは…っ!?リリア副会長、来ます…!」
レイド君がそう警告する。見てみると、彼の表情は焦燥に駆られていて、冷や汗が垂れていた。さっきまで余裕そうだった彼が、だ。
「…!?…まさか…」
私の目の前で、地面から、黒い巨大な腕が生えてきた。
地面から魔物が出てくると言うことは…この魔物は今生まれた。生まれただけで、辺りを震撼させる程の魔物…そんなの、数少ない…何より、この特徴は…。
その魔物の全身が地面から出てきた瞬間、確信した。体長6m、太い四肢…そして、顔が異形。この特徴がある魔物は、たった一体。
「…【壊滅の巨神】…!」
…昨日、セイン会長に言われた。
「リリア、分かってるね?【泥黎狼】、【蒼碧風燃蝶】、【壊滅の巨神】。この三種の魔物とは、闘ってはいけないよ」
「…分かってます。けど、どんな魔物かを知らないです」
「…そう。なら、説明しておこうか」
…そして、セイン会長は説明を始めた。
「【泥黎狼】。見た目は普通の狼だけど…大柄で、鋭い爪と牙を持っている。固有能力は〝泥黎の悪食〟。効果は二つ。一つは喰らえば喰らう程、力が増す。もう一つは獲物を追い続ければ追い続ける程力が増す。それに加え、【泥黎狼】は狙った獲物を地獄の果てまで追ってくる。【泥黎の大森林】で一番遭遇しちゃいけない魔物だね」
「…遭遇してしまった場合は?」
「…〝瞬讃〟を使って【泥黎狼】を倒せる人に助けを求めるしか無いだろうね」
「…そうですか…では、【蒼碧風燃蝶】は?」
「…【蒼碧風燃蝶】。普通の【風燃蝶】の突然変異らしいけど…詳細が分かってないんだ。姿も能力も、はっきりと明記されてなくてね…」
「…そうなんですね」
「存在自体は認知されてるけど、はっきりとした姿を確認しようとした魔導士は全員殺されたからね…それも、一瞬で。詳細が分からない以上、【泥黎の大森林】で一番強いと考えた方が良いかな」
「…では最後の【壊滅の巨神】は…?」
「…【壊滅の巨神】。固有能力は〝帝冥の理〟。効果は二つ。それは──」
「…くっ!」
私は突進して、剣を振り被る。あの【壊滅の巨神】は、文字通り生まれたばかり。なら、環境に慣れたり、力をつけられたりする前に仕留める…!
「…〝疾斬〟っ!!」
第四段階風属性魔法〝疾斬〟で無数の斬撃波を飛ばす。それらは幾条の閃光が迸るように、【壊滅の巨神】を襲った。
「グゥオオオオオ!」
【壊滅の巨神】はそれを両腕を重ねて防ぎ、あろうことか斬撃波の一つを掴んで投げ返してきた。
「っ!?」
なんとか身を捻ったお陰で、肩を掠めるだけで済んだ。魔力を傷口で固め、止血する。
「…っ…〝神眼〟」
私の独自開発魔法〝神眼〟。対象のある程度の性質や行動を見抜く。
一見大した事の無い固有魔法だが…その本質は未来視に近い。基本的に言葉を要する魔導士の行動を先読みして、潰す。それは固有能力を持つ魔物でも、例外では無い。
「ウオオオオ!」
つまり、私はある程度の行動予測も可能。私は迫りくる腕を掻い潜り…そして。
「はぁっ!!」
大きく跳躍して…剣で【壊滅の巨神】の眼球を抉って…。
「〝冥風〟」
第五段階風属性魔法〝冥風〟を【壊滅の巨神】に向けて放ち、【壊滅の巨神】の身体を斬り刻みながら距離を取る。
…小出しにしているが…こういう強力な魔物には第十段階以上の魔法を使った方が良いか…?だが、私は低段階の魔法の威力の向上を続けている私なら、この段階の魔法でもかなりの威力を出せる筈だ。
「グオオウ!?」
余程の激痛に苛まれたのか、その場に倒れて蹲った。好機到来…私は持てる最大の速度で、【壊滅の巨神】に肉薄する。
…いける。そう思い、魔法を放とうとした。
「…〝焦ぜ…っ!?〟」
…魔法を放とうとしたが、それは止まった。【壊滅の巨神】は何もない場に右腕を伸ばし、そしてその手を私に向かって、叩くように攻撃してきた。
辛うじて、その手は躱した…だが。
「っは…?」
その手の陰から、〝巨大な地形〟が迫って来ていた。そう、地面の一部を切り取った形の…。
「っ!?しまっ…!」
こんな巨大な塊を避けるのは不可能だ…防ぐしかない…だけど。
(間に合わない…!)
…と、そう思った瞬間。
「え…?」
私の眼前に、人が現れた。
彼は、私を強く掴んで…私を放り投げた。呆気にとられる、何が起こったのか、分からなかった…だけど、投げ飛ばされている時、かすかに見えた。
純粋な黒髪、翠の双眸。さっきまで話していた彼の特徴と一致する。
彼は僅かに笑みを浮かべ…そして。
──その地形が、直撃した。
どうもです。地獄に咲くのは【剥奪の花】、地獄で咲うのは【壊滅の巨神】。ということで、副会長リリアが苦戦を強いられる展開となりました。
裏話ですが、物語を書いていく毎に、「魔法名、被らないかな…」と思いながらやってます、今回とか特に。このままだと三百以上の魔法名を考えないといけないんです、辛いです。詠唱も考えないといけないんで、脳がパンクしそうです…。
まあ、モチベーションがある内はどんどん書いていくので、ご心配なく!では!




