表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Secret Sorcerer  作者: RENTO
第一幕《刻が満ちるヴィンディクタ》
10/11

10話 カルミアの姉

視点変更:レイド


「…よし、完成だ」


 出来たアーティファクトは3つ。1つ目は、白と黒が基調の剣。白い刀身、黒い鍔と柄。2つ目は、常時淡い光を放っている小型の杖。3つ目は、なんの変哲も無い…ように見えるナイフ。


「も、もう完成させたの?いくらなんでも早すぎじゃ…」

「いや、2時間も経ってるぞ」

「…レイド、普通は1つ作るだけでも1日じゃ完成しないわよ…」

「…そうか。なら気を付けないとな」

「…気を付ける?」

「…こっちの話だ…それで、この剣なんだが…」


 俺は剣を丁寧に持ちながら、リーシャとカルミアに説明を始める。


「刀身には無属性の魔石、鍔と柄には闇属性の魔石を使っている。強いには強いんだが…はっきり言うと、この剣は扱いづらい。というよりも、扱うタイミングというのが読みづらい」

「?どういうこと?」

「闇属性の魔石の影響なんだろうが…〝呪い〟の類の魔術、〝呪術〟が宿っていてな…使っている間は体力と魔力を消耗するらしい」

「成程…短期決戦用、ってわけね?」

「そういうことだ。早期決着をつけないと動けなくなる。だが、その分威力は絶大だから、使い所を見極めれば切り札となる」

「へえ〜…」


 好反応。扱いが難しい、玄人向きの剣…惹かれるのは魔導士としての本質だろうか。


「これはカルミアにやるよ。上手く使えそうだしな」

「良いの?ありがとう」


 カルミアは剣をとても大事そうに受け取った。…別にそんな丁寧に受け取らなくても良いのだが。


「…さて、次はこれだが…」


 続いて、俺はその杖を持つ。


「これには光属性の魔石を使っている。光属性は回復を司る属性だから、その杖は壊れても自動で修復される。そして、魔法行使時に、その魔法に微量の光属性を付与する」

「成程…って、それって実質的に〝錬魔力〟の世界を体験出来るってことだよね…?」

「ま、そういうことだ。効果は薄いと思うが、その認識で相違ない」


 〝錬魔力〟…2種類以上の魔力属性を合成させる技術。それを使って放つ魔法は、威力も単体属性の魔法とは比べ物にならない。


 それを擬似的に体験出来る。〝錬魔力〟は消耗が激しいが、この杖を経由すると単体属性魔法でも〝錬魔力〟となる為、〝錬魔力〟が扱える魔導士でも重宝される一品だろうな。


「これは…リーシャ、お前に授ける」

「え、ええ…!?良いの?こんなの貰って…」

「良いんだよ、今持っている杖と一緒に使ってくれ」


 リーシャは恐る恐る、その杖を手に取った。意外としっくり来ている様子だな。


「…さて、最後にこのナイフか」

「それ、見た感じ普通のナイフだけど…どんな効果があるのかしら?」


 興味津々なカルミア。リーシャも口には出さないが、かなり気になっている。


「…いや、これはその二つのような大層な効果は一切無い」

「え?それってどういうこと?」

「これは無属性の魔石を多めに使ったナイフ。無属性、と言われると汎用性がありすぎて分かりづらいからアレだが…こういうアーティファクトに付けている無属性の魔石は大体〝硬化〟の能力がある」

「それはつまり、そのナイフは硬度が半端じゃない、ということね」

「そうだ…試してみるか…天地創造の神は今此処に。神の命により我の求める物を出現させよ、〝顕現(フェスト)〟」


 詠唱を終えると、俺の手には〝靭石(じんせき)〟と呼ばれる、かなりの硬度を持った鉱石が現れた。


 俺はその靭石目掛けてナイフを振るう。すると、スパァン!と、靭石が綺麗に斬れた。


「凄い…靭石がこんなにあっさりと…」

「…意外と良い出来だったな。…流石にこれは俺が使うよ」

「ま、当然ね…というか、多分そんな代物、レイドじゃないと扱えないわよ」

「そうだね…私もそう思う」

「…よし、取り敢えずの目的はこれで終わり、だな」


 気分で作りたいと思って作ったのだが…それにしては中々熱が入ってしまったな。


「ま、レイドから貰ったコレは、しっかり使い熟してみせるわ。見てなさい」

「わ、私もちゃんと扱えるようにするよ…!」

「ああ、是非役立ててくれ」


 …〝目標の第一段階〟完了。




視点変更:リリア・カルリスタ


「…はっ…!」


 再び【泥黎の大森林】にて。


 レイド君が治療を施してくれたお陰か、傷だけでなく、魔力や疲労も回復させてくれた。途轍もない治癒魔法だ。どこでその技術を身に着けたのだろうか。


 …【壊滅の巨神】への恐怖は拭いきれていないが…よく考えてみれば、アレは勝てた闘い。私の判断ミスで、悪手を引いてしまった闘い。故に、自責の感情が大きく、【壊滅の巨神】の恐怖などどうでもよくなっていた。


「くっ…!」


 自身の弱さに反吐が出る。あの先輩達のように強かったら、と何度思ったことか。あの2人は、私から見ても理解出来ない次元だ。模擬戦ではいつも一瞬で敗北させられる…そんな、圧倒的な人達。


「はぁっ!!」


 剣筋が乱れていることなんて気にも止めない。もう此処に居る必要が無い程素材が集まったことなんて気にも止めない。


 私は一心不乱に、無我夢中に剣を振り続ける。




 どれほど、魔物を狩り続けたのだろう。返り血を浴びすぎてしまったらしい。


「ふぅぅ…〝浄化(ラファイ)〟」


 服を綺麗にする。


「…すっかり暗くなってしまった…帰るか」


 必要な素材は純度7割の水属性の魔石…それは既に手に入っていた。余分に集まった物は、個人的な魔法研究に注ぐとしよう。


「…〝瞬讃〟」




視点変更:レイド


 それからほぼ何も無く一ヶ月が経過。


「明日は魔術祭だ。魔術を学ぶも、青春を謳歌するもお前達次第だ。存分に楽しんでくれ」


 イア先生はそう言って、教室を出ていく。因みに、俺とリーシャの昇級の話は膠着状態らしい。学園側も中々頑固なものだ。


 …明日の魔術祭。魔術のレベルを上げる為の交流をするのが主な行事なのだが…そもそもフル詠唱が基本の俺は良い晒し者だろう。


 なんせ、俺には絶対にフル詠唱が必要。短縮詠唱すら許されていない。そんな俺が、〝魔術のレベルを上げる為にはどうしたらよいのか〟の知識なんて乏しいに決まっている。詠唱のキャンセルが多くて、人より満足に魔法の行使が出来ていないんだからな。


「…明日は適当に放浪するか」




 …そして翌日、魔術祭当日。


「…まさかここまで大規模とは」


 たった半日程度目を離している間に、セリアル魔法学園の様子は、今までとは全く違う様子へとなっていた。


 今までの荘厳な様子からはうってかわって、賑やかな様子。それこそ、皆が想像する祭りそのものだ。


 人も大勢。魔術祭の間、セリアル魔法学園は一般開放されているから、一般魔導士も多く入り込んできている。


 行く所全てに人。この大きな路ですら埋め尽くされている。


「…ま、折角の魔術祭。少なくともこういうのだけは、楽しまなきゃ損だな」


 此処は屋台も多い、既に大行列だが。まあ、魔術祭の行事よりは楽しめるだろう。


 …と、その時。


「うぉっ…!?」

「きゃっ…!?」


 フードを被った奴と、真正面からぶつかってしまった。俺は大丈夫だったが、そいつは尻餅をついてしまった。


「あっ…大丈夫ですか?」


 …と、俺は手を差し伸べる。


「…え、ええ…大丈夫です…」


 そいつは俺の手を取って立ち上がる…のだが。


「…ん?」


 な〜んか、何処かで聞き覚えがあるな。声は女で…なんか、結構音が響く空間で、この声を聞いた気がするぞ…?


「あ…」


 フードの女は顔を上げる。そして、俺の目を見ると、固まってしまった。


「…あれ、アンタ…」


 何処かで見た顔つき。…ああ、そうか。髪や目の色は違うが…よく見た顔。


 …そう、カルミア・ライミールと似た顔。フードを被っているから分かりづらいが、間違いないだろう。


 …ということは、つまり。


「…あ〜…次からは気をつけますんで、じゃ」


 俺は慌ててその場を去ろうとした…が。ガシッ!と誰かに手を掴まれた。


 振り返れば、先程のフードの女が、俺の手を握っていた。それも、かなり力強く。少し痛い。


「あ、あの〜…」


 さっさと立ち去りたいんだが…多分もう無理だ。だってこの人、多分カルミアの姉だろ?あの〝ヘルメス戦でとんでもない応援してた人〟なんだろ?


 この前は注意したいと言っていたが、流石にこんな大勢人が居る場所で〝無能が天才の姉に関わる〟なんてあってはならない。


 だが、あんな熱烈な応援をしたということは…少なくとも、俺に一定の興味を示している証拠。その興味が是か非かは知らんが…関わられるのは目に見えて…。


「見・つ・け・た」


 いや怖っ…背筋がゾッとした。声は凄く可愛らしいんだが…圧というか、声の奥の濁りが途轍もない。


「…えー…何を見つけたんですかね…?」


 会話が絶望的に下手だな、俺。


「君だよ…レイド君?」


 …どうやらこの女は俺の名前を知っているらしい。蔑称で呼ばない辺り、取り敢えず悪い方の興味ではなさそうだ。


「…手を離して欲しいんですけど…」

「や〜だ!」

「いや、〝や〜だ!〟じゃないんですけど…」


 俺が手を振り解こうとすると、女はジタバタと暴れ出した。…この人、カルミアの姉なんだよな?多分俺の先輩だよな?動きが幼稚園児なんだが。


「は〜な〜さ〜な〜い〜の〜!」

「はぁ…分かりました。離さなくて良いですから、落ち着いて下さい」

「本当?えへへ〜」


 うっ…きつい。こういうタイプは苦手なんだよな…〝あの人〟を思い出す。


「…で、俺に何か用ですか?」

「ん〜?用っていうかなんていうか…あ、そういえば自己紹介まだだったね〜!」


 ちょっと会話が可笑しいが、気にしないでおこう。面倒だし。


 女は被っていたフードから顔全体を覗かせる。現れたのは、純粋な水色髪で、深い蒼眼、色白の少女。


「2年部のセリア・ライミールだよ〜!セリアルのセリアって覚えてね!レイド君がよく関わってるらしいカルミアのお姉ちゃんだよ!バッジは金の〝神聖級〟!宜しくね!!!」

「は、はぁ…」


 清楚でお淑やか、って感じの見た目に反して、言動と声量とのギャップが甚だしいのが残念だ。


「む〜、何、その反応!もう少し興味を持ってくれて良いんだからね!?」

「あー…凄いですねー、〝神聖級〟なんですかー…」

「そうそう!在校生の中で唯一の〝神聖級〟!セリアルの中で私より強い生徒は殆ど居ない!どう?理解してくれたかな〜?」

「あーうん、理解しましたしました…って、〝殆ど〟?」


 俺はセリア…先輩の言葉に疑問を覚える。


「〝神聖級〟は先輩しか居ないんですよね?なら先輩より上は居ないんじゃ…」


 少なくとも、階級に関してはトップ。そのトップの地位にセリア先輩以外が立っていないから、セリア先輩がセリアル最強の筈だが…。


「そうだね〜、〝階級(バッジ)〟だけならね〜」

「…どういうことですか?」

「もう!君の事を言ってるんだよ〜?とぼけるなんて酷いね〜?」


 俺の事を言っている…?俺がセリア先輩よりも強い、ということか?


「冗談は止めて下さいよ。俺みたいな〝無能〟が__」

「ん〜駄目だね〜、嘘は良くないよレイド君?君が〝無能〟なわけないんだから」

「いや、本当に知らないんですけど」


 何が嘘なのだろうか。嘘は何一つ言っていないが…。


「ふ〜ん。まあいいや、それより…」


 セリア先輩は俺を掴んでいる手を離す。しかしその瞬間、今度は俺の腕にしがみついてきた。


「…はい?」


 俺から素っ頓狂な声が漏れる。…距離感がバグってるな、この女。


「ちょっと屋台巡りに付き合ってよ〜!」

「なんでですか、一人で行けば良いじゃないですか…離して下さい…」

「い〜や♪離さないっ♪一緒に屋台巡り行くの〜!」

「は、はぁ…分かりましたよ、先輩」


 こんな路のど真ん中で言い争うのも少々アレなので、承諾する。


「やった!それじゃあ行こっか?」

「は…はい…」


 やっぱこの人…〝あの人〟に似てる、いや似すぎているな。〝あの人〟もこんな口調、こんな性格、こんな距離感だった。もう何年も会ってないが…いつか会えるだろうか。


 …おっと、余計な事を考えていた。


「…んで、何処に行くんですか?」

「ん〜、そうだね〜…あ!まずあそこ!」

「…〝Extra Sweets〟…?」


 セリア先輩が指を差した所には、そう看板に書かれた建物。そう、〝屋台〟ではなく〝建物〟。目を離している半日の間に建てられていた。


 現代の魔法の技術は本当に凄い。こんな建物ですら容易に造れるんだからな。


「そうそう!私甘い物好きなんだよ!スイーツのお店があるって聞いてたから、来てみたかったんだよね〜!」

「…そうなんですか」

「うん♪早く行こ〜!」


 俺はセリア先輩に連れられるがまま、その建物に入っていくのだった。




「ん〜!美味しかった〜!」

「あ〜…そうですね…」


 確かに美味しかった。だけどそれ以上に。


「セリア先輩、食べ過ぎじゃないですか…?」


 俺が食った量の約5倍。セリア先輩は、それだけの量のスイーツを食った。よくそんなに甘い物を食えるものだ。


「む、女の子にそんな事言うのはどうかと思うよ、レイド君」

「率直な感想を述べただけです」

「ひっどい!?」

「言われたく無かったら、俺の腕にしがみつくのを止めて欲しいですね」

「…それは嫌!!」

「なんなんだアンタ」


 面倒臭い、とにかく面倒臭い。何かと自己中心主義なんだなこの人。


「ふ〜んだ!だったら今日一日、私に付き合って貰うからね!」

「勘弁して下さいよ。俺はそんな暇人じゃ__」

「あ、レイド君。…?その人、誰?」

「…あ?ああ、リーシャとカルミアか」


 ナイスタイミング。カルミアならセリア先輩を止められる可能性は十分にある。


「あ、カルミア久しぶり〜」

「姉様…はぁ…やっぱりね」

「やっぱりって…どういうこと…?」

「…ま、取り敢えず姉様。レイドが困ってるから、離れてあげて」

「え?なんでなんで〜?離れたくないよ〜」

「あらそう。ならあの〝聖女〟様が〝無能〟と呼ばれる男とデートしてたって大スキャンダルを晒す__」

「わ、分かったって!離れるから〜!」


 セリア先輩は、慌てて俺から離れる。…扱いが上手い奴だな、カルミア。


「悪いわね、レイド。…姉様、いつもは物静かな女性を気取ってるんだけど…裏ではこんな感じなの…」

「是非とも初対面は〝聖女〟とやらの方で関わりたかったな」

「そうね…」

「って、ならなんで俺の前で〝聖女〟の皮を被らなかったんだ?」

「言い方…まあそうね…勝手な予測になるんだけど…姉様」

「ん?な〜に〜?」


 カルミアはセリア先輩の目をじっと見つめて、言った。


「姉様多分、レイドのこと好きでしょ?」

ふぅぅぅ…セリアに対しての執筆カロリーが高い…。


元々、セリアをこのような性格で書くつもりは無かったんですが…気が付けばこうなってました。なんででしょうか。自分の所為ですね、はい。


魔術祭編は少し長めに作る予定です。様々なキャラクターを出すつもりなので。では。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ