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Secret Sorcerer  作者: RENTO
第一幕《刻が満ちるヴィンディクタ》
14/22

14話 惨劇

 …魔法祭一日目の大体の日程が終了。いよいよ大詰めといったところ。辺りもすっかり暗くなっていて、だけど盛り上がって来た。


《さて、本日最後のイベントです。最後のイベントは──》


 だがぶっちゃけ、俺には関係のない事だ。何故なら、このイベントは〝無能〟である俺とは全く以て無縁だから。


 ──その、イベントの名は。


《〝魔法決闘〟です》


 ──〝魔法決闘〟。その名の通り、決闘を行う。


 俺が以前決闘したヘルメス戦も決闘ではあるが…魔法決闘は、そんな普通の決闘とは訳が違う。


《魔法決闘では、階級が低い魔導士が、階級が高い魔導士に決闘申請をし、階級が高い魔導士がそれを承諾すれば成立します。もしも階級が低い魔導士が勝利した場合…両者の階級を入れ替えます。階級が高い魔導士が勝利した場合、学園の〝第二校章〟とでも言うべきアイテム…〝保護バッジ〟を一度のみプレゼントします》


 …保護バッジとは、バッジ…つまり階級を保護するためのバッジだ。降格した場合、一度のみ階級を保護できる。逆に、昇格を無しにする事も出来るが…普通そんな事する奴は居ない。


 …何故、このイベントに俺が無縁なのか。それはルールにある。


 まず、俺以外の〝最下級〟はこの学園に存在しない。あくまで俺の調べによるものだが、間違い無いだろう。そして、俺はそもそも決闘申請はしない。面倒だからだ。自分より上の立場の魔導士側から申請できないのだから、俺は誰とも決闘をする事は無いだろう。


 …そして、俺と決闘した相手が万が一負けた場合。ルールに則り、階級を交換する。誰も〝最下級〟になりたいとは思わないだろう。まあそもそも最下級に負けるとは思っていないかもしれないが。


 …それでも、負けた時のリスクを鑑みると、多少は警戒する。最下級に落ちれば、それこそ轍鮒の急だからだ。


《──それでは、是非とも楽しんでください》


 アナウンスが終了した瞬間、周囲が騒がしくなる。相当な喧騒に、耳を塞ぎたくなる。どうやら、このイベントは、大多数の魔導士が望んでいたものらしい。


 まあ、簡単に早く、階級を上げられるのにうってつけだからな。


「…まあ、問題にならない事を祈っておくか。」











[視点変更:カルミア・ライミール]


「ぐわぁっ…!?」

《勝者、カルミア・ライミール》


 数分前に、〝上級〟の魔導士が私に決闘を申し込んできた。保護バッジは貰っておいて損はないので取り敢えずその決闘を承諾して、今に至る。


 顕現した剣で相手のリズムを直ぐに崩し、立ち上がれない程度の蹴りを腹部に叩き込んだ。意外に相手の膂力が強かったので、魔力で無理矢理に押し切らせて貰った。


「おっ、と」


 突如、眼前に保護バッジが現れた。〝転移(トランス)〟だろうか。私でも扱うのが難しい魔法だ。流石に、この学園の魔法の技術には目を瞠るものがあるわね。


 とにかく、大事なのは保護バッジを手に入れたという事。私自身は階級に依存はしていないが…もしかしたら何かの時に必要となるかもしれない。そもそも、この保護バッジの材質が良いわけだし…加工して様々な事に使えそうね。


「ふぅ…私もそろそろ屋台巡りでもしようかしら」


 保護バッジを手に入れた以上、もう得られる物は無い。まあ階級が上の先輩方に決闘を申し込んでも良いのだけれど…今は良いかしらね。


「──初めまして、だろうか。カルミア・ライミール」


 …と、思ったのだけど。次の刺客かしら?


「…貴方は?」

「…成程。貴様では私など眼中に無い…か。まあいい。1-Aのローズ・シャルネータだ」

「…ああ、あの〝魔法庫〟で噂の…」

「二つ名は知っているか…〝焔〟の貴様とは、階級など抜きにして、一度闘ってみたかった」


 ローズは私に向けて小型の杖を突き付ける。


「私と決闘しろ。カルミア・ライミール」

(──困ったわね)


 階級は気にしていないといったが…それでも負けたいわけじゃない。負けず嫌いだしね。


 ただ…〝魔法庫〟とまで称される彼女は、魔法のバリエーションが私とは桁違い。私の魔法が、彼女に届くかどうか…。


 …ただ、ここで退くのも。


 ──私の趣味じゃ、無いのよね。


「──勿論。受けて立つわ」

「フッ…なら良い」


 そうして、始まろうとしていた。


 学年内トップクラスの実力者二人による、恐らく今年の魔法決闘一の闘いが。











[視点変更:レイド]


「…カルミアとローズ…か」


 ローズについてはよく知らないが、周囲の情報を盗み聞きする限り、実力者である事は容易に想像がつく。


 …カルミアの実力に関しては、まだまだ未知数だ。【泥黎の大森林】の時にも、それらしい実力は出していなかったようにも見えた。


 お互いがお互い、未知。どう転ぶかも分からない、そんな決闘だ。


「…だけどそれよりも」


 なんか、嫌な予感がするんだよな…名状し難い、何か。


「…まあ、一先ずはこの試合の行く末を見守るしかないか」











[視点変更:カルミア・ライミール]


《まもなく、決闘が始まります》


 アナウンスが流れ、私達は身構える。お互いが目を見据え、どう動くかの予想を立てる。


「…」

「…」


《カルミア・ライミール対ローズ・シャルネータ──》


 …そして、少しの溜めの後。


《──試合、開始》


 その言葉を聞き終えた瞬間、私は紡いでいた。


「〝魔炎槍(メイズピルド)〟」


 〝写〟で複製した〝魔炎槍〟四つを即座に発射する。第一段階〝死炎〟属性の魔法だ。この魔術決闘においては、錬魔力の使用は禁止されていない。存分に錬魔法を扱える。


「──〝魔炎槍〟」


 ──と。ローズも〝魔炎槍〟を唱えた。同じく、〝写〟を用いて。


 私とローズの魔法はぶつかりあい…そして…相殺した。


「…へぇ」


 私は関心する。今の精度──的確に魔法を相殺する技術。それだけで、一筋縄では行かない魔導士だという事が見て取れる。


「…ふむ。存外難しいな…」


 ローズは首を捻っている。どうやら、思い通りには行かなかったような感じだ。


 …あれだけの技術力を持っているなら、自身を持っても良いと思うが…。


「〝光穿(こうせん)〟」


 ローズが第五段階光属性魔法の〝光穿〟を放つ。貫通力が高い魔法だ、防御障壁を展開しても突破される可能性が高い。強度を高めれば止められない事も無いが…徒に魔力を消費するだけね。


「〝瞬讃〟」


 〝瞬讃〟による短距離の移動で回避。ローズの背後に回り込む。


 ──そして、ローズに向かって全力で突進する…!


「〝迷宮の檻(ラビリンスケージ)〟」


 ──私の周りを、檻が囲った。


「…!?」

「私に死角は存在しないと思え。教訓だ」

(くっ、油断した…!)


 遅れを取ったつもりはなかった…いや、多分実際遅れを取ってはいなかった。


 どの技を使えばどのように動くか。ローズはそれを瞬時に計算し実行していた。つまり…ローズは一瞬で私を誘導していた。遅れを取ったというよりは、術中に嵌っていたのだ。


「──だが貴様であればこの程度の檻、直ぐに抜け出せるだろう?さっさと抜け出せ」

「へえ、随分私を評価してくれるじゃない?」


 どうやら私は、ローズからかなり高い評価を貰っているようだ。


「異名をつけられた同士だからな。警戒と同時に期待もしている」

「それは光栄──ねっ!!」


 身体の前面に魔力操作でシールド状の魔力を展開し、檻を強引に破る。


「…!」


 予想とは違う檻の破り方をしたのを警戒してか、ローズは距離を置く。


(──深追いしすぎるとまずいわね)


 そう考えた私も距離を詰めるのを中断する。試合開始直前の時のように、睨み合う構図になってしまった。


「まさか魔法も使わずに突破してくるとは…」

「あら、魔力操作には少し自信があるのよ」


 ──ただ、このままじゃ埒が明かないわね。


 お互いに攻撃は通用しない…攻撃を与える事が出来ない。このまま普通にやっても、負ける事も勝つ事も無い。


「不思議ね…」


 私はローズの胸に着けているバッジを見ながら言う。


「それだけの実力を持っていながら、〝特級〟だなんて」


 彼女のバッジの色は紫。だがこれだけの手札、判断力、計算力。絶級はおろか、下手したら天級まであるかもしれない。


 少なくとも知識量は私の数段上。応用力も私より上。恐らく単純な力なら私に分があるが…それだけで相手を捻じ伏せることが出来る程、魔導士というのは甘くない。


「いや、これが適正評価だ。私にも短所があるんだ。複数の項目において貴様よりも優れているであろう私も、それを補い切れない程の致命的な短所がな」


 見た感じ、そんな弱点などないように見えるが…本人が言うならあるのだろう。


「随分と余裕そうだけどね?自分から弱点があるって明言して」

「言おうが言わまいが変わらない。その弱点がどんなものなのかもな…これは一朝一夕で修正出来ないからな。直ぐに露呈する。特に貴様のような聡い魔導士はな」

「…そう」


 その言葉を聴き終えて、私は思考する。


 ──今までの行動を踏まえ、ローズの弱点を見つけるのよ。


「…来ないのならこちらから行くぞ」


 ローズは地を蹴って接近してくる。それに一瞬反応が遅れ、彼女の振るった杖が私の頬を掠めた。


「ッ…!」


 魔法だけでなく、白兵戦もできるらしい。どれだけ引き出しあるのよ…。


「〝陽吹炎(ようすいえん)〟」


 私は魔導技術〝(しょう)〟で強化された魔法を放つ。といっても、〝昇〟は魔法の威力をほんの少し高める程度。別に実用的ではない。


 その魔法を、ローズは跳躍して回避。着地と同時にまたこちらに接近してくる。


「…」


 恐らく、ローズは弱点を隠そうとしている。私なら直ぐに気付けると言うのだから、その弱点が見つからないように慎重になっている筈だ。


「…だったら」


 〝弱点を突いて倒す〟というセオリーからは外れてしまうけど…久し振りに使ってみようかしらね。


「〝顕現(フェスト)〟」


 剣を顕現させ、ローズの杖を受け止める。


 …因みにこの魔法決闘では、魔法による武器生成は認められている。通常の決闘の〝一騎打ち〟とは違うルールね。


 流石に剣と杖の衝突では相性が悪いのを瞬時に悟ったのか、ローズは距離を取った。


「…すぅ〜…はぁ〜…」


 深呼吸をして…私は〝ソレ〟の注意事項を頭に浮かべる。


(…最大3分。それ以上は死、もしくは後遺症の可能性がある…)


 この魔法は制約が多過ぎる。まあ、それは当然なのだけど。


(途端の魔力の上昇に呑まれるのは絶対に駄目…姉様に心配掛けちゃうしね。あと──)


 私は最大の注意点を胸中で念押しする。


(…()()()()()()()())


 その瞬間…辺りの雰囲気が変わる。


「…!?」


 ローズもその異質さを察知して、身を強張らせる。


「な、なんだ…それは」


 私の周りに渦巻く炎属性魔力の奔流。


「…大丈夫。暴走はしない…」

「くっ…!〝水鏃(アクアアロー)〟!」


 ローズは何かマズいと感じ、魔法を放つ。


 ──だけど、それは無意味なのよ。


「──蒸発、した?」


 彼女の水属性魔法は、私の炎属性魔力によって蒸発した。


 …これは、普通有り得ない。魔力は魔法へと変化させる事で威力を発揮する。魔力操作は確かに万能だが、魔法程威力の高いものではないのだ。


 …だが、そんな魔力が魔法を殺した。


「…悪いわね、貴方が想像以上に強かったから──本気を出させてもらうわ」

「…!…そうか…」


 ローズは異次元の現象を見ても臆すること無く、再び構える。


「だが、負けるつもりはない。全力の貴様であろうと、食らいついてやる」

「…出来るものなら、やってみなさい?」


 …お互いの圧が高まる。そろそろ、この決闘も最終局面。


 …次の一手で、決着が──。


《緊急事態!緊急事態!学園内に【顕現鏡(けんげんきょう)】が出現!直ちに討伐に向かって下さい!》


「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」











[視点変更:レイド]


「…【顕現鏡】だと?」


 【顕現鏡】…個体値はともかく、危険度は最高クラス。それは奴の固有能力…【神顕怪群(しんけんかいぐん)】が関係している。


「…とにかく、試合を見ている場合じゃないな…風を纏いし波動、その微かなる自然の力で、自由を求む、〝風翔〟」


 俺は空を飛び、すっかり暗くなっていた学園内を見回す。因みにどうでもいいが、少し高く飛べるようになった。


 所々に学園の生徒が居るが…殆ど全員が、叫びながら走り回っている…多分、逃げているのだろう。


「…こりゃあ、とんでもないな」


 【神顕怪群】。それは怪奇の軍勢を続々と、際限なく出現させる、【顕現鏡】の恐るべき固有能力。


 今俺の前に映るのは、多種多様な魔物。


 稲麻竹葦。翼が生えている魔物も居れば、巨大な魔物も居る。


 ──もう既に、手遅れらしい。


「これだけ生み出されたら…」


 間違いなく、セリアル魔法学園は滅ぶ。


 今のセリアルに、これだけの数に対して優勢を築ける魔導士が居るか?


 …居ない、とは言えないが…多分、あの人信用出来ないんだよな…。


 …と、その時


「〝炎刃(えんじん)〟」


 ──俺の横を、炎の刃が通り過ぎた。


 その刃は遠くまで飛んでいき…遠方の魔物の何体かを斬り裂いた。


「…カルミアか」

「…馬鹿みたいな数ね」

「そうだな…リーシャは何処にいるか知ってるか?」

「位置は魔力で分かるわ…丁度この近くね。掴まって」


 カルミアから差し出された手を、直ぐに握る。


「──〝瞬讃〟」











「リーシャ!」

「あ、レイド君!カルミアちゃん!」


 リーシャの所まで〝瞬讃〟で移動したらしい。リーシャが俺達の許へ駆け寄ってくる。


「【顕現鏡】が出たって…急になんで…」

「分からないわ…でも、考えるより、先ずは魔物をどうにかしないと…」


 今現在も、魔物は増え続けている。【顕現鏡】の魔物の創成の間隔は…殆ど無いと言っていい。


 数秒考えている内に、数体魔物がつくられる。そんな状況で、考える暇などない。


「…取り敢えず、行くぞ。行かないと直ぐに攻め込まれる」


 俺はナイフを取り出す。刃が街灯に照らされギラリと光る。


「…そうね、さっさと行きましょう。リーシャ、貴方はその杖で支援に徹して」

「う、うん…というか、支援しか出来ないし…」


 …そんな事を言いながら、俺達は魔物の大群へ突っ込んでいくのだった。

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