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008 私は必要とされてない

 私はお母さんと一緒に城の中へと避難するよう言われた。


 理由は魔物の襲撃と聞いたけれど、こんなことは初めてことだ。


 お父さんは理由もろくに話さず、真っ先に兵舎の方へと走って行ってしまった。


 「なにが起きたの?」と聞いても、お母さんは何も答えてはくれない。


「レディー。ついてきて」


「え? でも勝手に動いちゃ…」


 今は城の共有スペースと呼べるロビーにいる。


 ここには私たち以外の街の人たちも逃げてきていた。


 私たちは軍のトップの家族だけれども、そうだとしても城の中を自由に行き来できるわけがない。


「ねぇ、母さんたらマズいって!」


「いいから」


 母さんは私の言葉にも耳を貸してはくれず、城のさらに奥へと向かおうとする。

 

 でも、無理だよ。だって廊下には見張りの兵士だっているし……


「え?」


 お母さんが扉を開けても、兵士は何も言うことがない。

 まるで見えていないかのように、微動だにもしない。


「お母さん?」


「…大丈夫だから」


 

 私とお母さんは廊下を進んで行く。


 大窓を見やると、飛竜兵たちが何かと戦っているのが見えた。


 私はお母さんに呼びかけたけど、まるで興味がなさげで、黙々と先へ進んで行く。


 そして、ある角部屋に辿り着く。


 特に何か目立った変なところはないけれど、たぶん使用人とかが使うような裏方の場所なんだろう。


「えっと…ここってシーツとかを保管しとく部屋じゃないの? こんなところで何を…」


「……このリネン室の先に、隠し階段があるのよ。それが地下まで続いているの」


「お母さん? なんでお母さんがそんなことを…」


「……」


 お母さんは何も言わず、リネン室に入ると、奥の棚を外し始める。


「なんで何も教えてくれないんだよ!?」


 私はたまらなくなって、思わず母の腕を掴んで止めてしまった。


「…レディー。行けば分かるわ」


「行けば…って」


「これを外すのを手伝ってちょうだい」


 まるで日常の軽い頼み事でもするように言い、お母さんは優しく微笑む。

 

 真っ白なシーツを下ろし、はまっていた棚板を全部外してしまう。


 お母さんは底板の四隅を確認すると、手慣れた手つきで木枠の部品で軽く叩いて浮かせ、それも取り外してしまった。


 底板が外れると、母さんの言った通り、下に降りるための狭い階段が現れた。


「さあ、急ぎましょう」


 狭い階段を抜けると、延々と下へと続く螺旋階段が現れる。

 

 これは誰にも気づかれないよう、部屋と部屋の間に巧妙に造られたスペースなのだろう。



 聞きたいことは山ほどあった。


 ただひたすら階段を降りていく間、私とお母さんの間には沈黙しかなかった。


(転生しても、私は何も変わらなかった…)


 親との関係は以前とまったく同じじゃないか。

 

 父の期待に応えられない私。


 私を慰めるだけしかできない父。


 そして、すべてに無関心な母。


 父にも、子供にも興味を抱かない人。


 だから、私は卒業と同時に家を出たんだ。


 彼らに行き先も伝えずに……


 新しい家族とならちゃんとしてコミュニケーションが取れるハズだと信じていた。


 私が醜い根暗デヴでさえなければ、きっと愛してもらえるものと……


「……私は、必要な…存在…じゃないの」


 お母さんの背中に呼びかけようとしたちょうどその時、視界が開けて……



「よく来た。レディー・ラマハイムよ」

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