024 ギルドチーム『ダブルパイパイ』結成
イークル冒険者ギルド。
スウィングドアなんて西部劇に出てきそうな雰囲気だ。
入口から真っ直ぐ先に受付がある。その横には掲示板があって、そこに依頼が貼り出されるらしい。
中はそこまで広くない。奥に座って相談に使える席が何個かあるけれど、そこで話し合っている人はまばらだった。
「依頼完遂にゃ」
ウィルテが青いバッジのような物を見せると、受付にいた女性は気怠そうに書類に手を伸ばす。
「…お疲れ様。ウィルテ。確認できてるわ。いつものように振り込む? それとも現金の方がいい?」
受付の女性はアタシを眼鏡越しにチラッと見たけれど特に何も言わなかった。
「あー、時間かかるにゃ?」
「この額ならすぐに用意できるわ」
「なら現金で。手持ち少ないにゃ」
アタシの服とか買ったせいだ…。一番安いのでいいって、地味なのでいいって言ったのに。
「…なら少し待って。ランザ。お願い」
眼鏡の女性は、後ろで書類を分けていた暗い感じの女性に押印した書類を渡す。
暗い女性は頷いただけで返事もせずに、奥の部屋へと消えて行った。
うーん。なんか、転生前のアタシに似てる気がする…。デヴじゃないけど。
「その間に、この娘の登録をお願いしたいにゃ」
「登録料は1,500Eよ」
「あ。さっきの報奨からさっぴいといてにゃ」
「…先に言ってよ。まあ、いいわ。これとこれにサイン。最後に押印。未記入欄があったらダメだから」
なんと手際いいことだろう。眼鏡の女性は次から次へとアタシに用紙を手渡す。
「紹介しとくにゃ。ローラにゃ。このギルドで最も話が解るヤツにゃ」
「そ、そうなんですね。アタシ、レディー・ラマハイムです」
「よろしくどうぞ」
表情が少しも変わらない。なんだか、どこまでも事務的な感じがする。
「……えっと、住所なんだけれど」
アタシは欄に住所を記入するところがあって困る。
エアプレイスは墜落しちゃってるんで、今のところ住所不定だ。ついでに無職。
「どうせ形だけにゃから適当で…」
ローラさんかウィルテを睨む。そりゃそうだ。
「…あー、ウィルテの住所書くにゃ。どうせそこで寝泊まりすることになるんにゃから」
「どのような知り合いなの?」
「あー、迷子にゃ」
「ウィルテ。間違ってはないけれど、それはあんまりに…」
そういえば、ウィルテにアタシがどこから来たとかそんな話はまったくしていない。
「腕っぷしが強くて、お金に困っている…それだけ解れば充分にゃ」
「相変わらずね。…ギルドに迷惑をかけない限り、または犯罪行為に加担したりしない限りは当人の素性を詮索したりはしないわ。スネに傷のある人も少なからずいるからね」
アタシが書いた用紙にザッと眼を通すと、さっきウィルテが見せたバッジのような物を手渡される。でも色は白だ。
「なくさないでね。そのバッジの裏にある7桁の番号が、あなたの個人登録番号。どのギルドでも照会で通用するわ。便利な反面、犯罪に使われるケースも多いから気をつけて。そこは自己責任よ」
確かにこの世界じゃ個人情報保護法とか緩そうだし。
「ちなみに冒険者ランクというのがあってね、赤、青、緑、黄、白の5種あるわ。白は駆け出しのビギナー」
ああ、だからアタシは白なんだ。なるほど。
「数多くの依頼をこなすか、またはギルドがたまに指定する特定任務をこなすとランクがアップすることがあるわ」
「青だともうベテラン中のベテランにゃよー。だからウィルテはスゴイのにゃ。…でも、ローラ。色は黒や紫もあるにゃ」
「あれは例外よ。大支部のギルド長の推薦、かつ全ギルドの承認があって…それこそ勇者とか英雄とかにしか与えられないわ。現にうちのギルドにはレッドすらいないし」
勇者…英雄…アタシには縁のなさそうな存在っぽい。
でもそんなのが本当にいるのなら、デモスソードを倒してくれてもいいのにと思う。
でも仇は……アタシの手で取りたい。父さんと母さんの無念を払せるのはアタシしかいないんだから。
「レディー? 怖い顔してなんかあったにゃ?」
「…ううん。なんでも」
「そうかにゃ。なら、登録できたところでチーム申請をするにゃ」
「チーム申請?」
「今まで誰とも組もうともしなかったあなたが?」
なんだかローラさんが驚いている。
「チームになると報奨金独り占めできなくなるデメリットがあるにゃ。けれど、討伐依頼なんかは、条件がチームでないとダメーっていう制限があったりするにゃ」
「特に前金制の難度が高い依頼に多いわ。当然、報奨も高い。けれど、ソロだと失敗して、下手をしたらレンジャーが死んでしまう場合もあるのよ」
「レンジャー?」
「あなたたち冒険者のことを正確にはそう呼ぶの。討伐とかケンカの仲裁なんて、本当は冒険の範疇じゃないでしょ。冒険者ってのは昔の呼び名の名残りなのよ」
「…確かにそうですね」
「依頼が失敗となると、その内容によっては依頼者が前金の返還申請できるにゃ。特にレンジャー側の落ち度…例えば報奨金に目が眩んで力量に見合わないのに受けてしまった場合などにゃ。でも、それも死んでしまってたらパーにゃ」
「ああ、だからチームじゃないとダメなんだ。複数の方が生き残るだろうから…ってこと?」
「そうにゃ。それとチームになるともう1つメリットがあるにゃ。依頼成功率とランクが高いチームは、高額依頼で指名されやすいにゃ」
「え? でも指名は常連じゃないとって…」
「高額依頼料に、さらに追加料金払う余裕がある位なら別にゃ。とにかく、より貰える金が大きくなる仕事が増えるってことにゃ」
だから、ウィルテはアタシをギルドに連れてきたかったわけなのか…
「でもなんでアタシを…?」
「ん? ただ単に強いからにゃ。強くて、ウィルテの背中を任せられる…そう直感したにゃ!」
いや、一回しか戦ってないんですけど…
「その娘、そんなに強いの? そうは見えないけれど…」
「強いにゃ! 上級土鬼を倒したにゃ!」
「ボブゴブリン? …そんなの、グリーンランクでも…」
「“一撃”でにゃ!」
ローラさんがアタシを見て眼を見開く。
「…冗談でしょ。あの体力の高い魔物を一撃? レッドだってそんな真似…」
なぜかウィルテは自分のように得意そうにしている…
「ま、まあいいわ。…それでチーム名はどうするの?」
「チーム名?」
「そうよ。チーム名を決めてギルドに掲げるの。そうすることで依頼主から指名されるわ」
「ふふん。もう決まってるにゃ」
「え?」
「『ダブルパイパイ』で登録を頼むにゃ」
「……え? は? はぁッ!?」




