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123話 知ったか豚

 最初から何もなかったかのように、建物や壁や道路といった人工物がまとめて引っ剥がれて、残ったのはデコボコの半ば溶けた地面だけ……


 そんなものがアタシの眼の前に広がっている。


 今まで高い壁に阻まれていて見えなかった南の方の青い空が、やや南東の方にあるウルガ山の裾野の方までもがよく見える。


「おのれ…よくも、仲間たちを……」

 

 ローストや生き残った仲間たちが集結する。

 けれど、いまの攻撃を見てしまって戦う気力がほとんど失われてしまっていた。

 

 アタシたちも同じだ。武器は握っているけれど、それを構えて戦う…そんな気持ちが湧いてこない。


 戦っている…レベルが違いすぎて、そんな現実感が湧いてこないんだ。


 ガニンガーやレンジャーたちのほとんどが、まっすぐ大通りを下って逃げていたせいでまとめて犠牲になってしまった。


 アタシたちはまだ大広場寄りの方に、ローストは仲間を逃がすために最後まで残っていたからこそ助かった。


 これは偶然だ。


 もし同じように大通りの方に逃げていたら、あの一瞬で溶け消えた人たちや道路みたいに…


 そう考えただけで、震えがきて……


「歯向かったことを後悔しているのか? ブヒヒ。オレサマが戦えばこうなることは明らかだった。圧倒的な力を前に、人間など吹けば消し飛ぶロウソクの灯火に過ぎん」


 そうだ。コイツの言う通りだ……


 トンペチーノからすれば、アタシたちの命なんてちっぽけな火でしかない……


「このオークキング様の強さはなんだと思う? とんでもないパワー? イカすテクニック? 無敵のフィジカル? …どれも正解に近く、キサマらからすればそう感じられるのだろうが、実のところは違ーう!」


 ? 


 トンペチーノが自分の頭を指差す。


「トンペチーノ様の真の恐ろしさ、それはこの天才的な“頭脳”だブヒヒヒィ!」


 え?


「こうなることはすべてオレサマの計算済みなんだブヒヒ! オレサマがいかに頭がいいか、ここで特別にキサマらには教えてやろう!」


 なにを言って… 


「2かける5はいーくつ!?」


 は?


 トンペチーノは「2個が5回だから…」と開いた指を折って数えている。


「…“8”だブヒヒ!」


「……」


「世界広しといえど、“掛け算”ができるオークはこのオークキングことペチペチ・トンペチーノ様を置いて他にいないんだブヒヒヒィ!

 驚いたか、人間ども! 崇め! 平伏せよ! トンペチーノの名を讃え、命乞いしろ! そうすればせめて苦しませずに一息に呑み込んでやるブヒヒィよ!!」


「……」


 ユーデスが強く脈動しているのを手に感じる。


「【魔衝激】!!」


「ブヒヒィ?!」


 アタシが放った斬撃に、トンペチーノは驚いて数歩後ずさった。


「な、何事!? 魔力の刃だとぉ…? オレサマの無敵のフィジカルに傷を?」


 ダメージは浅かった。けれど効いた。


 ユーデスが敵の魔力を把握して、その“魔力防御を無視した一撃”だから、大きなレベル差があっても効果があるんだ。


「! これは…ブヒヒィ! わかったぞ! オレサマの天才的な頭脳がズバリ言い当ててやろう! その剣は“マケン?”だな!? 前に聞いたことがあるぞォ!」


 “マケン”のイントネーションおかしくね?


 もしかして……


「そうだよ! オマエにダメージを与えた、これがなんの効果を持つ魔剣かわかるか!?」


「? 簡単だブヒヒ! “ダメージを与えるマケン?”だ!!」


 こーの、“知ったか”が!


 やっぱり全然わかってないじゃんか!


「クソ野郎がッ! オマエみたいな“バカ”に殺されてたまるかッッッ!!!」

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