078 男なら誰でもいい
ウィルテの部屋は、彼女の普段の行いからは考えられないほどに女の子っぽい。
壁紙から絨毯、テーブルクロスに至るまで全体的に薄いピンクで統一されていて、アタシも見ているだけで甘ったるいニオイのする、お話の国に行った気分にさせられる。
ワニだかペンギンだかよくわからないファンキーなヌイグルミが並ぶ、そんなベッドでウィルテは青白い顔をして唸っていた。
「……もうダメにゃ」
「またそんなこと言ってさぁ」
「あの木の葉が全部散った時、ウィルテの命も尽きるにゃ」
窓辺から見える木を指差すけれど、ゴイソンさんがボソリと「常緑樹です」とか言っていることから、あの木は冬になっても全部葉が散らない木なんだと思う。
「……レディー。一緒にレンジャーできて楽しかったにゃ。なんかあんまり稼がせてもらってはいにゃいけど、それでも楽しかったにゃ」
ウィルテは目の端に涙をためて微笑む。
なんか一言余計な気がしなくもないけど。
「大袈裟だよ。フィーリーが居なくなったからって……」
フィーリーの名を耳にした途端、ウィルテは目を見開いて胸元を掻きむしりだした。
「にゃー!! にゃんで、フィーリー様はウィルテだけを置いて行ってしまったのにゃ!」
いや、置いてかれたのウィルテだけじゃないんですけど……。
「いかん! 発作だ! 離れて下さい! 押さえろ!!」
ゴイソンさんが声を上げると、外で待機していたらしい使用人さんたちが飛び込んできて、ウィルテを押さえつけようとするけど、彼女の方が力が強いもんでボコボコにされている。
「“性”も“婚”も尽き果てたにゃ!!」
大暴れしている彼女からは、そんな尽き果てた雰囲気はまったく感じられない。
「こりゃ、だいぶ重症だな……」
グランダルさんが頭を掻きつつ言う。
「失恋って病だからね」
「失恋言うにゃ!!」
大泣きしていてウィルテは、ふと糸が切れた人形のようにベッドに突っ伏す。
「大枚はたいてレンジャー雇っても、フィーリー様の行方はいまだ知れず……」
レンジャーがレンジャー雇うなよ。
ってか、こういうところにお金つぎ込むのもなんか違うと思う。
「あーー!!」
つい、アタシたちはまるで猛獣を相手にするかのように、距離を取って遠巻きに見守る。
「うっうっ……。ウィルテはもうお終いにゃー」
「んな大袈裟な。男なら、他にもよぉ……」
ウィルテはガバッと起き上がって、グランダルさんを睨みつけた。
「ならウィルテと結婚するにゃ! もうこの際、男なら誰でもいいにゃ!」
「は!? バカ言ってんじゃねぇ! 俺は背の高い女は恋愛対象じゃねぇ!」
なんか断るポイントが違う気もするけど、ドワーフからすればキャッティは背が高すぎるんだろう。
「なら、ゴイソン! もしくは他のヤツ!」
「「「申し訳ございません!」」」
使用人さんたちは、即座に揃って90度に腰を折って謝る。
「考える素振りもなく速攻で断るなにゃ!!」
枕に顔をうずめてウィルテは泣きじゃくる。
「自分で言うのはなんだけど、顔もいい、胸も大きい、肌もツヤツヤ、くわえて資産もあるにゃ! それにゃのに、寄ってくるのは一晩目的のヤツらばーっか!! ウィルテは普通の恋愛がしたいだけなのにぃぃ!! どうしてにゃー!? ウィルテの何が問題だって言うにゃ!!」
グランダルさんもゴイソンさんたちも、「性格が……」って呟いたけど、こういう時は黙っていてあげてほしい。本人には聞かれてなさそうだけど。
「こうなったら手当たり次第に逆ナンにゃ! さあ! 町に繰り出すにゃ!」
「なにを……え? はぁ!?」
ウィルテがドンと枕元を叩くと、わずかにベッドが上昇する。
「「「ベッドが…動いた?!」」」
そしてベッドは部屋の中を、ウィルテを乗せたまま高速で動き回り、逃げ惑うグランダルさんやゴイソンたちを追いかけ回す。
「なにがどうなって……魔法なの、これ?」
「正体はコレにゃ!」
ウィルテがシーツをめくると、その下には同じ顔が4つ……それはベッドなんかじゃなく、4人の男が四つん這いになっていただけだった。
「ど、どこかで見た覚えが……」
「我々は“クアトロアックス”のローガン兄弟だ!」
「確かイークル冒険者ギルドの……」
ゴイソンさんも驚いているってことは、彼らがこの部屋に居ることを知らなかったのか。
「でも、なんでそのレンジャーチームがウィルテの部屋に?」
「姐さんの実力に惚れ!」
「いまの我々は!」
「姐さんの動くベッドとして!」
「その生を満喫しているのだ!」
気持ち悪い。
ただひたすらに気持ち悪い。
ユーデスが「うらやましい」とか小さく言ったので、平手打ちをかましとく。
「姐さん! 寝心地はいかに!?」
「すこぶる固い」
「了解! 弟者共! “背中柔め”だ!」
「「「“背中柔め”、かしこまりぃ!!!」」」
気持ち悪い。
ただひたすらに気持ち悪い。
「なんだよ。ウィルテに懐いたんなら、それこそ、その兄弟の誰かを結婚相手に……」
「滅相もない!!」
「姐さんは姐さん!!」
「我ら兄弟には!!」
「高嶺の華!!」
なんだかんだでイヤってことだな。なんか脂汗かいてるし。
「にゃから、速攻で断るにゃ! せめて考える素振りぐらいしろ!!
あーもう! どいつもこいつも!! やっぱりフィーリー様じゃないとダメにゃ!!」
「しかし、お嬢様。フィーリー様の行方は見つからなかったではありませんか……」
「島から出たのは……間違いないんだよね?」
「ええ。おそらくは……。ただ港を利用した形跡がないのです」
「じゃあ小舟とかで?」
「そいつは自殺行為だぜ。島から島まではかなり離れているし、この近海は荒れるんでな。中型船以上で、かつ海をよく知る航海士がいなきゃ命がいくつあっても足りねぇ」
船大工のグランダルさんが言うんだからそうなんだろう。
だとしたら、フィーリーは危険なのを承知で……
「ああ、フィーリー様。なんで……」
確かに、どうしてフィーリーが姿を消したかは不明だ。
思い当たることはいくつもあるけれど、本人に会って聞いてみなければ本当のところは分からないし。
「……ねえ、ウィルテ。もしかしたらだけど、フィーリーは大陸に向かった可能性もあると思う」
「大陸」
「アタシは大陸に行くつもり」
「……エアプレイスとデモスソードの件にゃ?」
フィーリーが居なくなった後、アタシはウィルテには全部を話した。
上の空だと思っていたらちゃんと覚えていてくれたらしい。
「ウィルテ。こんなこと言えた義理じゃないかも知れないけれど……」
「……んにゃ。ウィルテもレディーと一緒に行くにゃ」




