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異界球宴 7色魔球の龍人投手  作者: 田中彼方
歴史の始まり シニア1年目
7/7

虐殺

投稿ペース落とします

9点入った、しかしまだワンアウトしかとれていない、、、




打線は止まらない















うちのチームの打撃練習はピッチャーの球をひたすらバッターが打ち込んでいくという、ピッチャーに対して、非常に厳しい内容となっている。これによって、僕は鍛えられ、球速を上げ、変化球を覚えてと進化してきたわけたが、この練習、まあストレスが貯まるわけだ。

 そのなかでも、一番戦いたくないバッター、それは天才スラッガーの大道寺でも、キャプテンの松本さんでもない。


 天月 詩 だ。


 基本的にバッテリーを組んでいるため、あまり彼女と対峙する機会は少ないが、こいつはマジでイライラする。おそらくだけど、天月は目が異常にいい。それは、純粋な動体視力もだけど、観察力もえげつない。

 例えば、嘘をついたときの動作、僕は何度か練習をサボるために嘘をついたが全て見破られた。あと、ジャンケンがメチャクチャ強く、練習後、ジュースを賭けての勝負では、20連敗中。僕はなんらかの生得的な能力じゃないかと疑っているが、恐ろしいほどの観察力を持っている。


 それは勿論野球でも発揮され、全力の「 ACCEL」すらコースを読まれて綺麗にヒットにされる。大道寺よりも、三振を取りにくいバッター、それが天月だ。


 だから、僕は相手の飛蝗蟲人のピッチャーに同情する。せめて、一球で仕留めてもらえたらいいね、、、と。


案の定、そんな優しい現実が訪れるはずもなく、天月は速球も変化球もカットしまくって、十球目のフォアボールでやっと一塁まで進んだ。おそらく、変化球の種類も変化量も癖もほぽ全て盗まれている。一番打者としては最大限役割を果たし、一塁コーチに得た情報と分析を伝える天月。ピッチャーにとって、粘ってきて出塁する一番打者はメチャクチャ厄介だ。初球からテンポが悪くなるし、純粋に疲れも溜まる。

 「人の嫌がることをするのがスポーツの真骨頂」を座右の銘にする天月の性格は最悪だと思う。


敵のピッチャーは中型蟲人の飛蝗で三年生の右腕、強靭な足腰とよくしなる腕、そして蟲人の一番の特徴である頑丈さを持つまあまあいいピッチャーだ。

 ストレートは155km前後で、変化球はスライダーのみ、蟲人は指先が器用ではないので多くの変化球しか投げれない。勿論、魔力量が少ないので魔球も使えない。




 犬獣人は野球選手として非常に優れた才能を持つ。狩猟に特化して進化してきたため、優れた動体視力、並外れた体力、全種族の中でもトップクラスの俊足を誇る。唯一の弱点と言えるのは魔法に対する適正、しかし今回の相手は魔球は使えない。


 明石さんは犬獣人の中でも特に身体能力に優れるドーベルマン系、男子の中でも引けを取らないパワーとチーム1のスピードを持っている。だから、この強打の爆弾シニアで二番という好打順を勝ち取った。更に守備力も爆弾シニアトップであり、投手からすると非常に頼りになる存在だ。


「よーし、打ってくるわ。輪堂、初打席だからって気張り過ぎんなよ。おい、二年、三年、後輩が2年ぶりの初回三者凡退をやってくれてんだから、あたしたちが援護するぞー」


そして、姉御肌でリーダーシップがあり、なおかつスタイルのいい野性味溢れる美人だ。


「明石さん、張り切りすぎないでいいっすよ。僕がホームラン打つんで。」


「言ったな、輪堂、あたし走んないからな。お前の初打席初ホームラン楽しみにしてるぜ。」


そして、僕の傲慢ともとれる発言にも嫌な顔ひとつしない人格者でもある。あと、これは天月が言ってたけど、メチャクチャ女にモテるらしい。今日も地方大会1回戦なのにおそらくファンと思われるお姉さまがたがスタンドに30人ほどいる。


「「優子さま~頑張って~」」


響き渡る黄色い声にちらりと振り向いて、ヒラヒラと手をふる様は、確かに絵になっていて、格好いい。


 ただ、可哀想なのは男子陣である。


「あいつ、スゲーモテるよな。要らないなら分けてほしいわ。」


「お前ら、応援とかきたー?おれは、、ゼロ。」


「ワイも~」


「僕も~」


「俺も~」


「お前ら、グチグチ文句言わずに集中しろ。生半可な気持ちだと負けるぞ。」


「おいおい、中山~、嘘つくなよ。お前、昨日ロッカールームで彼女ほしいってボソッていってたやんけ。」


「そうだ、そうだ。そもそもお前キャプテンなるときの公約、女子マネとチアの導入だったじゃねえか?」


「僕は真剣にモテるために野球やってるんだ。お前らみたいな一過性のモテたい奴らとは格が違うんだよ。集中して、女子を連れてくる方法を考えろ。」


「、、、」


「、、、」


 中山さんは野球部のキャプテンで5番を打ち、イケメンだし、リーダーシップもある。それでもモテず、同じ中学校の明石さんにファンを吸い上げられてるのはこの残念な感じが原因だと思う。


 男子ベンチがお通夜になっているなか、応援の力もあったのか、あっさり明石さんはヒットを打ち、ノーアウト一二塁。普通の高校だったら送りバントでランナーを二、三塁に進めて、フォースアウトになるのを防ぐところだが、爆弾シニアではそんなことはしない。強行だ。打てる確率の方が高いんだからバントでアウトを献上する必要はない。


 応援もなにもない地方大会の一回戦だけど僕の記念すべき初打席がやってきた。打席に入る前に確認するのはピッチャーの情報。一年生ながらうちのチームのブレインである天月はSNSで野球関係のネットワークを構築していて、大抵の情報は彼女から得られる。

 今回の相手は、男、飛蝗蟲人、2年生、右腕でMaxは162km、身長は179cm、使える変化球はカーブとスライダーの間のような球とストレート。体が頑丈でかなりの球数を投げられるし、まあ悪くないピッチャーだ。ただ、爆弾シニアを抑えられる程ではない。そして、十球投げさせた天月によると、今日の調子は悪くないが高めのストレートがあまりコントロールてきていないので低めに集めている傾向があるらしい。


「リンちゃーん、頑張ってねぇ~。僕まで繋いでくれたらダイジョ~ブだから。」


空気読めない天才大道寺が何か言っているが、この天才輪堂英栖の初打席、もちろん狙うのはホームランだ。


さあこい


「デッドボール」


、、、、、、どうやら相手のピッチャーは2人もランナーを出してしまい、制球が乱れたようだ。受けた背中には鱗があるので、そこまで痛くはないしプレイにも支障はない。


僕の輝かしき野球人生(1年)は投手としては初球ヒット、打者としてはデッドボール、なかなか前途多難かもしれない。


 そして、相手の打者が迎えたのは天才大道寺元。ノーアウト満塁である。絶望的だ。僕だったら押し出しでも敬遠するが、大道寺は初公式戦の1年生、そして後に控える熊獣人や犀獣人、蟷螂獣人など大型系の上級生に比べれば、まだ与しやすいような気がするし、多分逃げ気味で勝負するだろう。


その予感は的中し、快音がグラウンドに響く。打った瞬間にそうとわかる強い当たり、外角の低め、それもストライクゾーンの外の球に、下から掬い上げるようなアッパースイング。全身の力を綺麗に伝えてミートした球は小さな野球のフェンスを乗り越えて、空の彼方へ消えていった。


 初打席初球で満塁場外ホームラン、大道寺元の伝説はここから幕をあける。圧倒的な身体能力と、それを完全に活かしきる技術に、天才特有のいい意味で鈍感なメンタル、そして運とタイミング、天才はやはりナニかを持っているなと痛感しながらベースを回る。


ここから打線は止まらない。


 5番中山さんが、動揺して甘く入った高めのストレート軽くホームランにして1点追加。6番と7番をフォアボールで歩かせてしまったところで、ようやくピッチャー交代。「ACCEL」を使えるエルフのピッチャーが出てきて、8番の犀獣人、林さんは170kmの「ACCEL」に打ち取られたが、9番の市川さんもピッチャーと同じくエルフ、風魔法への感応性は高く、ACCELをしっかり読んで打っていく。種族柄、筋肉はつきにくいが、鍛え上げられたミート力であっさりACCELを打ち返し、タイムリーヒット、6-0で一死一、三塁、打順は一周して天月に回る。


「じゃあ、ちょっととどめ刺してきます。」


と不穏なことを言ってバットを手に取る天月。


天月は女子でヒューマンなのでパワーに恵まれない。中1で163cmと背はかなり高いし、動作が綺麗なのでスローイングも早くて正確だが、どうしても瞬発的な力は男子、大型種族には見劣りする。そんな天月が長打を打つとき、それは完璧に狙いすまして、綺麗にバットの芯で捉えたときだ。ピッチャーは交代したばっかりなのでACCELを使うことくらいしかわかってないが、キャッチャーのリードはもう40球以上見ている。


「見れば、大体何をしたいかわかる。」

という天才的な頭脳を持つ天月ならキャッチャーの思考くらいもう読みきっているはずだ。

 初球は外に外れた遅いストレート、2球目はど真ん中に落ちていくカーブ、天月はピクリとも動かない。多分、あいつの狙いは「ACCEL」だ。金属バットはかなりの反発力があるため、170km近い速球をしっかり捉えたら女子の力でもホームランにできる。


 ツーボールノーストライク、フォアボールで出しても、どうせ打者の脅威度は変わらないし、天月は後ろに控える大型系よりはまだなんとかなりそうだ。ここはあえて強気にインハイのACCELで相手を仰け反らせよう、なんてことを考えていたんだろうなあ、と思いながら打ち上がったボールを眺める。体を開き、肘を折り畳む。監督が調整してくれた最も効率的な体勢で完璧にバットを合わせる。自分の力で引っ張るのではなく、球の勢いを利用するかのような見事な打ち方。大道寺のように場外とまではいかないが、文句のつけようのない綺麗なホームラン。3点追加して9-0、そして相手チームの心が完全に折れた瞬間だった。



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