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Secret Sorcerer  作者: RENTO
第一幕《刻が満ちるヴィンディクタ》
4/22

4話 受容者と排斥者

 俺とヘルメスは同時に地を蹴った。俺の右手にはナイフ、ヘルメスはどうやら剣のようだ。


 お互いの武器が衝突し、金属同士が甲高い悲鳴を上げる。


 一撃、また一撃。武器のぶつかる音が響いていく。


「〝身体強化(エンハンス)〟」

「っ…」


 ヘルメスが身体強化の魔法を行使した。一気にヘルメスの攻撃の威力が上がっていた。俺も身体強化を使いたいが…俺だとフル詠唱を要する。身体強化状態のヘルメス相手に、そんな時間があるだろうか…?…試してみるか。


「魔力の根…」

「〝風波(ふうは)〟」

「くっ…!?」


 風によって吹き飛ばされ、詠唱もキャンセルされた。やはり、詠唱の時間自体ないな。


「…っな…!?」


 気が付けば眼前にヘルメス。俺を上空に吹き飛ばし、俺を追う為にそのまま跳躍したのだろう。そのまま剣を振るってきたので、俺も応戦してナイフを振るった…が。


「しまった…!」


 ヘルメスの膂力(りょりょく)に押し負け、ナイフを弾かれてしまった。流石に身体強化が無いと分が悪い…!


「おらどうした〝無能〟!ちょっとは足掻いてみせろ!」

「っ…風をま…」

「〝陰雷(おんらい)〟」

「…くっ…」


 ヘルメスは電撃による電磁加速で、俺の顔面を剣で貫こうとする。俺は剣の角度から軌道を予測し、身を捻り回避し、着地する。


 数秒後に、ヘルメスも着地した。


「つまらねえなあ…やっぱ雑魚だ。どうせお前等は不正したんだろ?でなきゃ、俺より格段に劣っているお前等が、俺の上を行くなんてあり得ないしな」

「まだ始まったばかりだろ…まだ本気出してねえよ」

「はっ、詠唱を封じられて何が出来るんだよ?何に対しても、短縮詠唱すら出来ないお前が」

「…さあな」


 俺はナイフを投擲した。無論、全力で。


「ふん!血迷ったか!!」


 勿論ヘルメスは剣で弾く。だがここは想定内だ、お陰で隙が出来た。


「なっ…!?」


 ナイフに目の焦点が行き過ぎていたのだろう。俺はそれを利用し、近づいた。そしてそのまま、拳を繰り出す。…だが。


 ガシッ!と。俺の拳は止められた。


「…!」

「調子に乗るなよ!!〝無能〟風情が!!!!」


 ヘルメスは俺の拳を手の平で受け止め、そのまま馬鹿力で握ってきた。このままだと、逃げられない。


「死ねえええ!!!」


 剣が振り下ろされる…俺はそれを手を掴まれている状態でなんとか躱し、そのまま蹴りを放つ。


「ぐっ…!」


 どうやらヘルメスに効いたようだ…だが。


「はあああっ!!」

「なっ…」


 蹴りを放った直後、今度は剣を振り上げようとする。まずい、今俺は隙だらけ…喰らう…!


 バサアアアッ!そんな音が響く。俺は自分の身体を見る…そこには。


「あ…ぐっ…」


 なんとか急所は避けられたものの、身体は逆袈裟に斬られ、血が四散した。今も、血は溢れ続けている。痛みで立っていられない俺は、その場に跪くような体勢になってしまった。


 観客は大歓声で溢れ、「ヘルメス!ヘルメス!」というコールが響き渡る。


「どうだ〝無能〟。これが現実だ」


 冷酷な言葉が俺を刺す。


「分かったか?お前は不正をしないと勝つことなんて出来ない。任務の時も不正をしたんだ。そうでなきゃ、俺が負けた説明がつかない。逆に言えば、不正したなら全ての辻褄が合うんだよ。結局お前は、卑怯な事をしないと自身を誇示出来ない愚か者なんだよ!」


 そう言って嗤うヘルメス。


 …俺は〝無能〟だ。大した魔法も扱えず、一対一の場面では満足に魔法を行使させてもらうことすらままならない。使えたとしても、相手を倒すに至らない。


 …俺は〝無能〟だ。だから周りから蔑まれ、罵られ、冷遇された。俺の気持ちを考える奴なんて、誰一人居なかった、俺が〝無能〟という蔑称を所有しているから。


 …俺は〝無能〟だ。…だが、それが何だ?何なんだ?…俺は。


「…なあ、もう諦めろ。そんな重傷だ、勝ち目ねえって。おい審判、そろそろ判定を…」

「〝罰雷(ばつらい)〟」

「がああああああ!?」


 ヘルメスが審判に試合終了を促そうとしたが、それは俺の〝罰雷〟によって止められた。ヘルメスの腹部は雷によって焦げて、ヘルメスは腹部を押さえて蹲っている。


「な、何故だ…」

「何故って?」


 首を傾げる俺に、ヘルメスは言う。


「ふ、不正だ!お前は確かにフルで詠唱をしないと魔法を扱えない筈だ!なのに…」

「はぁ…あのな、そもそも何で声を大にして詠唱しないといけないんだよ」

「は…?」

「〝声を出さないといけない〟これは詠唱の定義だ。だからフル詠唱を要する俺は、全部声に出さないといけない…ただ、何故大きな声で詠唱をする必要があるんだ?詠唱の定義は〝大きな声を出さないといけない〟ではないぞ?」


 そう、本来詠唱は声を大にしてするものじゃない。ぶっちゃけ、魔法名も声を大にして言わなくて良い。


 詠唱をしている間に気が付いた。ヘルメスは詠唱を、声量から判断して行動する。つまり、声量をほぼ0にすれば、それに気づくことは100%無いということだ。


「くそ…つまりお前は最初、声を大にして詠唱することで、詠唱にはかなりの声量が必要だと錯覚させたんだな…!この卑怯者が…!」

「魔導士同士の闘いに卑怯も何もない。お前は自身に無い技術や高位魔法を相手が持っているだけで〝卑怯〟と言うのか?」

「て、めぇ…!!」

「もう終わりだ、ヘルメス。我は求める、決して届かぬ物を掴む力を。我は欲す、決して叶わない願望を叶える力を〝延長(extension)〟」


 その瞬間、ナイフの柄が伸びて俺の手に戻ってきた。〝延長〟。第一段階無属性魔法。対象を延伸させる。勿論解除したら元に戻る。俺の手に収まったナイフを、ヘルメスに突きつける。


「…これで終わりだ」

「ま、待て…!」


 俺はその懇願にも近い命令を無視し、ナイフを振り下ろそうとして…そして。


「そこまで!!この決闘〝一騎打ち〟レイドVSヘルメス・ハネムーン、勝者は…レイド!!」


 その審判の合図で、俺のナイフは止まった。


 …辺りが静寂に包まれる。無理もない。圧倒的最弱、魔導士の資質に欠け、この世界の〝排斥者〟である俺と、圧倒的秀才、魔導士の資質が十分で、この世界の〝受容者〟であるヘルメス。どちらが勝つか、なんて一目瞭然に思えた。


 …だが結果は、まさかの俺の勝利。所謂下剋上、最弱が秀才に意地を見せた勝利となった。


 …そして、少しずつ歓声が聞こえるようになって…やがて。今日一の大歓声となった。


「く…くそっ…!」


 ヘルメスは悔しそうだ。当然か、あれだけ見下して、言いがかりをつけていたんだ。そうとうプライドがズタズタになっているに違いない。


「…にしても、この歓声誰だよ…」


 〝今日一の大歓声〟なんて言っていたが…実際は一人の観客の歓声がこの場の声量の七割を占めているだろう。声デカすぎだろ。


「まあ良いか…どうせ、明日からは元の生活だ…こういうのは気にしなくて良くなる」


 …俺は〝風翔〟を使い、闘技場から去ろうと飛び立った…が。


「あ…俺、怪我してんだった…」


 やべ、意識が…バタッ。











視点変更:???


「…あの男…レイド君と言ったか。さっきの〝罰雷〟…本当に詠唱していたのか…?」


 先程まで、私は闘技場で最下級と中級の遊戯を観ていた…現在はそれを振り返っている。


 先程、レイド君は自慢げに詠唱の声量を変えただのなんだの言っていたが…これでも私は耳が相当良い。どんなに小声でも、聞き逃すことは滅多にない…だが、さっきの〝罰雷〟に関しては、一切聞こえなかった。それどころか、口元が動いているようにも見えなかった。


 だったらどうやって…と、考えて数秒。私の頭に、一筋の可能性が過る。まさかな…と、胸中で呟くが、すぐさま疑問に変わる。


「…でも、それなら何故…最下級なんだ?」


 決まっている。そんなの、一つしか無い。この世界において、あまりにも馬鹿げていて、意味の無い行為。だからこそ、私は呟く。


「…気に入らない」


 …と。











視点変更:レイド


「…ん…あぁ…?」


 目を開けると、見知らぬ天井があった。思い出した、確か俺は気を失って…それで。そうか、多分ここは闘技場の控室だな。さっき天井見てなかったし、見知らぬ天井なのも納得できる。


 既に傷は魔術で塞がっている、流石の治癒力と言うべきか。


「ふぁ〜、んぅ…起きた…?」

「ああ、起きたぞ…ん?」


 俺は間違いなく、ベッドで横になっている。ただ、その声は俺の真横から、間近で聞こえてきた。寝ている体勢なら、普通真横じゃなくてもっと上から聞こえる筈だ…まさか、と。俺がそちらを見ると…。


「…何してんだお前」


 案の定、ティアが寝ていた、俺の寝ているベッドで。


「えっと…君名前何だっけ?」

「レイドだ」

「そうそう、レイド君だけずるいよ〜…私だってベッドで寝たい…」

「いや、なら何故他のベッドで寝ない…?他にもベッドあるだろ」

「丁度良さそうな抱き枕があったらそっちにいくでしょ〜…?そういうこと…」


 流石はティア。寝るためならなんだって使う、この俺も。言うのはアレだが、少々迷惑だ。


「はぁ…そういや、今何時だ?」

「さあ…多分18時位…」

「ばっちり夜じゃないか…帰らないとな」

「ん…なら私も連れてって〜」

「却下」


 こいつさては寝ぼけてるな…。まあ〝お母さん〟と間違えないだけまだマシだな。アレは酷かった。


 そして俺は、「連れてって〜」と喚くティアを華麗にスルーし、扉を開けて去った。


「…むぅ〜…抱き心地良かったのに……私も帰ろ…」




 次の日。俺が学園の教室に入ってくると…。


「あ、レイド君おめでとう!中級魔導士に勝てるなんて…!」

「ふふ、私からもおめでとうと言っておくわ」

「ああ…ありがとう」


 人から称賛されるのはいつ以来だろうか…〝あの時〟を思い出すな…いや、今は止めておこう。


「因みにレイド、決闘はどんな感じだったかしら?」

「いや、〝これが決闘か〟くらいの感じだったな。別に緊張とかもしなかったし、ヘルメスとの戦闘にも特に変わりはなかったよ。ただ…」

「…ただ?」

「…めちゃめちゃデカい声で俺を応援する奴が居たんだが…結局あれ誰だったんだ?」

「あ〜…あれね…」

「…?どうした?」


 カルミアの少し気不味いといった反応を指摘する。それに、カルミアは歯切れの悪い返しをする。


「いや、あのね…私としても恥ずかしいんだけど…あの声…私の姉の声だと思う…」

「「…えぇ…」」


 まさかの告白に困惑する。カルミアの姉…?姿は確認してないから、似てる似てないは知らんが…確かに声は似ていたような…いやそれよりも。


「…なんでお前の姉が俺を応援していたんだ…?」


 そう、〝無能〟と蔑まれる俺には、そんな熱烈な応援をされる道理も筋合いもない。寧ろ、野次を飛ばされる方が似合っている魔導士だ。


 なのに何故、俺と面識がない奴で、俺に対してそんな真摯に応援が出来るのか、俺には分からなかった。


「残念だけど、それは私も知らないわ。姉様は最近学園の施設で寝泊まりしてるから、詳しいことはあまり聞けないのよ」

「…学園の施設で寝泊まりって…何してんだよ」

「さあね…あの人、意外に自由奔放だから」

「はあ…なら当分は会うことはなさそうだな…〝あんな応援するな〟って言ってやりたかったんだが…」

「あははは…」


 …どうやら、この問題は暫くの間持ち越すことにになりそうだ。まあそんなに急ぐことでは無いのだろうが…正直応援されるこっちも恥ずかしかった。


 俺はそのちょっと変なもどかしさを抱きながら、この長い一日を過ごすのだった…。

ど〜も〜。お疲れ様で〜す。毎話テンションが変わる自分参上!ということで、前座は終了、ここから物語の本番と言った感じです。因みに余裕で百話以上は作る予定なので、自分の体力が持つか心配です。


あとぶっちゃけ、番外編 (おまけエピソード) をちょくちょく入れるかどうか苦悩しているんですが、自分そういうの苦手で…。ストーリーに今後関係ありそうな感じに作れば何とか、って感じなので。まあそれも自分の熱意次第です。まあそもそも、この〝Secret Sorcerer〟は大まかなストーリーはあれど、詳細は全く考えていない無計画な作者によって綴られている作品なので、設定に矛盾が生じるのが怖いですね…。書くなら頑張らないと。


 というわけで以上です。次からは少し内容を詰め詰めにしようと思うので、凝縮されたグダグダストーリーを是非お楽しみ下さい。では!!

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