096 カニ強し
「カニカニカニ! 小娘、ふたりで我らをどうにかできるとでも!?」
なんか緊張感に欠ける見た目と喋り方だなぁ。
「小娘かどうか自分で体験しな!」
シェイミが全身を使ってフライングディスクを投擲する。
アタシは犬と遊ぶ玩具ってイメージが強いけど、あれは実際にはボタンを押しながら投げると刃が飛び出して敵を切り裂くっていう凶悪な武器らしい。
フライングディスクは真横からガニンガーの1体に当たるけれど、ギィンと弾かれる。
「チィッ! 硬い!」
シェイミは紐を手繰り寄せてディスクを回収する。
「それでお終いカニか!?」
「そんなわけない!」
シェイミは短剣を取り出すけれど、さっきのフライングディスクより攻撃力があるとはとても思えない。
「どうやら私たちがやるしかないね。レディー」
「ああ! わかってる!」
カニの頭も硬そうだけれど、下側の人間の身体も甲殻に覆われているらしい。
シェイミの攻撃で破けた服の下から、アタシたちとは違う皮膚が見えている。
マイザーやダルハイドさんも、この硬い身体に苦戦しているみたいだけれど、ユーデスの魔力の刃なら話は別のはずだ。
「行くよ!」
アタシがユーデスを振るうと、自分の防御力に自信のあるガニンガーは腕で止めようとしてくる。
「ガニ?!」
斬り払うと、ガニンガーの甲羅の一部が砕け散った。
「こ、この女! ただ者じゃないガニ!!」
「そうだ! 逃げるなら今のうちだぞ……って、うあッ!?」
ダメージを与えたハズなのに、ガニンガーは怯むことなく攻撃してくる!
それも手に持った竹槍を振り回すだけじゃなく、頭についた鋏と脚(?)も使って攻撃してくる! これって飾りとかじゃないの!?
「そりゃそりゃそりゃ!!」
攻撃回数が多い!
こっちはユーデス1本しかないのに!
しかも毒液もいつ吐き出されるかも警戒しないといけない!
「なんだそれは! 卑怯だぞ!」
「なにが卑怯か! これぞガニンガー流殺法! “乱れガニ”…カニィ!!」
そのまんまじゃん!
しかも、敵は複数…人数も多いし、手数も多い!
「こ、コイツら強…! グアアッ!」
横目に、マイザーの肩にガニンガーの竹槍が突き刺さるのが見える。
「よし! 今カニニィ!」
マイザーの肩に槍を突き刺したガニンガーはガッツポーズをとって、何を思ったか槍の端に排水口ゴムみたいな口を付ける。
「な、なにッ!?」
ジュルルルルルッ!!
「ぎゃああッ!」
「マイザー! おのれぃ!!」
ダルハイドさんが助けに入って、そのガニンガーは素早くバックステップで逃れる。
「大丈夫か!?」
「す、すまねぇ…。信じられねぇ。血を吸われた」
え? 血を吸う?
「そうカニ! これぞ“カニ吸い”! 貴様らの体液を、この“口吻槍”でチュルチュル吸って干物にしてやるでカニィ!!」
その武器って単なる竹槍じゃないってこと? 吸引用のストローみたいな感じなわけ?
い、イヤすぎる攻撃だ……
「う、ウィルテ! トレーナさん!」
そうだ。アタシや魔法なら遠距離で…
「にゃ、にゃー。コイツら! 炎を恐れにゃいにゃ!」
ウィルテが維持し続けている炎の壁に向かって、ガニンガーたちは槍で海水を吸って吹きかけて消火しようとしている!
コイツら応用力高すぎじゃね?
「かといって、私の水魔法は水生種族には効果が薄いわ。ウィルテは雷撃系魔法は?」
「使えるけど…広範囲のは無理にゃ…」
え? ならまともに戦えるのアタシだけ…
「…絶望的なことを言っていいのなら、もうひとつあるわ」
トレーナさんの顔がさっきから青ざめている。
正直言って、もう聞きたくない。
「このガニンガーたち…軒並み私たちよりレベルが高いわ」
は? なら、最初から勝ち目ないじゃん。
逃げるったって、アイジャールさんたちも足止めくっているし。
もしかして、これ詰んだんじゃね?
大陸に初上陸してこれ?
しかも見た目も喋り方もふざけてるとしか思えないカニ人間どもにフルボッコにされて全滅?
「そんなのイヤだー!!」
アタシが叫ぶと、時計灯台の方から何かが飛んできた。
「待て待て待てぇいー!」
アタシらの上空でピタッと止まると、その何かは野太い声を張り上げる。
「鎮まりたまへ!! 鎮まりたまへ!! 我輩の愛する町で好き勝手は許さんッッッ!!!」
……あれ? これ、どっかで聞いたようなフレーズなんですけど。




