大忙しの七日間を終えて
二日目からも、お店は引き続きお客で溢れていた。応援要員として来てくれたエドワードとシンの紹介者たちも、お店の切り盛りに大きく貢献してくれている。
エドワードの後輩であるロナルドは、テトラと同じような年ごろの好青年。金色に輝く短髪で、さわやかな雰囲気の欧米系の顔立ちをしており、青いコバルトブルーの瞳が印象的だ。テトラはひと目でロナルドを気に入ったらしい。率先して店の説明や、制服の用意などロナルドとのやり取りすべてをやっている。年が近いせいか、共通の話題で盛り上がっている様子だし、これは、もしかするともしかするかもしれない。私は姉のような心境で、二人を生暖かく見守りつつ、なるべく距離をとって二人だけの時間が増えるよう気を回した。
もう一人。色黒でいかにも海の男、という風貌の筋骨隆々の青年はシンの紹介だ。彼もシンと同様アジア系だったが、シンに比べると無口で、言われたことを黙々とやるタイプらしい。髪が肩まであったので、ヘアゴムを貸して、うしろで結んでもらうようお願いした。名前を聞くと大柄な体格とは似合わない小さな声で、「エミリオと呼んでくれ」と言った。
(海のほうは、女性が少ないっていうから、照れているのかなあ……)
名乗った後、居心地悪そうに赤くなるエミリオを見て、なんだかかわいいと思ってしまった。シャイではあったが、仕事となると頑張れるタイプなのか、接客時は包容力のある笑顔で女性客を魅了し、集客にひと役もふた役も買ってくれた。
――それから六日間。パンを売って売って、売りまくった私たちは、ふらふらになりながらも充実した毎日を過ごした。ロナルドもエミリオも良い働きをしてくれ、その後に手伝いに来てくれたエリックもアスターも、みんな一生懸命働いてくれた。収穫祭の期間人が足りるよう、人手を手配してくれたシンとエドワードには感謝してもしきれない。結果としては、売上目標の二倍以上を稼ぎ出し、究極のクロワッサンも連日午前中で売り切れた。大成功だ。
テルメトスのパンの歴史を語るPOPについては、店内が大混雑していたことも、そこまで効果は発揮できなかったようだ。これに関しては通常時に戻ったときに効果を期待したい。
私は目標対売上の数値や、究極のクロワッサンが何時間で売り切れたか、他の店舗と比べたときに「すごい」と評価してもらえるようなポイントを、ノートに書き留めておいた。ささいなことのようだが、こうした情報の寄せ集めが、次のアクションに使える材料になるのだ。ホクホクとしながら、ノートを机の中にしまった。時計を見て、そろそろ夕食の時間が近づいてきたのに気づき、支度を手伝おうと席を立った。
今日は手伝いに来てくれた人たちを夕食に招待している。テルメトスパン店には屋上があり、ちょっとしたパーティーができるスペースがあるのだ。二十時には収穫祭の最後を締めくくる花火(この世界にも花火があるのは驚きだった)が打ち上げられる予定で、それをみんなで鑑賞する予定だ。
(なんだかリア充ライフ満喫しているなあ。日本にいたころとは別人みたい)
疲れ切っているのか、足元がおぼつかない。ここのところ遅くまで資料を作っていたので、あまり眠れていないのもあってか、頭もぼんやりとしている気がする。
「ねえ、あんたなんか顔色悪いけど。大丈夫?」
テトラが心配して声をかけてくれた。でも、みんな自分と同じように働いてくれていたのに、私だけゆっくり席に座っているわけにはいかない。なんとか夕飯の手伝いを済ませ、二十時の花火の音を聞いた瞬間。
――緊張の糸が切れたのか、座っていた椅子から転げ落ち、気を失ってしまった。




