057 ヤンキー語
「…ィー! …ディー!」
遠くから声がする。
「レディー!!」
うっすらと目を開く。
そこにはユーデスがいた。
「よかった! 目を醒ました! 体勢を立て直して! 落ちるよ!!」
「え? 落ちる? わああッ?!」
なぜかアタシは中空にと放り出されていた。慌てて状況を確認し、ユーデスを握り直す。
バラバラに分解した鎧の破片らしきものが、アタシと一緒に落ちていた。
「ランザ!」
アタシと一緒にランザが落ちているのを見つける。邪魔な破片を払い、彼女の肩を掴む。
「レディー! 衝撃波を出して着地するよ!!」
ユーデスが言う意味が全身で理解できる。アタシは魔力を集中させて、ユーデスの剣先を地面へと向ける!
──魔晃衝輪環突激──
本当はユーデスの魔力を放つ技に、名前なんてない。
けれど、名前はイメージを強化する。イメージは形のないものに輪郭を与えてくれるとユーデスは言っていた。
アタシには漢字の羅列が何となく強い感じがして、そんなヤンキーっぽい名前を付けた。
魔力が濃い紫色の光を伴い、波紋のような円幾つも放って、地面に散らばっていた鎧の破片を吹き飛ばす!
その勢いのおかげで、アタシたちが落ちる速度も緩まって、ランザを横抱きにしたまま、ホコリが舞う地面に転がる。
「ぺっぺッ! あー、もう口ん中に砂入った!
ランザ! ランザは大丈夫か!? 無事?」
彼女はグッタリとしている。ケガはしていないように見えるけど……
ランザの大きな胸に手を当てる……鼓動は分かんなかったけど、胸が上下に動いてることから息はしてるみたい。
「傷は…」
「塞いだよ。痕は残らないハズ」
ランザの鎖骨のところに刺し傷があって、血塊が出来ている。
「……ゴメン。ランザ。痛かったよね」
あの時は必死で考えている余裕なんてなかったけれど、アタシが彼女を傷を付けたんだと今更になって後悔する。
「なにがあったんだい?」
「なにがって?」
「レディーも意識を失っていたんだよ」
「分からない……けれど、夢みたいなのを見ていた気がする」
「夢?」
「うん。夢……たぶん、ランザと……話したのかな?」
ユーデスは信じられなかったようでしばらく黙る。
「……魔力の同調? いや、そんなことで意識の共有はしないハズ。もしかしたらエキストラクトが影響してるのか? 副作用?」
「どうなんだろう? それに魔物の核を壊したから?」
「ああ。でも、実際に成功したのは……彼女に何かの変化が生じた結果、リビングアーマーとの繋がりが弱まったからだと思う」
「なんでもいいや。ランザが助かったのなら……」
難しい話はわからない。けれど、彼女が助かったのならなんでもいい。
「……いえ、それは大変困りますね」
「レディー! 避けるにゃ!」
「えッ?!」
アタシの顔の横すれすれを何かがかすめる。それは地面に辺りジュッという音と焦げたような臭いを漂わせた。
それは何か粘液みたいなもので、擦ったアタシの頬も焼けたかのようにチリチリと痛む。
いつの間にか、全身黒ずくめの男が側に立っていた。
「このニスモ島には滅びて頂かなければなりません。優れた商人というものは、一度した約束は違えないものですから」




