表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/141

039 選ばれたランザ

 私はいつ何をやってもダメな女だった。


「ゴブリン討伐依頼達成ですね。…あれ、確かマイザー・チームは他の依頼も残ってましたね」


「あれ? そうだっけ?」


「ええ。ギムジナル薬草の採取が…」


「この前、採ってきたのは?」


「ランザ。右から5番目の棚にファイルがあるから取ってちょうだい」


 私は言われたまま、ファイルを取って姉に手渡そうとして床に散らばしてしまう。


「もう。何やってるの!」


 ローラは立ち上がり、私が屈む前に書類をサッとまとめて取ると、あっという間に揃え直す。


「…この前お持ち頂いたのはメールヌ草ですね。香材料です。見た目が似てるからお間違えになったのでは?」


「あー。確かにそうだったわ。やっちまったな。よーし、そんなに手間かからんやつだし。さっさと片付けちまうか。また行ってくるわ」


 周囲から「えー」という不満の声が上がるが、リーダーのマイザーさんは気にした様子もない。


「報酬はその時で?」


「ああ。よろしく頼むわ。

 おら、いつまで不貞腐れてやがるッ! もう一度、森に行くぞ!」


「かしこまりました。お気をつけて」


 姉はフーと小さく息を吐くと、書類に目を落とす。


「ランザ。この薬草の依頼達成分の報酬合計を用意しておいて。1割増しでね」


「え? 依頼達成してからじゃ…」


「あのチームは大丈夫よ」


「1割増なのは…?」


「いつも追加依頼も達成しくるからその分よ」

 

 姉ローラはこんなに優秀だ。ギルドの仕事を殆どひとりでこなしてしまうくらいに……。




 ある日、町長のご子息マルカトニー様がギルドに来られた。


「これはようこそお越し下さいました。マルカトニー様。言って頂ければ、こちらから赴きましたのに」


 ローラもいつもより堅い口調だ。

 変な依頼は多いが、彼はお得意様だ。個人的な好き嫌いで姉は態度を変えたりはしない。…ウィルテとかいうレンジャーにだけは別だけど。


「フン。ランザと話をさせろ」


 マルカトニー様が私を指差す。

 そうだろうなぁと思っていたけれども、こうやって選ばれる瞬間はいつも一番気持ちがいい。

 ローラやギルドのスタッフ皆の視線が、私にと集まる。ゾクッと私の背中を何かが走る。


「…マルカトニー様。妹…いえ、ランザでなくとも、他のスタッフでもご依頼は承れるかと思いますが」


「いや、その女がいい」


 ダメだ。ついニヤけてしまいそうになる…


「……かしこまりました。仰せの通りに」


「2階の応接室だな。お前たちは入口で待機していろ」


 使用人たちにそう命じると、誰の許可を得るでもなく、マルカトニー様は奥の階段へと向かう。


「……これだからボンボンってやつはッ」


 ローラが小さく悪態をつく。なにも自分が選ばれなかったから(・・・・・・・)といってそんなこと言わなくてもいいのにと思う。


「…なにか変なことされてるようなら」


「お客様に失礼になるから…。行ってくるね」


 皆の羨望の眼差しを背に受けながら、私はマルカトニー様を追いかけて2階へと向かった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ