悪役令嬢のやり直し
久しぶりの短編です。
「公爵令嬢、レイニー・マリアンヌ! 貴様には、ほとほと愛想が尽きた! 」
まあ、こんな公衆の場にテイリー殿下がそんなことを。
「なんの事でございますか」
「ふん、そう言っていられるのも今のうちだ。お前は聖女でもあり、私の婚約者のイリアに危害を加えた罪で国外追放を命じるっっ!!」
……は?何で…わたくしは…
「テイリー殿下! そんなまさか、嘘ですわよね!? その女…イリアが殿下の婚約者だなんて」
殿下の婚約者はこのわたくし。
一体どういうこと…。
テイリー殿下は私を冷たい眼でわたくしを見つめた。
「嘘? まだわかないのか?」
「そんな! わたくしはただ…彼女に制裁を加えただけで…」
そうだ、私はただあの女の私物を壊したり噴水に落としたりだけ…。
「わたくしは何も悪くありませんわ!!」
で殿下はわたくしを憐れむような眼で見つめた。
「そうか…お前には本当に愛想が尽きたよ…。衛兵! この女を連れていけ!」
私はいつの間にか衛兵に捕らえらていた。
当然抵抗したが、体はさっぱり動かなかった。
「離しなさい!無礼者!」
「マリアンヌ……お前も堕ちたものだな…」
「は」
何を言っているの。わたくしは何も悪くない。だからこそ、彼が言ったことは、私にはその意味が分からなかった。
「い…いや…止めて……!」
どうしてわたくしがこんな目に合わなくてはならないの!
結局、わたくしの抵抗は虚しくも外へ放り出された。
・・1ヶ月後… わたくしはいつの間にかスラム街で生活を始めていた。着ていた服は既にボロボロとなり、食事もまともに口にすることが出来なくなっていた。ゴミを漁って、食べて、その繰り返しの毎日を送っていた。最近ではご飯も取れず、いつ死んでも可怪しくないこの状況。
「誰か…た…べも……の」
あれだけもちもちした美しい肌はいつの日か痩せ細り、るいそうを起こしている。
路地を出てしまえば外は下町だ。
けれど、そこまで歩けないの。
立てないの。
「た…けて」
助けてって言いたいのに。
声が出ない。
それで───それで。
私をみると、皆逃げ出すのよ。
「う、凄い悪臭! 近付かないでよ!!」
まるで幽霊見たように、逃げ出すの。
「た……す…け……」
何か食べないと。
ゴミを漁る。 中には貴族の食べ残して行ったお肉が捨ててある。
わたくしは下品ながも背に腹はかえられず手で掴み、口の中へ運んだ。
「まずい」
それなのに。
「まずい、まずい」
食べなくちゃ。何でもいいから、食べなくちゃ。
どうして、涙が出るの?
「うっ」
気持ち悪い。まずい。
「うえ“っ」
吐いたら、
「う“っ」
吐いたら、…吐いたら、ダメ。
「ああっ」
気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。
どうして?
どうして、わたくしがこんな目に…。
こんな目に合わなくてはならないの。
全部…あの女のせいよ。
わたくしはただあの女に制裁を加えただけなのに!
どうして! こんな生活、嫌!
あの使えない使用人も来なさいよ!
……疲れた。
………くちゃくちゃ音を立てて、はしたなくも必死で空腹を補って。
……わたくし…ここで死ぬのかしら…? わたくしは…。
そうよ、結局あの女のせい…。
あの女が、わたくしをこんな目に合わせた。
許せない。許さない。
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「イリア! 殿下に近づかないで頂戴な」
「…? なぜですか?」
この女、わたくしの言いたいことも分からないの?
何て人なの…!
「あのね! 殿下の婚約者はこのわたくし! 気安く近付かないで!」
「そんな…」
その悲しそうな顔…イライラしてくる。
「…っち…。お前何て…! わたくしの前に二度と現れないで頂戴!! 」
そう。あの時のわたくしはあの直後にあの女を平手打ちしたんだっけ…?
酷い時は閉じ込めて、使用人に襲わせた事もあったかしら…。
それで…あの女の大切なものを踏みにじってやった。
…わたくし…いつからこんの風になったのかしら。
どうしてこんな事をしてしまったの?
全部、全部、全部……わたくしが落とした種だったのよ…。
今さら、どうしてこんな後悔するのかしら。もう、終わりだ。
早く、楽になってしまいたい…。
あの時の殿下の言葉が、今になって胸の中に染み付いていく。
「…ぅ!?」 ───だれ!? 誰かがわたくしの口を塞いだ…。
……甘い、匂いがする。
あれ…? 何か…眠くなってきた…。 ね…ちゃ…いけ……なぁ…
~~~
「!!!」
ここ…どこ? 誰かに誘拐された? 暗い…牢屋?
段々と暗いところでも目が冴えてきた。多分、誰かいる。
「だれかいるの?」
「起きたかい」
女の人の声だ。
「あなたは…?」
「私? 私はアンナって言うんだ」
「アンナ……。その、わたくしは…」
マリアンヌ。けれど、バカ正直に本名はあかせない。
「…マリアと言うの。…ここはどこへ向かっているの?」
感覚だけで言うなら、動いている…?
女の人は嘲笑しながら言った。
「ああ…奴隷市場さ」
「え?!……ここからは、出られないの? 」
「出られる筈ないさ。私らは売られる。それだけさ」
うそ…、でしょ。 奴隷? わたくし、奴隷になんてなりたくないわ。
奴隷に成り下がるくらいなら、もういっそのこと死なせて欲しい…。
…いいえ…これも…あの女を虐めた罰なのかしら……はっはは…。
笑いが止まらないわ。
次の瞬間、
……? 振動が、消えた?
消えてから数秒経って、光が私の目に焼き付いた。
目の前には数人の男共がいる。
「おい、出てこい」
「……? 誰!」
そして、私は口を塞がれた。…アンナに。
「あんっ…な…?」
どうして…。
「静かに。あいつら、煩いの嫌いだから」
わたくしが煩いって言うの? …けれど、そんな事、言ってられないわよね…。
「大人しく出ろ。立て……おい、そこの女もだ」
女って言うのは私のこと?
わたくしはキッと男を睨んだ。
「何だ…? 俺に歯向かうのか?」
「マリア!」
アンナに声をかけてもらって、やっと我に帰った。
「っ……」
非力な元貴族令嬢とこの男の力の差なんて気が知れている。
やだ、いやだ、こわい。
近付かないで。
「あ…」
「ふんっ!」
けれど、遅かった。
男はわたくしの自慢の金髪を掴み、強引にわたくしを地面に捩じ伏せた。
「うっ」
わたくしの額にぶつかる。
酷い激痛が走った。
「これが力の差ってもんさ。…わかったか? 俺に逆らったら…どうなるか」
「ひっ」
今まで強気になっていた感情が恐怖へと変わる。
それからわたくしは何度も蹴られ、殴られ、そして投げられ…酷い扱いを受けた。
ああ…あの時、あの女もこんな気持ちだったのかしら。
痛い。
怖い。
嫌だ。
〝早くここから逃げ出したい……〟
「ごめんなさい!」
痛いわ。
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
許して。
「もう、口答えはしません!」
止めて。
…これが……これが、所詮奴隷になった女の末路なの…?
お父様、お母様…ごめんなさい。
今さら懺悔するなんてもう遅いのは分かっています。
ごめんなさい、今になってやっと気が付いたの。
皆、わたくしをお世話してくださった使用人にも…最後まで謝罪することは出来ない。
もう、消えてしまいたい。
結局、どうしてわたくしはあんなことをしたのか、今となっては分からない。
けれど、わたくしは確信した。
今のままでは、ダメなんだと…、