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プロローグ

「日本国からの異世界転移者、および、新たに設置された役職、『広報官』に任命された新任書記官。黒瀬ちえ、前へ!」


 重厚(じゅうこう)な、深い藍色のビロードのカーテンが左右に開かれる。視界の先には緑色の――王座に続く絨毯が見えた。自分の唇が青ざめ、手は震え、全身から血の気が引いていくのがわかる。


(ああ、もう、どうしてこんなことに……)


 一歩一歩、王座へと続く絨毯を進む。おそらく、皇帝の目の前に到着するまでにかかった時間は、一分とかからない程度だったと思うのだが。それはまるで、永遠に続くかのごとく長く感じられた。


「黒瀬……ちえと言ったな。よい、面をあげよ」


 ゆっくりと、頭を上げる。


 そこには、絹のように美しい滑らかな銀髪を胸まで垂らし、褐色(かっしょく)の肌に、アメジストのような紫の瞳をした――私の運命を握る男が座っていた。


 宝石のように輝く瞳が、私の姿を捉える。おそらく三十路(みそじ)くらいであろうこの若き皇帝が微笑(びしょう)(たた)えているのは、私に対する期待からなのか、それとも、どうせ取るに足らぬものと(あなど)っているからなのか。


「異世界の、日本という国から来たということだが。その『広報』というのは、どういった概念なのだ?」


 書記官――日本でいう官僚のような職位――の白い正装を身にまとい、金髪にエメラルドグリーンの瞳を持つ中性的な美青年、もとい、私の上長は、私の一挙手一投足いっきょしゅいとうそくを不安な面持ちで見守っている。


(はい、すみません、失敗しないようになんとか答えます)


 上長の視線に、そう心の中で応答しつつ。私は覚悟を決めて、皇帝陛下の問いに答えた。


「広報とは、組織が社会や人との関係性を良くするために、さまざまな情報を広く報じることを指しています。そしてそれを行う、専門的なスキルを持った人間のことを『広報担当者』と、私の国では呼んでいます」


 皇帝陛下は、興味を引かれたように、じっと私の顔を見た。あまりの重圧に、目をそらしてしまいそうになる。でも、「頑張れ自分、そらしたら打首」と必死に言い聞かせ、やっとやっとで前を向き続けた。


「面白い。その『広報のプロ』であるそなたが、余に指導をしてくださる、ということらしいな」

 

 ――そう、広報代理店の底辺社員、超ド級のあがり症且つ人見知りのこの私が、なんと皇帝陛下付きの広報官に任命されてしまったのだ。



 声を大にして叫びたい。一体どうしてこうなった!

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