095 カニがせめてきたぞっ
どこからどう見てもカニだ。
それも海で見る黒い甲羅じゃなく、ボイルされた時のような鮮やかな赤色をしたカニだ。
カニの魔物は確かにいてもおかしくはない。ファンタジー系のゲームにザコ敵でも出てくる。定番といってもいい。
けど、アタシの眼に見えているのはなんか違う。人間の頭の部分がカニになった奇妙な生き物だ。
そんなカニ人間が、竹槍みたいな物を持って人間に襲いかかっている。
「魔物?」
「いや、あれは亜人にゃ。魚人族の一種、“ガニンガー”にゃ」
亜人…ガニンガー?
いや、どう見ても異形の魔物にしか…
「魔物の襲来じゃなかったから、町への侵入を簡単に許してしまったわけか。おかしいね。普段は大人しい種族なんだけど」
シェイミがそう言う。
キャッティのウィルテと、コボルトのシェイミがそう言うんだから、あのカニ頭も亜人なんだろうけど……うーん、なんか腑に落ちない。
「話し合いは無理そうじゃな」
「ああ。アイツらイキリ立ってやがるぜ」
「真っ赤になってるもんね」
え? トレーナさんが聞き捨てならないことを言った。赤くなっているの怒ってるからなの?
「口から吐出す毒液に注意せい」
「毒!? 毒吐くの!? 毒舌とかじゃなく? って、そもそも口はどこなのよ?」
「真ん中にある丸いヤツがそうにゃ」
「真ん中…胴体の?」
「胴体? なにを言ってるにゃ。頭の真ん中にゃ」
どうしよう。微妙に話が合わない。
アタシが言っているのはカニの方の胴体なんだけど…
あれ?
あそこってたしか三角形の形をした“ふんどし”とかいう部分じゃなかったっけ?
メスだと卵を抱える部位で、前の世界の父さんが「うめぇうめぇ」って食べていた記憶が……
でも、ガニンガーにはそれはなく、排水口のゴムカバーみたいなのがくっついている。
「ガニガニ! 新手ガニ!!」
「船だガニ! 外部から船が到着したガニ!!」
語尾が“ガニ”?
いや、でも排水口のゴムみたいなのがパカパカ動いてたから…あそこが口?
あれあれ? でも、カニの口って、確か目玉のすぐ側で、なんか複雑な形をして常にモゴモゴ動いてる気が……いや、ガニンガーもモゴモゴ動いてるけど、じゃあアレはなんなのよ?!
「レディー! なにボサッとしてやがる! 来るぞ!!」
「え? は?!」
マイザーたちはすでにタラップを降ろして、迫りくるガニンガーたちと戦い始めていた。
かなり数が多い! ザッと見ただけでも10体はいる!
「桟橋で戦うのは不利じゃ! 海中に引きずり込まれたら勝てんぞ!」
やっぱり見た目通り、海の中の方が強いのか。
「まずは歩みを止めるにゃ! トレーナ!」
「了解!」
「【フレイム・ウォール】」「【ウォーター・ウォール】」
おお、ウィルテとトレーナーさんがそれぞれ魔法の壁を作った!
真ん中だけ空いた、逆“ハ”の字に、左に炎、右に水の壁が現れて、陸地から来ていたガニンガーたちを阻んだ!
「これで正面に集中して攻めてくる! 風穴ぶち開けて、退路確保だ!!」
「このバカ! こっちにだけ集めるために、わざと壁作ったんだろ!」
「あ…」
シェイミに怒られて、マイザーが眼を左右に揺らす。
ダルハイドさんとマイザーはそのまま正面に、アタシはシェイミと炎の壁の方へと向かう。
「ぬぁあああッ!」
ダルハイドさんがガニンガーをまとめて数体薙ぎ払った。いや、力技だなぁ、凄い。
「今だ! やれぃ!」
「あいよにゃ!」
ウィルテが炎の壁を前へと動かす。
「う、動かせるんですか!?」
ウィルテの腰にしがみついているギグくんがビックリしている。
「まあ、ウィルテは天才だからにゃ!」
炎の壁が前に押し出されたことで、ガニンガーたちは戸惑う。
「今です! 皆さん、こっちから!」
アイジャールさんたちが、炎の壁が動いた隙間の横を通り抜けて行く。
「ガニー! ヒューマンどもがあっちから逃げるガニ!!」
ガニンガーたちは炎の壁と水の壁の間に集まっていたんで、慌てて迂回しようとするけれど、ここでアタシとシェイミの手番だ!
「行かせないよ! アタシら…」
「カルテットパイパイが相手だ!」
え? その話、まだ続いていたの?




