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087 名探偵ブーコ・ヴェーディの華麗な推理②

 豪華客船(自称)ゴージャス・メイド号は、上下4エリアに分かれている。


 船の上の建屋、最上にある第1フロア。そこの最後部に船長室や狭い会議室がある。


 そしてその下の第2フロアに1等客室。ベランダ付きの部屋もあり、ここにはアイジャールさんやリリーララーばあさんがいた。

 今回は貴族は乗っていなかったみたいなので(乗る前に、海に突き落としたのも何人かいたので)、他に客はいないらしい。


 そして第3フロアに、2等客室や食堂。アタシたちや“マイザー・チーム”、そこそこ資金に余裕ある客の殆どがここにいる。


 最後に船底にある第4フロア。ここに3等客室がある。常に海の中なんで窓は当然ない。

 狭いタコ部屋という感じの相部屋ばかりで、貨物室も同じ場所に位置する。そして作業している船員たちとも同じ空間を共有する。

 少しリッチな人だと、階段の近くの辛うじて寝泊まりできる個室が借りられ、最初にギグくんが借りたのもそういった部屋だった。


 そして、船長室には基本的に第2フロアか第3フロアからしか行けない。


 それも普段はフロア間の扉には鍵が掛かっているらしく、そこを通らずには甲板を経て入るしかないそうだ。


 甲板では船員たちが作業しているが、船長室に入る人の姿は見られなかったらしく、外側の扉には鍵が掛かっていた。


 つまり、どうやっても第4フロアにいた人たちは船長室には向かえない。


 

 食堂に関係者が集められる。船長が殺された時間に第2フロア、第3フロアに居た人たちだ。


 その中でも、食堂や人目につく場所にいた人たち、アリバイが第三者によって証明できる人たちは除外した。


 結果、集まったのは13人。


 アタシ、ウィルテ、アイジャールさん、リリーララーばあさん、第1フロアに居たアタシら5人。ユーデスは……話がややこしくなるから頭数には入れない。


 マイザー、ダルハイドさん、トレーナさん、シェイミの“マイザー・チーム”の4人は第3フロアで全員が自室にいた。


 そして第3フロアと第4フロアを行き来していたギグくんと、ウィルテから部屋を買ったオジサンさんの2人。


 第一発見者のヤンス、そして最後に第3フロアの個室にいた探偵ブーコのオッサンだ。


「……これでいい?」


「ご苦労。助手くん」


 誰か助手やねん。


 このオッサン、口は達者だけどまるで自分から動く気がない。


 ヤンスはヤンスで、アワアワ言っているだけで役に立たないし、ってか船員がなんで1人だけしか来てないのかも不明だ。

 明らかに面倒事を彼にすべて押し付けた感じがするのはアタシだけだろうか(船長が死んだのにそれもどうかと思うけど)。


 そんなわけで、とりあえずオッサンが望むように10人くらいをピックアップした。


 しかも、ほぼ顔見知りばかりだ。


 正直、他に怪しい奴はたくさんいる。甲板にいた船員が嘘をついている可能性はあるし、自室にいたかもしれない奴は他にもいたけれど、ぶちゃけ各部屋を回るなんて面倒なことはしたくない。


 犯人を突き止めねばという気持ちもなくはないが、アタシもウィルテも“襲いかかって来た時点で始末すればいい”という結論に至っていた。


 冷たく聞こえるかもだが、昨日、今日会ったばかりの船長(しかもウザい系)の仇討ちをしようと思えるほどの感情はないし、正義感なんてこれっぽっちもない。


「さて、よく集まってくれた皆さん」


 ブーコのオッサン、なんでちょっと嬉しそうなんだ。みんなの前で話せるからって舞い上がってるんじゃないよ。


「私は名探偵のブーコ・ヴェーディ。仕事は探偵をやっている」


 探偵やってるっていらなくね? 名探偵って最初に言ってんじゃん。


「今日この場に集まって貰ったのは他でもない。お気づきの方もいると思うが……悲しいことに! つい先程! この船の中で! 殺人事件が起こったのだッ!!」


 いちいちキメ顔しなきゃいけない理由でもあるのか。ユーデスが「タヒタヒ」言っている。


「ま、マジかよ!!」


 反応したのはマイザーだけだ。後の皆は「へー」みたいな顔だ。実感が湧いてないってか、ブーコのオッサンの胡散臭さを訝しんでいるんだろう。


「いったい誰が殺され……」


「被害者は船長エムドエズ氏、私的な推定享年35歳……」


 私的な推定ってなんだよ。


 ってか、船長そんなに若くは見えなかったよ。


「な、なんだって!! 船長が!? 船は大丈夫なのか!? 沈没しないのか!?」


 マイザーが大袈裟に喚くけど、アタシも同じ反応しちゃったんで何とも恥ずかしさを感じる。


 ウィルテがアタシに説明してくれたように、トレーナさんがマイザーに問題ないことを耳打ちする。


「彼は! 憐れにも! 拘束された上で! 首を絞められて! 無念の死を遂げた! 私は彼の死を無駄にはしない! 犯人は必ずこの手で捕まえるッ!」


 ブーコのオッサンは拳を握りしめてツーッと一筋の涙を流して見せる。演技くさいにも程がある。


「……何が問題なんじゃ?」


 ダルハイドさんが頬をポリッとかいて言った。


「何がって……殺人事件だぞ?」


「フム。それで?」


「それで……? いやいや、第2、第3の殺人事件が起こるやもしれないんだ! いや、間違いなく起きる! その前に犯人をみつけなければ!!」


 なんで起きるって言いきれるんだよ。


「……船長はなぜ殺されたんじゃ?」


「それを今から推理しようと……」


「部屋は荒らされておったのか?」

 

 ダルハイドさんはブーコのオッサンを無視して、なぜかアタシの方に向かって問いかけてくる。


「ううん。部屋は綺麗だったよ」 


「金目の物に手をつけられた形跡はどうじゃ?」


「金庫や財布ん中は見たけど、盗まれてはなかったにゃ」


 ウィルテ。いつの間に見たのよ。


「……ならば十中八九、船長に対する怨恨によるものだろうて」


「いや、ちょ……そんなすぐに決めつけるのは……」


「金銭が目的だとしたら、船が港に着いたタイミングにやるだろう」


「なんでだ?」


 マイザーが聞くのに、ダルハイドさんは残念な子を見るような目をした。


「海のど真ん中で、逃げ道がないのに殺すのか?」


「んん?」


「リーダー。少しは考えなよ。金を奪うのが目的なら、逃げれなきゃ意味ないでしょ」


 トレーナさんが補足すると、マイザーはようやく「なるほど!」と頷く。


「となれば、犯人を追い詰めん限り、他を殺す可能性は低いんじゃないか?」


 おお。ダルハイドさん。なんか凄い。探偵みたい。


「いや、あの……その……ほら……」


 名探偵。人差し指を突き合わせ始めちゃったよ。


「なあ、ダルハイド。自暴自棄になって皆殺しって線はあんじゃねーの?」


 シェイミがそう口にすると、なぜかマイザーがビクッと肩を震わせる。


「ないな。船長諸共に巻き添えに殺すのなら、最初から船を沈めてもいいはずじゃ。そちらの方が失敗が少ないじゃろう」


「お、俺もそう思うぜ!」


 マイザーがなんか横からしゃしゃり出てきたけど、シェイミに無視されてガックリしてる。


「でも、かといって殺人犯が野放しっていうのはどうなのかしら?」


 アイジャールさんがそう言う。

 

 リリーララーのばあさんたちも「ワシらはかよわい年寄りじゃし」とか言ってるけど、アンタら魔法で縛りつけたりできんじゃん。


「そう! そこだよ! だから、ほら、ね! 犯人探しは必須なんだよ!」


 なんか懇願するみたいな感じになってきたなぁ。


「……まあ、そこまで言うなら好きにせい」


 え? ダルハイドさん…この茶番を放置すんの?


 ブーコのオッサンはなんか「よし」ってガッツポーズ取ってるし。


「えっと、じゃあこれから犯人を……ブーコさんが……」

 

 なぜかブーコのオッサンは頬を膨らませてプイッとそっぽを向く。


「名探偵」


「え?」


「名探偵ブーコ」


「……名探偵ブーコさんが見つけるんですよね?」


 ブーコのオッサンは親指を立てる。ユーデスが「もう無理。斬ろう。死体がもうひとつ増えても同じだよ」とか物騒な事を言っている。


「犯人の目星はついているんですか?」


「もちろんだよ、少年。あの大柄な船長を拘束した……それにはきっとそれなりの腕力が必要なハズだ。つまり女子供は除外される」


 ブーコのオッサンは目深に帽子を被り直し、マイザー、ダルハイドさん、ヤンス、部屋を買ったオジサンを見やる。


「ちょ! 待てよ! 冗談じゃないぞ!」


 マイザーが騒ぐけれど、ブーコのオッサンは指をチッチッチと鳴らす。


「君やヤンスくん、そこの……オジサンは……」


「ポルコだ」


 ギグくんの部屋を買ったオジサンはポルコというらしい。


「この3人は、体格のよい船長に比べて比較的小柄だし細身だ。とても彼を押さえつけて首を絞める事なんてできないだろう」


「なら犯人は……」


 自然と皆の視線がダルハイドさんに向けられる。


「そう。犯人はパワーあふれるトロルの君だ!!」


「知らんな。ワシはそこの子供が重そうな荷物を運んでるのを手伝っておったぞ」


 ダルハイドさんがギグくんを指差すと、ギグくんもポルコさんも「そうだ」と頷く。


「え?」


「ほとんど中は酒瓶だったがな。酒飲みドワーフというヤツは困ったものだ。とても子供に持たせるもんじゃない」


「ハハ、大工の皆さんが僕の旅立ちを祝って下さったものだったんで、捨てるわけにもいかず……」


「中身が酒なら、そうと言ってくれりゃ全部俺が貰ったのによ。片付けろって言う前に確認すりゃよかったぜ」


「旅の楽しみは共有してこそだ。あんな美味い酒を独り占めにすると罰が当たるぞ、ポルコ」


 いつの間に仲良くなったんだろう? なんだか3人は楽しそうに話をしている。


「あら、お酒の話?」


「ドワーフの酒かい」「興味そそられるねぃ」


 アイジャールさんに、リリーララーばあさんも食いついてきた。


「あ、よろしければお裾分けします。僕は飲めないんで」


「あ、あの、ちょ……」


「まあ、ステキ。なら、わたくしはお返しにシフォンケーキでも焼いて差し上げますわ」


「エッ!? アイジャールさん、ケーキが焼けるの!?」


 なんかトレーナさんが目を輝かせる。


「ええ。簡単なものでしたら」


「スゴイです!」


「あー、前にトレーナの作ったの焦げ散らかった小麦の塊だったもんな」


 シェイミが笑うのに、トレーナさんはムッとした。

 マイザーが「俺もケーキ好きだぜ!」とか言ってたけどシェイミはやっぱり知らん顔だ。


「だから、聞いて……」


「今度、作り方を教えて貰えませんか!?」


「ええ。構いませんわよ。わたくしの部屋にオーブンがありますから、この船旅の道中にでも」


「ありがとうございます!」


「なら、占いもその時ついでに……」


「いや、占いの方は別に……」


「おいッ!!!」


 ブーコのオッサンがドンッと足を踏み鳴らした。


「人が死んでるんだぞッッッ!!!」


 アタシたちは思わず顔を見合わす。


「もっと真剣になれよッッッ!!!」


 あーあ。泣いちゃったよ……

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