131話 賢者(?)の石
時計灯台の天辺に突如として現れた黄金の“天使像”。
歯車が勢いよく回る音がし、内側に折り畳まれていた翼が大きく開け放たれる。
それは薄布を纏った爆乳のダイナマイトバディ。
誰もが羨む抜群のプロポーションを持った女性の胴体。
そして、ついにその美貌に光が当たる……
オッサンだった。
それはまごうことなき、オッサンの顔だ。
満足そうにニカッと良い笑顔で笑った、頭頂部がキレイに禿げ上がったオッサン。
もはや説明するまでもない。
元町長サドマゾン・ローションその人の顔が、天使になった像であったのだ。
「な、な、なんであるかこれは!!」
像の背中の部分に居たエムドエズは、目を白黒させて掴まっていた。
父の像は背中が大きく迫り出して、長い横木と一体化していた。
翼もその部分と連結していたのだ。そこにエムドエズはしがみつく形になっている。
──
全員が呆気にとられる。
あのトンペチーノも戦うのを止めて、「はあ?」って顔で時計灯台を見やっていた。
「そうか…あれが父上が出した結論であったか!」
ツーと涙を流すエスドエム。
どこに泣く要素が???
「いや、まったく意味がわからないんですけど!!」
「レディー・ラマハイム。貴様は本当に見た目通りに豆粒みたいな知性しか持ち合わせてないようだな」
「はぁ!? ケンカ売ってんのか!?」
「いいか。我輩がわかりやすく教えてやる。ありがたく拝聴せよ。…あれはだな。単なる像ではない。船首像なのだ」
「“せんしゅぞう”???」
「そうだ。船の舳先に付け、船旅の安全祈願をする魔除けとなるありがたい像だ」
「は…あ??」
いや、たぶん知ってる。知ってるけれどそういう意味じゃなくて…
「我輩が状況から察するに、父上はあの船首像を遺すことで、愚弟エスドエムに“お前を応援してるぞ”ってメッセージを伝えたつもりなのだろうな。フフ、口下手な父上らしいな」
「いやいやいやいやいや! そんな話、いまどーでもいいから! 戦闘中! せ・ん・と・う・ち・ゅ・う!! アンタらのお父さんが、息子になにをどう遺したとか、そんな話は家族だけでやって!! 関係ないから!!」
エスドエムは呆れたようにため息をつく。
いや、ため息つきたいのはこっちなんですけど!!!
「誰も聞きたくもないサドマゾン・ヒストリーに加え、兄とか弟とか!! 完璧に身内ネタじゃん! アタシら一切関係ないじゃん!!」
「わかっておらんな! 我輩は“魔除け”と言ったのだ!」
「へ?」
「父上は堅実な実業家だ! アレにはなんかきっと仕掛けがあーる!!」
──
「パパ。まさかコルダールで集めた金でこんな無駄なものを…」
純金を使って自身の像を造るなど、さすがにエムドエズもやり過ぎだと思った。もちろんこれにも公金がふんだんに使われているのだろう。
「ん? なんだこれ…」
エムドエズは像の背中に、なにか紙の束が挟まれていることに気付く。
「……これはパパの手紙!」
それは、およそ30枚にも及ぶ手紙だった。読み始めると、兄や自分に宛てた内容だった。
「長い! 長いよ、パパ!」
後悔とオッパイと、なんでこんな像を造ったか、海に出たエムドエズを許すみたいな内容、そしてこの像も持ってけ…みたいなことがツラツラと書かれている。
「パパ。吾輩のことを…いや、もちろん嬉しいけれど、いまこんなもの貰ったって、お兄ちゃんを助けられなんて……」
エムドエズはふと、一番最後の便箋が真っ赤な紙であることに気付く。
「……これは『操作マニュアル』?」
そこには“困ったときには赤いボタンを押すべし”とだけ書かれていた。
そしてエムドエズは、像の後頭部に赤いボタンがあるのに気付く。
もちろん押す。
今の彼に押す以外の選択肢などあるはずもなかった。
──
ポッポーッ!!
汽笛のような音が響いて、あの黄金の天使像が激しく揺れだした!!
ガックンガックンと禿頭が揺れ、そこから蒸気が噴き上がる!!
「な、なんだぁ!?」
なんか像の爆乳が大回転している!!
物理的に女の子の胸はあんな揺れ方はしないんだけれども、なんかちょっとエッチなアニメみたいにブルルンと円形に跳ね回っているんですけど!!
まるでエスドエムが乳を振って敵を倒してた時みたいに!!
絵面的にひどい! ひどすぎる!!
「!? 物凄い魔力の反応!!」
トレーナさんの“魔眼”が大きく見開かれていた。
「さすが父上! コルダールの防衛…そしてエムドエズを守る…どっちになっても良いようにしてあったか! オッパイの塔の建設に失敗しても、こんな次の手を打ってあったとは我輩にも見抜けなんだ! 見事!!」
「は? エスドエム! アンタ、何が起きるか知ってるの?」
「知らん! 知らんが、父上は公共の味方のフリをして公金を私的利用することに長けていた!!」
「クズじゃん!!」
「クズでも無能よりマシだ!! 増税だけして仕事をしない指導者より、遥かに父上は仕事をしている!!」
た、確かにサドマゾン・ヒストリーは、いかに元町長が優秀か説明があったけれど……いや、それ以上に変態なんですけど。変態すぎて付いていけないんですけど。
アタシらがそんなやり取りをしている間に、像の胸がパカンと開いて、なにやらボーリング球みたいな黒い物が出てきた。
「あれは!」
「う、ウソにゃろ!」
ウィルテの目玉が、零れ落ちそうなくらいに真ん丸になる。
「……“賢者の石”」
アイジャールさんがなんだか聞き捨てならないことを言った。
賢者の石……どこかで聞いたことある。
それって確か錬金術とかなんかのとっても貴重な石かなにかじゃなかったっけ?
いや、でも、どう見ても賢者の石って賢そうな感じには……しいて言うなれば、賢者モードの……おええッ! あー、寒気がしてきたぞ!
「ん? いや、あれは漬け物石だぞ」
エスドエムが手でひさしを作って言うのに、ウィルテ、トレーナさん、アイジャールさんが信じられないものでも見るかのような顔をした。
「ま、魔法使いのくせに賢者の石を知らにゃいのか!」
「いや、あれはローション家に代々伝わる漬け物石だ! アレで父上はイカを塩漬けにしていたんだからな!」
「は?」
イカの塩漬け……塩辛のこと?
「あの時計灯台で…?」
エスドエムは頷く。
「え。ちょっと待って。なら、サドマゾンが自分を慰めてたって言ってたよね…?」
「ん? そりゃ大好物のイカの塩漬けを食って自分を慰めていたのだ」
「は? ならエロ本のくだりは? アンタの回想では、あそこでなんか…いかがわしいことをしてたんじゃ…」
エスドエムの眉がピクッとする。
「なにを言っとるんだ貴様? 父上はあそこで作ったイカの塩漬けを食って、ついでにあの漬け物石に溜まった魔力をシコシコとヌイていたのだ! なぜか知らんが、あの石は魔力を吸い取ってくれるからな! 便利な代物だ!!」
「まぎらわしい言い方するなぁ!!!」
「なに? ……は! ま、まさか父上がなんかハレンチなことをしていたとでも思っていたのか!! 貴様ぁ!!」
「普通そう思うだろ! イカ臭にエロ本ときたら!」
「ふざけるなぁ!! エロ本は棄てられずにただコレクションしていただけだ! 歴史あるローション家を侮辱する気か!!
あんなところでスケベッティでエロッティなことしてたとしたら、真性の変態ではないか!! 我輩の父上を変態町長だと言うつもりか!! 貴様ぁ!!」
「変態だよ!! あんなところで一人で塩辛食って、あんな金の像を造ってて、変態じゃなきゃなんだってんだ! コノヤロウ!!」
アタシとエスドエムは取っ組み合う。
トンペチーノの眼の前で……
「あ! 見て下さい! 像から!!」
「へ?」「む?」
チュボーーーンッ!!!
“賢者の石”が勢いよく発射された!!
「な、なんで飛ぶの!?」
「なぜ飛ぶかだと? そんなこと簡単だ!!」
「は?」
「男なら、溜まりに溜まったら発射するものと相場が決まっている!!!」
マジでなに言ってんだコイツ……




