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043 頭なき巨人

 轟音を立てて、廃墟の屋根が崩れ落ちていく…


 ズズズッ…という巨石を引きずるような音と共に、瓦礫の中から“頭のない巨人”が姿を現した。


 それは身の丈は家ほどもあり、灰色の甲冑に包まれていた。その太木のような腕が柱を圧し折り、神殿に使われる土台石のような足が壁や床を蹴散らす。


「な、なんだよ…あれは……。あんなの出てくるなんて聞いてないぞ……」


 屋敷の裏で事が終わるのを待っていたマルカトニーは、その場で尻もちをついてガタガタと震えていた。


「なかなかのリビングアーマーですね」


 音もなく、黒い服の男がマルカトニーの側にいつの間にか立っていた。


「アンタは……」


 幾分、落ち着いたマルカトニーはフウと息を吐きだす。

 

 この男は長年の取引相手であり、魔物の核を大金を出して買い取ってくれる良客だった。


 そして今回の“件”も、彼のアイディアでやったことなのである。


「ミスター・オクルス。話が違うじゃないか……。強い人間を弱らせて、魔物化させた上で、弱っているソイツを殺せば……簡単に核を、つまり最良のエキスを手に入れられるって話じゃないのか?」


 オクルスと呼ばれた男は、目深く被った中折帽子に触れてクククと笑う。


「ええ。何も間違っていませんとも」


「だが、あれは……予定と違う。レンジャーどもじゃないぞ……」


 マルカトニーの目が、リビングアーマーの胸元に向けられる。


 そこには赤い靄のようなものに囚われ、意識を失ったランザの上半身が、胸当ての装飾の一部と化していた。

 

 ずっと外にいたマルカトニーには何が起きたのかはよく分かっていなかったが、あのランザが何かヘマをして、渡してあった“エキストラクト”を呑んだに違いなかったことだけは理解できたのだ。


「ただ強い人間というのは、別に戦闘力という意味だけではありません」


「え?」


「“意志の強さ”と申しましょうか……まあ、総体的に、意志が強い=戦闘力も高い場合が殆どなんですがね。イレギュラーな事態ではありますが、こちらとしては願ったり叶ったりです」


 こんな悠長に話している間も、リビングアーマーは目の前のすべてを破壊しつつ前進している。


「あんなのどうやって倒すんだ。このままじゃ……」


「ああ。まあ、倒す必要もないでしょう」


「へ?」


 マルカトニーは間抜けな顔で目を瞬く。


「だって、強い魔物の核が……必要なんだろ? そのためには……倒さなきゃ…」 

 

 ランザが犠牲になる……そんなことはマルカトニーには実のところ、どうでも良かった。核を手に入れることが一番大事なのだ。


「いえね。あれが本当の我々の“商品”なのですよ。

 しかし、死霊族は難しいですな。意識を欠いた状態では売り物にもなりません。

 ……やれやれ、これではハイ・リッチーを失った損失の方が大きくなってしまう」


「なんの……話だ? いったい何を言っている? 核を……エキスが欲しいから、金を出してたんじゃ……」

 

「核は必要ですよ。しかし最近は入手量も減り、あれだけ手間暇をかけて造り出した“魔物”があの程度では…そろそろ潮時だと思ってはいたのです」


 オクルスがゆっくりと帽子を脱ぐ。


「ヒッ!」


 それは人間ではなかった。


 一瞬スキンヘッドなのかとマルカトニーは思ったのだが、歪な形をした目玉が無数に蠢いており、それがギョロギョロと周囲を見回している。


「ば、ばけも……グエッ!」


 “化け物”と言おうとした肥えたマルカトニーの太い首を目にも止まらぬ一瞬で跳ね飛ばす。


 オクルスは血のついた手をペロリと舐めると、頭頂の目玉が興奮したように見開かれた。


「よしよし。“ソレ”はお前たちに分けてやる。そう慌てるな」


 オクルスは歯を剥き出しにして笑うと、“人間の方の目”で中空を見やった。


 知っている“魔力”を感じ取ったのだ。


「……はい。これは、これは。パパチチイヤン様。ええ、もうすぐ終わります。

 はい。そうです。質が悪く、魔物の増産は無理でしたが……ビジネスとしては失敗ですが、まあ、我々の想定内の結果ですよ」


 オクルスはリビングアーマーを見やり、帽子を被り直す。


「ええ。その通りです。ニスモ島はこのまま地上から消えますとも」

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