13話 判決:半死刑
──そして、数時間後。
俺たちのクラス…1-Bの出し物の時間だ。
…と、言ってもだな。〝無能〟の俺が、クラスの出し物の準備に関与することは出来なかった。同じく〝落ちこぼれ〟と呼ばれいるリーシャもだ。この学園の汚点である下位魔導士。まず学園入学そのものが周囲から認められていない為、〝学園入学していないのにも拘わらず我が物顔で学園に居座っている〟とか思っている輩が大勢なのだ。
俺やリーシャも、正式な試験を受け、そして合格したのだ。一体誰が合格としたのかは分からないが、結果として俺もリーシャも入学を許可されている。
更に、俺はともかくリーシャは支援魔法の才だけで言えば化物だ。それに短期間だが関わりを持ってきて分かった。彼女は戦闘センスもそこそこある。
…まあ、戦闘ド素人の俺が何を言っているんだか、って話になるが。
《──続いては、一年部Bクラスの出し物です》
アナウンスが鳴り響き、その時を告げる。
…別に俺は何もしていないから顔を見せる道理はないのだが…どうやら全員参加らしい。学園側の規則に物申したいところだ。
大方、俺を出して笑い物にしようとしているのだろう。その手には乗りたくないが…規則を破った場合、厳正な処罰が鎮座していることだろう。
…なら、多少腫れ物のような扱いを受けた方が幾分かマシだ。俺の目的は学園の中にあるのだから。その過程で、学園でどのような扱いをされても耐えてやる。
…まあ一回死にかけたけどな。
《え〜、私たち一年部Bクラスが今回発表するのは──》
典型的な冒頭から入る、クラスメイト。そして出されたのは…。
《──この魔導具…〝光の杖〟です!》
「え?」
「…!」
(──なんだと?)
近くにいたリーシャの困惑や、カルミアの驚愕も確認出来た。
あの杖…見たことがある。いや見てない筈はない。だって、あの杖は。
《この魔導具はなんと…発動するだけで光属性魔力を魔法に付与できるのです!》
「え、えぇ…!?」
──やっぱり、そうか。
あの杖…俺がリーシャに与えた杖。
──いつの間に盗られていた?リーシャはそれに気づいていたか?
「過ぎ去った昔日、我が眼に像を映し賜え──〝幻視〟」
俺は小声で魔法を発動。〝幻視〟はその名の通り幻を視る魔法。過去も未来も、それは幻として映る。場所や時間の指定や操作さえしていれば、過去を映し出せるのだ。
…ただ、未来は出鱈目過ぎるけどな。流石に未来は見えないに等しい。
「──視えた」
そこに、映っていた。リーシャとすれ違いざまに、スリの要領で杖を奪っていた男女。恐らく魔法で気付かれにくくまでしている。
──恐らく。俺が魔導具を簡単に作った所為だな。どうせ嫉妬したんだろう。〝無能〟風情がどうたら、と。
そして、どうせなら自分達の功績に仕立て上げてやろう、と。そう、考えて…それを実行した。
何故、リーシャだったのか。それは簡単に予想がついてしまう。
俺が作った魔導具を持っていたのは、俺、カルミア、リーシャの三人。それぞれ硬度の高いナイフ、呪いを司る剣…そして壊れない、自動的に錬魔力の世界を体験できる杖。
まずカルミアだが…カルミアはクラス内で最上位の実力を有している。下手に盗もうとすると、それこそ返り討ちに遭うことは必定だ。
そして俺。〝無能〟と呼ばれている俺なら確かに、それを奪ってしまおうと思うかもしれない。
だが、俺が持っているのは、魔石によって強化された、ただのナイフなのだ。ただのナイフを出し物にして、誰が功績として残す?
──そこで残ったのがリーシャだ。リーシャの杖…作った俺目線から見ても、かなりのぶっ壊れ性能だ。融合させるだけで数倍の威力が出せる錬魔法の疑似体験、寿命や死を迎えない自動回復…魔導士界隈でも、名を轟かせることだろう。
だからこそ、盗った。
《以上で、一年部Bクラスの発表を閉じさせて頂きます》
…数秒後、今までになかった大歓声が上がったことは、言うまでもない。
「…気に入らねえな」
俺の口が悪くなる。
──あたかも自分の功績だと言い張るのは、別にどうでも良い。ぶっちゃけ、俺は人にどう扱われても、どうとも思わないようだ。
だけど…コレは駄目だろ。
俺が友達に譲渡した物を奪い、挙句は自分の物と主張。しかもソイツ等は、なんの悪びれもなく、杖を持って去っている。
「──懲罰だ」
[視点変更:モブA]
「いや〜、発表マジで上手く行ったぜ〜」
「本当にねぇ〜」
俺達1-Bの発表は大成功。〝前代未聞の魔導具を作り上げた天才クラス〟とまで称された。
それもこれも、俺の隣に居るコイツが画策したお陰だ。
「それにしても、我ながら良い考えだったわね〜。〝無能〟と〝落ちこぼれ〟から魔導具を盗もう、なんてね」
「本当によく出来てたぜ!これで俺達はもっと躍進して階級も上がる!」
「しかもあの二人はクラスの出し物の準備に協力していなかった。必然的に、相応の処罰が科される」
ずっと嫌っていた二人。魔法の才なんて微塵もないのに、未だに学園に腰を据え続けているクズ共だ。
しかしこれを機に、二人が退学に追い込まれる可能性が高くなった。
「はは、これでアイツ等も──」
「おい」
…背後で、誰かの声がした。
[視点変更:レイド]
「──ああ?なんだよ〝無能〟」
振り返るや否や、男が反抗的に、高圧的な態度を俺に取ってくる。
〝無能〟である俺は、やはり存在自体が間違っていると思われているな。第一声が、とても不快そうだからな。
「何?私達これから──」
何か言いかけている女に、俺は。
「〝闇は蝕む、その心を〟」
「が…ぁ、ぁ…!?」
「!?おい、どうした!?」
女が突如踠き苦しむ様子に驚愕した男が、女に駆け寄る。
「テメェ…何をした!!」
「…さて、なんだろうな」
俺はただ、第二十六段階闇属性魔法の〝闇は蝕む、その心を〟を女に向けて無詠唱で使っただけ。何も、おかしなことはない。
寧ろ、この程度で苦しんでいるコイツがおかしいのだ。
「ッ…な、なんなんだよお前ェ!!」
男の表情が、恐怖に染まっている。隣で死ぬ直前の表情をしながら、掠れた苦痛の声を上げている女にも、それを難なくやってのける俺にも…恐怖している。
「──さて」
俺は男に向けて手を翳す。その動作だけで、男は「ヒッ」と情けない声を上げる。
「何か言う事…あるだろ?」
俺は男に問いかける。
「い、言う事…だと…?」
「ああ。勝手に人の所有物を盗んで、勝手に公の場で自身の物だと主張…罪の自覚はないのか?」
「何、言ってんだ…」
「──分からねえか…リーシャに謝れって言ってるんだよ」
今回の件で一番害を被ったのはリーシャだ。リーシャの物だからな。別に俺に損があるわけでもない。
だから、リーシャへの謝罪を要求した…の、だが。
「はぁ!?なんで俺があんな奴に謝らなきゃいけないんだよ!ふざけんな!お前等みたいな雑魚はこの学園に居て良い魔導士じゃねぇんだよ!俺等みたいな世界有数の、選ばれた魔導士のみが入学を許されてる場所がこの学園だ!〝無能〟や〝落ちこぼれ〟如きが、俺等に口出すんじゃね──」
「〝断罪の忘却と断罪の恐怖〟」
「──が…ぁ…」
男は苦悶の表情で、生気を吸い取られたかのようにか細い声を上げ、倒れ伏す。
…〝断罪の忘却と断罪の恐怖〟。第十一段階〝虚無〟属性魔法。
──徹底的に、潰す。
「あ゛…!?ぅ、う゛ぁ゛…が…!?」
「──お前等は精神を蝕み、全ては忘却するんだよ…絶大な恐怖を遺してな」
俺は踵を返す。去り際に、ソイツ等に掛けた言葉は…。
「──精々苦しんで、後悔しろ」
…その後、俺は杖をリーシャに返還した。因みにリーシャには盗まれた事は伏せておいた。〝リーシャがドジして落としたところを奴らが発見した〟という筋書きにしたんだ。
…そっちの方が、色々と都合が良い。
《えー、続いては二年部Aクラスの──》
クラスの出し物はまだ続く。だが1-Bのインパクトに比べれば、どれもこれも面白みに欠けるようだった。
「…はぁ…リーシャに杖も渡したんだし…教室行くか…」
どうせ此処に居ても、得られる物は無い。さっさと帰った方が良い。所持品の整理とかもしたいしな。
そうと決まれば、早速1-Bの教室に戻ろう。
[視点変更:???]
「…中々、錚々たる生徒達だ」
自身を満足させる程の魔導士は居ない…が、それに近しい者は数名存在する。
「最近は多忙で人を殺せていなかったからな…丁度良い」
獣の頭部を握り潰し、その血を舐める。既に後ろには、幾十もの獣が、同様に頭部を握り潰されている。酸鼻な光景は、常人からすれば気絶ものだろう。
「──そろそろ、宴を開くか」
身体から漆黒のオーラを放出する。そのオーラが触れた草木は、存在する意義を失ったように枯れ果て、朽ち果てる。
…さて。
「──今回は、愉しませて貰おうか?」
[視点変更:レイド]
「…ふむ」
教室に戻って来たのは良い。
…が、教室に居るのは俺だけだと思っていた。普通に考えて、ほぼ全てが屋外で開催されている魔術祭で、時間を過ごすのが教室など考えられないからな。
──だが。俺以外にも教室で時間を潰しているであろう生徒が居た。それも、二人。
「zzz…」
「相変わらずだな…コイツは」
ティア。寝る事以外、何にも興味なさそうだからな…教室で寝ているとは考えていた。
…にしても、なんでコイツはこんなに寝る事が好きなんだ…?
──まあ良い。そんな事よりも…。
「やあやあ。待ってたよ」
「…なんでこんなところに居るんですかね…ゼレン先輩」
確か、【泥黎の大森林】へと向かう前に、【気概の間】で会った、二年部の特級魔導士だ。
──何故、一年部の教室なんかに居るのだろう。
「別に何も。俺はただ、此処から景色を眺めてただけ…この教室が、一番景色が見やすいかな」
「は、はぁ…」
この学園には変わった魔導士しか居ないのか…?まあ、魔導士なら多少変わっている方が本質というものだろうが。
「…まあ、そこの魔導士ちゃんが居るのは想定外だったけど」
ゼレン先輩はティアを一瞥する。
──まあ俺も、ティアが寝ているとは思わなかったが。
「…んで、君はなんで教室に戻って来たのかな?」
「…やる事が無かったからですけど」
「そうかい…まあこの時間帯は殆どが屋外で魔法祭を楽しんでいる。君は特殊な方だ」
「そんなこと分かってますよ」
「──友達想いなんだね」
……。
「どういう意味ですか?」
「そのままの意味だよ。盗んだ作品を自分のものにしようとしている輩を制裁したんだろう?」
「…なんの事ですかね」
「偶然見たからね。何をしているかまでは分からなかったけど…会話の内容は魔力を通して聴かせてもらったよ」
ゼレン先輩は魔力を態々赤色にして見せびらかす。
──本当に見ているっぽいな。
「ただまあ…君の実力が分かった訳じゃないのが、少し残念かな。〝特級〟程度の魔力操作じゃあ、正確な情報は得られなかった。本当に、自分に斥候や諜報の才能が無いのが悔やまれるね…」
…俺が察知できない範囲での魔力操作。
──〝才能が無い〟?笑わせる。
「なんの事かは知りませんけど、ゼレン先輩は才能豊かですよ」
「おお、ありがとう。光栄だよ」
普通に皮肉だが…気付いていてそんな返事をしたな。心なしか、少し翻弄されているようにも感じる。溢れ出る雰囲気からして、強くはあるが、セリアル魔法学園の基準で言えば中堅クラス…〝特級〟と言われれば納得してしまう。
だけど、異質な雰囲気が混じっている。この雰囲気は…なんだ?
「…っと、もうこんな時間か。そろそろ俺は行くよ。出し物の時間だからね」
そう言って、ゼレン先輩は俺の脇を通り抜ける。一瞬だけ視線が交錯した瞬間、ゼレン先輩は俺に囁いた。
「──これから、楽しみにしているよ」
…そして、教室に取り残されたのは俺とティアのみとなった。
「……」
数秒後、俺も教室を去るのだった。




