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Secret Sorcerer  作者: RENTO
第一幕《刻が満ちるヴィンディクタ》
16/22

16話 魔導士アルスの本領

 …魔法祭の再会を告げられ、俺達は解散した後。


「やあ」

「うげ…ゼレン先輩」


 適当に辺りを散歩していると、ゼレン先輩に出会した。


 …普通に気が付けなかった。


「うげ、とは失礼だな〜…俺は君の活躍を讃えてあげようとしてるのにさ」

「…活躍?」

「【氷の魔人】…倒したんだろう?俺でも撃破出来るか、怪しい魔物だ。何故【顕現鏡】から出てきたのかは不明だけどね」

「…まあ、倒しましたけど…コイツのお陰ですよ」


 俺は【氷の魔人】討伐時に使ったナイフを見せる。


「それは君がもう一つ持ってるナイフとは違うのかい?」

「…まあ、多少は」


 ゼレン先輩は興味深そうにそのナイフを見つめる。


 …流石にそれだけ見られたら、この人ならば勘付くかもしれない。


 そう思った俺は、直ぐにそのナイフを懐に仕舞い…。


「あれ?もっと見せてくれよ?」

「このナイフは借り物ですから。あまり他人に見せると駄目なんですよ」


 そう、このナイフは、〝ある人〟からの借り物だ。来る日が来るまで、俺が預からせて貰っている。


 …その日が来るのかは、まだ不確定だが。


「ふーん。誰からの借り物?」

「言うと思いますか?」

「そうだよね」


 言っても信じてもらえないだろう。というか信じろと言う方が無理な話だ。


「…まあ、これからも励んでくれ…近い内に俺は〝強敵が現れる〟と思っているから」


 …強敵?


「どういうことですか?」

「ただの勘さ。じゃあね」


 …何も言わないまま、ゼレン先輩は去っていった。


 その場で、俺は思考する。


(強敵…強敵、か)


 ただの勘だと言っていたが…それは…()()()


「…あの人は、本当にどれだけ解っているんだ…」


 …と、俺がそんな言葉を吐いた直後。


「…おい、〝無能〟」

「……」


 …この声は、と後ろを振り向く。見れば、ソイツが俺の方へ向かって歩を進めていた。


 …最近会っていなかったからな…久しぶりだな。


「…アルスか…何か用か?」


 俺がそう訊ねるのにも拘らず、アルスは足を止めずに俺の許まで歩み寄ってくる…そして。


 ──ドゴオッ!!


「っぐ…!?」


 突然…殴られた。


「…アルス…何するんだ」

「黙れ…ふざけやがって…」


 …何か、様子がおかしいぞ。コイツを覆う、何か悍ましいものが増幅して…。


「何を言ってる…アルス、どうしたんだよ」

「黙れと言ってるのが聞こえないのか!」


 …怒号が響く。その大音声は、周囲の魔導士達の視線を引き付けるのには十分だった。


 ……アルスはその中で…俺に向かって杖を突き付けた。


「決闘だ、〝無能〟…今まで黙認してきたが…もう、お前如きがこの学園にいる事は辟易だ」


 …突然が過ぎる。アルスは、感情的な事はあっても、こういう時には理性的に動ける奴だった筈だ。コイツの中で、何が起こった?俺が見ていないこの数ヶ月の間に、何があったんだ?


「…何を言ってる…〝魔法決闘〟は階級が上の魔導士から決闘申請は出来ない…それくらい分かってる筈だ」

「…確かに〝魔法決闘〟じゃ俺に申請の権利は無い…だが」


 アルスは杖を握る力を強めながら…。


「──普通の決闘では、話が違え」

「……」


 コイツ、正気か?〝魔法決闘〟が開催されている時間帯に、普通の決闘を申請するなんて…。


「普通の決闘なら、俺でも申請が出来る。そして階級が三つ以上上の魔導士から受けた申請は、否応なしに受諾しなければならない…この意味が解るな?」


 …俺の現段階での階級は〝最下級〟…アルスの現段階での階級は俺の三つ上の〝上級〟。


 …決闘申請には制約が多い。〝三つ以上上の階級から受けた申請は本人の意志に拘らず必ず受諾しなければならない〟というルールも、その一つ。実力主義社会だからな…強者が弱者を虐める構図を作りたいのだろう。


「…決闘に行くぞ〝無能〟…今日という今日こそ、お前の魔導士人生を終焉に導いてやる…!」


 …別に欠場で不戦敗になっても良い。俺が決闘を受けても、戦う必要なんて欠片も無い。


 …そもそもとして、俺はアルスと戦いたく無い。アルスは、幼少期の頃からの友達…だったから。友達を傷つけたいなんて、思うわけが無い。アルスは俺にとって、唯一無二の。


 …けど、だからこそ。コイツの目を醒まさせてやりたい。


 コイツは俺が居ない間に変わってしまった。いやそもそも俺は常にコイツの側に()()()()()が。


 …けどその責任が俺に付き纏っている。ならばせめて、その罪を贖う必要がある…自分の為だけじゃなく、アルスの為にも。


「…分かった。魔導士レイド、その決闘に正々堂々、受けて立つ事を誓おう」


 …そして、決闘が成立した。元々アルスに申請されているからその時点で成立しているが、こう言った方が雰囲気があるだろう。


「…ッ、後悔させてやる」


 …そして、アルスは決闘場の方へと向かっていった。


「…ヘルメス以来の決闘か」


 …俺は決闘を受ける立場でしかない。誰にも申請をしないからだ。


 だから俺を公の場で徹底的に叩き潰そうとする輩のみが、決闘を申請する…そんな暇があれば1秒でも長く魔法の強化や調整に勤しめば良いものを、何故弱者を叩き潰す事に時間を浪費するのか。


 …だが。アルスの眼差しは真剣のようにも見えた。もうこの決闘で、全てを懸けているような、危うい目。


「…この決闘は、中々に厄介かもな」











[視点変更:リーシャ・レイレンス]


「…な、なんでこんな事になったの?」

「知らないわよそんな事。でもまあ、レイドなら大丈夫でしょ?」


 …現在は学園全体に、レイド君が、アルス君?っていう人と決闘をするという連絡が魔法で入ってきて、決闘場に多くの魔導士が集まってきたところだ。


 アルス君は別クラスだからあまり知らないけど、観衆の反応からするに中々の魔導士らしい。


「…でもそのアルスって子も中々な事するわね〜。〝魔法決闘〟が開かれている時に通常の決闘申請をするなんて…セリアル魔法学園の歴史の中でも無かったわよ?言うなれば邪道ね」

「…そ、そうなんだ…」


 カルミアちゃん物知りだな〜…この学園についての歴史はあんまり詳しく無いけど…そんな悪い意味で歴史の1ページに刻まれそうな事をやったんだね…。


「…レイド君、大丈夫かな…」

「ま〜た心配しちゃって。どんだけレイドの事好きなのよ」

「そ、そんなのじゃないよ!」


 うぅ、カルミアちゃんに揶揄われちゃった…。


「ただ…アルスも中々そうね」

「?」

「分からない?二人ともまだ控室に居るのに…凄い魔力を放ってるの」

「え、えーっと…私は魔力探知とか苦手だし、〝魔探(サーチ)〟は支援魔法じゃ無いから…」


 魔力を感じ取るにはいくつかの方法がある。魔法を経由しない〝魔力探知〟は、触覚で魔力の流れを探知する。魔法の〝魔探〟は、自分でも感知できない程の微細な魔力を魔法陣を介して超広範囲に拡散させて、周囲の魔力の流れを感知する。


 カルミアちゃんは〝無意識的に拡散した魔力を維持し、自身の周囲に乱れや偏り無く、自身が中心になるように持っていく〟という、恐らく世界でも二人と居ないような使い方をしている。こうして考えてみると、カルミアちゃんって本当に天才だよね…。


「そっか。でも、決闘が始まったら分かると思うわ…あの二人が、とんでもないって事をね」

「…そ、そんなに、なんだ…」


 カルミアちゃんがここまで言うなんて…。


 本当にこの決闘、何が起こるの…?











[視点変更:レイド]


 …控室。俺は決闘の準備をしていた。


 …決闘用の武器を選ぶ。本来なら、俺の得意なナイフを迷わず選んでいるところだが…。


「…アイツに完全に勝利した、と言うには…」


 俺が手に取ったのは…杖。


 杖はそもそもとして、魔法の威力を上げるための媒介として扱われる。


 短縮詠唱、無詠唱、完全無詠唱(無宣言)の魔法は発動の素早さだけで言えば完全詠唱より圧倒的に優れているが…威力に関しては相当劣る。特に無宣言ともなれば、高位魔法の威力は最低位魔法の威力と同等程度になってしまう。


 詠唱や魔法名の省略にも、それだけの制約がある。そもそも詠唱魔法というのは、魔法として完全である魔法だ。それを改変しているのだから、当然威力が落ちる。至極当然の理だ。


 …だからこそ、高難度の魔法を扱う魔導士には、杖を媒介とすることが必須とされている。内含されていたり嵌め込まれていたりする魔石の魔力をプラスし、威力を大幅に上げる。


 更に杖は形状上、本人の魔力を動かそうとする心が強くなると云われている…らしい。根拠は知らん。


「…リーシャの杖の方が、使い勝手が良いんだがな…」


 決闘は指定された武器の中から選ばないといけない。この杖も、リーシャの杖に比べると圧倒的に劣る。


 あの杖は異常だ。作った俺自身でさえも、同じものを作れるとは限らない。


 あの杖は光属性の魔石のみを使って作製した。それがイレギュラーと化したのか、何故か魔法を行使するとどんな属性でも光属性魔石の魔力を付与してしまう。


 …あの杖を巡って戦争が起きても、おかしくないくらいだ。


 …まあ、そんな杖が持ち込まれては、決闘でのパワーバランスが崩壊してしまう。だから決闘では公平性を保つ為に、武器が制限されている。


 だから()()()()、決闘で用意された物で戦わなければならないのだが…。


「…階級差があれば、それもないか…」


 階級差が三つ以上あれば、階級が高い方の武器に制限はない。


 階級差があれば必ず強者が弱者を蹂躙する構図になってしまうからな。学園側は、〝それならば徹底的に蹂躙しろ〟と言わんばかりに、強力な武器の使用を認めている、という訳だ。


「…普通に考えて勝ち目は無いが…」


 負ける気は、一切無い。アルスの魔法、魔力錬度、魔導技術…それらは、大体把握している。情報戦ならば、負ける道理は無い。


 アイツは覚えていないだろうが…俺はアルスの実力を見る機会が、大量にあったからな。


「──やれるだけ、やってみるか」











[視点変更:アルス・マルべー二]


 …自身の杖を持って、決闘場に向かう途中。俺はあの時の情景を思い浮かべていた。


 【顕現鏡】によって発生した魔物共を、自身の持つ武器や魔導技術で薙ぎ払っていくアイツを見て。俺は情動が湧き、アイツに決闘を申し込もうという意志が現れた。


 最初は〝無能〟如きに決闘を仕掛けるなど時間の無駄だと解っていたが…何故か、アイツとは戦わなければいけないと思った。それはきっと、俺がアイツを学園で見たくないからだ。〝無能〟如きが、最高峰の魔法学園であるセリアルに通う事など、あってはならない。そう、思ったからだろう。


(…この決闘で、お前の将来を絶ってやる…そして)


 ──この決闘で、俺という魔導士の存在を世に知らしめてやる。


《決闘に出場する生徒は、直ちにフロアへ》


 …どうやら今回は〝魔法決闘〟の司会者がそのまま審判を務めるようだ。どうでも良いが。


「いけぇーアルス!〝無能〟をこの学園から叩き出せぇーー!」

「〝無能〟はこの世界に要らないから殺しても良いぞー!」

「アルス!徹底的にやっちゃいなさーい!」


 …五月蝿い程の歓声が俺を迎えてきた。アウェーも良いところだ。


 ──そして、アイツがこのエリアに入ってくる。


「…クソッ」


 見るだけで、腹が立つ。弱い癖に飄々としていて、何か異質な気配すらも。〝無能〟がこんなオーラを出すなんて、心底苛立って仕方がない。


「…アルス」

「…レイド。…?」


 俺が発した言葉に、俺自身が困惑した。


 いつもは〝無能〟と蔑称を使っていたのに…何故か俺の名前を呼ばれた瞬間、俺もコイツの事を名前で呼ばなければいけない、と。そう思った。何故だ?何故コイツに対して、そんな事を思わなければならないんだ?


 ソイツはその形に似つかわしくない杖を構えて…。


「…真っ向勝負だ。文句無いな?」


 と、言った。それに対し、俺はこう返した。


「こっちの台詞だ…!」

《決闘〝一騎打ち〟のルールを説明します。今回の場合、階級差が3つあるので、格上であるアルスは武器を自由に持ち込み可能、錬魔力と錬魔法の使用も可能です。但し格下のレイドは指定された武器で戦闘を行わなければならず、且つ錬魔力、錬魔法の使用は不可能です。以上が説明となります》


 …そして、試合開始が宣言される。


《それでは決闘〝一騎打ち〟、レイドVSアルス・マルベーニ…スタートです!》











[視点変更:レイド]


 …即座に、魔法を詠唱する。


「蒼く染まるは我が波動、根絶するは我が──」

「〝憐鋭(れんえい)〟」

「──ッ!?」


 やはり、完全詠唱を要する俺では、アルスの無詠唱を突破出来ない。ヘルメス戦でも言えた事だったが…魔法の発動に関して、俺では太刀打ち出来ない。このままでは、一つも魔法を発動出来ずにやられる。


 得物がナイフであればそれなりに強行突破が利いただろうが…今の俺の武器は杖。杖は接近戦に向かない為、必然的に遠距離戦へと持ち込まれる。だが魔法を発動出来ない以上、遠距離戦では俺は丸腰。


 ──魔法を発動しようとしたら、アルスに押し込まれる。


 …と、その時。


「──!?」


 俺の視界の右端から、〝憐鋭〟が飛んできた。辛うじて避けたが…〝憐鋭〟は俺の服を掠めた。


(…魔導技術〝(そう)〟か…!)


 …魔力や魔法の遠隔操作。簡単に言えば魔力を自由自在に操れるようにする技術だが…口で言うだけならまだしも、実践となると話は違ってくる。俺が使っているただの魔力操作とは訳が違うのだ。


 魔力操作は自身の身体の魔力を操作する。当然範囲に限界があり、維持も厳しい。だが〝操〟は範囲はほぼ無制限…自身の目の届く範囲にまで拡張可能。更に維持も容易だ。


 …まあ魔力操作のように、自身の身体の一部として扱える訳では無い。五感の付与は自身の魔力操作でしか出来ない。〝操〟で五感付与は不可能だ。因みに〝魔探〟は第六感に分類される。


 ただそれでも万能な魔導技術で、最も使い勝手が良い技術と言えるだろう。〝写〟や〝乖〟よりも汎用性が高く、〝廻〟や〝飛〟よりも正確性に優れている。高位魔導士ともなれば必須の技術で、恐らく2年部の魔導士は錬度に差はあれど、全員習得している技術の筈だ。


「ッ…!」


 更に〝憐鋭〟が〝操〟を介して飛んでくる。


 今更だが、〝憐鋭〟は第五段階無属性魔法。極小の刃物のような元素を放出し、相手を斬り付ける、殺傷度の高い技…だが、一度に出せる〝憐鋭〟は然程多く無い。あくまで第五段階の魔法だからな。極めても精々4つくらいが限界だろう。


 アルスが出している〝憐鋭〟は3つ。それでも相当な完成度なのに変わりは無い。そもそも3つも出せる魔導士は、恐らく帝級魔導士でも難しい筈だ。


 …どれだけの研鑽を積んだのかは分からない…が。


「ふっ…!」


 俺は魔導技術〝廻〟で〝憐鋭〟を自身の周囲で弄ぶ。


 …〝憐鋭〟は極小の元素…質量もそれだけ小さい。その質量以上の魔力の影響を受けさせれば、簡単に〝憐鋭〟は封じられる。今回の場合〝廻〟で高質量の魔力を回転させ、〝憐鋭〟をその流れに持っていく事でアルスの〝操〟を介した〝憐鋭〟の主導権を奪った。


「返すぞ」


 俺はそのまま〝操〟でアルスが放った〝憐鋭〟をアルスに向けて放つ。


 …別に俺が、〝操〟を扱えないとは言っていない。ただ通常の魔力操作の方が、魔力消費をほんの少し抑えられるから、使っていなかっただけ。


「〝対消滅(イレイゼーション)〟」


 …だが、その〝憐鋭〟はアルスに届かなかった。〝対消滅〟で消されたからだ。


 〝対消滅〟…ある魔力を飛ばして、魔法を打ち消す魔法。ピッタリと〝操〟で操作している〝憐鋭〟に合わせる器用さも流石…なのだが。


「…〝対消滅〟、だと…?」


 俺はそれ以上に、アルスがその魔法を使えている事に驚いていた。


 魔法段階自体が、恐ろしく高いという訳でも、無詠唱が難しいという訳でも無い。寧ろ、魔法段階は錬魔法ではあるが低いたったの第一段階。無詠唱も容易。


 …だが…この、魔法は。


 …更に、()()()()()。俺ですら、制御出来ない魔法だというのに。下手したら、()()()()()()というのに。なのに…ちゃんと、扱えている。


「〝壊滅双(かいめつそう)〟」

「──ッ!?」


 今度は〝滅光〟属性だと…!?あの馬鹿、いくらこの施設に世界最高の魔法を扱った貴族が作った破壊不可能の結界の魔道具を置いているとは雖も、〝滅光〟属性を使うなんて正気か…!?


「…ッ、仕方無い…!」


 俺は杖を上に放り投げる…そして。


「濫觴は純正なる真理、終焉とは相容れぬもの。天啓は開闢を好み、破滅を厭う──」

「〝星芒斬滅(スタースレイ)〟」


 次々と襲い掛かる魔法を回避しながら、魔法の詠唱を紡ぐ。


 …詠唱中に大きな動きをすれば、詠唱が途切れてしまうかもしれない。息切れや身体の安全を保とうとする反射的反応からだ。


 魔力を扱うのは便利だが、一歩間違えると死に至る。大きな動きをすれば、詠唱で全身を激しく駆け巡る魔力に、更に負荷を掛けるからな。身体が破裂してもおかしくない。


 だからこそ、ギリギリを見極めて、避ける。掠れば死ぬ魔法だらけのこの死地で、ギリギリで足掻く。


「御神は破滅の因子を悉皆照らし出し、創成の因子へと変貌させ、新たな依代とする。創成の原始を仰いで見届けよ──」


 …さて、後は魔法の宣言のみ。ここで失敗する訳には、いかない。


「焔の彼方へと翔べ、〝烈炎環隙翔漸鳳れつえんかんげきしょうぜんほう〟」


 …アルスが〝烈炎環隙翔漸鳳〟を放ってきた。まさか短縮詠唱で超高段階且つ〝炎光〟属性の魔法まで使ってくるとは…。


 …避けられるか?いや、無理だ。避けられる訳が無い。最早、この結界を丸ごと飲み込んでしまいそうな圧がある。


 …コイツは俺の知らない所で、こんなにも魔法が巧くなってたのか…恐れ入った。


 …だが、俺はもう、魔法を発動出来る。


 俺は先程投げて、現在俺の頭上に落下してきた杖を掴んで…そして。


「〝覇絕轟缺(はぜつごうけつ)〟」


 …俺は、その光砲を放つのだった。











[視点変更:リーシャ・レイレンス]


「な、何、この闘い…」


 私が見ている光景は、本当に魔導士同士の闘いなのだろうか。それも、〝最下級〟と〝上級〟の闘いだなんて…。


「…扱う魔法が高次元すぎるわ…多分、私があの中に入ったら…」


 そう言うカルミアちゃんの額には汗が滲み出ていた。あのカルミアちゃんが、戦闘の波動だけで圧倒されるなんて…それじゃああの中で行われてる闘いは…。


「お、おい…あれ本当にあの〝無能〟と〝上級〟魔導士の闘いなのか…?」


 観衆も、これには流石に疑問を持たざるを得ない。


 …まあ、それは当たり前だよね…だってこんなの、学園のトップクラスがぶつかって出来るような闘いだから…。


「きゃ〜!レイド君激し〜!」

「そうね…って姉様!?いつから隣に!?」


 気が付けば、セリア先輩が私達の隣に座っていた。


 …まるで気配も何も無かったんだけど…これが〝神聖級〟魔導士なのかな…?


 …というか、本当に声大きかったね…レイド君、この声量で応援されてたんだ…凄い元気出そう。


「ついさっきだよ〜。で、レイド君もなんだけど、相手のアルス君だっけ?彼も中々やるね〜」

「…そうね。少なくとも私じゃ手も足も出ないかも…」

「う〜ん…それは無いんじゃないかな?」

「いやいや、あんなの発動されたらどうしようも…」


 …それからカルミアちゃんとセリア先輩は、謎の口論を繰り広げた。


 …私ですら理解出来ない次元なんだけど…カルミアちゃん自身が手も足も出ないと言っているって事は…レイド君とアルス君の実力は。


(…レイド君、君の実力は…一体、どのくらいなの…?)










[視点変更:レイド]


 …アルスの〝烈炎環隙翔漸鳳〟を、打ち消した。まさかあの魔法を使ってくるなんて、思いもしなかったな…咄嗟に攻撃に使う予定だった〝覇絕轟缺〟で威力を相殺するくらいしか、思いつかなかった。


「はぁ、はぁ…」

「ぐっ…」


 …だが、お互い満足に立っているという訳では無かった。


 アルスは魔力の使い過ぎで疲弊。俺はアルスの魔法を完全に打ち消す事が出来ず、右肩を灼熱の炎が駆け抜けている。


「ッ…其が求むは生命、その根源を現せ…〝水天(ノルアクア)〟」


 俺は急ぎ、〝水天〟で炎を消す。


 …このままやっても、埒が明かない。第十六段階無属性魔法の〝覇絕轟缺〟を使った所為で、俺も魔力をごっそり持っていかれている。アルスよりはまだ余裕はあるだろうが、負傷している身でどこまで耐えられるか…。


「…アルス…」

「はぁ…はぁ…黙れ…」


 アルスは聞く耳を持とうと、しない。歩み寄ろうとしても、アルスの方から突っ撥ねてくる。


「──お前には、分からないだろ」

「……?」


 突然、アルスはそんな呟きを漏らした。


「〝無能〟のお前には、上の気持ちなんて分からねえんだろ!!」

「──ッ!?」


 アルスは杖を俺に向け…そして雷を放ってきた。無宣言…それもかなりの威力。まさかここまで…。


 間一髪、俺は回避したが…少しでも反応が遅れていたら…。


「お前は下がる階級なんてねえ!だからそこまで軽々しい言動が出来る!」

「……」


 …何か、おかしい。コイツの様子が。


 言っている事が滅茶苦茶で、まるで幻覚を見ているよう。会話の内容が一様ではない。


「お前は所詮〝無能〟なんだ…!それ、なのに…!」


 …これは、俺が影響を与えているのか…?俺を目の敵にするからか…?


「〝凋崩撒牙(ちょうほうさんが)〟ッ!!」

「ッ…!」


 アルスは疲弊しているにも拘らず、更に魔法を放ち続ける。しかも、高位段階の錬魔法を。


 そんな事をすれば、どうなるか。誰でも分かる事だ。


 これが続けば、本来なら出せない魔力を、無理矢理搾り出す事になる…それはつまり、命を削るのと同義。


 そして魔力を合成させて錬魔力を生成するにも、合成分の付加魔力が必要となる。高位魔法となれば尚更だ。


 高位段階の魔法は魔法陣の構築に大量の魔力と情報を要する。魔法陣に座標、速度、威力、効力、世界への干渉性等を事細かに書き入れ、そのコストに見合った魔力を入れ、それでやっと魔法が発動出来る。


 だが、そんな事をすれば魔導士は直ぐに力尽きる。だから呪文を詠唱することで負担を和らげ、俺達が魔法陣に入れる情報量を軽くしている。だから高位段階魔法の呪文は基本的に長い。高位段階魔法の情報量を補うには、それだけ長い呪文が必要だからだ。


 …だが、それでも魔法陣に注ぐ魔力量は変わらない。呪文はただの情報を補うもの。言葉に魔力が宿っている訳でもないので、魔法陣に注ぐ魔力の量は変わりはしない。だが呪文や魔法名を省略すれば世界に発生する歪の修正を補う為に追加の魔力消費を要する。魔法陣に注ぐ魔力量は変わらないが、実質的に世界を欺く分の魔力を消費するから、高位魔法では詠唱をする事は推奨されている。


 …だがアルスが使っているのは短縮詠唱や無詠唱、さらに無宣言も少し。情報を補う役割を果たしている〝言葉〟という概念を無視しているから、アルスは自身の脳から全ての情報を直接入れなければならない。


 …特に無宣言の入れる情報量と魔力量は地獄だ。魔法名の宣言は、世界に干渉しその言葉に対応する魔法を構築する…つまり、魔法を発動するのに最も重要な、魔法陣を完全構築する為の手順なのだ。それを端折る、ということは…自分の魔力のみで魔法陣を作り、自分の魔力のみで世界に影響を与えなければならないという事。多大な情報量と魔力量で魔法陣を一から作る。そうする事でやっと世界に干渉し、世界がそれを特定の魔法だと認識し、特定の魔法を放てる…という感じだな。


 …つまり、いくらアイツの頭が良いとは雖も、キャパシティに限界が来るのは自明の理。そうなる前に、止めなければならない。


 …だが。


「〝冰勠焔繞(ひょうろくえんじょう)〟ッ!〝永魔天粱(えいまてんりょう)〟ッ!〝邪穿斂詠(じゃせんれんえい)〟ッ!」


 ──近付けない。


 これ程高位の錬魔法を無詠唱でバンバン放たれると、近付く事すらままならない。というより、アイツの魔力量が半端じゃない。第五段階程度の錬魔法だとほぼ消費が無いに等しいとかとんでもないぞ、アイツ…!


「…ッ、なら…」


 …この魔法でしか、近付けない。


「刹那の瞬きで、我は光と成る──」

「〝暗弦裂穹刹薙あんげんれっきゅうせつてい〟ッ!」


 詠唱中に、アルスの闇属性の矢が大量に飛んでくる。避ける隙間が少なく、何本か掠ってしまう。


「ぐっ…!?」


 …その内一本は、俺の右脚に刺さった。目を閉じたくなるような激痛を脳が理解し、詠唱が一瞬止まる。


 …だが。止める訳には行かない…!


「光脈を伝い──」

「〝楼弄滅綻溺ろうろうめったんじょう〟ッ!」


 …今度は超広範囲攻撃…というか、フィールドを作る攻撃。エリア内なら攻撃全てが俺を殺しに来るだろう。


 …光線、斬撃、衝撃波。至る所から俺という一点に向かって、その全てが向かってくる。


 …あと少し、あと少しだけ耐えれば…それで。


「ッ、望むべき場へ、導け…!」

「無為に刈り取れ!〝聖奇爆廻死蔽しょうきばくかいしへい〟ッ!!」


 …詠唱は、完了した。後は、宣言のみ。


 …だが、ここで問題がある。


(…〝聖奇爆廻死蔽〟を使われた…!)


 第二十一段階〝滅光〟属性魔法〝聖奇爆廻死蔽〟…使われるだけで相当マズい魔法だ。


 アルスの拳から〝滅光〟属性魔力の奔流が漂っている。


 …アレに触れれば、それこそ。


 だが消費魔力量も馬鹿げている。これ以上やれば、アルスの魔力も尽き、最悪死に至る。


 …そう、ならない為にも。


 ──ここで、止める。


「──〝瞬讃〟ッ!」


 …一瞬で、アルスの懐…アルスの虚を衝く位置へと瞬間移動する。


「ッ!?」


 …アルスは一瞬、硬直した。


 …大体、人の〝予想外〟は決まっている。どの場面でどんな事をすれば、ソイツにとって〝予想外〟となるのか…俺は、それを知っている。


 …だからこその、この位置。同じ懐でも、その瞬間に完全に硬直する位置が、此処だ。


(──普通に完全詠唱をしていたら間に合わない…ここは…)


 ──周囲の人間は、俺が完全詠唱をしなければいけない、と。そう思っている。だが、それは何故だと思う?


 答えは単純、奴等は俺の知識量と魔力量が乏しく、脳の容量に直ぐに限界が来ると思っているからだ。


 だが…そもそも俺が完全詠唱しか扱えない理由はそこに無い。というか、俺は別に完全詠唱しか扱えない訳では無い。使おうと思えば、短縮詠唱だって無詠唱だって、無宣言だって扱える…それは、どんな魔導士でも共通の事だ。


 魔法の発動に最も必要な魔法陣を作る為の知識量…それが、魔法を放つ必要条件。完全詠唱でも短縮詠唱でも、無詠唱でも無宣言でもそれは変わらない。完全詠唱から無宣言に変わったからと言って、知識量と魔力量以外に必要なものは増えはしない…多少影響があるのは、熟練度くらいだ。だがそれも絶対に必要と言う訳では無い。


 …つまり、俺が〝完全詠唱しか扱えない〟というのは、実質的に有り得ない。


 …だったら、何故俺はそれが所以で〝無能〟と呼ばれているのか。無詠唱にも無宣言にも、センスは必要無い、だったら何故使えないのか。それは簡単だ。


 ──俺が、そうしなければならない理由があるからだ。


「──ふっ…!!」


 俺はアルスに向けて手を伸ばす。


 …この状況では、完全詠唱では速度不足。アルスの〝聖奇爆廻死蔽〟を纏った手が触れた瞬間、触れた部分の俺の身体は壊死する。それだけ、殺傷力の高い魔法。


 …だから、今、ここで。コイツより、速く。魔法を発動する…!


 威力が低くて良い…!コイツが止まれば、それで良い…!


「──〝幻の矢(ファントムアロー)〟…!」


 …そして、アルスの拳も動く。


 ………………そして。


「──は〜いストップ、これ以上は殺し合いだよ」


 …俺が放った矢と、アルスの〝聖奇爆廻死蔽〟を纏った拳…それらは。


 ──セイン会長の手によって、止められた。

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