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Secret Sorcerer  作者: RENTO
第一幕《刻が満ちるヴィンディクタ》
5/22

5話 不変の無能魔導士

「今回、任務は全てのペア、完遂させた訳だが…残念ながら、昇級の者は誰一人として居ない」


 周囲から「えーまじかよ」「そんな〜」などの声が上がる。どうやら上がる自信があったようだ。


 …ただ。俺達のペアが上がらないのは少々気に掛かる。鋼靭蝿は〝中級〜上級〟に区分される魔物だ。いくら個体の弱い鋼靭蝿と言えど、最低でも中級はある。更に、俺達が対峙した鋼靭蝿はざっくり15年ものだろう。となると、上級に限りなく近い筈。


 そんな魔物を最下級と下級のペアで倒した俺達が、何故どちらも、一つも階級が上がらないのか。


「…それと、レイドとリーシャ。お前達は終礼後、話したいことがある」


 …どうやら、そのことについて訊けそうだな。











 やって来たのは、指導室。まるで何か指導するようだが…。


「それで、話と言うのは?」

「わ、私達、何かしましたか…?」

「いや、お前達は何もしてない…強いて言うなら、〝鋼靭蝿討伐を2位で完遂した〟程度…本来ならそんなことで呼び出されないんだが…」

「…つまり、今回はその件で呼び出されたと?」

「そういうことだ」


 イア先生は、室内を歩き回りながら説明する。


「…どうやら、今回の結果に大勢が納得いってないらしくてな…クラス内2位、学年内3位。それがお前達の鋼靭蝿討伐の成績だ」


 どうやら学年では3位だったらしい。こういう場合、俺は1位と2位が気になるのだが…今気にすると面倒そうだ。


「…お前達は周囲の生徒から〝納得いかない〟、そう言われただろう?」

「ええ…まあ」

「そしてそれは、教師間でも同様だった」

「え…!?」

「教師の大半…正確には私以外の教師は全員、この結果に納得しなかった。レイドVSヘルメスの勝敗にすら、だ」

「逆にイア先生は納得したんですか」

「私は何があろうと結果を重んじる。それがルールの範疇であれば…な」


 …この様子から、イア先生も何か特別な手を使ったとでも考えているのだろうか。別に何も悪いことはしてないんだけどな。


「それで、何が言いたいんですか」


 俺がそう訊ねると、イア先生は心底申し訳無さそうに。


「…すまない、今回の昇級は諦めてくれ…本来ならどちらも中級まで昇級させようと思っていた。だが、私一人でやろうと思うと時間が掛かる」

「…つまり、猶予を、と?」

「そうだ、必ず昇格させる。その期間を、少しだけくれ」


 深々と頭を下げ、懇願するように。イア先生にとって、全くメリットのない行為、寧ろそれを実行すれば多方面から恨みを買う、デメリットだらけの行為。その行為をさせてくれ、と。頭を下げる教師に、〝結構です〟なんて言える筈がなかった。


「勿論良いですよ、止めもしないです。イア先生がしたい行動をとって下さい。それで良いよな、リーシャ」

「うん…イア先生にお任せします」

「…ふっ、そうか。なら、そうさせてもらおう」


 そう言って、イア先生は指導室を出ていった。俺達も、それに続けて指導室を出る。


 …にしても。俺達みたいに云われている魔導士に手を差し伸べてくれる教師が居るとは…それだけで心の支えになるものなんだな。


 俺はそのありがたみに少し感謝しつつ、教室へと戻るのだった。











 現在授業中。科目は『魔術理論』。魔法構築の仕組み、魔法属性の特徴や錬魔力の組み合わせなどを知る・探求する授業だ。そして現在は〝魔術段階〟についてだ。


「えー、魔法段階は1(初)〜50(終)までの段階があり、段階の数値が大きくなれば成程、威力が上がる。例えば第一段階火属性魔法の〝細燃(さいねん)〟の威力は軽い火傷を負う程度だが、第三段階火属性魔法の〝耀火(グロリア)〟は少し触れれば痕が残る程だ。ここまでは誰でも知っていると思うが…では魔法段階の変化よって必要となる魔法構築の手間の変化がどのくらいか、知っている者は?」

「………」


 誰も答えない。別に俺は知ってるんだが、〝余計な事をするな〟と言われるのが嫌だから致し方ない。どうせカルミアも知ってるだろう、ただ面倒臭がってるだけだろうからあいつが音を上げるまで__。


「よし〝無能〟、答えてみろ」


 よし、今この作戦は完全に破綻した。他に手の打ちようがない…どうする?


「どうした〝無能〟早く答えろ」


 教師の顔が完全に下衆な笑みだ。〝恥をかかせてやる〟という魂胆だろうな…だったら。


「面倒なので省略しますが…第一段階魔法を扱うのに必要な魔法構築の工程の値をpとおくと、第二段階はp²、第三段階はp⁴…つまり第二段階以降は、段階が1上がる毎にその前の段階の2乗の魔法構築の工程が必要となります」


 長い時間目立つのを避けるため、最も簡易的な説明で済ませておいた。これでOK、説明としては完璧だ。その証拠に、教師は不服そうな顔をしている。


「〝無能〟風情が調子に乗るなぁ!!」


 …何故か言いがかりを付けられた。よく分からんが、雑に受け流しておこう。俺の中の、ダブルバインドに陥った時の鉄則だ。


「あーはいはい、そうですねー次から気をつけますー」

「〜っ!貴様〜!!!」


 逆効果だった。今この瞬間、俺のダブルバインドに対する意識が有耶無耶になってしまった…ま、実践は初めてだったんだけどな。


 激昂する教師だったが、突然カルミアが挙手し、割って入る。


「先生、授業を続けてください…私達は魔導士としての知識をいち早く付けたいのd…」

「よし、授業再開だ」


 なんという対応の差だろうか、温度差が凄い。階級〝絶級〟の称号を持っている奴とは言え、ここまで対応の差が生まれるなんてな…。結局、俺の待遇が変わることはなかったんだな…。


 …いや、寧ろ。俺の対応、前より酷くなってるか?俺は教師陣にも任務結果と決闘結果を納得されてなかったんだよな?


 …だったら、俺が昇級を〝辞退〟するまで、今までよりずっと酷いことされるのか?それは中々に耐え難い。今すぐにでも避けたい事態だ。


「…ま、どうこう出来る訳じゃないからな…仕方ないな…」


 どうにも出来ないのが分かった途端、遂には思考を放棄した。多分大丈夫だ、ちょっと今までの待遇がちょっと悪くなっただけで、根本は何も変わっていない。心配ない…筈だ。











 案の定、俺の心配は杞憂だった。授業終わりに廊下を歩いているとジュースの缶 (中身入り)を頭に向けて投げられたり、俺の食事に対して第五段階闇属性魔法〝屍毒(デスカイリズ)〟の液体をぶっかけられたりしたただけで、そこまで大したものじゃない。今までと変わった事はない、強いて言うなら同じ方法で少し酷くなったくらいだ。


 …今〝全然大したことある〟って思ったやつは甘いな。これくらいは俺にとって日常茶飯事、息を吸ってれば普通にあるぞ。


 …そして放課後。俺は帰宅する支度をしていた…のだが。


「おい〝無能〟、ちょっと面貸せ、ボコボコにしてやるよ」


 取り繕うこともない、端的な命令口調。取り巻きが5人、徹底的に潰そうとしていることは明確だ。はっきりと断りたいが、そんな真似〝無能〟の俺には出来ない。


「…分かったよ、どうせ強制的に連れて行かれるんだろ?だったら〝承諾〟の一択しかないだろ」

「ハッ、分かってるじゃねえか。そうだ、お前に拒否権なんてない。俺達は〝優秀〟お前は〝無能〟なんだからな。付いて来い」


 なんとも荒唐無稽(こうとうむけい)な理由に辟易(へきえき)してしまいながらも、俺は言われるがまま付いて行く。











「…よし、ここでいいか」


 男達はこの場所…【盈虧(えいき)魔室(ましつ)】。その名の通り、月の()()けがあり、〝満月に近づくほど空間に魔力が満ち、新月に近づくほど空間から魔力が枯渇していく〟という特殊な空間だ。


「…こんな所に連れてきて、何する気だ?」

「さっきも言ったろ?お前を…」


 男の一人が手で合図のようなものを送ると、六人全員が突進して来た。


「…〝ぶっ殺す〟んだよぉ!!」


 そんな事言ってねえだろ、と内心ツッコミを入れつつ、男の動きを観察しようとしたが…。


「〝魔吸(マナドレイン)〟!!〝身体強化(エンハンス)〟!!」

「っ!?」


 瞬間、スピードが爆発的に上がった。成程…おそらくこれが狙いなのだろう。


 この【盈虧の魔室】の魔力は〝新月〟時でなければ相当なものだ。それを〝魔吸〟で集め、ダイレクトに〝身体強化〟に回しているのだろう。


 本来は空間の魔力を五感や第六感で感じ取る為に造られたのだが…この男達のように、悪用する者も少なくない。というのも、空間に漂う魔力は〝魔吸〟などで取り込むことが出来る。この空間の〝満月〟時の魔力は途轍もなく膨大だから、その魔力を扱おうとするのだ。


「ぐうっ…!」


 咄嗟に魔力を全身に纏わせ、ほんの少し硬化させたのだが…衝撃は余すことなく伝わり、盛大に吹き飛ばされてしまった。


 この空間の壁に勢いよく激突し、背中からも絶大な衝撃が伝わる。それによって内臓が損傷したのか、僅かに吐血する。


「ぐあっ…!神のじあ…がはっ…!?」

「何〝候癒(こうゆ)〟使おうとしてんだ?詠唱させる訳ねえだろ」


 魔法を行使しようとした…が、魔法は発動させて貰えない。俺が〝無能〟たる所以の【フル詠唱】。フル詠唱でなければ、魔法を発動すら出来ない。だから、斯様(かよう)な状況で、詠唱を止められる。


「どうせヘルメスに勝ったのだって単なる偶然だろ?小声で詠唱なんて小賢しい真似しなきゃ勝てなかったんだろ?」


 …この男の台詞から、どんな詠唱をしても意味はないだろう。完全に〝詰み〟状態、悔しいがこれを打開する術はない。


「…」

「ハッ、だんまりか?そうだよなぁ卑怯者?まさしく〝無能〟の名が似合う」


 周囲の男達からも嘲笑が飛び交う。暫く嗤っていたが、一人が「おい、もう殺しちまおうぜ」と言うと「そうだな、さっさと消えてもらおう」と全員が納得した。


「って訳だ、漸くお前を消せる。滑稽だな、この学園に来なければ長生き出来たものを」


 そして、男は詠唱を開始する。隙を見て詠唱出来ればいいのだが…駄目だ。周りの男達が普通に見ている。


 …もしかしてだが、俺死ぬのか?明らかに四面楚歌、いや日常的に四面楚歌みたいなものだったが、打つ手がないこの状況。選択肢が……ない…?


「…はぁ…もう無理だな」


 俺は諦めた。いや諦めてしまった。だって、もうどうしようもないから。この状況じゃ、どう足掻いても死んでしまうから。


「我が権能を以て此処に命ず。眼前の魔の権化に破邪の焔を注げ、〝紅玉之焔(ルビー・メテオ)〟」


 …後悔した、此処に来たことを。勝手に思っていた、対応がそれほど変わっていないと。誤算だったよ、本当に…。


「〝無気楼(むきろう)〟」

「…?」

「「「「「「は?」」」」」」


 俺含め、この場の全員が硬直した。あの〝紅玉之焔〟が、魔力の残滓(ざんし)すら残さず消えた。〝紅玉之焔〟は第六段階火属性魔法、摂氏では計れない程の熱を凝縮させた炎だ。聞こえたのは第五段階無属性魔法の〝無気楼〟…効果は魔力の消失。魔法段階から考えると〝無気楼〟で〝紅玉之焔〟を跡形も無く消すには相当な実力が必要だろう。一体誰が…と、俺は視線を彷徨わせると、そこには二人の魔導士が佇んでいた。


「はーいそこまで。三年生徒会長のセイン・アフトクラトルだ」


 輝かしい金髪に、取り込まれるような蒼眼。バッジは銀、つまり〝帝級〟だろう。


「二年副会長のリリア・カルリスタ。…一先ず、事情聴取を行いたいのだが…」


 セイン…生徒会長と同じような金髪、そして深い栗色の双眸(そうぼう)。そしてバッジは同じく銀、〝帝級〟だ。


 俺は知らなかったが、二人とも生徒会の実行委員みたいだ。生徒会は一言で云うと、化物集団の集まり。少なくとも数百、数千の魔法を操り、魔力の熟練度も桁違い。主な役割は学園内の治安維持や高難度任務の遂行だ。正義感溢れる魔導士なら、誰しもが目指す道だろう。


「事情聴取…?いえ、俺達は、その…」


 男の一人が何かしらの弁明を図ろうとするが、良い嘘が見当たらないという様子。その様子を見て、彼等は訝しむ。


「どうした、事実を伝えれば良いよ。何があってこうなったかの状況を」


 優しくそう諭すセイン会長。それと同時に何か思いついたのか、男が饒舌に語る。


「あ、そうだ!この男がこの部屋で訓練している俺達を、魔法を使って襲ってきたんです!!それを返り討ちにして…」


 出来たようで出来ていない嘘。そもそも言い訳を考えるなら「そうだ!」という言葉は使ってはいけない。それに、大事なのはそっちじゃない。


「正当防衛、と?じゃあ、彼に向かって〝紅玉之焔〟なんて致死性の魔法を放った理由は?明らかに過剰防衛だ」

「うぐっ…でも…」

「君も、訓練中している連中に魔法を放つんじゃない。現に、君が痛い目を見た。気をつけてね」

「…はい」


 どうやら揉め事の過程は男の証言通りだと捉えられているらしい。実際には完全に被害者なのだがな。


「取り敢えず、今回は特別にこのことには目を瞑っておくよ。手続きが面倒だしね」


 セイン会長の言葉に、「絶対そっちが本音だろ」と言葉が出そうになったが、留める。ただ俺としても、恐らくこいつらにしても、なかったことにした方が良いだろう。お互いにメリットなんて無いからな。


「取り敢えず今日は帰れ。もう遅い時間だ、これ以上居ると警備員が動き出すからな」


 リリア副会長がそう言うと、男達は慌てるように去って行った。


「…ありがとうござ…」

「勘違いするな、君を助けたわけじゃない。あくまで生徒会の仕事をしている時に偶然先程の状況に出くわしただけだ」


 俺の言葉を遮ってそう言うリリア副会長。よくわからないが、口調に棘があるような気がする。さっきから少し睨んでるし。


「君も早く帰りな。さっきも言ったけど、警備員が来るからね」

「分かりました。失礼します」


 そう言って、俺は二人の間を通って、【盈虧の魔室】から退室する。その時、リリア副会長と目が合い、冷たい冷たい視線を向けられた。別に何もしてないんだけどな〜…。


「リリア、君はどう思う?あの男」

「さあ…全く。何を考えているんだか…」











 …それから数日。俺に対する嫌がらせは増えているものの、あの一件程のものではない。正直、死ななければ大した事はない。


 …そんなことはさておき。俺達一年生にも、セリアル魔法学園の〝行事〟が迫って来ている。今から、イア先生から話がある筈だ。


「…さて、お前達が入学して最初の行事の〝魔法祭〟まで残り一ヶ月だ。〝魔法祭〟はかなり大規模な行事だ。早い内に出し物 (演し物)についての話し合いをして、準備しなければ間に合わない。よって、この授業時間はその話し合いの場とする。好きに話して案を出してくれ」


 イア先生の話が終わった瞬間、クラスの人間達は各々で話し合いを始める。学園の一大イベントともいえる〝魔法祭〟。先もイア先生が説明した通り、相当な規模であるため、多くの素材が必要である。特に例年は〝アーティファクト〟を多く作製して使用しているため、制作の素材を採取しに行くのだ。


 アーティファクトは質次第では〝危険区域〟に指定される場所にしか無い希少な素材を使う必要があるから、それを探す時間も加味して、一ヶ月の期間を設けたのだろう。


「魔法祭楽しみだね〜」

「そうだね〜」

「で、出し物何が良いかな?」

「やっぱ魔法研究のレポート発表とかか?」

「いやいや、ここは流行りに乗って新しいアーティファクト作ろうぜ」


 このような会話があちこちで飛び交っている。やはり最初の行事だからか、皆気合いが入っているな。…俺の隣の銀髪小動物は相変わらずだが。


「…まあ、俺もなんだけどな…」


 大きく背伸びしながら俺はそう呟く。出し物はクラスで一つのみ、決めるとなればクラス全員での話し合いは必須。なのに誰が好き好んで〝無能〟の意見を採用しようとするのか。


 というわけで、俺も実はティアと同じ〝暇人〟の部類に入る。あとは言っちゃアレだが、俺と似たように〝落ちこぼれ〟扱いされてるリーシャが〝暇人〟だろう。


「リーシャ、ちょっといいか?」


 俺は席を立ってリーシャの元に向かい、そう声をかけた。


「え?うん…良いけど。魔法祭の話?」

「少し違うが…まあ、それに付随する話かもしれないな」


 俺はそう前置きし、リーシャと雑談を始める。


「…アーティファクトの作製に協力してくれないか?」

一話あたり5,000字前後を目安としていたのですが、いい感じに区切りがつかなかったので6,000字を超えてしまいました。


今回は新キャラの登場がなければ、ほぼほぼ茶番パートという、挿話が多い感じの話でしたね。〝レイドがボコボコにされた話〟程度として受け止めて下さい。


次回は新キャラが結構増えます。これからもキャラが増えていくので、自分でも管理できるか不安です。頑張ります。では。

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