033 ローラとランザ
アタシたちは冒険者ギルドにと戻る。
ウィルテがトレントの核が入った袋をカウンターにドサッと乗せると、ローラさんが少し驚いた顔をした。
「この短時間で…こんなに狩ったの?」
「余裕だにゃ。追加報酬もありにゃ?」
「え、ええ。11体目からはプラス50Eよ」
「基本報酬500Eに、ざっと100体にゃから、4,450Eで…合わせて4,950E…キリが良く5,000Eってところにゃ?」
「端数切り上げなんかしないわよ。ちゃんと数は数えるわ。ちょっと時間をちょうだい。ランザ」
ローラさんは、後ろで書類を分けているランザさんに声を掛けたけど気づかなかったみたい。
「ランザ!」
「あ、はい…」
ランザさんの声、初めて聞いたけど、転生前のアタシそっくり…ボソボソ声だ。小さくて聞き取り辛いんだよね。
「ボーッしないで。仕事中よ」
「…ゴメンナサイ。姉さん」
「姉さんは止めて。仕事中よ」
え? ふたりって姉妹なの?
「このトレントの核を数えて。終わったら鍵のかかる箱に…。最近、魔物の核を狙う犯罪多いらしいから」
ローラさんは、ランザさんに袋を手渡す。
「犯罪? 魔物の核にゃんて泥棒が狙うの?」
「ええ。怪しげな宗教団体か、マフィアか知らないけれど…高値で取引してるらしいわ。自警団が凄く警戒してる」
「ふ〜ん」
ウィルテはあんまり興味なさそうだ。
「あ、あの、ローラさん」
「うん? 何かしら?」
「この近くに…お医者さんとかいない?」
「医者? どこか怪我でもしたの?」
「いや、そういうわけじゃ…」
ウィルテとフィーリーが顔を見合わせる。
「剣を持つと興奮して暴れまわるって病気知らんかにゃ?」
「…ウィルテ」
ウィルテに悪気はないんだろうけど、そんな率直に言わなくても…
「まさか狂戦士なの?」
ローラさんが訝しげにアタシを見る。
「…いや、違うと思います。恐らくは剣の魔力を扱えずに暴走してしまうのだと」
「呪われた剣? それなら神殿で相談してみたら?」
「神殿…ですか」
ローラさんは頷くと、小さな紙に住所を書く。
「知り合いがいるわ。確か医術の心得もあったハズよ。ちょっとした変わり者だけど、まあ相談に乗ってくれると思うわ」
「あ、ありがとう」
神経系の問題を診てもらいたいだけなんだけど…なんかお祓いとかされたらヤダな。
「どうします? ウィルテ。レディーが神殿に行く間は依頼は受けないでおきますか?」
「そうにゃね。…でも、ついて行くにしても神殿はどうも苦手で」
「正直、私も好きな場所ではありませんが…」
「ああ、いいよ。アタシひとりで行くから」
うん。ふたりをわざわざ付き合わせる気はないし。
「あー、実はダブルパイパイに指名依頼が来てるわよ」
「指名? 実績もないチームに?」
「ええ。町長絡みのよ」
ローラさんが眼を細めると、ウィルテはわざとらしく「あー」とか言って笑う。
「…ねぇ、ウィルテ。前にも言ったけれど、ギルド外での宣伝は何をやってもいいわけじゃ…」
「あー、はいはい! で、依頼主のとこに行けばいいにゃか?」
「いいえ。話し合いの場を設けると言ってたわ。ギルド長も交えて…」
「ギルド長? そんな大事の依頼にゃ?」
「詳しくは知らないわ。あなたたちが戻り次第、連絡するように言われただけだから」
フィーリーがアタシを見やる。
「…依頼内容を聞くだけなら、私たちだけで充分でしょう。レディーは神殿に行かれては?」
「え? いいの?」
「そうにゃね。フィーリー様の言う通りにゃ」
「もし依頼内容が荒事だとしたら、レディーは力をある程度はコントロールできるようになって貰った方がいいですからね」
「うん。そ、そうだね。なら、行ってくる」
「なら、おふたりは応接室でお待ちを。…ランザ。案内を……って、まだ数え終わってないの!?」
「…ご、ゴメンナサイ」




