12話 ある種の変態達
「…〝闇影〟…それって第三段階闇属性魔法の?」
「ああ。私は闇属性を主として戦う。どうにも、私には光や他の属性魔法を扱うのは苦手であったらしいからな」
…〝闇影〟。闇と影を扱う魔法だ。汎用性がかなり高く、影を物質としたり、闇を作って姿を隠したりなど。
「〝闇影〟は私の得意芸とする魔法の1つ。私は想像力に長けているから、この魔法は凄く使い心地が良いのだ」
「は、はぁ…そうですか…」
「…その中でも私は〝闇影〟を斯様に扱う」
…その瞬間。私の視界が、闇に閉ざされた。
「うわっ…!?前が見えない…!?」
「眼前に闇を展開し、視覚から入る情報を遮断する。それだけでないぞ、他にも脳に干渉して闇の情報を埋め込み、情報過多で事切れさせる事も可能だ」
「え!?まさか私を殺す気じゃ──」
「はは、安心しろ。流石の私も、たかが行事で人を殺めはしない」
「はぁ…なら、良かった…」
まさか、今からそれを試して私を殺す気なんじゃないかと。そう警戒してしまったじゃん…。
「だが…闇属性魔法は便利であるぞ?私は面倒臭がりだからな。魔物を仕留める時にはいつでも扱う」
「成程…」
「…ただ、やはり強靭な魔物には効果が薄くてな。そもそも魔法で干渉することが困難なのだ。だから干渉しやすいように工夫をする」
「へ、へぇ…そうなんですね…私は支援魔法しか扱えないからなんとも…」
「…そう言えば、支援魔法には闇属性は無いのだったか…ただ、かくいう私も闇属性しか満足に扱えないからな…」
「…もしかして、私達って相性最悪…?」
方や支援魔法しか扱えない魔導士、方や闇属性魔法しか扱えない魔導士。そんな相性が悪い二人に、〝魔法交流〟は無理じゃないの…?
「…そうらしいな…となると、この交流自体も徒爾…か。分かった、お前の魔法は見せなくて良い」
「あ…は、はい。分かりました…」
…なんというか。呆気も味気も無かったね…。
というかルシアさん、平気で生物を殺せる技術を持ってるんだね…だったら、それなりに階級も高い魔導士──
(──あ、れ?)
さっきまでは気が付かなかったけど…この人。
──バッジ、着けてないよね…?
[視点変更:レイド]
「…いや、お前か…」
「ん?駄目だった〜…?」
「いや…なんか、久々な気がするからな」
「ふ〜ん…」
俺の交流相手はティア・プラネタリウムだった。
…そう言えばこいつ、見た目は全然弱そうに見えるんだが…一応〝中級〟なんだよな…。
ティアの胸に付いてある緑のバッジを見ながら、そう胸中で呟く。
…だけど、こいつ…いや、良いか。
「…一応、交流はやるぞ。この学園の風習みたいなものだしな」
「えぇ〜…面倒じゃない…?」
伸びをしながら、そう言うティア。
…本当に面倒臭がりだな。やる気のなさ、と言うのか。それが著しい。
「ん〜…なら、後でレイド君を抱き枕にさせて貰えるなら、良いよ〜」
「なんだ、それ」
寝ることしか考えてない。なんでこの学園に来たんだ…?
「ねぇ〜、駄目〜?」
「はぁ…分かった分かった。条件を飲んでやるから、交流するぞ」
「やった〜。約束ね〜」
身体を弾ませながら喜ぶ、小動物。
「それじゃあ、私からで良い?」
「…別に良いぞ」
そう答えると、ティアは金色の双眸でこちらをじっと見つめてきた。
「──美とは静謐なる証、美とは総てを染め、総てに染められるもの」
………おい、ティア。その詠唱は…。
「汝を我が下僕として歓迎しよう──〝完全魅了〟」
──俺は咄嗟に、ティアから視線を外す。
「…!……ねぇ〜レイド君、なんで目を逸らすの?」
「当然だ。というか、当たり前のように第九段階光属性魔法を扱うな」
〝完全魅了〟…第九段階光属性魔法。発動した瞬間に視線を向けていた相手を、自分の言いなりにしてしまう、ある意味恐ろしい魔法だ。
ティアがそれを使えるのにもかなり驚いたが…俺に対して使おうとしてきたことの方が驚きである。
「別に、私の抱き枕になってくれるように命令するだけなのに…」
「その手には乗らん。というか、さっきの条件と同じじゃ──」
「それは一度きりの条件でしょ〜…私はずっとレイド君を抱き枕にしたいの〜…」
面倒だ、実に面倒だ。というか、何故俺なんだ…前に抱き心地が良いとか言っていたが、そんなにか…?
「…馬鹿な事言ってないで、真面目に──」
「〝完全魅了〟」
「不意討ちかよ…!」
完全なる不意討ち。しかも、さっきとは違い、無詠唱。
…こいつ、中級だよな?第九段階を無詠唱で扱える中級なんて…学園内に居るのか?いや、絶対居ないだろ…。
なんとか目を逸らせたが…遅れていたら、ヤバかった。
「ん〜、惜しい…失敗だ〜…」
「何が〝失敗だ〜〟だ…」
溜息を吐く。
「流石だね〜、レイド君。今のを回避するなんてね〜…」
「知識と反応速度だけは人一倍なんだよ…そのお陰だ」
「本当かな〜…?」
「…何が言いたい?」
「別に〜…?隠したいなら良いけど…?」
「…?」
本当に何を言っているんだ、こいつ…?
「…まあいいか…じゃあ、次は俺の番──」
「zzz……」
………。
……………一回、殴って良いか?この小動物。
[視点変更:リリア・カルリスタ]
「…君が、私の交流相手か?」
私は目の前の女子生徒に、そう訊ねた。
艶が無い、濁った灰色の髪に、黒色の左目。右目には眼帯が着けられている。スタイルは良い方だ。
「初めまして、リリア・カルリスタ副会長…私は1-A所属、ローズ・シャルネータと申します」
礼儀正しく挨拶する、ローズ。
…恭しい人物だ…だが、何か。一種の恐怖のようなものを、感じる。恭しい、と言えば恭しい…が、〝定例〟のような…仕方無くやっている感じもなければ、積極的な姿勢でもない。
…ローズ・シャルネータ。2年部、3年部の中で少しだけ話題に上がっていた人物。魔法知識だけで言えば相当なものだと、耳にしたことがある。
〝焔〟…カルミアが突出しているから、あまり騒がれていないが…彼女もまた、超優秀な魔導士だろう。
階級も紫…つまり特級。十分、セリアルの上位格だ。
「…それで、私は何を教えれば良いでしょうか…出来れば、リクエストを貰えると良いですね…」
「──そうだな…」
…先日、【泥黎の大森林】にて。私は【壊滅の巨神】に完敗した。
レイド君に助けてもらいはしたが…普通に、悔しかった。自分では敵いもしない相手が居ることに。
…私が負けた理由は、なんだ?──そうだ。
「…自己啓発系統の魔法」
「──え?…ああ、すみません。あまりに予想外なものが来て」
初めて、動揺を見せる?ローズ。
「意外だったか?」
「まあ…はい。リリア副会長は、才能だけでなく、弛まぬ努力を積んでいる魔導士だと思っていたので…」
「…間違いでは、無いな」
…実際、私は努力をしている。義務感でもなく、自主的に。なら、何故〝自己啓発〟の能力が欲しいのか?
──簡単な、理由なんだ。
「…まあ良いですよ。…自己啓発系統の魔法、でしたね?それなら…これはどうですか?〝絢性誘融〟」
ローズは魔法陣を大量に展開する。
「第四段階無属性魔法〝絢性誘融〟の効果は自己啓発とは言い難い魔法ですが…〝写〟と〝乖〟を用いれば、それと酷似した魔法になります」
「成程…つまり、それぞれに異なる意味を持たせた魔法陣を創れば、自己啓発魔法になる、と?」
「流石…理解がお早いですね」
〝絢性誘融〟の効果…〝一時的に変化を1つだけ与える〟というもの。精神に変化を与える他に、身体能力の変化、思考能力の変化。それら全てを扱うには、〝写〟で複製、〝乖〟で効果の独立を図らないといけない、ということだろう。
「…私としては、もうこれ以上言う事はありません…以上で、私の交流は終わりです」
「…それなら、次は私か」
私は深呼吸をして…そして。
「…〝乖克〟」
その瞬間、私は剣を鋭く、素早く振った。振った剣の軌道に沿って、空間が歪む。
「流石に威力は抑えておいた。〝乖克〟はこんなところで使う代物ではないからな」
〝乖克〟は第二段階〝虚無〟属性の魔法。初歩でも、少しなら時空断絶が可能な魔術。
時空断絶によって時空が歪むと、時空は元に戻ろうとする力を働かせる。戻った際、戻ろうとして結局使われなかったエネルギーが誤差として、絶大な威力を持って放出される。
「…虚無属性…〝錬魔力〟ですか」
「私はこれを、単純に威力が高いから扱っている。弱点としては、強力な敵に抵抗されやすいというところだが…それを加味しても、中々に扱いやすい魔法だと思うぞ」
ローズはしきりに頷き…。
「…〝錬魔法〟はギリギリ第二段階まで扱えますので、問題なさそうですね…難易度は、高いですが」
「安心しろ。君ほどの実力ならば、今難しくても、半年もすれば当たり前のように扱えるようになる」
「そうですね…ありがとうございます」
その言葉で、自然と交流は終了した。
…魔導技術に関しては、私としてもまだ完成度が微妙だった。この〝魔法交流〟を皮切りに、完成させていくとしようか…。
[視点変更:レイド]
…そして、〝魔法交流〟は終わりを迎えた。たった十数分程度だったと言うのに、中々に長く感じたな。
「…ティア、起きろ」
「んぅ〜…?なにぃ…?」
「もう交流は終わりだから、帰って良いぞ」
「はぁ〜い…じゃあ、連れてって〜…」
「却下だ。離れろ」
俺の身体にしがみついているティアを、離そうと力を込める…が、離れない。こいつ、力強すぎだろ…。
「…はぁ…仕方無い──」
「ぅあっ…!」
魔導技術〝廻〟。高質量の魔力を廻らせて、無理やり引き剥がさせて貰った。
「ぅう〜…レイド君、酷い…抱き枕になってくれるって言ったじゃん…」
腕を押さえながら、そう言葉を漏らすティア。
「俺は〝交流〟することを条件にしてそれを受け入れた、だけどお前は俺が魔法を披露する前に寝てしまったからな。〝交流〟出来てない以上、その契約は時効…というか、無い事になった」
「なんで〜…?減るものじゃないんだし、いいじゃん〜…」
「やめろ…近寄ってくるな…」
「い〜や〜!」
…面倒が過ぎる…だったら。
ダダダダダダッ!!
「あ!待て〜…!」
…面倒だから、逃げてしまおう…。
「…よし、撒いたか…」
なんとか撒く事が出来た…と思いたい。まあ多分撒けただろう。
「ふぅ…取り敢えず見つからないように動くしか──」
「あ!レイド君〜!」
…最悪かもしれない。ついさっきティアを撒いたのに…今度はセリア先輩か…。
「よいしょ〜っ!ん〜!落ち着く〜…」
「いや、離れてくださいよ…」
抱き着かれないようにティアから逃げてきたのに、逃げた先でセリア先輩に抱き着かれる事になるとは…逃げた意味が全くもって無い…。
しかも、セリア先輩も力が強過ぎる。引き剥がせない。
「い〜や〜だ〜」
「はぁ…そのフード引き剥がしますよ?」
「ちょ!?それは反則!」
「現実にそんなルールは無いので反則では無いです」
フードを引き剥がせば誰もがセリア先輩に注目してしまう。聖女の皮が剥がれているところなど誰が見たいのだろうか。知らない方が幸せだろう。
「む〜…しょうがないな〜…」
セリア先輩は渋々といった表情で俺から離れる。
「…んで、何か用ですか?」
「用が無きゃ話しかけちゃいけないの〜?」
「はい」
「それは酷いね!?」
面倒だからな。出来れば関わりたくない。楽に、誰からも干渉されず生きていたい。
だから、この状況は実に面倒臭いのだ。
「まあ、用はあるんだけど。シーちゃんからコレを持ってきてって言われたから、今持って行ってるところ〜」
セリア先輩はそのネックレスを俺に見せてくる…そこには、紫色の魔石が嵌め込まれている。
俺はその魔石を見た瞬間、瞠目した。
「…まさか、魔属性の…?」
「うん!私が魔力を注いで作ったんだ〜!」
「…魔石を作ったんですか?」
「ちょ〜っと時間掛かったけど、良いのが出来たよ!」
…才気溢れる魔導士だ。これ程の魔石を作るとは。
魔石は魔力を注ぐ事で作れはする…が。効率の悪さ、存在の不安定さ等、魔物を倒して得たほうが手に入りやすい。
…が、制作のセンスがあれば話は別だ。必要材料は無の魔石、制作錬度が高い者ならばただの硝子玉でも可能。魔力を直接注ぎ込める為、高純度の魔石がほぼ確定で作れる。
魔力の注ぎ込みというのは、魔物から得られる魔石では不可能だ。その魔石には元からその魔物の魔力が宿っている。それに自身の魔力を無理矢理注入すれば、異次元の反応が起こり爆発する。
…だからこそここ10年程は、魔石から魔力を抽出出来ないか検討しているところだ。
「…いや、にしても魔属性って…使えるんですか?」
魔属性。単属性魔力の中では最強の属性。魔属性以外の全ての単属性魔力をある程度マスターすれば習得可能だ。
それには途方も無い時間が必要となるだろう。下手な第四段階の錬魔法よりも習得しづらいのだが…。
「私もシーちゃんも魔属性使えるよ〜!なんなら〝滅光〟属性も!」
「マジですか…」
滅光属性は錬魔力の中でも魔力融合技術がずば抜けて重視される属性だ。光属性魔力と闇属性魔力からなる属性なのだが…そもそも両極端な属性…普通であれば相容れない属性だ。だから学生はともかく、この学園の教師の一部ですら扱えないのだ。
「というか、そのシーちゃんって…?」
「シアトル先輩の事!」
いや誰だよ。というか、先輩を渾名で呼ぶ仲なのか。
「レイド君もシーちゃんの事知ってると思うよ?学園内では不動の人気を誇るアイドル的存在だからね〜」
「知りませんけど」
「えぇ!?本当に!?」
「はい」
「えぇ〜…超可愛いのに…」
ぶっちゃけ興味ない。俺はそんなことに現を抜かす為に、この学園に通っていないのだから。
「…それよりセリア先輩、そのネックレスをシアトル先輩に渡さなくて良いんですか?」
「──げ!?忘れてた!!」
そこは是非とも忘れないで欲しかったな…何に使うかは知らないが、貴重なものだからな、それ。
「急がないと!またねレイド君!!」
そして、セリア先輩は俺に手を振って走り去っていった。
「…やっぱり騒がしい人だな」
〝あの人〟みたいに、俺にベッタリで、愛が深い。初対面でも感じたことだ。
…ただ。ああいう騒がしい人だからこそ。
「──居なくなった時、寂しいんだろうな」




