122話 ─濃縮還元砲・100%─
「あんな魔物を放置するなんて、神々はそこまで腐敗したのか…」
ユーデスが押しつぶした様な声でそう言った。
ガニンガーたちがトンペチーノを囲うように走って行く。
「近づきすぎるな! 遠距離攻撃ができないレンジャーも距離を保て!」
ローストが矢継ぎ早に指示を出す。
「なにをするつもりだぁブヒヒ?」
トンペチーノを中心にして、敵の攻撃が当たらないギリギリの間合いをとりつつ、彼らは円形に走り続ける。
「“渦潮の陣”! 放て!」
「「「ガニィ!」」」
ガニンガーたちが走りながら、口吻槍を通して一斉に毒液を吐き出す!
それはまるで回転するスプリンクラーの様で、きっと上から見たら渦潮の様に見えるんだろう。
「ンァ? アバババァァー!」
さすがのトンペチーノも全方向からの毒液攻撃に不快そうな声を上げる。
「よし! このまま毒で弱らせつつ叩く! これぞ我らガニンガーの必勝にして常勝の手!」
毒液が切れたら、後方に待機している者が前に出て毒液を吐く。その間に待機している者が毒液を溜めておく。途切れぬように、これを繰り返す。
「す、凄いにゃ。ローストたちがどうやってエスドエムと戦うつもりかわからなかったにゃが、この方法なら圧倒的なレベル差があっても関係ないにゃ」
確かに、毒で敵を弱らせて…ってのは効果的だよね。毒を与えれば、あとは時間を稼いで、敵が動けなくなるのを待てばいいんだし。
「…ダメよ」
トレーナさんがポツリと呟く。
「全然、敵のHPは全然減ってないわ…」
「え?」
毒液の飛沫の中、トンペチーノは何やらモゾモゾ動いている。
「麻痺性の溶解毒だぞ…なぜ、動ける?」
ローストは慄くと同時に、毒以外の攻撃も命じる。矢や魔法がトンペチーノに向かって飛び交う。
「ブヒヒィ。弱者の浅知恵…味わうに堪えん」
トンペチーノは大きくため息をついたかと思うと、大きく上体をそらす…
ギュゴオオオオオオオオッ!!
そして、轟音と共に撒かれていた毒液が、勢いよくトンペチーノにと吸い込まれていく!!
「ま、まさか…」
「鼻から毒液を!?」
「吸ってるガニィ!?」
毒液をすべてトンペチーノが吸い尽くす。それだけでは飽き足らず、床に溢れた液まで鼻を押し付けてチュウチュウと吸う。
「物足りんなぁ。こんなモノでは前菜にもなりはせんぞ」
「な、なんてヤツにゃ…滅茶苦茶にゃ…」
「…毒素を分解した? いえ、違う。毒素を貯蓄して、濃度を変え……急いで距離を取って!」
トレーナさんが、アタシとウィルテに言う。
「距離って…ガニンガーたちが戦っているのに!」
彼らが足止めしてくれているなら、【魔衝激】を放っての援護くらいは…
「ダメ! もう反撃が来る!」
「毒が効かんのなら、直接叩くまで!」
ローストが槍を構えて突進する!
「少なかったとはいえ、馳走してくれた分はお返ししてやろうブヒヒィ!!」
トンペチーノが両手を開く。
「噴!」
「なんだ! なにをする気だ!?」
そして、その全身から、ブアッと濃い紫をした蒸気のような物が噴き上がった!
──最悪汚染噴流・濃度最大──
まるで燻煙剤のように拡がり、辺りにいたガニンガーたちを煙が包み込む…
煙に触れた建物の一部が、ボロッと崩れ落ちた。
「か、身体が…」
「溶け…が、ガニィ…」
ガニンガーたちの衣類だけじゃなく、その甲殻までもが溶けて、その場に半溶けになった彼らはグシャリと倒れる。
「馬鹿な! あれは我々の放った毒を蒸気にした物ではないのか!? そんなものは我々には効かんし、そもそもガニンガーは腐食耐性と毒耐性を持つガニィ!」
「いや、濃度が全然違う…おそらくヤツは体内で毒を濃縮させ、なおかつ別の毒に合成してから放出したんだ」
「ば、化け物…」
「退け! いまは退くしかない! この煙に触れるな! 急げ!」
「ヒィィ!」「うわああッ!」
ガニンガーたちやレンジャーたちが慌てて逃げ出す。
「ああ、マイザーたちが!」
あの場に倒れている! 毒に触れたらマズイ!
「大丈夫にゃ。あの煙、地面の方には行ってないにゃ…立ち上がらなきゃ触れないにゃ」
ウィルテの言う通り、煙は上や横には拡がっているけれど、屋外だからか下には向かっていない。
「で、でも!」
「離れよう、トレーナさん。アタシたちがここでやられちゃ、マイザーたちを助けられない」
悔しい。けれど、今のアタシにはなにもできない……
「ほーう? 逃げるのか? ブヒヒィ。なんだ。向かって来たり、逃げてみたりと…忙しいヤツらだブヒヒィ。オレサマの体型を見て、簡単に逃げられると勘違いしている脳足りん共は、まったく見ていて極めて不愉快よな!」
トンペチーノは両手を合わせ、腰溜めするかのように捻る…
すると、周囲の煙が手の方に集まって…
──濃縮還元砲・100%──
トンペチーノが勢いよく両手を開いて突き出すと、そこからレーザー砲のようなものが大通りに向けて放たれた。
直線上にあった、逃げているガニンガーやレンジャーだけでなく、道路や建造物までが一瞬にして溶けて消えて…なにもなくなってしまう。
「これから逃げる奴には、コイツを背中にお見舞いしてやる!! 食卓に並ばない三流食材は、喰う値すらないブヒヒィ!!」




