032 町長の息子
「魔物は金になる」
それは本当のことだった。
最初はいつもの眉唾の情報だとばかりに思っていたが、魔物から抽出されるエキスを高値で買う人々がいる。
証拠は今俺の目の前にある。
机に置かれた小袋に金貨が詰まっている。
あんな妖樹で、こんなに稼げるのだ。
「……強い魔物であればあるほど、魔力が高い傾向にあり、エキスも濃厚で芳醇なものになります」
「……それをどうする?」
「飲むんですよ」
「飲む?」
「酒と同じです」
「酒? これが?」
さっき男に渡した魔物の核……俺の目には、単なる石コロにしか見えなかった。
「もちろん加工は必要ですとも」
「……それを飲んだらどうなる?」
「魔力に酔う」
男は口の端を吊り上げて、ニヤリと笑う。
「自分が持つ以上の魔力が全身を駆け巡る! 圧倒的な力に、酔いしれることができるのです!」
目を見開いて、鋭い歯を見せる。
「シヒヒッ!」
その奇怪な笑い声に、俺がドン引きしたのを見て、男は「失礼」と言うと姿勢を正した。
「……お父様の呪縛から逃れたいのでしょう?」
親父はこの町の町長だ。
いつも偉そうに、「俺の金でお前も食えてる。そして俺の跡を継ぐ。だから恥ずかしくない息子でいろ」…とか、そんな下らないことを言いやがる。
「マルカトニー様。ここで上手くやれば、莫大な金を稼ぐことができますとも」
「そうだ。俺は町長なんて器に収まる男じゃない。もっと……もっと、のし上がってやるッ」
「そうですとも。しかし、この辺りの魔物は……残念ながら、さほど上質とは言えません」
「そうなのか? それならたくさん狩るしかないのか? 確かに、複数のレンジャーに任せればできないことは…」
「なんとも非効率ですね。そんな“物”をお求めで?」
黒手袋をはめた男の指が、小袋を指差す。
そうだ。俺が欲しいのは、こんな端金なんかじゃない。
「なら、どうしろと……」
「なに、簡単な話ですよ」
「簡単?」
「ええ。本当に我々に協力して頂けるのであれば……お教えしましょう」
「お前たちの目的は…なんなんだ?」
「普通に単なるビジネスですよ。いつか大陸中にマーケットを拡げたい。ただ、それだけですとも……」




