094 大陸へ到着! 時計灯台の町コルダール
3週間に及ぶ航海を終えて、ようやく大陸リヴァンティズが見えてくる。
「あー、あれが重なりの塔ってやつかな?」
大陸の中央にそびえ立つ塔を指差してウィルテに尋ねる。
「あれは違うにゃ。もっと右側の、山の向こうで…雲がかってて今日は見えないにゃ」
「なら、あの建物は…」
「コルダールの時計灯台にゃ」
「時計灯台?」
「なんにゃ。レディー。灯台も知らんのかにゃ?」
「いや、それくらいは知ってるけど……ああやって煙をボウボウ焚くもんなの?」
「煙?」
ウィルテが首を傾げる。
灯台からは黒煙が吹き上げていて…あ、いまボンと爆発した。
この世界の灯台って変わっているなぁ〜。爆発するんだ。
「にゃ! なんかおかしいにゃ!」
「え?」
「お、おい! なんか町の至るところで火の手が上がってるぞ!」
船尾の方にいたマイザーが走って来て言う。
「あそこの光は魔法でしょうか? なら、なにかの攻撃を受けているんじゃ…」
ギグくんが真っ青な顔で舷墻を強く掴んでいた。
「まさか魔物の…」
「まさしく可能性が高いにゃ」
「待ってよ! なら、このまま着いたらアタシたちも危ないんじゃ…」
それにこの船には、アタシらレンジャー以外も…
「イヤだー!! 死にたくなーい!!」
ブーコのオッサンが、泣き叫んでマストに抱きついている。
「ヤンス! 一旦、船を止めて…」
「無理でヤンス! ここまで来てしまったら、魔浮標じゃなく港そのもの…灯台から放たれる魔力に引き寄せられて船は進むんでヤンス! 衝突を避けるために勝手には方向転換できないんでヤンスよぉ!」
船員たちが懸命に舵輪を掴んで操作しようとしているけど、ビクともしていない。
「なら…」
「到着して早々だが、戦う覚悟をせねばならんな」
ダルハイドさんが大剣を抜いて構える。
「マイザー、シェイミ。今は…」
「わーってる」「戦う時は別だよ」
仲違いしているけど、2人はプロのレンジャー……あれ? でも目線を少しも合わせてない。
「ハァー」
トレーナさんが深くため息をつく。
「にゃ。小僧は、ウィルテとレディーから離れにゃい事にゃ」
「は、はい」
「えっと、アイジャールさんたち、戦えない人は…」
「ワシらが大暴れして敵を引きつければいい。その間に避難はできよう」
「そんな簡単にいくもの?」
「やってもらう他ない。この人数を守る余裕はないぞい」
冷たいとは思ったけれど、ダルハイドさんの言うことはもっともだ。アタシらの人数だけじゃどうしようもない。
「わたくしたちは大丈夫。戦火は全域には及んで無い様ですし、皆を連れて上手いこと逃げますわ」
「そうじゃ! 気にするでない!」「ワシらもそこそこ戦えるわーい!」
リリーララーばあさん…下手な魔物より強そうだし、任せて大丈夫だと信じよう。
「ヤンス。エムドエズとブーコのオッサンの拘束を解いて」
「え? でも…」
「いいから。このままじゃ危ないし」
船員たちは渋々といった感じに、縛られていた2人を自由にする。
「吾輩は…」
「変態でも戦えるならいい。この船…いや、船員たちが大事ならアンタも戦って! 無駄に鍛えた筋肉いま活用しないでいつ使うの!」
「う、うむ」
「わ、私は戦えないんだけど…」
「ブーコのおっさんは、アイジャールさんと一緒に逃げて。堂々と振る舞って皆を安心させてよ」
「安心ったって…」
「探偵ってそういうもんでしょ。事件を解決って皆を安心させるのが仕事じゃん」
我ながらこじつけ感が強いなぁと思いながら言ったんだけど、ブーコのオッサンは特になにも言い返さなかった。
「敵の正体も規模も不明だ。交戦しつつ、情報を集め、ワシらはコルダールのギルド本部へと真っ直ぐに向かうぞ」
ダルハイドさんは、なぜかチラッとエムドエズを見てからそう言う。
「潰されてたらどうするにゃ?」
「そこは大丈夫だろう。見ろ」
ダルハイドさんは町中を指差す。
「一見、内部まで進行されてるように見えるが、内部に幾つもの頑強なバリケードがあり、町そのものが迷路のように入り組んだ造りになっとる。そして住宅区画の手前側でしばらくは持ち堪えられる」
煙が上がっている地点をダルハイドさんは次から次へと指差して、まるで線を描くようになぞる。
「あの“男”が指揮を執っておるなら、そう簡単には落ちんわい」
あの男…って、どの男だろう?
そんなことを考えている間に、船は湾内へ入港して行く。
港では多くの人たちが魔物と戦っているのが見えた。
そして魔物の姿を見て、アタシは唖然とする。
「あれってカニじゃん!!!」




