嫌いな音
音について考えてみた。
好きな音や嫌いな音というものがあると思う。
でも、好きな音でもその時の気分で嫌いな音になることもある。
鈴の音は好きだけど、何度もしつこく鳴らされたらイラっとする。
黒板を爪でひっかくと気持ち悪い音になるけど……、黒板を爪でひっかく音は、どうすれば好きな音になるかわからない。
もしかすると、好きか嫌いかは、その音が安心な音か安心じゃない音かで決まるのかもしれない。
黒板を爪でひっかく音は、人の悲鳴のように聞こえるから嫌な気持ちになるのかもしれない。
音を聴いて、無意識にそれが安全な音か安全ではない音か判断しているのかもしれない。
音がして、周囲を見て、その音の原因がわかって安全がわかると安心な音。
ふと、そうでない場合のことを思い出した。
小さい頃、家族で雪国に旅に出て、眠っていると夜中に目を覚ました。
こういう時は十中八九、予想不能な場合が多い。
でも、それを確認するのが怖かったので、布団から出ることをしなかった。頭から布団をかぶって音だけを聞いていた。
窓の外では風の音がして、ガタガタと揺れている。
そしてスーッと引き戸が開く音がした。
私の経験上、その音は引き戸を開け閉めする音なのだが、どこが開いているのかそれとも閉まっているのかもわからない。
ガタガタガタガタ
スー、スー
そんな音が繰り返される。
繰り返されるけれど、スッスというような入ってくる足音はしない。
移動で疲れているのか、小さな声で家族を起こしても起きてくれなかった。
自分が起きていることを気づかれてもいけないような気がして、布団をかぶって息を殺す。
音がするだけで人の気配はしなかった。
いつの間にか眠ってしまい、とりあえず朝を迎えたが、これはどこに分類すべき音だろうか。
生きた心地はしなかったが、何か悪いことがあったわけでもなかった。
どちらかといえば、圧倒的に嫌いな音である。
人は音を聴いて、安心できる音か安心できない音かを判断している。
音源を見つけて安全なら安心できる音。
この時は音源を見つけることができなかったので、安心できる音にはできなかった。
ちゃんと調べたら、風などが原因とわかったりして怖がらずに済んだのかもしれないが、今となっては知る由もない。
たぶんだけれど、知らない方が良いような音だったように思う。