036 上級死霊王
町からだいぶ外れたところにある廃墟。
ここは元々はイークルの中心部があった場所らしい。
港町として発展するにつれ、海が近い場所に主要部分が移るのは当然で、徐々に寂れていってしまったそうだ。
元々はニスモ島自体が外界との接触がほとんどない閉塞的な島だったらしいけれど、今の町長の父さん……レパトリ家がリーダーとなった時に、ドワーフを招致して、造船業に乗り出したりと革新的なことを始めたらしい。
それが成功してるのは、冒険者ギルドまである町が大きくなっていることからも分かる。
活気づいて、商売もそこそこ成功していて町は豊かだ…そんなわけで、住人は基本的に町長に頭が上がらない状況らしいってのが、ウィルテがしてくれた話だった。
そんな成功者のレパトリ家の息子が、とんでもない勘違いのボンボンになるのも仕方のないような気もする。
その人とは会ったことはないけど、アタシの同級生に社長さんの子ってのがいたけど、なんか毎月数万円もお小遣いもらって、悪い連中とつるんで悪さしてたって噂だったし。
お父さんが偉大だと、息子が甘やかされてダメになるってのはどこの世界も同じなんだろうな。
「悪鬼が住むには確かに相応しい雰囲気ですね」
フィーリーが目を細めて、半ば朽ちた邸宅を見やる。
「でも、こんな場所に屍鬼なんているのかにゃ」
「どういうこと? いないかも知れないってこと?」
アタシは不思議に思って尋ねると、ウィルテは「んーむ」と呻く。
「周りは廃墟ばかりといえ、別荘がこんな町中の真ん中にあるとは思ってなかったにゃ。山や森ならそこで自殺者とかがいてもおかしくにゃいけど…」
「なんのこと?」
「死体がないところで屍鬼なんて普通は発生しないにゃ。戦場とか事故現場ならともかくとしてにゃ」
「ここ事故現場じゃないの?」
廃墟ってそういうモンだとばかり思ってたんだけど。
「廃墟といえども、町の支配下にある以上は最低限の巡回くらいはしてるでしょう。ウィルテが言っているのは、“そんな場所になぜ死体があって屍鬼となったか”…ということです」
そんな変な話? グールって魔物でしょ? 魔物ならそこら辺にもいるし。
「えっと、なら、誰かが殺したからじゃ…」
アタシが言うのに、ウィルテとフィーリーは顔を見合わせる。
「誰がですか?」
「えっと、悪い人」
「悪い人? この町長の別荘に入れるヤツにゃ?」
「うーん、なら町長が殺して隠した…みたいなこと?」
まるで責められるかのように聞かれ、アタシは思いついたことをそのまま答える。
「……時々、レディーは鋭いのか抜けてるのか解らなくなるにゃ」
「怪しい依頼だというのは承知の上です。とりあえず中に入ってみましょう」
中は荒れ放題だった。床は腐ってるし、柱は折れ曲がり、壁の塗料もボロボロに剥がれ落ちている。
別荘だとしても、なんかもう使うつもりないんじゃないかしら。
「足場が悪い。戦いとなったら気を付けましょう」
「うん」
「レディー。貴女はギリギリまで戦わないで下さい。基本、私とウィルテで対処します」
う。信用されてない…。まあ、また暴走した困るし当然か。
ユーデスもだんまりだし。困ったな。はやく仲直りしたいけど…ってか、ケンカしてるつもりもないんだけどね。
「1階には気配はなさそうにゃ。2階かにゃ?」
砕けた階段を足を踏みはずさぬ様に慎重に上って行く。
「執務室…寝室…多目的室…他にもかなり見なければならない場所が多いですね」
フィーリーの言う通り、2階はかなり小部屋が多そう。ひとつひとつ見ていったらかなり時間がかかりそうだ。
「ウィルテに任せてにゃ。【エネミーサーチ】」
ウィルテが何やら魔法を使う。
「探知系魔法も使えるんですか?」
「凄い魔法なの?」
「いえ、普通は盗賊などが修得する魔法なので。攻撃系魔術師であるウィルテが使うのが珍しかったのです」
「ソロだと色々できないと不便だから勉強したにゃ。簡単な回復魔法も使えるにゃよ」
「それは凄い。さすがブルーランクのレンジャーなだけはありますね」
「へへ♡ それほどでもぉ〜」
ウィルテはフィーリーに褒められて上機嫌となる。
「…おっと、見つけたにゃ。セオリーというかなんというか、一番奥にある部屋にゃ」
フィーリーもウィルテも構える。アタシも後方だけど一応ユーデスを構えた。何があってもいいように…
暗闇の奥から敵が姿を現す。
ボロボロのフードを着た骸骨…。デモスソードに似てる様な感じがして、アタシは思わず手に力が入ってしまう。
「あれが屍鬼ね」
アタシがそう言うけれど、フィーリーもウィルテも何も答えない。
「ち、違うにゃ…あれは…」
「上級死霊王!」




