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006 父娘の分相応

 私はもうすぐ15歳になろうとしていた。

 

 幸いなことにデヴにはなってない。


 だけれど剣の才能は相変わらずだ。


 そして…胸も、お母さんと違い、こっちも成長が見込めない。



 毎朝、塔の屋上でお父さんと剣の稽古をする。


「やッ! はッ!」


「そうだ! いいぞ!」


 お父さんが褒めてくれる。


 けれど私はそれがお世辞だと知っていた。


「レディー。もう少し手首のスナップを効かせてみろ」


 お父さんは木剣を素振りして見せる。手首を返すだけで、その剣圧が私のシャツをはためかせる。


「えっと…こう? あ!」

 

 手が滑って、剣を落としてしまう。


 お父さんは笑ったけれど、一瞬だけ眉間にシワが寄ったのを私は見逃さなかった。


「……もう、そろそろ。お母さんと勉強するから」


「……ああ」


 お母さんは元文官だった。主に歴史文献をまとめるような仕事をしていたらしい。


 私も今はそれを目指すべく、剣の稽古の後は歴史の勉強をするようになっていた。


「なあ、レディー」


「…うん? なに、お父さん」


「お前は俺の愛する娘だよ」


 胸の奥がギュッと痛む。


 前世でそういえば同じようなことを言われたことがあった。


 引きこもりの私に……かつてのお父さんが…でも……


「……もう行くね」


 やっぱり、転生先のお父さんの顔もちゃんと見れなかった。


 ……ああ、男の人は肉親でもやっぱり苦手だよ。




──




「まあ、飽きもせずによくやるものだ」


 フィーリーは尖塔の影で、親子の稽古を見やっていた。


「旦那、ちゃんと薬は効いてますぜ」 


 小柄なほっかむりが揉み手をしてニタニタ笑う。


「ああ。見ればすぐ分かる。…効果が見込めなきゃ、お前を斬り捨てていたところだ」


「へへへ。ご冗談を…」


 フィーリーは返事をせずに、無表情のまま男を見やる。そのどこまでも氷のように冷徹な眼差しを見て、男はゴクリと息を呑んだ。


「ラマハイム…いや、エアプレイス家の女系血縁は弱めねばならん。剣も魔法も上達させるわけにはいかんのだ」


「へ、へえ…」


「引き続き食事に薬を混ぜろ。…バレた時には」


「…舌を噛んで死ね、ですね。分かっておりやす。それに絶対にバレませんて」


 この男は自害する気は絶対にないだろう…フィーリーはそう確信していた。


「使用人が急に実家に戻って連絡がつかなくなる…まあ、よくある話だな」


「……」


「私に従えとはまでは言わん。お前の好きな金に忠誠を誓え」


 フィーリーは金貨の詰まった小袋を放ると、男は慌ててそれをキャッチした。


 その滑稽な姿を見て、ニヤリとフィーリーは笑う。


「そうだ。それが分相応というものだ。…あの親子にもそれを教えてやれ」

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