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082 少年の心、女知らず

 アタシたちを乗せた船は、ひたすら北東を目指す。


 世界でもっとも大きな大陸リヴァンティズ。

 

 それは古代語で“巨大な眠る鳥”を意味しているそうで、文字通りに大陸自体が羽を広げた鳥のような形をしているらしい。


 大陸は大きく5つの地域に分断されており、北方の極寒の地ベイグロンド、西方の広き平野アナハイム、東方の深き水の都ガットランド、南方の険しき密林デマラグラン。


 最後に、中央……何者も立ち寄らぬ険しき山脈に囲まれし禁足地ルベド。そこには、誰が何の目的で建てたのか誰も知らない“重なりの塔”と呼ばれる古代の建造物があるそうだ。


 そして、アタシたちはこれから大陸西方アナハイムから上陸し、冒険者ギルド本部のあるセルヴァンという城塞都市を目指すことになる。



「セルヴァンは、大陸の中央に近い側にゃからかなり遠いにゃ」


 土地勘のないアタシとギグくんに、ウィルテは地図を指差して説明してくれる。


 彼女はニスモ島だけじゃなく、ほんの短い間だけリヴァンティズに居たことがあるらしい。


「でも、中央って……禁足地なんでしょ?」


「ルベドは山々に囲まれた部分だけにゃ。その手前側には人が住んでいるにゃ。アウト・ルベドなんて呼ばれることも……たまーにあるにゃ」


「そこは誰かの土地なの?」


「もちろん。一応、王国カネー・ケシィタの管理下にあるにゃ」


「“金貸した”?」


「カネー・ケシィタにゃ」


「……え? もう一度、言ってくれる?」


「カネー・ケシィタにゃ」


 どう聞いても、“金貸した”に聞こえる。


「そこの王宮はカネー・カィセーっていうんですよね」


「“金返せ”?」


「カネー・カィセーですよ」


「そうにゃ。カネー・カィセーは主要国家のひとつにゃ」


 どうしよう。


 なんか真顔で言ってるんですけど。


 異世界に来てだいぶ経つのに、その常識を受け入れられないアタシがここにいる。


「ま、ざっくりこんな感じにゃ。詳しくは向こうに着いてから話すにゃ」


 そう言ってウィルテは地図を丸める。


 正直、カネカシターとカネカエセーしか頭に入らなかったけど…まあひとりで行くわけじゃないから大丈夫でしょ。


「あ、なら僕もそろそろ自分の部屋に戻りますね」


 ギグくんが立ち上がる。


 ここはアタシとウィルテがとった2等室だ。


 個室が取れないわけでもなかったけど、そんな無駄をする必要はないと同室にした(アタシがどうせ全額持つんだし)。


 フィーリーがいたらまた考えなきゃいけなかったかもだけどね。


「部屋? オマエの部屋はここにゃよ」


「え? いや、僕は別に部屋をとってますから」


 彼はこの下のフロアにある3等室なんだけれども、それでも自分で支払ったんだから偉いし、スゴイよね。


「もう引き払ったし。今は別のヤツが使ってるにゃ」


「へ?」


「ウィルテ。引き払ったってどういう……」


「そのままの意味。キャンセルはできなかったから、3等室……相部屋になってる適当なヤツに、格安で売ってやったにゃ」


「な、なんでそんなことを……」


「そ、そうだよ! なんでギグくんに言わずに勝手にそんなことしたんだよ!」


 しかも売った金は自分の懐に入れたっぽいし!


 ウィルテはフンと鼻を鳴らす。


「見習いは、先輩の世話をするのが普通にゃ! そのために、寝食を共にするもの!」


「別に弟子入りしたわけじゃないじゃん」


 ギグくんはなんか泣きそうになってるし。


「で、でも、ここは……2人部屋ですし」


「そ、そうだよ! ベッドだって2つしかないじゃん! ギリギリだよ!」


 部屋だってそんなに大きくない。今だって部屋の両端にあるベッドに腰掛けて、折りたたみの簡易テーブルを置いているぐらいだ。


 ウィルテが魔法で水を生み出せるからバスタブ付きの部屋にはしたけど(もちろんその分、割高で、もし別途に真水を買うと費用が嵩む)、そのせいで居住空間が狭くなってしまっている。


「小僧はチビッコいから、交互にどっちかのベッドで寝ればいいにゃ」


 え?


 は?


 マジで言ってるの?


「そんな。でも! おふたりは女性じゃないですか!!」


 前髪に隠れてやっぱりわからないけど、ギグくんは真っ赤になって言う。


「なぁに色気づいてるにゃ! レンジャーに男も女もないにゃ!」


「う、ううッ」


 レンジャーを出されると弱いようで、ギグくんはアタシに助けを求める視線を向けてくる。


「れ、レディーさんは……」


「アタシ……アタシは……」


 男の人は苦手だったし、一緒に寝るってなったら抵抗は当然あるけど……


 ユーデスは「魔路拡の邪魔になるッ」ってなんか憤っているけど、アンタが振動しなきゃバレないじゃん。


 剣を抱き締めて寝るのは……まあ、一流の剣士ならそうするって言い訳できるし。


「うーん」


「や、やっぱりイヤですよね!?」


「んーん。あんま気にならないかな。小さい頃、弟と一緒に寝てたし」


「弟がいたにゃ? 初耳にゃ」


「あ。いや、うん……まあ」


 もちろん、転生前の話だけどね。


「そうにゃったんか……」

 

 ウィルテは切なげな顔を浮かべる。


 きっとアタシの家族と共に、エアプレイスと運命を共にしたとか考えてるんだろう。


 ……なんか勘違いさせてしまって申し訳ない。


 たぶん、弟はピンピンしてるのよ。アタシと違って陽キャだったし、今頃は結婚しててもおかしくないし。


「……そ、そうですか。レディーさんと、ウィルテさんが不快じゃなければわかりました。いいです」


 あー。シュンとしちゃったよ。


 そうだよな。思春期……には入ってないだろうけど、男の子からすれば微妙な気分にはなるよね。


 なんとかフォローしてあげねばと思っていると、コンコンと部屋がノックされる。


「ねぇ、いるー?」


 ドア越しの声から、それがトレーナーさんだとわかる。


 扉を開けると、そこにはやっぱりトレーナーさんで、シェイミも一緒にいた。


「暇なら、一緒に食堂でも行かない?」

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