6話 完全理想古代魔導具作製準備
「アーティファクトの作製…?急になんで」
「単なる気分だ。アーティファクトがあれば、魔術の幅も大きくなるしな」
アーティファクト…別名は魔導具。一部の魔物から獲れる魔石(魔晶石)を利用した魔導具の総称。魔石という、〝基礎属性〟のどれか一つの属性の魔力が込められた石を媒介として、簡易的に魔術を扱う代物だ。
魔石の純度次第では、普通に扱う魔法よりも強力な魔法を扱える。詠唱の必要もない。その分魔力の燃費は悪いが、そこは大した問題にはならない。俺は魔法を発動させて貰えないだけで、魔力は多い方だしな。
「まあ別に良いけど…どんなのを作るの?」
「それは素材次第だな。素材が集まったら考える」
「…そんな無計画な…」
リーシャが呆れたように呟く。まあ俺も無計画なのは自覚してる。でも計画したら上手くいかないことも知ってるから、敢えて無計画な形にしているのだ。
「場所は【泥黎の大森林】だ、高純度の魔石を入手するには魔物が強い場所じゃないといけない」
「ええ…!?あそこは危険区域に指定されてるよ!?私達のレベルじゃ到底…」
「大丈夫だと思うぞ…多分」
「その〝多分〟が心配なんだけど!?」
…まあ、なんやかんやあって、その後リーシャは納得してくれた。これで準備はほぼ整ったと言っても過言じゃないな。
視点変更:セイン・アフトクラトル
…生徒会室にて、僕達生徒会役員全員は集まり、魔法祭についての会議を行っていた。魔法祭は、生徒会の中からも出し物を披露する。出し物の内容と必要な物資について、今は話している途中である。
何となく方針は決まっているが、物資の制作に必要な素材が不足している状態な為、素材入手の役割分担を決めているのだが…。
「ネムは作製の係なのは確定。ハルは【夭折の湿地帯】、僕は【胡乱の砂漠】に材料調達…リリアとスフィーは【泥黎の大森林】か【艱難の渓谷】、それぞれがどちらかに行かなければいけないけど…どうする?」
素材集めに関しては、すべて危険区域に指定されている場所で調達するつもりなので、難易度的な問題でハルは比較的易しめな【夭折の湿地帯】、僕は危険区域の中で一番〝厄介〟な【胡乱の砂漠】。リリアとスフィーに残された選択肢は、どちらも難易度高めの【泥黎の大森林】か【艱難の渓谷】だ。
別に彼女達の実力ならどちらも問題ないのだが、二人とも、率先して物事を決める性格ではないので、結構長いこと逡巡している。
「…もういっそ、籤引きで決めようか?」
「…いや、そういうわけには行かないです」
「そうですね…きちんと決めないと」
お互いに優柔不断、だがお互いに籤引きなどの運が絡む方法は好まない。
「あーうざったいな〜!二人が決められないなら俺が決めるぞ?」
「作製にも時間がかかるから、早くして欲しいかな〜」
もうかれこれ30分は悩んでいた。その為、ハルとネムが痺れを切らし、決定を促そうとする。
ハル・ヴァロール。階級〝天級(銅)〟。暗い紫色の髪に、明るい茶色の瞳が特徴の生徒会書記で、生徒会書記の一番槍。ハルは魔法も武術も高水準のオールラウンダーで、戦闘において並ならぬ才を発揮する。まだまだ発展途上だが、成長の早さはこの場の誰よりも早い。
ネム・パラドール。階級〝天級(銅)〟。艶のある茶髪で輝かしい黄色の眼が特徴の生徒会会計で、製作のスペシャリスト。アーティファクトの作製に長けている〝独自開発魔法〟を複数所持しているのが、彼女の作製に懸ける情熱を表している。
ハルは僕が、ネムはリリアと違う、もう一人の副会長が推薦した。そして生徒会に当選してから、このセリアル魔法学園で功績を出し続けている。
「…リリア…早く決めて」
「何を言ってる、スフィーが決めろ」
スフィー・アルテミス。階級〝帝級(銀)〟。自然に溶け込む翡翠色の髪と毒々しい紫眼が特徴の生徒会書記。特殊すぎる〝独自開発魔法〟で、誰にも理解できない、独特な戦闘スタイルを繰り広げるのが彼女の強みだ。
リリア・カルリスタ。階級〝帝級(銀)〟。一筋も余さず輝いている金髪に深い栗色の双眸が特徴の生徒会副会長。当時一年生でありながら、当時の会長が生徒会副会長に推薦し、見事当選。そこから実力を伸ばしていって、今やセリアル魔法学園屈指の実力者である。
因みにスフィーとリリアは結構仲が良い。曰く、リリアは生徒会に知り合いが居ないのは寂しいらしく、スフィーはリリアに立候補を強制され、スフィーはそれに渋々従った結果当選し、それにリリアは甚く安堵したという背景があるくらいだ。
それはさておき…二人共戦闘には長けているが、性格にはやや難がある。優柔不断だが、頑固。これではいつ決まるのやら…仕方ない。
僕は椅子から腰を上げ、両手を思い切り叩いて音を鳴らす。不意に大きな音が響いたからか、この場の全員が身体をビクッと震わせた。
「…埒が明かなさそうだから、もう僕が決めるよ」
視点変更:レイド
「黎明を穿つ闇の刃、天を切り裂き深淵を垣間見る、〝魔定〟」
現在、魔法訓練所…【気概の間】にて。俺は魔人形に向けて魔法を放っていた。俺の放った魔法は時速80km程度の速度で放たれ、魔人形の頬 (?)を掠めた。
「…」
完全に速度が足りない。普通、〝魔定〟は時速200km程度はあるはずなのだが、俺の〝魔定〟はその半分以下。おまけに威力も半分以下。しかも威力は速度に比例する傾向があるため、実際の威力は3分の1程度だろうか。
幼稚な〝魔定〟を見たからか、周囲に居た奴等は皆、俺を嗤っている。悪趣味な奴等だ。
「〝魔定〟」
突如として、俺の隣から〝魔定〟を無詠唱で唱えた奴が居た。俺とは違い、電光石火の如き速度で魔人形に迫っていき、やがて魔人形の顔 (?)に打ち当たって、魔人形は爆散した。
その〝魔定〟は優に時速500kmは超えていただろう。勢いはそこで止まず、その奥の耐魔力性の素材〝魔鋼〟を使った壁に衝突し、壁が少し抉れたところで、〝魔定〟は消失した。
「…あんたは」
俺は、あの魔法を放った奴に視線を向ける。ライトブルーの髪に、漆黒の眼の男。制服からして、2年部だろうか。
「ごめんごめん、驚かせちゃったね」
「わざわざ〝魔定〟を放ったのは、俺への当てつけですか?」
「そういう訳じゃないよ。ただ、俺が放ちたかっただけ。誤解しないでくれると、嬉しいかな」
…読めない奴だ。ミステリアス、その言葉が似合っている男。何を考えているのか、全く読めない。勘繰ろうとしても、深部まで届かないような、そんな雰囲気さえする。
「…ま、自己紹介しないとね。俺は2年部のゼレン・シルスター。バッジは紫…特級だよ」
「…レイドです。バッジは青…最弱の最下級です」
「そう謙遜しなくていいよ。君が中級魔導士を決闘で倒したのは話題になってるし」
どうやら噂は学園全体に広まっているらしい。そんなに珍しいことなのかは知らないが、ここまで広まるということは、珍しいということなのだろう。
「あれはちょっとした策があったからですよ。本来なら瞬殺でしたよ」
「へえ…まあ、そういうなら良いけどね。でも、気を付けたほうが良いかもね?」
「…?…どういうことですか?」
そんな俺の純粋な疑問に、ゼレン先輩は俺の方へ歩を進めながら。
「…この学園の一部の魔導士は、君に淡い期待を寄せている。君みたいに、知恵で力を上回ることが出来るんじゃないか…ってね。〝調律〟」
刹那、俺に向かって拳が飛来してきた。俺は魔力を拳に集中させ、受け止める。ついでに回し蹴りを返すが、あっさり回避された。
「やっぱりね。君は避けるんじゃなくて受け止めることを選んだ。その発想は、魔導士にとっては有り得ない。柔軟な発想、それが君の価値だ」
「何が言いたいんですか、先輩は」
「ふふ、さあね」
不敵な笑みを浮かべて、ゼレン先輩は背を向ける。
「また関わることがあったら、是非ともお互い本気で闘いたいな。それじゃ」
…そんな言葉を残し、ゼレン先輩は【気概の間】を去って行った。
「…なんだったんだ、あの人は」
そう呟いた後、俺は大きな溜息を吐くのだった。
「へえ、【泥黎の大森林】にね…私も行っていいかしら?」
「いやなんでだ?」
現在放課後。一応カルミアに、俺達が【泥黎の大森林】に行くことを話しておこうと思って、現在話していたのだが…。
「何よ、悪い?」
「悪くないですねそうですね」
「よし、それじゃあ私も行くということで」
しまった…つい承諾のような形になってしまった。まあ、別に何も支障は無いのだが…。
「…いや、お前は魔法祭の準備に必要なことが他にもあるだろ…」
「終わらせたわ」
「早いなお前」
まだ全然猶予があるのに、もう終わらせたのか?仕事が早い奴である。
「はぁ…別に許可は要らないだろ。どうせ行くのは自由なんだから」
「ええ、じゃあ貴方とリーシャと私で【泥黎の大森林】に行くということね」
「…ああ、そういうことだ」
否定しようかと思ったが面倒臭かった。ぶっちゃけ居ても居なくてもあまり変わらないしな。
「…じゃあ明日、揃って【泥黎の大森林】に行くぞ、良いな?」
「ええ、分かったわ」
…まあ、カルミアにはいざと言う時に役立ってもらうか。一応、危険区域の中で最も魔物のレベルが強い【泥黎の大森林】だしな。カルミアが必要になるかもしれない。
…さて、明日に向けて、ゆっくり休むことにしよう。そう思い、俺は帰宅するのだった。
…そして、次の日。俺達は、【薄暮の大草原】と【泥黎の大森林】を繋ぐ道を歩いていた。
「レイド君…そう言えば、【泥黎の大森林】って…どういう場所なの…?」
「…そう言えば、知らないわね。レイド、教えてくれるかしら?」
二人にそう頼まれたので、俺は答える。
「…【泥黎の大森林】は、大量の魔物が居て、その魔物同士で争いが起き、あちこちに血が四散している地獄のような光景が広がっていることから、その名が付けられた。魔物の危険度は、最弱でも〝上級〟の中堅。おまけに感覚が鋭敏で、気配を隠すのは無理と言ってもいい。出てくる魔物は様々だが…厄介なのは【泥黎狼】【蒼碧風燃蝶】【壊滅の巨神】の三種。こいつらは生まれたばかりの個体でも〝帝級〟は堅い。闘ったらまず勝てないから、出会ったらすぐ逃げることだな」
「う、うへぇ…そんな危険なところに行くの…?」
「大丈夫よ、リーシャ…多分」
「カルミアちゃん!?震えてるけど!?」
「ああ、あと言い忘れてたが…【泥黎狼】だけには遭遇したら駄目だぞ?森林抜けてでも文字通り泥黎まで追ってくるからな」
「「ふざけないでっ!?」」
淡々と述べる俺に、二人は「なんでそんなに冷静なの?」と言った顔で、そう言った。
「…ま、遭遇することはないさ。もし遭遇したら運がなかったってことだ、諦めろ」
「…はぁ、ならまだ安心…」
「そうね、遭遇さえしなければ…うん」
…そんな会話が繰り返される内に…やがて。俺達は到着した。危険区域の一角…【泥黎の大森林】へ。
「…うっ、血がいっぱい…うへぇ…」
辺りには赤黒い液体が散らばっていて、鼻を塞ぎたくなるような香りが漂っている。常人であれば失神レベルだ。
「…ほら、行くぞ。ここは森の浅い場所だから、暫く魔物は出てこない筈だ」
その言葉を聞いて二人は納得したのか、腹を括って、その一歩を踏み出した。
「…カルミア、〝魔探〟は常にかけてるって言ってたよな?居そうか?」
「いや、今のところ気配は無いわ。大丈夫そうよ」
「…よし、なら進むぞ。出来るだけ弱い魔物と遭遇すればいいが…」
…そんな期待をし、俺達は、【泥黎の大森林】の深くへと、脚を入れていくのだった。
どうも。次は【泥黎の大森林】での戦闘ですかね。
これを作ってて思ったんですけど…これで自分が「カルミアとリーシャが死ぬ」というストーリーにしたら、それはレイドのせいですよね?リーシャは半ば強引に連れてきたし、カルミアにも話さなかったら【泥黎の大森林】に行くことは無かったので。
そう考えるとレイドは意外と危ない橋を渡ってますね、ギャンブラーですね。一体いくら賭けたんですかね。
ということで、次回は戦闘シーン満載で作ります (多分)。では。




