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137話 退魔師

 レディーの参戦により、トンペチーノは動きを止める。


 魔力の刃による斬撃は、確実にダメージを与えていた。


「ユーデス! アイツの魔力の吸収はできないの!?」


「難しいね。ひどく“汚染”されているから…」


「汚染!?」


 いまやトンペチーノの生命力から供給されている魔力は、すでに当人のコントロール化になく、ただ“暴力”と“狂気”に染まっていた。


「いま周囲に放っている魔力は、もう“技”とは呼べない。蛇口の壊れた水道みたいに、周囲の者だけじゃなく自身の体力まで奪っているはずだ」


「「その通りです」」


 スッと横に出てきたギグに、レディーはギョッとする。


「な、なんだ! 新手か!?」


「「いいえ。味方ですとも」」


 ギグは魔剣を指差す。


「「“その方”の言った通りです」」


「アンタ、ユーデスの声を…」


 ユーデスは、レディーにしか聞こえないように小声で話していたはずだ。


「「戦いながら聞いて下さい」」


「は!? そんな余裕は…」


 トンペチーノの体当りを避けたレディーに、器用にギグは同じ方向にピッタリと付いて来る。


「「いまトンペチーノ様に確実なダメージを与えられるのは、レディー・ラマハイム。貴女だけ。しかし、それでも単独で“魔王”を倒すには少々荷が勝ちすぎ……【魔爪(アルティーリョ)】!」」


 振り降ろされる拳を、ギグは伸ばした爪で弾く。


「アンタは魔物か!?」


「「私の正体は後ほど…今は時間がありません」」


 伸ばした爪が途中で砕け、魔力で作られた衣がはだけた素肌が真っ青になっていた。


 話している言葉は静かなのに、荒い息づかいから相当無理しているのだとレディーは察する。


「わかった! アンタがどこの誰か知らないけれど…トンペチーノを倒せるなら話を聞くよ!」


「「賢明な判断です。では…」」




──




「クソッ! 回復以外にやれることがないって情けねぇ!」


 マイザー、シェイミ、トレーナの三者はエスドエムから待機を命じられていた。

 現状、彼らが前線に出て戦ってもやれることがないどころか足手まといになりかねないとの判断からである。

 唯一、前線に近くいるダルハイドも、いまじゃ攻撃や防御には加わっておらず、時折に回復魔法や補助魔法をサポートするに留まっていた。


「でも、レディーが来たからって状況は変わらないわ。HPは26,000まで減ってはいるけれど…」


 “魔眼”でトンペチーノのステータスを視ているトレーナが言う。


 未だ倒し切るには程遠い。レディーの攻撃が一番強烈だったとしても、それはせいぜい一度に数百のダメージになるかどうかだ。


「それでも、あのままエスドエムが言う通りに叩き続けたら…いつかは…」


 シェイミが自分のボロボロに砕けたフリスビーを見て唇を噛む。


「その前にこちらの体力が尽きるわ。レディーとエスドエム以外は疲弊が限界に達している。むしろウィルテの魔力もほぼ底を尽きそうだし、ローストも動きが悪くなっているわ」


「ここまで来て、打つ手なしってか!」


 マイザーが自分の拳をパンと叩く。


「あ! はぁい! 私はぁ、行ってきますぅ〜」


 今の今まで気を失っていたリュションが、むくりと起き上がってそんなことを言う。


「あんた……まだ寝てなさいよ。死者の蘇生でとんでもなく魔力を消費してるんでしょ」


 少し険が取れた感じでトレーナが言うが、リュションは半ば寝ぼけたような顔で笑う。


「うへへへッ。ラマハイム氏ぃとダブルパイパイ様に恩を売るビックチャーンスは逃しませんよぉ〜♡」




──




「今の話、信じるのかい?」


 ユーデスは警戒した口調で聞いてくる。


「簡単には信じられない。けど、アタシは助けられたよ」


 アタシは自分の心臓のある部分に触れる。


「ユーデスはアタシを見捨てなかったよね?」


「私は命の続く限り君を守ると約束したから…でも、私は君を守れなかった…」


「うん。だから、私とユーデスを助けてくれた“娘”を信じたいんだ。アイツに言われたからじゃなく…」


 アタシはタイミングを見計らっている黒衣の男を見やる。


 あれ? あの横顔はどこかで見た気が…


「「来ます! 貴女の魔力に惹かれて!」」


「ブオオオオオッ!!」


 トンペチーノが壁を突き破り、アタシを目掛けて体当りしてくる!

 

「レディー!」


「わかってる!」


 アタシは【魔衝激】を放つ!


 螺旋を描く波紋による斬撃は、“面”に対して有効的だ!

 

 でも、“痛み”を感じていないトンペチーノは意に介さない。ただひたすらにアタシを握り潰そうと迫る!!


 本当は正面から迎え撃つべきじゃない。エスドエムがずっとして来たように別の方向から気を引いて、その逆側から攻めた方が遥かに安全だ。


 だけど、アタシが壁の裏に隠れ、真正面から理由がある!!


「ツカマエダァブヒィヒィォォッッ!!」


「残念! 本命はアタシじゃないよ!!」


 アタシに、近くで隠れていたエスドエムの【フライト】が掛かる!


 そして、ローストと黒衣の男がリュションを間に守りつつ走って向かう!


「ぶ、ブブヒィ?」


 黒衣が放った糸みたいなものがトンペチーノに絡みついて、うっとおしそうに払おうとしているけれど、蜘蛛の糸みたいにベトベトして上手くいかない様子だ。


「うぃへへへぇ! で、デカい! 目の前で見るとビッグですぅ〜! も、漏らしそうですよぉ! 漏らしそうですよぉ!」


 あ。なんかリュションの精神状態がヤバい!


「ラマハイム氏ぃ! ラマハイム氏ぃの応援があればぁ、リュションは頑張れそうですぅぅ!」


 え? アタシの?


 あの黒衣もローストも頷く。


「リュション! が、ガンバ!」


「は、はひぃ♡ が、がんばりまずぅ!!」


 いや、涙や鼻水やら凄いことに…


 それでもトンペチーノに近づき、胸の辺りに手を触れて……


「やって()りますよぅ! 【ハイ・ヒール】ぅッ!!」


 あれ? 回復魔法じゃ…


「ブヒヒィ?」


 リュションの魔法がトンペチーノに掛かった。


 みるみるうちに傷が癒えて、トンペチーノは不思議そうに自分の身体を見やる。


「リュショーン!! 貴様ぁ!! しゃしゃり出て来てなにをするかと思えば、敵を回復させるとはどういう了見だぁぁぁッ!!

 せーっかくここまで追い詰めたというのにぃ!! こーのバカチンが!!!」


 うるさいのが怒り狂ってやって来る。


「そもそも僧侶の貴様が! 前線に出てくるなどと…」


「ブヒィヒッ?」


 エスドエムが怒ってる最中に、トンペチーノに異変が起きる。


 ビキキッて音がしたかと思いきや、その全身に亀裂が走って…


「プッビッギィャァァァァァッ!!!!」


 トンペチーノは頭を抑えて、その場で転げてのたうち回る。


「あらま!」


 なにが「あらま!」だ! エスドエム!


「「人間に激痛が走るほどの聖力…生命力が高ければ高いほど、その受けるダメージは大きくなる」」


 黒衣がトンペチーノの状態を説明し始める。


「こ、これはどういうこと?」


「「そう難しい話ではありません。冷やされたグラスに熱湯を注げば割れるように、魔力の流れを上書きするよう強力な聖力が流れたせいで、懸隔の歪みに耐えられず魔路がズタズタになったのです」」


 トンペチーノは苦しそうに呻き続けている。


「「魔族にとって天敵とも呼べる力…過去にはそういった聖なる力を持つものを、こう呼んでいました…“退魔師(エクソシスト)”、と」」


「わ、私は最悪僧侶じゃなかったんですかぁ!!」


「「ええ。聖力という言葉が失われてから、きっと退魔師という存在も遠くの遥か昔の出来事と忘れられていたのでしょう。魔剣ユーデスのようにね」」


「アンタは一体…」


「オッホン!」


 アタシが黒衣に尋ねようとするのを邪魔するように、エスドエムが咳払いする。


「よくやった! 我輩も最初からそうだと思っていたのだ!!! グッジョブ! リュション!」


 親指を立ててウインクするエスドエム。


 調子のんな! うそこけ!!


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