055 見捨てない
アタシが取り付いたことで、リビングアーマーは大暴れしだす!
「レディー! 何を!!」
攻撃を受け流していたフィーリーが、慌てたような声を上げた。
「直にランザと話す! だから、しばらくアタシに攻撃が来ないようにして!」
「危険ですよ!」
「危険は承知の上だよ!」
「レディー! クッ!!」
振り回される拳に吹き飛ばされ、フィーリーが大きくはね飛ばされちゃった。
下の方ではウィルテの悲鳴が聞こえる。動き回るアタシやフィーリーが、魔法による攻撃で撃墜されないよう懸命に防御魔法を展開してくれているからだ。
「時間は……余りないよ」
ユーデスが小さな声で伝えてくる。
「分かってる! ランザまであとちょっと!」
アタシはちょうどリビングアーマーの右肩らへんにいる。
メチャクチャに暴れているけれども、絶対に離すもんか。いまのアタシの握力は本来の状態に戻っているんだ!
「ふんぎぎぎッ!!」
ユーデスを咥えると、「あ♡ そんな大胆んな!」とか言ってるけどそんなのに構ってられない!
両手の爪を立てて、脚を突っ張らせて、徐々に彼女の元へと……
「うあッ?!」
危ない! リビングアーマーの拳がアタシを思いっきり殴りつけようとしたのを、フィーリーが間一髪のところで払ってくれた。
「レディー! 何をする気かは知りません! しかし、このエキストラクトによって魔物化した魔物を倒すには、その核を破壊する他ない! 魔剣の力であれば……チィッ!」
フィーリーがそこまで言った瞬間、リビングアーマー……いや、ランザが魔法を唱えた!
いくらウィルテが防御魔法を張ってくれているとはいえ、直撃するのはマズイと思ったフィーリーは離脱する。
「……癪だけれど、私も同じ意見だよ」
何とか態勢を整え直せたアタシは、ユーデスを口から外して腰に差し直す。
その間もユーデスは話し続けた。
「そして、主となる核はいま彼女……ランザの中にある。魔物化が不完全な状態であれば、取り除くことも可能だったかも知れない。だけれど、私の目から見てもかなり癒着が進んで……」
「アタシはランザを助ける。そう言ったろ」
「……うん」
「あともう少しで手が届くんだよ!」
鎧の繋ぎ目に無理に指を突っ込んで、そして這うようにして、ランザの前にと出る。
彼女は白蝋のような生気のない顔をしていた。視線は虚ろで定まらず、時折、大きく口を開いて魔法を詠唱する。
「ランザ! ランザ! 聞いて!」
彼女の耳元で大声を出すけれど、彼女に反応はない。
「……無理だ。レディー。彼女自身が自ら意識を手放している」
「そんな! そんなことない!」
アタシは彼女の肩を大きく揺さぶる。リビングアーマーが嫌がって仰け反るけれど、アタシは懸命に落ちないように堪える。
「……お願い! 聞いて! ランザ! アンタの協力が必要なの! アンタのお姉さん! ローラさんだって心配している! だから…」
ローラさんの名前を出せばと思ったけれど、それでもランザにまったく反応はない。
「どうして、なんでだよ? ……なにがアンタをそこまで追い詰めたんだ?」
眼鏡を失った彼女の顔をマジマジと見やる。
アタシの眼には、彼女は普通に可愛いく見える。
影はあるけれど、お姉さんとは違った魅力のある女性だ。
デヴでも陰気でもないじゃん……ランザ。人生これからだよ。
「自分から魔物になんてなる必要なんか……」
彼女は自分のことを“つまらない女”だと言った。
自身の喪失、強い自己否定……
わかる気がする。アタシだって、そのせいでこの世界への異動を選んだんだから……
方法は違っても、きっとアタシとやったことは同じなんだ。
「レディー! もう限界だよ! 僕がリビングアーマーの魔力を吸収して核を破壊す……」
「ユーデス!!」
アタシはユーデスの柄を掴む。
ユーデスはアタシが手に集めた魔力を感じ取って、戸惑っている雰囲気だった。
「アタシの魔力! それをランザに直接流して!」
「なんだって!?」
「“気付け”だよ! ほら! ウィルテとフィーリーを起こす時に使ったヤツ! あれの強力なのをお願い!!」
「無謀だ! ランザはいま魔物の魔力に囚われてて、それを打ち破るほどの力を流したら彼女の身体が持たないよ!」
「打ち破る必要なんてない! 彼女の核って心臓のことじゃないの!? もしくはその付近とか!?」
「そ、そうだけど……」
「なら、核の刺して直接流し込めばできるんじゃない!?」
「そんなやり方は聞いたこともない! 魔力の発生源たる部分に突き刺せば、逆流してくる可能性もある! レディーよりも、リビングアーマーとなったランザの方が魔力総量が多いんだ! 逆流した場合は……」
「アタシの方が汚染される?」
ユーデスは答えない。それはアタシの考えが正しいって意味だ。
「魔路拡!」
「え?」
「ユーデスはアタシの体内の魔路を拡張できた! 今の状態のアタシの魔力なら、自在に操れるでしょ!」
「それは……」
「信じているから!」
「ああ、もう! ズルいよ! そんなこと言われたらやるしかないじゃないか!」
ゴメンね。ユーデス。
でも、アタシは感覚的にそれが“できる”って感じるから……
こうしてアタシは、ランザの左胸の鎖骨あたりにユーデスを突き立てて──




