086 名探偵ブーコ・ヴェーディの華麗な推理①
船長室で、エムドエズ船長が死んでいた。
執務机の前に、大の字の仰向けになって……。
「そ、そんな……」
ユーデスが、「ウザすぎて死んだんだ。“ウ罪”によるものだよ」とか言っているけど、そんな場合じゃない。
「ふ、船は大丈夫なの!? 船長なしで大陸に着くのか!?」
そう。船長の死を悼む前に、アタシたちの命が危ない。アタシは出っ歯の船員の肩を揺する。
「こ、航路は決まっているでヤンス。トラブルがなければ特に問題は……」
「いや、でもほら、海図を見たり、気象を見て進路変えたり……あ、あと、ほら丸っこいハンドル回して『面舵いっぱーい!』とかやらなくていいの!?」
「船長じゃなくても操舵手は別にいるにゃ。それに、そもそもこの船は帆船じゃないにゃ」
「帆船じゃない? だって乗るときに帆があったじゃん」
「あれは単なる飾りにゃ。この船の動力は魔力にゃ」
ウィルテがそう言うと、ヤンス(語尾がそれだから)が頷く。
「いくつかの航路に魔浮標ってビーコンが沈められていて、基本的にはそこに向かって勝手に船が進むにゃ。海が荒れそうな場合は、事前に感知して進路変更する仕組みにゃ」
マジですか。なんか元の世界より凄い技術じゃない?
まあ、とりあえず船が沈没するような危険はないみたい。
「でも、なんでまた船長は……」
なんか病気を持っていたとか、波で揺れた際に豆腐の角……いや、家具の角に頭をぶつけたとか……
あんま近寄りたくはないけど、そっと覗き見ると……首にタオルみたいなのが巻かれている。
「見るにゃ。全身を縛られてるみたいにゃ」
ウィルテが指す方を見やると、はだけた胸元に縄が……これって、亀甲縛り?
「全身を拘束されて、絞殺されたにゃ」
「え? ってことは、自然死じゃなくて……誰かに殺されたってこと?!」
ユーデスが「やっぱり」とか言ってるけど、どんなにウザくても殺しちゃダメでしょ!
「誰がそんなことを……」
「待て待て待て待てーぃ!」
詳しく調べようとした時、部屋の外から勢いよく何者かが飛び込んできた。
「遺体も立派な証拠品だ! むやみに触れるんじゃなーい!」
うさんくさい感じの風貌、くたびれた中折れ帽とトレンチコート……ああ、なんか如何にもな人が出てきた。
「私は名探偵ブーコ・ヴェーディ! ここは任せて貰おう!」
自分で名探偵とか言う人ほど怪しいものはない。
ブーコとかいうモジャモジャのモミアゲをしたオジサンは遺体の側に寄る。
「こ、これは間違いなく殺人だ!」
「ウィルテが先にそう言ったにゃ」
「亀甲縛りにされて拘束された上、首を絞められての窒息死に違いない!」
「……」
なんだろう。もうすでに聞いた情報を聞かされる時ほどしらけるものもないなぁ〜。
ユーデスは「ウザ。コイツもタヒねばいいのに……」とかなんか不穏なことをブツブツ言ってるし。
「そして、間違いなく犯人はこの船の中にいるッ!」
今日の晩御飯は何にしようかな。なんかシーフードカレーみたいなのが食べたいな。
「船長室という密室での密室殺人だ。これは並の者では解決が難しい難問の中の難問……」
ウィルテは、大きくアクビをしてる。
「あ、あの。船長室の扉は開いてたんでヤンスが……」
「言っても無駄だよ。自分の世界に入っちゃってるから」
ブーコは顎に手をやって、船長の頭と脚のところをウロウロと歩き回っている。
証拠品の周辺を歩き回っていいのか……まあ、その辺は知らんけど。
「……よし! 全員を食堂に集めてくれたまえ!」
「ぜ、全員でヤンスか?」
「そうだ!」
「……えっと、たぶん無理でヤンス」
「なぜ!? これは大事なことなんだ! 君は事の重大さが分かっているのか!!」
「でも……」
「つべこべ言うな! 言われた通りにやれ!!」
「船員25名、乗客63名……全員はとても食堂に入らないでヤンス」
それに、いくら自動航行だからと言って、作業ある船員全員を集めるのが無理だろうってことは子供でも分かることだと思う。
「……総勢85名、だと?」
88名だよ、名探偵。
「……ちょっと多いな。10人くらいに絞れない?」
なに言ってんだ? このオッサン。




