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Secret Sorcerer  作者: RENTO
第一幕《刻が満ちるヴィンディクタ》
18/22

18話 魔導士レイドの異質

 …テキトーに暇を潰していたら…知り合いには一切会わず、いつの間にか魔法祭二日目は夜に迫っていた。


 夜になっても賑わいは変わらず…寧ろ、昼間より賑わっている。魔導士は基本夜行性なのだろうか。いやそんな事は無いだろうが…気になるところではある。


 …そして、暇を潰しに潰し終えた俺は…自分の教室へと戻っていた。


「…おお、レイドか」

「…先生ですか」


 ……教室には、イア先生が居た。


 …大方、待ち伏せしてたって感じだな。俺が来るまで、待っていた。どうして俺が最初に帰ってくると予想したのかは是非とも訊きたいが…重要なのはそこではなさそうだ。


 取り敢えず、俺から会話を振る。そうすれば雰囲気が作れるからな。


「…それで。昇級の話はまだ保留という事で?」

「そうだな…だが。一部の教師からは〝昇級させても良い〟と許可を得ている…大半は頑固者ばかりだがな」


 …この人もこの人なりの努力はしているようだ。普通なら一瞬で突っ撥ねられる提案だからな…相手を納得させられるだけで、相当凄い。


 …〝そんなに?〟と思う奴は居るかもしれない…だが。〝無能〟という存在が、この世界でどれだけ罪深い存在かを、知っておいて欲しい。


 本来〝無能〟とは、能力や才能を持たざる事。転じて、役立たずで、何をさせても劣る事。俺はその〝無能〟…もっと言えば〝無能者〟にあたる。


 そんな役立たずを昇級させろ、なんて言われたら、どう思う?


 …そう、誰からも反感を買う。


 もっと分かりやすく説明しようか…出来損ないで碌でなしのサボり魔を、仕事も出来る、真面目で勤勉な奴を置いて、より先に出世させる、みたいな。


 社会的には、それは正しくない。表面だけ見れば、有り得ない事だからだ。優秀な奴の名声を置き去りにして、下等な奴を育てるなんていう、何考えてんだと云われるレベルのヤバい事なんだからな。


 今イア先生がやっているのは、そんな社会の摂理に反していそうな事なのだ。普通は即行で切り捨てられる。


「…まあ、俺に関しては良いですよ。昇級しても根付いたものは完全には取り除けない…〝無能〟の蔑称も、此処の生徒達の記憶には残り続けます」

「中々割り切ってるような感じだな…では例えば。リーシャが昇級して〝落ちこぼれ〟という汚名を返上し、今後一切今までのような酷い扱いを受けなくなったら…どうする?」


 …教師らしく、中々に意地悪な質問だな…。


 ──だが生憎と。答えは決まっている。


「どうもしませんよ。アイツとは友達ですからね…友達の不遇からの脱却を喜びはするでしょうが」

「…そうか。お前は本当に面白い奴だ」


 イア先生はそう言って、右の腕をふっ、と挙げた。その行動に、どんな意味があるのかは一瞬だけ分からなかったが…突如、天井から何かがイア先生の魔力に引っ張り出される。


 …【殺猫】だ。大方、【闇裂】で天井の陰に潜み、俺達を狙っていたのだろう。


「──お前なら、コイツをどうやって殺す?」


 …それは教師として、あって良いのかという質問。殺し方を訊ねるなんて、普通の教師はしない。


「…これに答えなかったら単位落ちるとかじゃないですよね?」

「さあ?それはお前と私次第だな」


 まあ単位は落ちるところまで落ちているので痛くも痒くもないのだが。


 でも、答えたらなんかメリットありそうだし、答えておこうか。


「そうですね…先ずは脅威を取り去りますかね」

「…ほぅ?」


 予想が外れたのか、イア先生は興味深そうな反応を示す。それを気にも止めず、俺は続ける。


「【殺猫】の危険度の身体的要因は鋭い爪牙以外に無い…それらを砕けば少し力が強くて素速いだけの猫です」


 【殺猫】の戦い方は【闇裂】によって影に潜み影を移動し、相手の視界外から不意の爪牙で斬り裂く…これが普通。魔物の大半は知能が無いので、殆ど決められたパターンでの攻撃しかしてこない。【殺猫】も例外では無い。


「…この【殺猫】がそんな事を許してくれるとは思いはせんが…」


 …ご尤もだな。【殺猫】はそんな隙を与えられるかと言ったら、迷わずノーと答える。影に潜めば攻撃を受け付けないし、影移動で動きを捕らえられる筈が無い。


 …だが。


「今イア先生がやってくれたじゃないですか…」


 魔力操作、そして魔導技術…それには少し自信がある。


 イア先生がやったのは、魔導技術〝乖〟の応用。影と実態を解離させ、お互いの存在の一体化を乖離…そこに魔力操作で操ったそれなりの質量の魔力で【殺猫】を自身に引きつけた。


 魔導技術〝乖〟は魔法の補助だけでなく、魔物の固有能力によってはそれらを封じ込める効果もあるのだ。


「…自分で言うのもなんだが、〝乖〟でこんな使い方が出来る奴が居るとは思えないがな」


 本当に自分で出来ているのにそういう事を言えないと思うが…俺は。


「魔法が弱くても…俺は魔導技術だけなら、誰にも負けるつもりはありません」


 …俺は小さな魔力波を、【殺猫】に向けて飛ばした…【殺猫】の双眸の大きさにも満たない、小さな魔力。


 それが、【殺猫】に迫っていって…そして、それが【殺猫】に触れた瞬間。


「ニャ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!?」


 …【殺猫】は苦しみ始めた。


 …体内で激痛が走った為だろう。そしてそのまま…【殺猫】は絶命した。


「…成程。〝乖〟と〝(げん)〟の応用か」


 魔導技術〝幻〟…魔力の実体を失くし、物理を無視して魔力を素通りさせる技術だ。


 当然相手の体内にまで魔力を送り込む事も可能だ…しかし、〝幻〟の魔力は外部の魔力によって実体化が促進する。そしてその実体化の促進は魔力量、魔力錬度、魔力硬度等に比例する。したがって、〝幻〟の魔力を当てた部分に一定の魔力を纏っていれば、〝幻〟の魔力は実体化し、その魔力の主導権を相手に握られる。


 …表面を覆われる事もそうだが…体内では魔力を生成する器官…心臓がある。後は魔力が含有された食物を摂取すればそれを魔力に分解する器官の肝臓…条件次第だが、それらに〝幻〟が近づくと高密度の魔力によって一瞬で実体化してしまう。そしてあっという間に主導権を握られ、体内でも魔力で強化されてしまうのだ。


 ロマンはあるが、メリットよりもデメリットの方が目立つ魔導技術。そんな〝幻〟だが…俺は【殺猫】の額に〝乖〟を添えて放った。別に脳天である必要は無く、なんなら魔力渦の中心である心臓を狙ってもよかった。


 …〝乖〟の基本的な使い方は〝解離と乖離〟…だが、それは魔力と魔力を分つ事も出来る。この応用として、属性魔法に別属性の魔力をコーティングして二重以上の構造を取る。錬魔力や錬魔法とはまた違った使い方で、引力と斥力を用いて〝魔力の干渉・不干渉〟を操作する効果もある。


 【殺猫】に限らず、殆どの魔物は俺達魔導士よりも圧倒的に魔力量が多い。魔物の身体能力が高い理由はその魔力の多さで、魔力を活性化エネルギーとしているからだ。そんな魔物共は、体表だけでなく体内にも馬鹿みたいに濃密な魔力を溜め込んでいる。普通に〝幻〟を使おうものなら逆効果。


 …だからこその、〝乖〟。〝幻〟と〝乖〟の技術の融合、それで実体を無視し、【殺猫】の魔力を斥力で受け付けない。どれだけ魔力の密度が濃くとも、素通りする。


 …そして、体内の重要器官に届いたら、〝乖〟でその器官と【殺猫】自身の接続を解離させる。そうすれば一撃で致命傷となる。


 …相当条件が整っていなければ出来ない高等技術だが…条件が整えばこれ一本で生命体を簡単に絶命させられる、俺にとっても恐ろしい技術だ。


 まあそもそも使える奴なんてそうそう居ないだろう。〝幻〟と〝乖〟の融合がまず無理だ。実体の無い魔力に実体のある魔力を混ぜる…なんて。そもそも〝幻〟に実体のある魔力が触れると実体化する。だからこそ〝幻〟と他の魔導技術を融合させる技術は普通有り得ないのだ。


 …まあ、俺は出来ているのだが。


「…流石だな。私でもその融合は無理だ」

「でしょうね。そもそもその技術の融合は何かしらの要素が無いと不可能に等しいですから」


 一応俺が他と比べて魔導技術の化物だっていう自覚はあるが…こう言っていると本当に頭抜けているな。


「…まあ、良いだろう。お前の技量も知れた。それだけの技術があって、〝最下級〟の器など有り得ないと」

「そうですかね…俺は──」

「ずっと疑っていたんだが…お前、手を抜いているな?」


 …イア先生が、その質問をした瞬間。


 …俺の表情が、変わったのが自分でも分かった。どんな顔をしているかは分からない。だが…とにかく、変わった。


「…手を抜いていたって…どこからですかね」

「入学より以前…試験の成績、聴いたぞ?」


 イア先生は俺の脇を通り過ぎながら、その事実を並べる。


「筆記では満点、魔法テストは0点。実践では早い段階で大量の贋造魔物を撃破したものの、後半で急に失速し結局、試験者の中ではダントツの最下位だった」

「その通りですね。歪曲も何もない事実ばかりです」

「普通なら筆記テストが満点の時点で、魔法の才が多少無くとも〝上級〟以上の階級が与えられる…だがどうだ?現にお前は〝最下級〟…普通有り得ないだろう?それは何故か?」


 イア先生は少し間を空け…やがて、核心に迫る言葉を、吐いた。


「──お前が知っていたからだ。魔法テストが0点だった場合、問答無用で〝最下級〟になると」

「…………」

「魔導士に最も必要なのは知識量だが、魔導士に求められているものは違う…魔法だ。その魔法が使い物にならないならば、最早社会性は無い。本来なら退学にしてやるところだが、筆記で満点という素晴らしい結果を出したのも事実…だから〝最下級〟として、学園長(キング)から〝最下級のバッジ()〟を貰った」


 ……。


「そりゃあお前が〝最下級〟な訳だ…ギリギリ入学できるラインを緻密に計算して、〝無能〟の皮を被って…聞けば、お前が〝無能〟と呼ばれるようになったのは6年前だそうじゃないか。生まれてからそこまで〝無能〟である事を隠し続ける事が出来る訳が無い」

「…そんなの」

「分からない、と?だが生憎と経験からだ…今まで数々の劣等魔導士の経歴を見てきたからな。そのどれもが、生まれて5年程度で魔法の才能を見分けられたんだよ。それをお前は10年以上隠し続けてきたと?」


 …何故そこまで断定出来るのかは分からない。どうしてそこまで詰られるのかは分からない。


 …ただ…この教師は…この女は…危険だ。謂わば、俺の命をいつでも奪えるよう、俺の首裏に仕掛けられている爆弾のようなもの。


 ──俺の正体がバラされれば、それでこそ終わり…それは死と同義なのだ。


「…まあ、色々余計な事を言ったが…安心しろ。この事実は私しか知らない…他の魔導士は、態々お前の事なんぞ調べようとも思わんさ。そして…私からもこの情報を他に漏らすつもりはない」

「…それを、信用しても良いんですかね?」


 簡単に信用出来る訳が無い、出来るなら苦労しない。


「お前が信用しなければそれでも良い…だが私を危険人物と判断し、挙句私に魔法を向けようものなら──」


 …次の瞬間。


 ビュウンッ!!


「………」


 俺の真横を──魔法が通り過ぎた。


 …呪文の詠唱も、魔法名の宣言も無かった。つまり──無宣言。この学園の教師も、名ばかりじゃないって事か。


 だが威力はそれ程無いらしく、俺の後ろにあった壁に一筋ヒビが入る程度だった…それでも、無宣言ならば相当な威力だ。


 イア先生は鋭い視線を俺の方へ向け…。


「──その時は、迎撃の為にお前を徹底的に叩き潰す」


 その言葉には、何故か〝事実〟が宿っているような気がした。仮にそんな事が起こった場合…本当にイア先生の言ったように、俺が蹂躙されるかもしれない…そんな、妙な説得力とも言うべき予感が。


 …まさかそんな事が有り得てたまるか、と言いたくなるような予感なのだが…この人の言葉には、それだけの圧があった。


「それではな。精々学園生活を満喫しろ」


 …イア先生は、そのまま教室から去っていった。俺と絶命した【殺猫】を残して。


「…底が知れない」


 底が知れなさすぎて、畏怖すら感じてしまう。今の俺だと、恐らくどれだけ好条件でも勝率はゼロ…そんなレベル。


 …懐に隠しているナイフ達も、どちらも意味を為さないだろう。


 …この教師は、一体なんなのだろうか。


「…取り敢えず…我の心象を現世に、我の器は宝庫と為す──〝魔空間(マジカルゲート)〟」


 コイツも【鋼靭蝿】同様、〝魔空間〟に入れておく事にしよう。


 …〝魔空間〟に入れる理由?()()の為に必要だからだ。それ以上に理由は要らない。


 因みに魔石は持っていなかった。となると【顕現鏡】の残滓だろう。


 【顕現鏡】は膨大な数の魔物を生成する…が、それらの魔物は生成初期は【顕現鏡】によって接続されている。その間は普通魔石を持っている魔物でも、魔石を落とさない。


 【顕現鏡】が生成してからそれなりに時間が経てば、魔物は体内の魔力で自動的に魔石を生成し、【顕現鏡】の接続や支配から外れる。そうして、野良の魔物という分類にされるのだ。


 …と、すれば。まだ【顕現鏡】の残した魔物は居るのかもしれない。


「…面倒だな」


 セリア先輩が馬鹿みたいな魔法で殆どの魔物を殲滅してくれた、と言っても…陰で動き続けている訳か。


 …どうやら、少々危険なようだ。このまま学園内で魔物が繁殖すれば、流石にマズイ。巣食われる前に、仕留めなければならないのだが…。


「そんな簡単に姿を現すもんかね…」


 ただ、【顕現鏡】が残した魔物の中に強めの魔物が居るとしたら…ソイツ等が学園を巣食ったら、それこそ終わりか。


 流石に特級以上の魔物が繁殖すれば、並の魔導士では手が出せないな。


 …まあ、かと言って居場所を見つけ出すのは不可能だからな。その時まで待つしかない。


「はぁ…嫌になるな、本当…」











 …もう直ぐ、日付が変わる頃。流石にこの時間ともなると、多くの人は帰っているな…それでも凄い人数だが。


 …で、そんな中俺は何をしているかと言うと…。


「おい〝無能〟!俺と決闘しやがれ!」


 …多くの魔導士に囲まれ、決闘を迫られていた。


 …多くの魔導士のバッジは黄色…アルスと同じ〝上級〟だな。何をとち狂ったのだろう。アルスが〝上級〟だから、自分にもあれだけの高等魔法が扱えるとでも思ったのだろうか?


 …一応言っておくが、あの時のアルスの実力は低く見積もっても〝帝級〟中位レベル。恐らくリリア先輩よりも強かった筈だ。そもそも錬魔法を扱えるだけで魔法だけなら〝特級〟レベル…第二十段階以上の錬魔法を扱えている時点で、魔法だけなら〝神聖級〟に匹敵する。


 ただアルスは命中率、構築の速度はやや低い傾向だが。俺があそこまで粘れていたのもその証拠だ。


 しかしそれでも〝天級〟クラスの命中率と構築速度。コイツ等のような、〝上級〟という階級と実力が釣り合っている奴ならば100%、アルスが勝つだろう。それだけの実力差がある。


 …ただ、〝最下級〟である俺が〝上級〟以上から決闘を申請されてしまった…とどのつまり、俺はその決闘を受けなければならないのだ。


(面倒過ぎる…しかもこんな時間だぞ…)


 …まあ受ける必要は無い。ルールではあるがどうせ口約束みたいなものだ。


 ──その記憶事、消してしまえば良い。


「──〝記憶消滅(ディスメモリー)〟」


 さて、これで記憶は消える…しかし、消えすぎて新生児みたいな脳内になる可能性は否定出来ないが。


 アルスと違って、コレを制御出来ないのが辛いところだな…今度アルスに制御方法を教えてもらうか。今の状態だと絶対無理だろうが。


 おっと、いかんいかん。早く退散しなければ、っと。


「〝転移(トランス)〟」











「…ふう、帰ってきた」


 俺が来たのは…自分の家。毎日来ているのに、その度に酷く懐かしく感じる。


 質素な造りで、余計なものも何一つ置いていない。机、椅子、ベッド、照明、後は一つの魔導書…そして実験中の花弁…それだけだ。それ以外は何も置いていない。


「…さてと」


 俺は椅子に座り、その花弁数十枚を取る。


 …実験中の白薔薇だ。ただ、実験と言ってももう完成している…これは謂わば、最終調整みたいなものだ。


「無属性、炎属性、水属性、風属性、土属性、雷属性、氷属性、光属性、闇属性、魔属性…よし、基礎属性は全部問題無しだ」


 一枚一枚、丁寧に数えていく。


「氷炎属性、避雷属性、竜巻属性、感電属性、風雷属性、自然属性…聖光属性、炎光属性、眩鏡属性、風光属性、土光属性、雷光属性、氷光属性…虚無属性、死炎属性、汚水属性、闇風属性、土闇属性、闇雷属性、氷闇属性、滅光属性…極魔属性、聖魔属性、漆黒属性…これら複合属性も殆ど問題無い。最後は…コレか」


 魔力属性全35属性の内、34属性は及第点は取れている。かなり時間を掛けて作ったのだから当然だな。


 ──だが、最後に問題となるのはやはりコレだ。


 俺は他の花弁を置き、一枚の花弁だけを握る。


「…完成度は…微妙だな…」


 やはり、この属性だけは他と比べると完成度が劣ってしまう。それはそうだな…俺が()()()()()()()()()()なんだからな。


 …だが、それでも当初に比べれば完成度は上がっている…完全に牛歩であるが。


「そろそろ完成させないとな…」


 そろそろ、()が勘付いて動き出す頃だろう。流石に情報を出し過ぎたから、既に勘付いていてもおかしくは無い…でも、奴は意外と馬鹿だから、やっぱりもう少し余裕はあるか?


 …どちらにせよ、早めに完成させておくのが吉。


「…〝幻魔晶〟を使うか…」


 …そうして、俺は眠い中。刻一刻と迫る〝その日〟の為に…準備を整えるのであった。











 …魔法祭、最終日の三日目。二日目に大きな出来事は無かったが…今日は、重要さだけで言えば、一日目や二日目とは比にならない筈だ。


 現在俺達セリアル魔法学園の1年部は、【魔法の庭】に集まっていた。こうしていると、入学試験の事を思い出すな…本当。


 …そして、キング学園長が俺達の前に姿を見せる。


《…良く集まってくれた…そろそろ此処の生活にも慣れてきた頃だろう。だが驕ること無く、魔導士としての精進を忘れずに》


 …前置きから入るのは良いが…この後の言葉でどれ程の生徒の気が引き締まるか。


《…さて。そんなセリアルの学生生活に馴染んできた君達だが…そんな君達を見込んで、この魔法祭の次の日からある事をして欲しい…そのある事とは──》


 …キング学園長は一拍を置き、告げる。


《──〝依頼の掃討〟だ》


 …その言葉で、この場に居る殆どの背筋が伸びる。


《〝依頼〟とは、この世界で人々が悩まされている問題を解決する為、このセリアルの生徒達へ頼み事をする事だ。魔物の討伐は勿論、護衛や捜索等の依頼も任される》


 …要するに、俺達が入学初日に告げられた〝課題〟のようなもの。その規模が世界中、というだけの簡単な話だ。


 …だが、その難易度はその〝課題〟なんかよりずっと厳しいのだろう。だからこそ、入学して数ヶ月経った後に、この事を俺達に知らせてきた。


 つまり、俺達が入学してから今日までは、依頼を熟せるようにする為の実力を身に付けさせる期間だったのだろう。実際多くの魔導士はこの数ヶ月間でかなり強くなったという自覚がある筈だ。これならば、依頼を遂行出来る…と。そういう風に思っているだろう。


 …そう単純であれば良いのだが。


《依頼を達成すれば、依頼達成の難易度や手際、被害の少なさ等を査定し…昇級の成績へと反映する。報奨も見合ったものを出そう》


 その言葉と共に、生徒達の表情は変わる…調子の良い奴等だな。出世と金の事しか考えていない愚者ばかりで、早死にしそうだ。【夭折の湿地帯】に対策無しで行くのと同じだからな、それ。


《依頼を受ける人数は問わない。人の役に立ち、人から崇められるのが、私達魔導士の在り方だ。その在り方に恥じない魔導士を目指す為にも、依頼は積極的に受けてくれ給え》


 …そうして、キング学園長の話は終了。解散の合図と共に、俺達は散らばった。


 …俺も帰ろうか、と思った矢先。


「…れ、レイド君…」

「ん?」


 リーシャが俺に話しかけて来る。俺の裾を掴んでいるが…別に掴まなくても止まってやるってのに。


「どうした、リーシャ」

「あの…依頼、受けるのかな、って…」


 …まさかそんな事を訊ねられるとは…予想外だな。


「受ける必要無いからな…」

「そうなんだ…」


 …なんか寂しそうな…っていうか落ち込んでるか?


「ひょっとして…依頼受けたいのか?」

「う、うん…そういう事、なのかな?」

「いや俺に訊かれても知らんぞ」


 …どうやら依頼を受けたいらしい。珍しいな…コイツがこんな事に自分からやりたいなんて言い出すのは。


 …コイツはコイツなりに、思う事があるのかもしれない…自分の、今の階級に。今までならそんな事は無かっただろうが…今では、自分の力に自信が付いてきている。適度な自信…良い兆候だな。


「──了解だ。ペアを組むか」

「…!本当…!?」

「ああ。お前の本質を一番活かせるのは、多分俺だからな」


 これは俺が自信を持って言える事だ。リーシャの支援の恩恵を一番受けられるのは、間違い無く俺だ。魔法だけに囚われないオールラウンドな戦い方をする俺ならば、各分野で支援が遍く効果を発揮する。リーシャは普通じゃ出来ない、支援の重ね掛け(スタック)も可能だから、各分野で盤石な態勢を築けるだろう。


「ありがとうレイド君…!」

「気にするな…それで、その依頼にはいつ行くんだ?」

「うん、えっとね…出来れば明日が良いかな」

「…分かった。予定は無いから、その日だな」

「うん!」


 リーシャは眩しい程の笑顔を浮かべた。


 …コイツのこれ程の笑顔を見るのは初めてだな…良いもんだな。こんな顔が出来るのか。


「それじゃあまた後でね、レイド君…!」

「…ああ、またな」


 …そして、リーシャは【魔法の庭】から去っていった。


「…依頼…か」


 …別にやる予定は無かった。俺にとっては昇級など些事であるからだ。


 昇級しても良い事があるかと言えば…出世コースが拓けるくらいだ。それ以外に、良い事は無い。それに俺は…別に、()()()()()()()()()()()


 俺達生徒が魔導士を名乗っているのは便宜の為だ。正確には魔導士見習い…いや、魔導士を名乗っているただの一般人だ。見習いですらない。魔導士と言う名は一つの職業、みたいなものだな。


 魔導士というのは将来的に魔法を扱い、魔法学や魔工学の真理を探求する者。だが現状、俺達学生の殆どは魔法学・魔工学の真理を探求しているわけでもなければ、正式に魔導士として認められている訳でも無い。


 …だが魔導士としての道を歩もうとする時点で、将来的には魔導士として活動する事と同義。だから魔法学園の生徒は魔導士を名乗れるのだ。


 …そんな魔法学園の生徒である俺が、魔導士を目指していないと知れば…それは魔導士という存在への背信となる。だから…魔導士の前では、言わない。言ったら最後、俺は魔導士という名を除外され…この世界からも、排斥されるだろう。


 ──だから、言わない、言えない。言う必要も無いしな。言ったら火に油…だろ?


「…ただまあ…依頼を受けるくらいなら…」


 一応、魔導士として存在した、という記憶や記録を残しておいて損は無い。だから俺は、リーシャからの提案を受諾した。


 …まあ、友達だからな。そんな理由でなくとも了承していただろうが…。


(しかし依頼によっては…アレを使わなければならない時が、来るかもしれない)


 出来るだけ、使わないように努力はしよう…まだ、使う訳にもいかないしな。


 …ただ、もしも。それを使わなければ切り抜けられない、とするならば。


(──その時は、目的の完遂予定を繰り上げないとな)

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