059 スプリーム・スライム
「ば、化け物……」
変形する魔物なのは知っていたけど、ここまで異形だったなんて……
オクルスの枝分かれしたしたような“無数の目玉”は、アタシだけじゃなくギョロギョロと辺りを見回している。
「さて、よく我慢したな。それはそうだ。1人だけじゃ腹が空くだろう。さあ、食べに行っていいぞ」
オクルスは誰に向かって話しているの?
そう思った時、オクルスの頭部の複数の目玉がパチパチと激しく瞬いたかと思うと、カタツムリの触覚のように一気に伸びて行く!
「なんだこれはッ!」
「気持ち悪いにゃーッ!」
鞭のように伸びていくそれを、フィーリーもウィルテも慌てて防御する。
オクルスの頭から抜け出た目玉たちは、独立してまるで蛇のような姿になって戦っている!
「……オマエは一体…なん…なんだッ」
オクルスに首を締められながらアタシは問う。
2つだけ残った顔についた目が、アタシの顔を睨んだ。
「シヒヒッ! ……失礼。私の身体は“同族”が同居してましてね。いわば、“賃貸”みたいなものなんですよ。食欲旺盛なんで、食事時には今のように“外出”するわけでしてね」
同族? でも、目の前のオクルスは、あの目玉蛇みたいな感じじゃ……
「外見が違うのが不思議ですか? なに、魔物というのは、同族でも環境によって生態が大きく変わるのはそう不思議なことでもありません。例えば、あの紫色の彼は毒持ちです。さきほどキャッティの娘さんに浴びせたのはその体液ですよ」
いまフィーリーと交戦している目玉蛇……確かに紫色だ。
ということは、今まで“鞭”だと思っていたのは……
「正解です。触手のように操ることもできるのですよ」
そう言うと、オクルスの残った目玉の1つがズルズルと移動して、顔を首を通って、胴体の方へと消える。
そして、袖の下から、片方の目玉が先端についた触手を伸ばしてフィーリーを攻撃する。
「バンビーナ。私のお話好きは、人間から学んだものでしてね」
フィーリーやウィルテを攻撃しながら、まるで世間話でもするように続ける。
「人間種は面白いものです。魔物と違い、強くなり成長することができるからです。魔物にはそれがない。基本的に生まれた時に強さというものが決まってしまう。なんとも不公平な話だとは思われませんか?」
抵抗しようとするが、なぜか腕にも足にも力が入らない。首は強く抑えつけられているが、辛うじて呼吸ができる。
「無駄ですよ。麻痺を得意とする個体もいましてね」
アタシの首を締めている脇から、目玉のついた触手が顔を出す…もう1匹いたんだ気持ち悪い。アタシの腕や胴体に絡みついてくる。
「おや、どうやら貴女を気に入った様子ですね。それほど強い魔力があれば、先程のリビングアーマーなどとは比べ物にならない強い魔物となる可能性があります。シヒヒ。……失礼」
「……な、なら、強い魔物を……造り出すためにエクストラクトを…」
「ええ。それが私の“商品”なのです。魔剣だけ頂ければと思っていたのですが、間近で見ると貴女はとても素敵な商品になりそうですね」
オクルスは片目でアタシの全身を舐めるように見て、サメのような鋭い歯が並ぶ口を開く。
そして、手に小さな小瓶を持っていた。それはランザが飲んだのと同じ紫色の液体が詰まったヤツだ。それがアタシの口にと近づけられる。
「や、やめ……」
「さて、どんな魔物になるのでしょう。私のような
最上級粘液生物という生き方もなかなか愉しいものですよ。理性さえ残っていればの話ですがね。バンビーナ」
スライム?
コイツ、スライム…だったの……?
「魔剣ユーデスと貴女。きっと剣魔帝様は破格の価格で買い取って下さることでしょう。愉しみですよ」
デモスソード?
コイツ……デモスソードの手下なのか?
アタシの脳裏に、おじいちゃんが…父さんが、そして母さんの姿が思い浮かぶ。
「ああああッ!」
「なに?」
アタシは力の限り剣を持った手に力を込める。
お願い、ユーデス動いて!!
「そ、そんな馬鹿なことが…。私の麻痺毒は猛魔獣すら身動きさせぬというのに…」
アタシは一気に、首を掴んでいるオクルスの右腕を触手ごと下から切断した!




