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090 船の上で訓練

 穏やかな太陽の光、爽やかな海風が気持ちがいい。


 アタシは上甲板で、双剣を構えたマイザーと、大剣を担いだダルハイドさんと対峙する。


「シャィッ!!」


 マイザーが突っ込んでくるけれど、これはアタシの攻撃を誘うための罠。


 聖騎士ってヤツはやけに防御力が高いらしい。それを活かした、肉を斬らせて骨を断つ戦法を得意とする…ということを教えてくれたのはダルハイドさんだ。


「マイザー! 魔力の刃が来るぞい!」


「は!? 溜めなしで撃てるのかよ!?」


「【魔衝激】!!」


 ユーデスから魔力が波状の刃となって放たれる!


「範囲広ぇよ! 避けられねぇ!!」


「考えなしに吶喊するからだ。ぬぅん! 【亀甲楯】!」


 ダルハイドさんが大剣を横に構え、魔力で盾を生み出す。


 重戦士に見えて、実は重装僧兵。自ら攻撃したり防御したりするより、仲間のサポートに回る方が得意らしい。


「あ! 食い止められちゃう!」


「大丈夫。あの程度なら突き破るよ」


 ユーデスはそう言うけど、あの亀の甲羅みたいなのかなり硬そうだよ……


「ぬうぅんん!! な…なんという重さよッ!!」


 魔力の刃を受けて、ダルハイドさんが後退る。


「ダルハイド! 弱まってないわ! 砕かれるわよ!」


 側で見ていたトレーナさんが声を上げた。


「こ、これはたまらんわい!!」


「……このままじゃ2人とも吹っ飛ばして海に落としちゃうね。解除しようか」


 ユーデスが魔力を消す。本人曰く、こういったコントロールはお手の物らしい。


「き、消えた…」

 

 ダルハイドさんが片膝を付く。


「こなくそッ! 近接で攻め立てりゃどうだ!!」

 

 マイザーが近づいて攻撃してくるけど、ユーデスは鼻歌まじりにいなす。


 アタシが意識的に戦うこともあるけれど、今は脱力してユーデスの流す魔力に合わせて動かす。


「2本の武器が使い慣れてないの見え見えだよ。レディー。こういう手合いは利き手を潰すとボロを出すよ」


 ユーデスが攻撃の軌道を急激に変え、マイザーの右手の剣を弾き飛ばす。


「く、クソッ!」


 ユーデスの言った通りで、左手か右手に剣を持ち替えようとしているけれどユーデスがそれを許さない。


 何度か斬り結んだ後、マイザーの首筋にピタッと剣先が突き付けられる。


「アタシの勝ち、だね」


「あ、ああ…。参った」


 あんまアタシが勝った気はしない。ユーデスがほとんど戦ってたんだし。彼が言うには、魔路拡も含め、アタシとユーデスの同調力を強めるにはこういった訓練も必要なんだそうだ。


「……最初よりマシになったけれど、まだ反応速度が鈍い」


 かなり上等に戦えていたと思うけど、ユーデスには不満みたいだ。


 魔力の刃を一発出すのがせいぜいだったり、戦えても暴走したりするよりは大分よくなったと思うけど。


 まあ、確かにリビングアーマーと戦った時のような一体感や軽快さは消えてしまっていた。


 あれが本来の状態なのだとしたら確かに程遠いかな。


 フィーリーの治療を受けられれば…と一瞬思ってしまったけれど、正直いくら強くなれても、あんな地獄を再び味合うなんてゴメンだ。


 思い出したら、吐き気が込み上げてくる。


「強いのぅ。しかし、見たところ剛剣でも流剣でもない。攻撃が双方の性質を合わせ持っておる」


 そういや父さんは剛剣も流剣も同時に操れるって言ってたっけ。やっぱり凄い戦士だったんだな。


 ユーデスに任せっきりだから、アタシ自身は弱いんだけどね。


「剣士としては基礎がちゃんとしてない気がするけどよ。なんか振り方も歩法もメチャクチャだぜ」


「“聖騎士見習い”がそんなこと言っちゃう?」


 トレーナさんが笑うと、マイザーは口を尖らせて「うるせぇ」とぼやく。


「けどよ、なんか人間と戦っている気がしねぇんだよ。野生的ってのかな、猛獣とか…気配を察知して襲いかかるって感じだな」


「もしかして“狂犬”ってそこから名付けられたの?」


「いや、違うって」


 あんまり戦い方を分析されるのは具合が良くないよな。


「トレーナ。キサンの“眼”で視るとどうじゃ?」


 そういや、トレーナさんは“魔眼”なんて厨ニ病心がくすぐられる特殊技能を持っているらしい。


 敵味方のステータスを数値化して視られるらしいけど、オクルスとの一戦がなかったら、“頭がお花畑の人”とか失礼なことを思って遠巻きにしていただろう。


 マイザー・チームは、トレーナさんの魔眼があるからこそヘイト管理が上手いらしい。


 レイヴンツヴァイやクアトロアックスみたいに優れた戦績は残してはいないが、全員回復の手段を持っていて、堅実な成果を出すことからイークルギルドでは人気のあったチームだ(全部ウィルテから聞いた話だ)。


「うーん…」


 トレーナさんがアタシをジッと視る。美人に真正面から見つめられるってのもなかなか恥ずかしい。


 なんか虹彩の中で幾何学的な線が幾つも混じって動いていて、神秘的な感じがする。


「レディー。あなた、偽証魔法とか使っている?」


「ギショー魔法? そんなの使ってないよ。アタシは魔法使えないし」


「なんじゃ?」「どういうことだ?」


「ぶっちゃけ、わかんない。なんか数値が大幅変動してて、どれが正しいのか…」


 トレーナさんはお手上げのポーズを取る。


「変動って…カンストしてるってことか?」


「カンストならカンストって言うわよ。魔王クラスのオクルスだって数値化できたんだから…そうじゃなくて、2桁だと思っていたのが急に3桁台になったり…」


「そんなことがありえるのか?」


「初めてだから私も戸惑ってるんじゃないの。たぶん、レディーの持っている魔剣ユーデス…だっけ? その力なんだと思うけど…」


 ユーデスは「正解」と言って笑うけど、もちろんアタシにしか聞こえていない。


 魔眼を持っていることはユーデスも知っているから、わざと偽物の情報を与えているとか言っていた。2桁ってのはアタシ自身の能力値のことだろう。


「魔剣ねぇ〜。魔眼は生まれつきだって聞いたけど、レディーはそんな剣をどうやって手に入れたんだ?」


「ん? 実家にあったんだよ」


 マイザーは疑わしそうな眼を向けてくるけど、嘘は言っていない。


 さらに突っ込まれたら物置にあって埃を被っていたという路線で答えて、アタシの実家はニスモ島からさらに南に離れた人知れぬ小島だ。


 ここまではウィルテと口裏を合わせられる様に、だいぶ細かく話をしている。


 空中城塞エアプレイスの話はやっぱり騒ぎになるんで、よほどのことがない限りは黙っていた方がいいらしい。

 ニスモ島では名前しか知られていなかったけれど、エアプレイス“帝国”は閉鎖的な自治領だった様で他国との外交は限られた範囲しか行っておらず、神秘の国扱いらしい。


 そんな国の王家の血を引く巫女が生きてますなんて、悪いことを考えるヤツに狙われるだろう…ってのが、長いこと封印されていて、ろくすっぽ世間の情報を知らないユーデスの意見だった。


 ってか、フィーリーだよ。彼ならもっと色々知っているハズなんだ。これからも一緒の旅をするんだから、小難しくて面倒なことは後々聞けばいいや…なんて思っていた自分自身を呪う。


 今日摂取したカロリーは、明日の自分が何とかしてくれるだろうと思っていたデヴの時のまんまの無責任な思考パターンだ。よくないよね。


「魔剣と言えば、マイザー。あなたの尊敬している“勇者”様が聖剣を…」


「そうよ! 聖剣ウィライヴな!」


「勇者? 聖剣?」


 アタシが詳しく聞こうとした時、船の後ろの方で何かが転ける音がした。 

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