088 名探偵ブーコ・ヴェーディの華麗な推理③
みんなシラケムードだけど、ブーコのオッサンは諦めそうになったんで犯人探しを続ける。
「それでだ。取り敢えずは、ワシ、ギグ少年、ポルコの嫌疑は晴れたでよいか?」
「んにゃ、3人が共謀していたらって線もあるにゃ」
「ウィルテ。そこはキサンの部屋に運び込んだ大量の酒瓶こそが、何よりの証拠になろう。狭い船内とは言え、下から上へ運ぶにも、それなりの時間が掛かるものだ」
え? そんなにギグくんの荷物あんの?
アタシたちの部屋、そんなもん置いとく余剰スペースはないんですけど(アタシもウィルテも酒飲めないし)。
ちょっと、いま部屋ん中、どうなってんのよ。
「分かったにゃ。んで、ウィルテとレディーは一緒にアイジャールの部屋にいたにゃ。そこの干物2体も一緒にゃ」
リリーララーばあさんは干物扱いされて怒っている。
「私はシェイミと一緒に自分の部屋に居たわ」
「何度か食堂の方に飲み物取りに行ってるから、そこのコックに聞けば分かんよ」
シェイミは厨房の方を指差す。
マイザーは「シェイミが犯人なわけない!」とか言ってるけど、やっぱ誰も相手にしてない。
「フム。それではアリバイがないのは……」
ブーコのオッサンの目が鋭くなり、全員を順繰りに見回し、最後にマイザーで止まる。
「い、いや、待て待て! 俺だって部屋にいたし!!」
「君のアリバイの証人は?」
「いないけど! でも、だからって俺が犯人ってのは飛躍しすぎだろ! それに、まず船長の死体の発見者は誰なんだよ!?」
ヤンスが自分を指差す。
「船員!! そうだよ! 最初の発見者こそもっとも疑うべきじゃんかよ!」
「まあ、確かに……」
「アッシはやってねぇでヤンスよ!」
「そんなのわかんねぇよ! だって、見つけた直前に殺されたのかなんて、そもそもわかるもんか?! 発見者が偽装してるって可能性だってあるだろ!!」
「そ、そんなことしてねぇでヤンス!」
マイザーとヤンスが取っ組み合いをしだす。酷く見苦しい光景だ。シェイミが舌打ちしている。
「必死すぎて怪しいが、第一発見者や被害者の関係者を疑うのは基本だな。一理ある」
ってか、ブーコのオッサンは、ずっとヤンスの側にいたんだからさ。もっと前もって肝心なとこ聞いとけよと思う。
「それでヤンスくん。船長の死体を発見した時、YOUは何しに船長室に?」
ユーデスがガタガタと震えて怒っている。
「船長に呼び出されて行ったでヤンス。部屋の片付けや、食事の運搬……雑事で呼ばれることはいつものことでヤンスよ」
「部屋に入った時、何か変わったこととかに気づかなかったかね?」
「なにもなかった……でヤンス。ただ扉をノックしても返事がなかったんで。鍵は開いてたんで中に入ったら……」
「そこは鍵が掛かっていたにしておこう。それだとあまり面白くないから」
「おーい! おかしいだろ!」
思わずツッコミを入れてしまうと、ブーコのオッサンは「だって〜」とモジモジしだす。
ホント、このオッサンは! いい加減にしないとブッ飛ばすぞ!
「……コホン。それで部屋に入って、君は船長の惨殺死体を見つけて叫んだ、と?」
惨殺死体? ……まあ、ヤンスが頷いてるからそれ以上は言うまい。
「その声を聞いて、ウィルテとレディーは船長室に駆けつけたにゃ」
「うん? そちらのご婦人方は? 同じ部屋にいたんだろう?」
ブーコのオッサンは、アイジャールさんたちにビッと人差し指を向ける。
ユーデスから殺気が放たれている。なんなら、ゴゴゴっていう擬音まで聴こえてきそうだ。
「わたくしたちは占いの結果、“何かが起きた”ということは把握しておりましたから」
「占い? 把握していたとは?」
「船長さんがお亡くなりになったことですわ」
おっと、これはあんまり良くない展開じゃ……
「待ちたまえ! アイジャール女史。君はエムドエズ船長が死んでいたことを……死体も確認せずに理解していた、と?」
「だから占っていたと言っとるじゃろ。何を聞いてたんじゃ。この唐変木が」
「占いっちゅーか、予言じゃ。変えられぬ運命の死相が船長にはあったというわけじゃ。この朴念仁が」
リリーララーばあさんにこきおろされて、ブーコのオッサンは鼻水をすする。
「……フム。従業員は誰でも船長室には行けるものなのか? それとも特定の者しか出入りできんものなのか?」
ダルハイドさんが尋ねるのに、ヤンスは「基本的に誰でもウェルカムでヤンス」と答える。
「だけど、妬みや恨みだとしたら、今日初めて会ったウチらより船員の可能性は大だよな」
シェイミの言葉に、マイザーが首振り人形かって勢いで頷く。
「まあ、客の中で以前から面識があるって可能性も考えられるけどにゃ。
んにゃら、船員で船長のことを嫌っていたり、最近トラブルになっていたヤツはいるかにゃ?」
これは答えにくい質問だろうなぁ……
「全員でヤンス」
「は?」
「ほぼ全員が船長を、憎んで、恨んで、嫌ってるでヤンス。しかも、もれなく全員と金銭トラブルになっているでヤンス」
「……最低最悪のクズじゃん」
アタシの台詞に合わせるかのように、ヤンスは大きく頷く。
「正直、早くタヒねと思ってたでヤンス! これまでイヤイヤ従ってきやしたが、機会があればアッシがこの手で引導を渡したいと常日頃思っていたでヤンス! 船員一同、同じ気持ちでヤンスよぉッ!!!」
「おいおい! 全員に動機があんじゃねぇか!!」
「でもアッシはヤッてないでヤンスよ!」
「信じられるか!」
「本当でヤンス! あんな絞殺なんて殺し方じゃぁ、アッシの恨みの欠片も晴らせやねぇでヤンス! もっと! 苦しめて! 苦しめて! 生まれたことを後悔させるような、そんな責め苦を味わわせてからヤらねぇと!!」
ど、どんだけ恨まれてたんだよ。
でもヤンスの話が本当で、あんな殺し方はしないってのは、確かにもっともらしくは聞こえるし、わざわざ他に恨みを持っている船員がいるのに、自分が第一発見者を装うわけがないのも頷ける。
マイザーのアリバイは確かにないけれど、かといって船長を殺す動機が薄いのも事実だと思っていいだろう。
となると……うーん、アタシには分からん。
ブーコのオッサンは何か顎に手を当ててずっと考えを巡らせているみたいだ。
「それでブーコのオッサン。ここからどう推理を……」
「……ん? あ、ゴメン。寝てたわ」
アタシの拳がブーコのオッサンの肩を打つ!
「イタい! な、なにをするんだ! 暴力少女!! 殴るこたぁないじゃないか!」
つい怒りのあまり、手が先に出てしまった。
「うるせぇ! いい加減にしろよ! ちゃんと犯人を探せ!」
「は……はい」
アタシが握り拳を見せただけで、ブーコのオッサンは後退りする。
「ええっと……そうですね。なら、犯人は手を挙げて……」
「おい!」
アタシが拳を再度、肩パン狙いで構えると、ブーコのオッサンは「ヒィ」と情けない悲鳴を上げた。
「……だ、だってぇ、もうこれ以上にやりようがないしぃ」
「だからといって、犯人に『犯人は誰だ?』って聞く馬鹿はいないでしょーが!!」
「どうどう! 落ち着くにゃ、レディー」
「アタシは馬じゃない!!」
「分かってるにゃ。“狂犬”にゃ」
「分かってない!!」
暴れるアタシを全員が押さえつけてくる。
止めるな!
殴らせてくれ!
「これは一体全体何の騒ぎだ!!」
ドターンッ!
と、食堂の扉が勢いよく開く!
「鎮まりたまへ!! 鎮まりたまへ!! 吾輩の愛船で好き勝手は許さんッッッ!!!」
え?
ボリューミーな七三分け、暑苦しいゴリラに似た風貌とタラコ唇。
こんなのが2体もいてたまるか。
ということは……
「エムドエズ船長!? は? 生きてたぁ?」




