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074 魔を統べる者たち①

 世界最大の大陸リヴァンティズ。


 その中心部に、峻険な山々に囲まれた“名も無き地”と呼ばれる場所が存在する。


 そこはすべてを阻むかのような深い森に囲まれており、人間どころか魔獣ですら立ち入ることのない禁足地であった。


 その中に、古くから“重なりの塔”と呼ばれる巨大な建造物がある。


 まるで巨大な二枚貝を、幾つも積み重ねたような不安定な形状をしており、霧がかかっていない時には大陸の端からでもその異様な姿が一望できた。


 一説には、神々がこの地に降臨した際に創られた物だとか、または元々は楽園であり太古の人々が建造したのだ……そんな風に語られていたが、真相は誰も知らなかった。



 抜けるような晴天の青空の下、白雲を突き破り、太陽と微妙に被るような角度で、真っ赤な大小の2つの球体が突如として出現する。


 それは空気を切り裂く轟音と共に急速落下し、塔の付近に到達した後にガラスが割れるような音、見えない膜を弾いたような揺らぎが生じて背景が一瞬だけ歪んだかと思いきや、塔の上層の迫り出した帽子のツバのような部分に着地した。


 しかし、その勢いが強すぎたのか、2つの黄金色の球体はゴロゴロと惰性でツバの上を転がった。


 割れ砕けた破片が散らばる中、燃え盛る火炎が燻る轍が真っ直ぐ平行に延びる。


 塔の開口部から、オクルスが姿を現す。ふと空を見上げ、自分の張った魔法結界がボロボロに崩れ落ちていくのを確認する。


「……さすがですね。かなり自信ある物だったのですが」


 大きい方の球体に向かって、オクルスは言う。


 球体はゴゴゴと重々しい音と共に割れたかと思いきや、自身にまとわりつく炎を勢い良く拭き払い、“立ち上がった”。


「つまらん小細工をするものだ」


 黄金の鎧兜に包まれた異形の骸骨面が言う。


「“力ある方”というのが最低の参加条件ですから。お試しさせて頂いたことは、悪しからずご了承下さい」


「ディッ・ディッ・ディガジュゥーッッ!!」


 小さな方の球体が変形し、奇怪な叫び声を上げ、骸骨の頭とサソリのような体をもつ魔物が正体を現す。


「遠路遥々、ようこそお出で下さいました。我がオークション会場に。剣魔帝デモスソード様、ディガジュ様。歓迎いたします」


 オクルスは踵を揃え、深々とお辞儀した。




──




 真っ暗闇の延々と続く廊下を、オクルスを先頭にしてデモスソードたちが続く。


 足元が見えないほどに暗く、しかもところどころ朽ちて抜け落ちており、瓦礫の破片も散乱していた。


 そんな風に足場が非常に悪かったのだが、魔物である3体には何の障害にもならず、悠々と進んで行く。


「依頼していたアンデッド族の増産はどうなった?」


「順調とは言い難いですね。試行錯誤はしておりますが、強い個体を造り出すには今しばらく時間がかかるかと」


「ならば急げ。デュラハン、ナイトメアホース、グランドマミーならば1個師団でも買うぞ」


「これはこれは。スケルトンやレイス、アンデッド・バードならばすぐにでもご用意できますが」


「イラン! 自然発生スル低レベル魔物ハ間ニアッテ……」


 ディガジュが喚くのに、デモスソードはジロリとした視線だけで黙らせる。


「兵力は幾らでも欲しい。聖騎士団どもはなかなか厄介でな。いま用意できる魔物は貰っておこう」


「エアプレイスを落とされた閣下が苦戦するとは。ならば、死霊族以外の魔物は如何でしょう?」


「知っておるだろう。心臓の動いてる者は信用ならん」


「左様でございますか」


「……そんなことより、オクルス。貴様、ニスモ島を消す話はどうなった?」


「ソウダ! マダ島ハ健在デハナイカ!!」


 オクルスは一瞬だけ押し黙り、それから諦めたように口を開く。


「……ひとえに私の不徳の致すところです」


「貴様が遅れを取る相手だったと?」


「ええ。エアプレイスの巫女と魔剣ユーデスと言ったら……どうですか?」


 デモスソードが特に反応を示さないのに、オクルスは目を細める。

 ディガジュは何か口を開きかけたが、主を気にしてか発言しなかった。


(魔剣ユーデスが欲しいからエアプレイスを落としたのではなかったのか?)


「……ヌハハ! 不思議そうだな、オクルスよ」


 デモスソードはそういうと、魔空間から剣を数本抜き出す。


「貴様を介さずとも、魔剣を手に入れるのは造作もない」


「……しかし、魔剣ユーデスは特別だったのでは?」


「それはそうだ。だが、難攻不落と呼ばれていた空中城塞なき今、いずれワシの元へと運ばれて来る」


「運ばれて来る?」


「数百年しか生きておらぬ若造にはわかるまい。それが因縁というものだ」


「……随分と迷信深い話ですね」


「ハッ! そうでなくては、貴様とも遭ってはおるまい」


「私が魔剣を自分の物にしていた可能性もあるのに随分と余裕ですね」


「そうしたら手間が省けるだけのこと。繰り返すが、空中城塞が消えた今、魔剣ユーデスはワシの物であることに変わりはない」


 尊大な自信だとオクルスは思うが、それだけの力をデモスソードは持ち合わせており、その実力がおってこその発言とは認めざるを得なかった。


「……シヒヒ。失礼。もし私が手に入れたら、閣下には破格の金額を付けて頂かねばなりませんね」


「言い値で払ってやろう」


 まったく人間とは勝手が違う……そう思いつつ、オクルスは大広間の扉を開いたのであった。


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