成長
僕が爆弾シニアに入って3ヶ月たった。
野球は思ったよりも楽しいかもしれない。
まず、バッティング、これはマジで楽しい。
監督の名前すら誰も知らないけど、監督は天才的な指導者だ。僕と一緒に入団した運動神経セロの小太り少年なんか、ホームランを打てるようになったし、二年、三年と所属してるはずの先輩たちすら、明らかに3ヶ月前よりバッティングが上手くなってる。人間現金なもんで、上手くなってるってはっきりわかったら練習にも身が入るし、それで更に上手くなって練習を頑張るという好循環ができている。
僕?
僕はもう打撃ではチームでも5番目の実力だ。つまり、ピッチャー関係なく試合に出れる。守備なんて誰がやってもザルなんだから打撃が上手い奴からレギュラーになるのだ。
そして、何より嬉しく、また悔しいのが僕でも敵わない選手がいること。今までは何をやっても圧倒的に一番で、「才能があるだけ」 なんて言葉を浴びせかけられることもあったが、このチームは僕よりも明らかに上手いやつがいる。世間は広いということだろう。
僕より打撃に秀でているのは四人、二年の松本さんと三年の中山さん、この二人は圧倒的にやっている時間が長い。リトル(小学生)から監督の指導を受け、もう7年以上打撃練習ばっかりしてる。上級生で体もでかいし、まあそんなもんかなって感じ。けどこの人たちは多分、半年もすれば抜ける。僕は自称だけど天才だ。運動、魔法系で負けたことはほとんど無いし、成長速度や器用さは僕の方が上だ。
ただ、二人僕よりも才能がある奴がいる。
一人はあの女、天月だ。あいつは、女だしヒューマンなのでパワーこそ、うちのチームの平均くらいだが(それでも十分すごい)、ミート力、バットにボールを当てる能力がずば抜けている。
本人いわく、見てたら、投げてくるコースくらいならわかる。あとは自分の体をコントロールするだけで打てると言っていたが訳がわからない。この前の練習試合なんか狙って敵の守備の空いている所にボールを落として、たいした当たりでもないのに全打席出塁していた。あそこまで狙いを絞って思う通りにボールを落とすことは僕にはまず、無理だ。
そして、初めてあった僕以外の本物の天才、
そいつの名は大道寺 元という。
大道寺は初日からヤバかった。
「モゾモゾ」
「ウェーイ、これめっちゃ飛ぶじゃん。」
「モゾモゾ」
「なるほどね、確かにそうやったら当たり易いっすわ。」
「モゾモゾ」
「これで合ってる?ちょい良くなった?」
監督がアドバイスをする度にフォームを修正し、僅か十分で、素人目でもわかる綺麗なフォームを完成させた。打たせたら、どの練習でも柵越えを連発し、ミート力も抜群。一週間もすれば二年の松本さんと三年の中山さんすら抜かし、そして細かいところを修正しながら更にその能力に磨きをかけている。
「よう、りんちゃん、今日もバッピしてや。わしゃ打撃開眼したぜい。」
「バッピじゃない、、。真剣勝負だ。今日こそお前を打ち取ってやる。」
バッピとはバッティングピッチャーの略、ようはバッターの調子を整えるために打たせるピッチャーのことだ。僕はこいつにバッピ呼ばわりされているが、
カキーン
「ヒャッハー、ホームラーン。りんちゃん乙ー、まった来週ー」
実際全く打ち取れない。三割ホームランを打たれ、三割外野の間を抜かれ、四割内野ゴロを打たせるが、内野守備は壊滅なので実質打率十割である。奴の嗅覚と反射神経は異常だ。通常の投球では三振をとるのは不可能と言っても良い。
最近は天月と一緒に練習し、魔法系の変化球を身に付けたが、最初の数球こそ空振りをとれたが、そのうち会わせられるようになった。龍人のポテンシャルですら、奴の才能を越えられない。あの悪辣非道かつ唯我独尊の天月ですら
「えっ、嘘!今のリードと変化球で打たれるの?!一体どうなってんのよ。」
と、珍しく動揺していた。大道寺の種族は魔人と虎獣人のハーフである。運動神経とバネ、そして一瞬のパワーと本能的な勘に、魔法系の変化球に対応できる魔力感応性と魔人ならではの強靭な精神力。フィジカルとメンタルを併せ持つ怪物、それが大道寺 元だ。
間違いなく、世代最強クラスのバッター。そんな相手と公式戦で戦わなくていいこと、そして練習でいつでも戦えること、これはひょっとしなくても、かなりの幸運なのかもしれない。(生きのいい玩具として遊ばれているが)
ちなみにだが大道寺の守備もまたザルである。
最初のキャッチボールではいいキャッチと強肩を見せつけ、ダッシュ系の瞬発力や動体視力もかなりいいので、遊撃手(二塁と三塁の間の守備、投げる動作や急反転が多いので最も上手い選手が守ることが多い)として、期待されていたが、運動神経が良いから打球はキャッチできるものの、ポロポロこぼすし、一塁への送球も雑かつ豪速球。暴投で進塁されるので、普通に内野を抜けた行った方がましという感じである。
本人いわく、パワーを制御できないのは大体どの競技でも一緒であり、モゴモゴ監督のお陰でバッティングは開眼したけど、守備はわからないという話だ。多分、いい指導者がいれば何でも上手くなる素材型の天才なんだろう。
僕は逆に何でもすぐコツをつかんで上達するけど、肉体や集中力の上限はまだ鍛えられていない、センス型の天才だ。少なくとも、監督の指導があるかぎり、僕のバッティングは大道寺に及ばないだろう。
ちなみのちなみにだけど、僕は守備も軽ーく練習したらなんとなくわかったし、天月にルールを叩き込まれて、判断も早いので多分守備は1、2番目に上手い。(ピッチャーなのに。)
ピッチャーじゃないときは二塁を守っている。
大道寺はその反射神経を活かすため、あまり投げなくていい一塁手に配置されている。ポロリこそ多いが、暴投を無理矢理、捕ることができるので、差し引きギリギリプラスといった感じだ。
そして、肝心のピッチングだが、これはかなり進歩したと思う。
まず、大事なのは勿論球速である。テレビとかでもよくMax何kmの豪腕とか言ってるのでわかるように投手を測る最もポピュラーな基準である。速ければ速いほど打ちにくくなり、当てられてもパワーがあるため、飛びづらくなり、そして、Maxが速いほど変化球で大きな緩急をつけられる。
まあ、基本的に速ければ速いほどいいっていう訳だ。僕の球速は最速173km、一試合を通して投げたら平均は150kmほどである。これは速いか遅いかでいったらそこそこ速い方らしい。
ちなみにZIPANGの中学公式最速記録は197km、高校は220kmそしてプロでは236km、これだけ聞いたら 173?輪堂カスイじゃんと思うかも知れないが、これには少しカラクリがある。
最速の意味っていうのは種族によってかなり変わるのだ。
例えば、象やキリン、熊などの大型獣人、カマキリやカブトムシなどの大型蟲人、巨人などフィジカルに特化した種族。彼らはスタミナもあり、その膂力を活かしたパワーボールを多く投げてくるが、最速と平均の速度にあまり差はない。全力で投げてもあまり球速は伸びないのだ。肉体の限界を破るのは容易ではない。
一方、エルフや魔人など体格にあまり恵まれていないが、魔法を使うことに秀でた種族。彼らは普通に投げたらフィジカル系の種族よりかなり遅い球速しかでない。しかし、魔法を使うとその球速は逆転する。魔力を込めれば込めるだけ、その魔法の威力は増す。一番オーソドックスな風魔法による加速は一流のエルフだと20~40kmにも及ぶと言われており、肉体的なハンデは軽々と超越される。ただし、魔力は体力よりも持たない。全力で投げる分、消耗が速いのだ。そのため、最速と平均速度の間には大きな隔たりがある。
大雑把にいうと、体力があり平均的に速い球を投げる物理的型と、一発一発が速いがその分消耗が激しくなる魔法型といった感じだ。
龍人はどちらにも分類されない。あえていうなら併用型である。フィジカルにもかなり優れ、魔力と魔法を操る能力も持つため、両方のいいとこ取りをした感じだ。(ヒューマンはどっちも中途半端であり、龍人の下位互換と言われる。)
魔人と獣人のハーフとかだと稀に両方に優れたものが現れるが、基本的にどちらかの特徴を受け継ぐことが多いので、この併用型はなかなか見ることがない。
つまり、僕は魔球を投げられるのだ。
とは言っても今は一種類だけだが、、、
風魔法により投げているボールを加速させる最も有名で最も使われる魔球「 ACCEL」である。
これを使って全力で加速した球が173km、魔法抜きなら159kmなので10kmちょっとの加速である。
魔法は苦手ではないが、風魔法はエルフのお家芸であり、彼らほどの加速はしないが、まあそこそこ使える。ストライクゾーン内での魔法干渉は禁止されているので、バッターの目の前で加速させるのは難しいが、途中までの加速でも普通の球との緩急の差でかなり厄介である。
大道寺からでもそれなりの確率で三振が取れる
のがそのことを証明している。
ただ、僕の今の魔法技術だと一試合で十球ちょっと投げたら魔力が枯渇してしまうため、使いどころを選ぶ必要がある。
物理的な変化球で投げれるのは3つ、僕は両利きなので右では150kmくらいのスピードでそこそこ落ちるカーブ(右から左へ曲がりながら落ちる)とチェンジアップ(ストレートと同じフォームで球速が遅い)
左ではスライダー(左から右へ曲がり少し落ちる)が投げられる。
初めて3ヶ月ではそもそも狙ったところに投げることすら難しいので(特に爆弾シニアでは)3つの物理変化球と魔球を覚えて、球速もそこそこ出るようになった僕はやはり、天才らしい。天月も魔球投げたときは喜んで抱きついてきた。役得、、いや、ゲフンゲフン何でもない。
そして、入学から3ヶ月経ち、今は7月。
僕にとって初めてのシニア全国大会「全中大会」が幕をあける。
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