080 行ってきます
信じられない。
ウィルテはフィーリーを捜すため、金に糸目を付けずに散財したらしい。
ゴイソンさんたちが青い顔をしていたけど、家の金庫の金には手を出していないとウィルテは自信満々に言っていた。
でも、まったく褒められたことじゃない。
「ペイジもケチにゃ。ウィルテたちに大陸行けって言うなら、支度金ぐらい用意して然るべきにゃ」
「そういうわけにはいかないでしょ。だって、ギルドはレンジャーに……“そ”、“そん”? ……“そん・まさよ……”じゃなくて、なんだっけ?」
ユーデスが小さく「忖度」と言う。
「そう! “ソンタク”しちゃいけないんでしょ?」
「忖度ぅ〜? それにゃら、コレは違うって言うのかにゃ?」
ウィルテはレッドバッチをカチャカチャと鳴らす。
「どうせくれんなら、ちゃんと最後まで面倒みて欲しいもんよね。船代もバカにならんにゃ」
「あのー、その船代、アタシが立て替えてるんですけどぉ」
「それはそれ、これはこれにゃ。…感謝してるにゃーよ! レディー、だーい好き♡」
「あー、くすぐったい!!」
抱きついて腹をまさぐってくる……うーん、誤魔化されないぞ。アタシは!
「……なんか、魔剣がガタガタしてにゃい?」
「……気のせいでしょ」
このスケベ剣め!
──
港に着くと、グランダルさんが出迎えてくれる。
「おう! …っ…て、荷物やけに少ねぇけど、大丈夫なのか?」
アタシは元々荷物がほとんどないし、ウィルテも背負いカバンひとつだけだ。
「別にダンジョンに行くわけじゃにゃいし、旅するレンジャーは拠点を決めて、現地で調達が基本にゃ」
「そうなのか? おっと! あとなぁ、ちと折り入って頼みがあってだなぁ」
「頼み?」
「ああ、コイツを一緒に大陸に連れてってくれねぇか?」
グランダルさんの横に、小さな子が立っている。
最初、ドワーフかと思ったけど、アタシと同じヒューマンの少年だ。
背丈から10歳かそこらかぐらいだろう。
「ギグ・ライアスといいます!!」
おお。礼儀正しい。直角のお辞儀だ。
「このガキがなんにゃ? 焼いて食ったら美味いんか?」
ウィルテがジロッと見やると、ギグ少年は「ヒッ!」と身を震わせる。
「そんなわけあるか。コイツは大陸にあるガットランドってところから逃げてきた戦災孤児でな。縁あって俺たちのところで保護してたわけだが……」
「デカくなって邪魔になったと?」
「おい、ウィルテ。いい加減にしねぇと怒るぞ」
グランダルさんが拳を握ると、ウィルテは降参とばかりに両手を上げる。
「……ゴホン。ま、俺んところで船大工になるって未来もあるんだがな」
「僕、その、将来……レディーさんみたいな強いレンジャーになりたくて!!」
「え? あ、アタシみたいな?」
ギグくんは前のめりになっている。
前髪が長すぎて目元は見えないけど、髪の毛の隙間からキラキラとした視線を感じる。
「足手まといにゃー」
ウィルテが冷たく言い放つ。
「あ、あの! 僕なんでもします! 邪魔にもならないよう気をつけます! ですから!! お願いします!! 連れて行って下さい!!」
必死なお願い……アタシこういうの弱いんだよなぁ。
「あー、連れて行ってくれねぇなら、ギグはひとりでも大陸に行くつもりだ。コツコツと少ない小遣いで旅費貯めてたんだかんな」
グランダルさんは複雑そうな表情で言う。
ギグくんが旅立つ事には、正直なところ反対なんだろう。けど、彼の夢を潰したくもない……そんな複雑な思いがあるんだろうな。
「えーと。アタシたちに付いて来るの、メチャクチャ危険だと思うけど」
「覚悟の上です! それで死んでゾンビになったとしても悔いはありません!」
いや、ゾンビになってもらうのは困るんですけど。
「ねえ、ウィルテ。ここまで言うんだからさ」
「……見習いは荷物持ちからにゃ」
ウィルテはそう言うと、背中のカバンをギグくんに放り投げる。
「うわ! お、重ッ!」
ギグくんはなんとか受け取ったけど、脚がガクガクしている。この子、細いし大丈夫かな。
「ハァー。これで一安心だ。助かるぜ。すまねぇな」
グランダルさんはホッとした顔を浮べた。
「親方は交渉が下手にゃ」
ウィルテが気まずそうにそう言うことから、アタシは最初から断るつもりがなかったんだと気づく。
「もし少しでも弱音でも吐きやがったら、遠慮なく海に叩き込んでやってくれていーからな」
グランダルさんは涙ぐみながら、ギグくんの頭をワシャワシャに撫でる。
「あ、ありがとうございます。グランダルさん。僕、ここまでお世話になって、何のお返しもできないで勝手なことばかり……」
「なーに。ウィルテと同じ凄腕レンジャーになって戻ってきてだな、俺らの依頼をバンバン受けてくれりゃチャラさ。もち格安割引でな」
「は、はい! もちろんです!」
「先の長い話にゃ」
「ガハハ! ドワーフは寿命も気も長ぇかんなぁ!」
ああ、なんかこういうのいいな。
ウィルテや、グランダルさん、ギグくんはきっと長いことかけて関係を育んできたんだろう。
でも、アタシは……自分の大事な人たちを棄てて勝手に転移して、そこでも家族も、親しい人も全部失ってしまった。
ユーデス。うん。心配してくれるんだね。分かる。分かるよ。
アタシは独りじゃない……
けれど……
「なあ、レディー。オメェもだぞ」
「え?」
「ちゃんと帰ってこい。ここはもうオメェの町でもあるんだ」
グランダルさんはそう言うと、アタシの後ろを指差す。
振り返ると港へ向かう大通りに、ローラさん、ランザ、そしてペイジさんとキングラートさん。ゴイソンさんたちや、ローガンさんたち……あと、なんか女装している男の人(だれ?)がいた。
「ギルドのヤツらに、酒場の飲み友も来てるにゃ。お、あっちのはレディーのファンクラブじゃにゃい?」
「アタシのファン? そんなのが……」
「あそこでレディーの顔描いた旗振って泣いてるヤツらがそうにゃ」
え?
なんかアタシの名前を連呼してるんですけど……なんで?
「……レディーはまだ自分の魅力に気づいてないだけだよ」
ユーデスがそう言う。
「お別れにオッパイでも景気よく見せてやるにゃ?」
「冗談でしょ。やるなら一人でやってよね」
「それは残念」とユーデス。
彼はウィルテと会話しているわけじゃないのに、なにか微妙に噛み合ってるのがイライラする。
「さ、皆に挨拶してやれ」
「うん! それじゃ、行ってきまーす!!」
こうしてアタシたちは、ニスモ島の港町イークルから旅立ったのであった──




