15話 有数の強者
──ザバァッ!!
「幾重にも成る漸の刃よ、眼前の雑兵等を斬り刻め…〝漸増刃〟」
──シュババババババッ!!
一個体は大した事は無い。それは当然だ。【顕現鏡】が出せる個体の強さには制限がある。更に、強い個体の顕現にはそれなりの時間を要する。
【顕現鏡】が出せる強めの魔物は…限界でも【殺猫】や属性系の【ファントム】だろうか。それ以外ははっきり言うと無象共…一般人のパンチだけで殺せるような雑魚だ。
「ふっ…!」
高出力で練り上げた魔力をナイフに纏い、魔導技術〝飛〟で飛ばす。遠隔で魔物を倒す為だ。横薙ぎで振るえば一掃出来る。
「流石ね…もうかなり前線を押し上げてる」
「〝最下級〟たるもの…技術力は磨き上げているつもりだ」
と言っても、階級の枠組みは超えられないと思うけどな。魔導技術は万能ではあるが、威力は魔法に比べると劣る。〝写〟や〝乖〟は例外だが。
「にしても…流石に多い」
恐らく、倒したらすぐに増えて、そこまで数が減っていない。面倒だな。
「任せて。〝爆炎〟」
──ドゴォォォォオン!!
カルミアの第四段階炎属性魔法〝爆炎〟が炸裂。広範囲爆発によって押し寄せる魔物の大群に穴が出来た。
「神罰の代行者は此処に在り。邪は聖に討たれよ──〝叫籟〟」
第四段階光属性魔法〝叫籟〟。今の俺が使うべきはこの魔法だな。魔物相手なら絶大な威力を持った波を飛ばす魔法。範囲は消費した魔力で変化する。
俺は魔力量は少し多めだから、それなりの範囲の魔物を一掃出来るな。
「〝広域波長〟!」
「…お、ナイスだ、リーシャ」
〝広域波長〟。魔法の効果範囲を高める第三段階無属性魔法だ。しかもリーシャは俺が作った杖を持っている為、光属性魔力も少量付与されている…この魔法は無属性ではなく、微弱な〝聖光〟属性へと変化した…故に、その効果は絶大だ。
「「「「「グルオォアアアア!?!?!?」」」」」
──半径75m圏内の魔物が、全て消滅した。
「へえ…やるじゃない」
正直、俺も感心した。俺が〝叫籟〟に消費した魔力量だと、半径20mあるかないかだからな…どれだけ支援が凄いか、良く分かる。
「…魔物の発生源から、あとどのくらいだ?」
俺はカルミアにそう訊ねる。常に〝探知〟を使っているカルミアの探知能力は、恐らく相当なものだ。もしかしたら直ぐに分かるかもしれない。
「そうね…あと、500mくらい…」
「500m…!?そんなに遠いの…!?」
「この学園の敷地の広さよ。学園内に【顕現鏡】が現れたと言われても、近くに居るとは限らないわ」
「だがどうするか…このままだと増え続けるぞ」
「──なら、こっちに攻め込まれないようにしてあげよう」
……。
背後を振り返る。
「ゼレン先輩ですか…何しに?」
「勿論、加勢にだよ。まだまだ発展途上の後輩が頑張っているからね」
「レイド君…この人は?」
「おっと失敬。俺はゼレン・シルスター。2年部、君達の先輩」
「…それで、ゼレン先輩。攻め込まれないようにって、どういう事ですか」
さっきから話してばかりで、普通に攻め込まれている。本当に大丈夫か?
「大丈夫大丈夫。寧ろ押し返すよ…〝魔俎結界〟」
一瞬心を読まれたと思った──その瞬間。
前方に、巨大な板状の結界が構築された。
「…へえ」
それには、流石の俺も感嘆の色を表した。
…まさか、魔属性とはな。セリア先輩と、その友達のシアトルって魔導士しか、この学園で扱える奴は居ないと決めつけていたが…まさかこんなにも、扱える奴が居るとは。
「…それじゃあ、ゆっくりと潰すよ」
ゼレン先輩は更に結界を出現させ、それを直方体の様な形にする。そして、その空間内に閉じ込められた魔物達を──。
「──閉じろ」
ブシュゥッ!!
…いとも簡単に、圧殺した。
「す、凄い…たった一つの魔法で…数万の魔物を…」
…あの魔法は、本来防御魔法だった筈だ。それを攻撃へと応用したのか。
「〝強制境界〟」
…そして、ゼレン先輩は俺達に球状の結界を展開した。
「それは干渉不可能の結界だよ。一分しか発動出来ないけど、その間は魔物を無視して突っ込める」
全く…特級がなんて高位の魔法を使ってるんだ…。
「それじゃあ、後は宜しく」
「ええ!?一緒に来ないの!?」
──カルミアの言葉を無視して、ゼレン先輩は去っていった。
…多分気分屋だな、あの人。
「まあいい…結界がある内に、進むぞ」
俺はそう二人に合図し、魔物の中へと突っ切って行くのだった。突っ切っている途中、結界に触れた魔物がピョンピョン跳ねて面白かったのは此処だけの話だ。
──そして、結界が解除される。
「〝罰雷〟」
カルミアが魔法を放ち、周囲の安全を確保。魔物の発生源まで、後少し。
「──!見えたわ!」
「──!居た…!」
カルミアとリーシャが、何かを発見したようだ。
俺がそちらを見ると…謎の三面鏡が、壁に張り付けられてあった。
「…【顕現鏡】…か」
アレこそが【顕現鏡】。恐ろしい能力【神顕怪群】を持った鏡の魔物。
「ボ…ヴ…ロ゛…」
何を言ってるのかは分からない…が、焦っているのだろうか。
「銀の弾丸よ、標的を見据え致命の撃となれ…〝致命弾〟」
第六段階光属性魔法〝致命弾〟…多分俺が今扱える最大限の魔法。デフォルトで貫通能力を得ている魔法だ。
──【顕現鏡】の前に居た魔物達は、全て弾丸に貫かれ消滅する…。
「ニャーーオ!!」
──バシン!
「…【殺猫】か」
俺の弾丸は、【殺猫】に弾かれた。
「ニャオォ…」
…【殺猫】が…二体か。
「リーシャ、カルミア。この二体はそっちで対処してくれ」
「分かった」
「うん…けど、レイド君はどうするの?」
「俺は少し…やる事がある」
俺はナイフを構え…そして。
「──!?」
──ドガアッ!!
…俺が何かしようとする前に、何者かに吹き飛ばされた。
俺は衝撃で後退る…中々の衝撃だ。
「ヴォルルルッ…」
「…まさか、コイツか…」
俺は目の前に立つ二足歩行の魔物を見つめる。
──コイツは、おかしいだろ。
「なんで【顕現鏡】から…【氷の魔人】が出てくるんだよ…」
【氷の魔人】。危険度は絶級の中堅クラス。危険度特級の上位クラスの【殺猫】をも凌ぐ魔物で、危険度以上に厄介だ。
魔人の特徴はいくつかある。一つ目は〝何かしらの属性を得意としている事〟。今回の場合は氷だ。絶対零度から摂氏0度までの温度を自在に操る魔物だ。普通に考えて、先ず勝ち目は無い。超低温を操れば俺達が一瞬で氷漬けになるからだ。
そして二つ目は知能の有無。普通、魔物が知能を有する事はほぼ無い。だが、魔人だけは知能を得る事が出来る。と言っても会話が出来るレベルではない。あくまで戦術を構築する程度の知能しか有していない為、連携力は無い。
「ヴォルッ…ヴォオオオ!!」
「くっ…」
途轍も無い冷気を纏った氷が俺を襲う。俺はその冷気を魔力で防ぎながら避ける。
因みに外気温は魔力操作で全身を隙間無く覆えば防げる。かなり難しい技術を要するが、使えるので問題は無い。
「〝斬〟」
取り敢えず適当に名前をつけた。ナイフから魔力の斬撃波を飛ばす技だ。魔法では無いので、詠唱も宣言も要らないが…技名くらいはつけておいて良いだろう。
「ヴォルッ…!」
魔人は前方に氷を生成してその斬撃波を防ぐ。
「……」
アレを使う訳にもいかない。使えば質問責めに遭う事は間違い無い。
…だったら。
「──借りるよ」
懐から、もう一本のナイフを取り出す。漆黒の刃が特徴的だ。
「…悪いが、コレはこのナイフとは違うぞ?」
俺はそのナイフに魔力を纏わせずに突撃する。恐らく魔人からしたら、〝馬鹿が飛び込んできた〟と思っている筈だ。
「ヴォル!!」
高質量の氷を生成し、俺にぶつけてこようとする。
──だが。
「魔法が通用するとでも?」
俺がナイフを振るうと。
──その氷は、消えた。
「ヴォ!?」
「隙だらけだ…!」
──ザシュッ!!
…このナイフは特製だ。魔力を分散させ、魔法を殺す…そんな、馬鹿げた武器。
…と言っても、失敗作らしいが。
「ヴォルル、ヴォォオオオ!!!」
「ガオオオオオ!!」
「っ…」
周囲にも魔物が集まってきた…最早猶予は無い。魔法の詠唱すら、出来そうに無い。
「…仕方無い…〝爆連弾〟」
ドドドドドドドドォッ!!!!
無詠唱で魔法を発動し…更にナイフで【氷の魔人】を滅多刺しにする。
「ヴォ…ォオ…!」
「お得意の氷も爆発の熱で無力化されてちゃ、どうしようもないよな」
…そして、【氷の魔人】は絶命した。色々計算外はあったが、なんとかなった。
…だが、問題は【顕現鏡】…これは変わらない。焦ったのか【顕現鏡】は無作為に魔物をバンバンと出している。人混みならぬ魔物混みで流されそうだ。
「くっ…」
圧し潰れそうになったその時…。
「──〝闇焼夷〟」
そんな声と共に、俺に掛かる重圧が弱まった。
「ッ!」
俺はそれを瞬時に感じ取って、身体能力を駆使して魔物を振り払い、声の方向へと跳ぶ。
「…そっちは片付いたか、リーシャ、カルミア」
「うん…レイド君、大丈夫だった?」
「問題無いが…これは近付けないぞ」
「私も…これ以上は無理ね」
…普通に考えて、これだけの数を一掃出来るのは不可能だ。これだけの数、どうにかしろと言う方が過酷だ。
「…〝炎帝〟」
カルミアが魔法を放ってくれているから拮抗しているが…それがいつまで持つか。
こっちには魔力量の制限があるのに対し、【顕現鏡】の生成量には制限が無い。それが厄介だ。この世界から魔物が消えない原因でもある。
「…流石に、もう…抑えられないわね…」
カルミアも大分キツそうだ…【殺猫】二体を相手にした後だから、魔力があまり残っていないのだろう。
「ど、どうしたら──」
「──〝何か起これ!〟ッ!!」
…突如、そんな声が轟き…そして。
「え!?」
「は?」
「えぇ…」
俺達三人はきょとんとした表情を浮かべた。
──目の前の魔物が全員、消えたからだ。
出鱈目過ぎる…最早出鱈目なんて、そんな言葉では言い表せない程に、出鱈目だった。
「やっほ〜レイド君〜♪助けに来たよ〜♪」
「…セリア先輩、貴方ですか…」
「セリア先輩…この魔法、セリア先輩の…!?」
「姉様…相変わらずやる事がえげつないわね…」
どうやらこの惨状はセリア先輩の仕業だったらしい…それよりも。
「なんですかその適当に考えた魔法名は」
「ん〜?独自開発魔法だけど?」
「もう少しまともな名前は?」
「思い付かない!」
「はぁ…」
訊いた俺が悪かったな。この人馬鹿そうだからな…理解しようとしない方が良い。
「…姉様さっきまで何してたの?」
「ちょっとスイーツ食べ──じゃなくて、向こう側の魔物を殲滅に──」
──ベシィン!!
「いったぁ〜!?」
「緊急事態の時に何やってるの!?馬鹿なの!?」
「うぅ…何も叩かなくたって…」
カルミアがセリア先輩の頭を強く叩いて、説教し始めた…キレてるカルミアを見るのは初めてかもな。どうやらセリア先輩もカルミアには強く出られないらしい。
「はぁ…姉様、仮にも最強の看板背負ってるんだからさっさと解決して」
「〝仮〟じゃないもん!正真正銘最強だもん!」
「ちょ、ちょっと…今喧嘩してる場合じゃ…」
リーシャ、頑張れ。俺にはどうしようも出来ない。是非とも玉砕覚悟で止めてくれ。
…そして、ちょっと経った後。なんとか喧嘩は終わり…そして。
「はぁ…じゃあちゃっちゃと終わらせるよ!〝滅光砲〟」
──ドカァアアアアン!!
「ええええええ!?」
「…馬鹿だな、やっぱり…」
有り得ない程の極太レーザーが魔物を一掃。そして【顕現鏡】も吹き飛ばしてしまった。
多分これも独自開発魔法だろうな。魔法名聞いた事無かったし。そして多分アレは〝滅光〟属性だ。本当に規模が違い過ぎる…。
「ふぅ、掃除完了!!」
「ちょっと姉様!?これ街の被害大丈夫!?」
「バリアを張ったので大丈夫です〜!」
「ほっ…なら良かった…」
「良くないよ…!?」
リーシャの言う通り良くはない。この学園の施設全部抉られてるぞ…。
「じゃあ地面とか建物は〜…〝快楽ノ光〟!」
セリア先輩がそう唱えると、学園全体が光で包まれ…そして。
「戻った…のか…?」
学園内の設備は全て元に戻っていた。
…本当出鱈目が過ぎる…これが〝神聖級〟の魔導士の力か…。
「あ〜…遅かったか…」
…生徒会メンバーも到着したようなのだが…全然遅かったな。
「…セリアの仕業…」
「はぁ…セリア…また君は…」
…どうやらいつもの事…らしいな。この言動からして、規格外な魔法ばっかり使って、周囲の建造物を打ち壊しまくっているらしい。
「ごめんって!これでも出来るだけ破壊しないように配慮はしてるんだよ〜?」
「嘘。セリアがそんな事まで気が回るなんて有り得ない」
「ちょっとスーちゃん!?それは流石に酷くないかな!?」
「何を言ってる…セリア、君が毎度こうやって破壊行動をしてるから、私とスフィーが始末書を書かなければならないんだ…」
「でも修復してるから良いじゃん!」
「良くない…!」
…終わったとは言え、一応事件があったんだがな…ここまで平和な会話ができるのか。
…それと、セリア先輩は生徒会メンバーには自然体なんだな。それはそれでどうかと思うが。
「ほら生徒会の皆!後輩君達に挨拶したらどう?」
セリア先輩が生徒会の魔導士達に挨拶を促す。
…生徒会という組織にこうやって我を貫き通せるのは、此処だとこの人しか居ないだろう。他だと萎縮してしまうに決まっているな。
「2年部生徒会書記、天級魔導士で生徒会の一番槍、現在急成長中のハル・ヴァロールだ!」
「ハル、それ自分で言うかな?」
「おいネム!?そこはかっこよく自己紹介させてくれよ!?」
ハル先輩…か。確かに凄い実力が感じられる。身体から溢れる魔力の質が尋常じゃない。あれ程までに洗練された魔力を有している人はどのくらい居るだろうか。
魔力が洗練されていれば、錬魔力を生成しやすい他に、魔法使用時に魔力が速度や威力に変換されやすい。洗練された第一段階魔法が並の第三段階魔法よりも優れる時もあるくらいだ。
ハル先輩の場合…無詠唱第一段階魔法で並の完全詠唱第四段階魔法に勝てそうなくらいだ。つまりそれ程、ハル先輩の能力が優れていると言う事でもある。
…これだけ魔力が優れているなら、一見分不相応に見える段階の魔法でも案外扱えるだろう。魔法の行使に必要なのは陣の構築…それと魔力。魔法が洗練されているならば、それだけ少ない魔力量で高位の魔法を扱える。そして錬魔力による錬魔法の威力も同様、爆発的に向上する。魔力の洗練で錬魔力の生成量も増えているから、本当の錬魔法の威力を発揮出来るのだ。
…これ程の魔力精度を以てして、生徒会役員の中では〝一番槍〟程度の称号。一番槍が決して弱いと言う訳じゃ無いが、それでも切り込み要員として軽く使われる程。生徒会の恐ろしさが良く分かる。
「私は2年部生徒会会計、天級魔導士で作製の天才のネム・パラドールね」
「お前だって自分で言ったら恥ずかしい事言ってるじゃねえか!」
「っな…そ、そんな事無いでしょ!?」
…ネム先輩とハル先輩は仲が宜しいようで。
作製のスペシャリストか…基本的に魔導具の作製とかだろうか。そう言えば、先の魔法祭の出し物で何か魔導具を発表していたな。1-Bと遜色無い程の歓声だったとかなんとか。
「はぁ、まあいいや。それより──」
「ん?」
ネム先輩が俺の側まで駆け寄ってくる。何か変な事したか?と訝しんでいると…。
突如、ネム先輩は俺の手を握ってきた。
「…え〜っと…?」
「やっぱり良い手だね!流石1-Bの魔導具作製者!」
「…知ってるんですか?」
「勿論!私の審美眼を舐めないでよね!作製者やその作製が素人か玄人かによるものなんて、見ただけで直ぐ判るんだから!」
あまり広めてほしくは無いんだがな…一応俺は〝無能〟という名で通っているから、こんな技術があると大々的に知られたら、色々と面倒な事になる。今実際に面倒になっているように。
「ちょちょちょっとネムちゃん!?私のレイド君だよ!?」
「違いますよ!?」
2年部は勘違いをする魔導士が多いのだろうか。様々な事に対して、間違った視点や間違った答えを信じているような傾向がある。
「ねえねえ後輩君!私の許で一緒に魔導具作製しない?」
「え?」
ネム先輩から、そんな提案をされた。
「私から見ても筋良さそうだし、その子の杖を作ったっていう実績持ちだし…私と一緒に魔導具作製したら、信じられないくらいに凄い魔導具が出来そうじゃない?」
「いや、あの〜…」
「そ・れ・に!私としても後輩君が共同の作製者だったら嬉しいな〜…なんてね?」
「揶揄わないで下さい…はぁ」
揶揄われるのは癪に障るが…まあ、先輩だから強く言えないな。強く言った暁にはボコボコにされる事は間違いないだろう。
「ネムちゃん!早く離れて〜!」
…そしてセリア先輩がネム先輩を引き剥がしたところで、生徒会役員の自己紹介は再開した。
「2年部生徒会書記。帝級魔導士のスフィー・アルテミス」
「………え?スーちゃんそれだけ?」
「?それ以外に何か言う事ある…?」
…スフィー先輩はどうやら無駄を嫌いそうな人だな。
にしても…どこか、ティアと似たような感じがする。あくまで漂う雰囲気が、だが。
…どこか侮れない、そんな雰囲気。まあこの人も生徒会の役員だから、侮る事なんて無いが。
「いやいや、何かインパクトを残す言葉が欲しいの!」
「う〜ん…そんなの要る?」
「要る要る!生徒会の沽券に関わる一大事だよ!?」
絶対にそんな事は無いのだが…スフィー先輩に何か言わせたいのだろうか。生徒会の沽券に関わると言っていたが…一応ちゃんとした自己紹介だったしな。
「え〜っと…リリアに強制的に生徒会候補者に入れられて、その所為で現在激務に──」
「よしスフィー、君は黙っていろ」
リリア副会長は大変ご立腹の様子で話に入ってきた。まあ多分黒歴史じみた話だろうから、掘り返されると恥ずかしいのだろう。
…スフィー先輩とリリア副会長はどうやらかなり付き合いが長いようだ。こんな事を言い合える仲だからな。
「…2年部生徒会副会長のリリア・カルリスタだ。帝級魔導士、基本的に事務の統括を任されている。以後、見知っておけ」
「リリちゃん頭良いからね〜。だから副会長なのに雑務を任されるんだよね〜」
「…セリア…君も黙っていろ」
…リリア副会長は苦労人といったところだろうか。周りから迷惑を被りつつ、頑張っている、なんというか凄い人だ。
「リリア、いつも私に頼んでくるのに…統括なんて…」
「ッ、名目上はそうだろう…!」
「でも仕事は半分くらいこっちが貰ってる…流石に責任者を名乗るのは変」
「…ほぅ?スフィー、良い度胸じゃないか」
…なーんか喧嘩が始まりそうだな。まあ喧嘩の理由は可愛いものだが…それでもここで喧嘩はまずい。
「まあまあ、落ち着いて。僕の自己紹介がまだ終わってないだろう?」
…セイン会長か。【盈虧の魔室】で会って以来だな。
「…僕は三年部で生徒会長…帝級魔導士で生徒会の統率と啓発を担当している、セイン・アフトクラトルだ」
…改めて見ると、セイン会長は別格だな…明らかに、この生徒会メンバーの中でも頭一つ抜けている。
ハル先輩より洗練された魔力を有し、スフィー先輩よりも異質な気配を漂わせ、恐らくネム先輩と同等に作製技術があり、リリア副会長と同等に頭が良い。
更に冷静沈着、温和な性格…戦闘において、それはかなりの余裕を生む。魔法の詠唱は現在の冷静さによって難易度が比例する。セイン会長の冷静さは魔物相手でも魔導士相手でも、かなりのアドバンテージを取る事が出来る。更に心が穏やかであれば、魔法が身体に馴染む。魔法が定着しやすいから、扱える魔法数でも優位に立てる。
まさに生徒会長の名に相応しい魔導士。あれだけの魔導士は、そうそう居ない。単純な魔力錬度なら…セリア先輩をも超えているかもしれない。〝神聖級〟に最も近い魔導士とも言えるだろう。
「…さて。セリアが滅茶苦茶にしてくれたけど直してくれたから、魔法祭は再開出来そうだね」
「…あんな事があって、まだ続けるんですか?」
俺は魔法祭をまだ続ける気でいるセイン会長にそう訊ねる。
「…僕としてはどちらでも良いけど…この学園の一部の魔導士は、まだ魔法祭を楽しみたいらしいしね…そこのセリアとか」
「あー…成程」
まあ楽しみたいのはそうだろう。この人の場合、こんな状況でもスイーツ食ってたくらいだからな。力があるからこそ、いざという時は対応できるから、魔法祭を続けたいのだろう。
「セリアは空気を読めないからな…この状況でここまで肝が据わっているのはセリアくらいだ」
「…リリちゃん、それ悪口だよね」
「そうだ」
「酷い!!」
…リリア副会長にはセリア先輩の腹の内が探れないんだな。仲間ですねリリア副会長。
「…まあまあ。一先ず魔法祭の再会の連絡を入れるから、少し待っててくれ」
…そうして、セイン会長が再会の合図を入れるまで、2年部の魔導士達は騒がしい会話を繰り広げるのだった。
…1年部の俺達では、中々この空気についていけなかった。




