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128話 時計灯台の謎

 エムドエズは、時計灯台に向かってひた走る。


 船乗りになってから、船から見ることはあっても陸に上がって近づくことはなかった。 


 よく父に連れられて、「これはワシが建てたんだ!」と自慢気に言われる度、エムドエズは父のことを誇らしいと思うよりも、名家ローション家に生まれてしまったことのプレッシャー、偉大なことを成し遂げた父を越えられないどころか横に並び立つことすらできないのではないか、そんな風に考えてしまう自分の惨めさや情けなさに打ちのめされてきた。

 

 だから父が死んだのをチャンスとばかりに、彼はローション家を捨てた。


 家長は兄だからという名目を理由にして、すべての責任をエスドエムに押し付けて半ば強引に海へと逃げ出したのだ。


 兄は自分に追手を差し向けては来なかった。


 どうせ自分なんて居ても居なくても同じだったんだと思った時、エムドエズは独り枕に涙をこぼした。


 それから兄がベテラン冒険者から、コルダールのギルド長になったという話を聞いた時、エムドエズは余計に自分が小さくなったような感じがした。


 ローション家の縛りから逃げ出したつもりであったのに、自分は自由になんてなってなかったのではないか…エムドエズはそう思わさざるをえなかった。

 

 エムドエズが皆に隠れて自身をロープで縛り痛めつけていたのは、性癖も多分にあったが、それよりも責務を果たせなかった自分自身を罰する意味合いもあったのやもしれない。



「ハァハァ…この灯台になにがあるってんだよ」


 エムドエズはまるで父の背中のように大きく感じられる灯台を下から見上げる。

 塔の先は丸みを帯びたピンクで、それはまるで乳頭のようだった。


 灯台に鍵が掛かってないことは何度も来たので知っていた。扉を開いて中に入ると、円筒の内壁を沿うような形で螺旋階段が続く。


 上にあるのは小さな倉庫となる小部屋がいくつか、それと時計部分の機械室、そして頂上の巨大なレンズがある灯室だ。

 その中で年に数度の調整に入るだけで常に閉じている部屋と言えば、機械室しか思い当たらなかった。


 エムドエズは階段を昇り、迷うこともなく機械室へと辿り着く。


 懐から2本の鍵を取り出す。そして鍵穴を見て、エムドエズは眉を寄せた。


「鍵穴は1つ…この鍵を使うのはここじゃない?」


 鉄扉には穴は1つしかない。試しに自分の鍵を差して回すとなんの抵抗もなくガチャリと回った。


「なら、お兄ちゃんの鍵は別のところで使うのか?」


 エムドエズは疑問に思ったが、念のためと思って兄の鍵を差して回してみる。


 すると、自分の鍵を使った時と同じようにガチャリと今度は鍵が掛かった。


「? なんだこれ? 違う鍵なのに…どっちの鍵でも開け閉めできるのか?」


 2つの鍵の溝を見やるが、明らかに形は違う。


 しかしエムドエズの疑問はすぐに解消した。これは逆マスターキーなのだとすぐに思い当たったのだ。


 エムドエズとエスドエムがそれぞれ持っていた鍵は、実は屋敷にある自室の開け閉めに使える鍵であり、玄関や勝手口などの共有部もそれぞれの鍵で出入りができたのだ。


 そして父はこのローション家が管理する時計灯台の鍵も、共有部と同じシリンダーにしたということだったのだろう。


「なんだよ、どっちの鍵でも開くならこんなのに意味なんて…」


 町のどこかで爆発が起き、猛烈な爆風に煽られて灯台が揺れる。


 こんな時に吾輩は何を無駄なことをしてしまったのかと、そう落胆するエムドエズだったが、ふと兄の言葉を思い出す。



──我輩の持つ“ひとつの鍵”では開かん──



「“ひとつの鍵”じゃ開かない? それって…」


 エムドエズはもう一度鍵を開けると、機械室の中に飛び込む。


「グエッ! オゲェー! なんじゃこりゃぁー!!」


 中に入った瞬間、急激に鼻孔を襲う不快臭にエムドエズはたまらず鼻を抑えた。


「埃と機械油の臭いに混じって、えたイカの臭いがするぅ!!」


 エムドエズは我慢できず、扉を全開放にしてから捜索を試みる。


 中央部機構部に置いた魔法石を原動力に、東西南北にシャフトが延びて、幾つも組み合わさった巨大な歯車へと動力を供給している。


 エムドエズはシャフトの下などを隈無く確認し、工具入れ箱の横に、その場にそぐわないビロード色の宝箱を見つけた。


「あった! こ、これがそうか!」


 なんか異様な臭さが増した様な気がしたが、エムドエズは自分に気の所為だと言い聞かせる。


 今は一大事。些末なことに気を取られてなんていられない。臭さがなんだ。


 宝箱を引きずり出し、埃にまみれたのを息で吹き飛ばし、はやる気持を抑えつつ鍵を…いや、鍵は掛かっておらず、すんなりと開いた。


「お、おげぇぇぇー!!」


 開いた瞬間、あまりの激臭にエムドエズはその場で嘔吐した。


「こ、この臭いの発生源は! やっぱりこれじゃねぇか!!」


 涙目に中身を見やり、エムドエズは眼をカッと見開く。


 それは巨大な乳房を持つムチムチの女体が描かれたスケベッティな本だったのだ。

 それも1冊や2冊どころの話ではなく、何冊も積み重なっており、奇妙なことにところどころカピカピになっていた。


「これはパパの秘蔵の……」


 エムドエズは思い出す。


 父サドマゾンが、母チッチーナにベッドの下に隠したエロ本の件で問い詰められていたことを。


 あのときに父は「絶対に捨てる!」と約束していたが、まさかこんなところに隠していたのだ!!


「た、たまらぁん!!」


 エムドエズは顔中をグチャグチャにしながら、慌てて宝箱を閉じた。



 とても中身を確認する気は起きなかった。どうせ碌でもないものでしかない。もしくはもっと不快な何かが出てくるに違いない。


「……ん? 箱の外に手紙が?」


 開けるのに夢中で、外側に何やら便箋みたいなものが貼り付けてあったのに今気づく。


 テープで留められた便箋を剥がして中身を開くと……



──愛する息子たちよ──



「これは…パパの!?」


 懐かしい父の字に、エムドエズは涙腺が緩むのを感じた(刺激臭で顔がグチャグチャになっていたのとは関係なく)。



──これを読んでいるということは、ワシはこの世にはもうおらんだろう。もしものことを考えてこれをお前たちに遺す──



「パパは一体なにを……」



──この宝箱の中身の処分をくれぐれもお願いします。絶対に開けないで下さい──



 エムドエズは床に額をしたたかに打ち付けた!


「パパのバカッッ!! もう開けちゃったよぉッッッ!!」


 エムドエズは泣いた。今回は怒りからだった。感情が悲しみから怒りへと忙しなかった。



──それと、もし町になんか危機が訪れたらこの“時計灯台の母さん”に相談しなさい──



「んん? ママに?」


 母は父が死ぬだいぶ前に他界しているので、エムドエズは首を傾げた。


「“時計灯台の”?」


 ふとエムドエズは周囲を見回す。


 そして、柱に張り付けてあった彫刻の女神像が視界に入った。


 それは最初、部屋の装飾品だと気にも留めなかった。しかしよく考えてみればここは機械室だ。そんなものを置いてある意味はない。


「これは……ママ?」


 エムドエズは女神像の顔に見覚えがあった。それは彼がまだ幼き頃に見た母の顔にそっくりだったのだ。


 そして思いつく。やはり母に似た大きな乳房、それを覆っているブラに触れる。


「動く!?」


 石膏のはずなのに、下に滑らせることができた。

 そこに金属板が隠されており、真ん中にてるてる坊主のようなシルエットが隠されていた。


「まさか…これが……」


 エムドエズは、兄と自分の鍵を取り出す。そして、ブラのズレた双方の乳房にそれを挿して……

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