034 神殿にて
神殿と言うのは、創世神と呼ばれるニューワルトという最高神を祀っている宗教施設だ。
エアプレイスにも神殿はあったけれど、国自体があまり宗教色に染まってなかったせいか、アタシもあまり馴染みがない。
“転移門”と呼ばれる太陽のイラストのような、円座のシンボルがあちらこちらに描かれてる。
「来ちゃったけど…。大丈夫かな?」
「まあ、ここにニューワルトが居るわけではないしね」
なんだか投げやりに聞こえる。ユーデスの機嫌はあまり良くないみたい。
「…なんだよ。なんかやっぱり怒ってる?」
「怒ってる…というより、心配している」
「心配?」
「うん。あのフィーリーって男は信用できない」
「……またそれ」
なんでこんなにフィーリーを嫌うんだろう? 脚の長い長髪イケメンだからかな?
「もしかして、ユーデスの元の姿は短足チビで髪薄いとか?」
「は?」
あ、なんか怒った。なんか図星かな…。
「……レディー。私は容姿のことを言ってるんじゃないよ」
「うん。今のはアタシが悪かったけど、でもよく知りもしないでアタシの知り合いを悪く言わないでほしいんだよ」
「……」
んー、なんかイヤな雰囲気。ユーデスは表情とかないからイマイチ感情読み取れないんだよね。
いつものベラベラとお喋りしてくれた方が……
あ。ユーデスに何か話題を振ろうと考えている間に、神殿の奥へ辿り着いちゃった。
神殿は祈祷以外に、医療神官による治療なども行われている。
受付でお布施という名目の治療費を払い、しばらく席に座っていると名前を呼ばれる。まるで前世の病院みたいだ。
ローラさんの知り合いらしい神官の前に座る。
医術の心得がある…ってか、医者が神官になることはそう珍しくないらしい。治療魔法があるんだから当然かも知れない。
「……それで剣を振ると力が入らなくなると?」
「はい。なんか多分、神経に異常があるんじゃないかなーと」
「君は医者かね? 勝手に診断するんじゃない」
怒られた。なんでこんなゴリラみたいな人が神官なの? 神官ってより、プロレスラーの方が似合いそう。
もっと優しい人の方が、癒やし効果も高まると思うんだけどなぁ。
「…右手を伸ばして」
言われるままに手を伸ばす。神官さんはアタシの腕を色々と弄くり回す。
「…反応が鈍い。次は舌を出して」
「べー」
なんか本当に診察みたいだ。魔法でちゃちゃっと原因調べたりしないんだ。
「次は眼を見せて」
親指を眼の下に当てられる。ちょっと痛い…ってか顔をのぞきこまれるのって本当にイヤだ。
「ふーむ」
「なんなんでしょう?」
「……薬物中毒」
「えっ!?」
薬物中毒? って、麻薬!? アタシ、ジャンキーじゃないんですけど!
「…まあ、ほとんど抜け落ちてはいる。特に治療は必要ないだろう。時間が経てば元に戻る」
「えっと、中毒になるようなことをした覚えは…」
「出身は? 地域によっては、普段食べている物で、知らず知らずのうちに常用してしまっている場合もある」
「エアプレイス…ですけど」
「エアプレイス? これは驚いた。あの空中都市か」
「でも、周囲にアタシみたいな症状はいませんでしたよ」
もし普段食べてる物が麻薬だったとしたら、父さんや母さんだけじゃなく、他の人たちもそうなってておかしくない。そんな話は聞いたことがなかった。
「なにか君だけ拾い食いしてたとかはないかね? そこら辺に生えているキノコを食べてたとかは…」
「そんなことするかッッッ!!」
いきなり怒鳴ったアタシに、ゴリラ神官はびっくりしたようだった。
「そ、そういえばローラからの紹介状に“凶暴化”の兆候があると…お祓いしよう! きっと君は薬物中毒以前に何か悪いモノに取り憑かれているに違いない!」
「結構です! アタシは至って普通です!」
「悪霊に憑かれた者は皆そう言うんだ!」
「自然に治るんですよね! それが解っただけで充分です! ありがとうございました!」
アタシを取り押さえようとする神官たちの手から逃れ、アタシはそそくさと神殿を後にしたのだった。




