054 生命力を魔力に…
混濁する意識の中で、私は何かに急かされるように頭に浮かぶ言葉を口にする。
次の瞬間、うっすらとボヤケた視界の先で何か変化が起きる。
それが町を破壊する悪い行いだとは、何となく感じられてはいた。でも実感が湧かない。どこか遠くで起きているような感じで、自分自身を抑える気力も生じなかった。
もう何もかもがどうでもよくなっていた。
どうせ、私はダメな女なんだから──
頑張って幸せになろうとしたけれど、いつも空回りしてばかり……姉のように上手くはできない。
マルカトニー様のお役にも立てなかった……。
私はクズでドジでマヌケな本当に使えない女だ。
だから、もう何がどうなってもいい──
ボヤケた視界の中で、何か黒い者が飛び交う。
虫かしら?
鬱陶しい…。
放っておいてよ。
でも、声が聴こえて……
なに? なにを言っているの?
──
アタシは“魔力の刃”を飛ばして、リビングアーマーの手脚を切断する!
すかさず魔法による反撃が来るけれど、それはユーデスが真っ黒な衣のような物を生み出して呑み込んだ。
だけど、その間にリビングアーマーの手足はくっついて元に戻ってしまう。
それは弟が持っていた玩具のロボットみたいに、マグネット磁石で付け外しが自由にできるって感じだった。
「ねえ! 戦えているけれどさ、これじゃキリがないよ!」
「魔力は無限じゃない。このまま攻撃すれば私たちが勝つさ」
本来の力を発揮できているユーデスはそう自信ありげに言う。
フィーリーの治療が効いたのか、いまのアタシはユーデスをしっかり握って魔力を通して、振ることができるようになっていた。
でも喜んでばかりはいられない。相手は単なる魔物や怪物じゃないんだ。
「いま大事なのは、勝つことよりもランザを無事に助け出すことだよ!」
「分かっている……。けれど、難しいかもしれない」
「え? なに?」
「死霊族が活動するための魔力の不足分を、彼女の生命力で補おうとし始めているんだ」
「どういうこと? 鎧を倒せばいいんじゃなかったの?!」
「ああ。“普通”のリビングアーマーならそれで良かったかもしれない」
「普通じゃないってこと?」
「うん。アレは違う。魔法を使う特殊な個体だ。
おそらくだけど、ランザに魔法の才能があったことによる結果だろうね」
「魔法が使えることがマズイってこと?」
「そう。どうにも魔力的な結びつきが強い。つまり、このまま彼女……ランザの本体を狙わないで戦い続けたとしたら、いずれにせよ、彼女は消耗して死んでしまう」
「そんな……」
それじゃ何の意味もなくなってしまう。
フィーリィーもウィルテも援護してくれているけど、ダメージになるような攻撃はアタシしか与えられていないみたい。
でも、このままダメージを与え続けていたらランザが危ないだなんて。
「何か方法はないの!? ユーデス!」
「彼女が意識的に生命力を魔力に変換しているならば、彼女自信がその供給を止めれば……」
「? ランザにまだ意識があるってこと?」
「中途半端な魔物化からしてもその可能性はあるけど、それも“もしかしたら”の話でしかないよ」
「もしかしたら……でもいい! ランザに意識があるなら、彼女と直接話す!」
「危険だ!」
「危険でもやる!」
アタシはリビングアーマーの中央にいるランザに向かって思いっきり飛び上がった……。




