049 憧れの勇者
いよいよ町に、リビングアーマーが到達する。
平和だった港町イークルは、かつてない脅威の襲来に、喧騒と恐怖に包まれていた。
「近くで見ると、やっぱデカイな……」
広場から、アーケード越しに見える敵の姿を見て、マイザーは冷や汗を一筋流す。
“マイザー・チーム”はついさっきまで、ギルドの緊急依頼に応じて人々の避難誘導に当たっていたのだ。
「自然発生する普通の魔物じゃないわ」
マイザーと同じ種族であるヒューマンのウイッチがそう言う。
「ああ。わーってる。ここらへんの避難は完了した。後は被害を最小限に……」
「ちょっと、待ってよ。リーダー、まさかアイツとやり合う気じゃないよね?」
犬人のシーフが目を白黒とさせた。
「そのまさかだよ。町の兵士じゃアレの相手は荷が勝ち過ぎるだろ。今こそ、俺たちレンジャーの出番じゃねぇか」
「勘弁してくれい。グリーンランクの仕事じゃないぞい。報酬倍でも割に合わん」
半巨人のファイターが鼻を鳴らして不快そうにする。
「トレーナ、シェイミ、ダルハイド…俺がレンジャーやってる理由は知ってるだろ?」
マイザーに言われ、3人は顔を見合わせる。
「“勇者”になりたい…だよね」
シェイミが少し呆れたように言うと、マイザーはニヤリと口の端を笑わせる。
「実力が伴ってねぇのは百も承知。だがな、ここで逃げ出したら…俺は俺を許せねぇ。だから、お前たちは逃げても……」
「逃げるわけないだろ。死ぬのはご免だけど、その直前までは付き合ってやるよ」
「ま、惚れた男がバカだったのは、ウチに見る目がなかったんだし。しゃあないよね」
「未だにヒューマンとコボルトが付き合う意味がワシにはわからんが……ま、ここで死なせちゃ寝覚めがわるいわい」
トレーナがステッキを、シェイミがフライングディスクを、ダルハイドがツーハンデッドソードをそれぞれ構える。
そんな仲間たちの友情を前に、マイザーは思わず涙腺が緩み、ズズッと鼻をすすった。
そしてマイザーは自分の頬をパチンと叩き、2本のショートソードを抜き放つ。
「あの巨体に、正面から突っ込むのは無謀だ! 進行方向から逆に回り込み、屋根伝いに攻撃を仕掛ける! 攻撃は右足関節に一点集中! まず魔法と投擲、怯んだら俺とダルハイドが一撃かます! 第一目標としては、ヤツの動きを止める事!」
「はい!」「OK!」「応!」
「“マイザー・チーム”、推して参…」
「待ちな」
マイザーが走りだそうとした瞬間、その肩を強く掴まれ、その場に押し止められる。
(!? な、なんだ? 俺を…片手で…)
マイザーはにわかに信じられずに驚く。ダルハイドほどには力は強くはないが、それでも膂力にはそこそこ自信があったからだ。
「自殺志願なら他所でやれ。……拙者らの仕事の邪魔になる」
「なにを! ッ!?」
怒鳴り返そうとしたマイザーは、肩を掴む男の顔を見て目を見開く。
左目を覆う眼帯、そして乱雑に結った髷。無精髭だらけの痩身。それは異様な風体だった。
鎧はおろか胸当ても付けずに、ただ着流しと羽織だけをまとっていて、腰に帯びているのは黒い刀が1本だけだ。
「あ、アンタは……“レイヴンツヴァイ”の“リュウベイ”!」




