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117話 絶望

「クッ! 遅かったか…」


 アタシたちがようやく辿り着いた時には、コルダールはガニンガーとオークの両方が入れ混じって戦っている状況だった。


「某らはガニンガー各隊の指揮を執り立て直す。それからオークどもを追い払う」


「レンジャーと協力してだよね?」


「無論だ。この町は……ガニンガーの町でもある」


 ローストたちガニンガーは「任せてくれ」と頷く。


「アタシらと、マイザー・チームはこのままオークキングと戦う…それでいい?」


「ああ。それでいいぜ」


 マイザーは親指を立てた。


「見たところ、外側にいるオークたちはそんなにレベルが高くないわ。高い耐久力は気をつけなきゃだけれども、魔法に耐性があるわけでもないから…」


「レッドランクのレンジャーとガニンガーなら対処できるってわけだな」


 トレーナさんの言葉を、シェイミが続ける。


「…町の中央が激戦地のようだわい」


「敵を罠かなにかに引きずりこんだってことかにゃ?」


「あるいは追い込まれたか…」


 ギグくんがそう言うと、ウィルテが苦い顔をした。


「なら向かうべきは…」


「あの時計台のある場所だね!」




──




 戦いはより広い場所へ、時計灯台のある大広場へと移り変わっていた。


「ブヒヒィ! 最初の威勢はどうしたんだぁ?」


 トンペチーノは、己の三段腹をペチペチ叩きながら嘲笑う。


「お、おのれぃ…」


 額から血を流し、エスドエムは片膝を地面につく。


(強い。乳を膨らませる余裕もない…)


 エスドエムの得意としている強化魔法【ストレングス】は、トンペチーノの放つ【劇臭汚染散布】によって強制解除されてしまうのだ。


「【ギガンティック・ファイヤーボール】!!!」


 エスドエムは人の身の丈ほどもある巨大な火球を放つ!


「ブヒヒ。詠唱もなしに上級魔法を即座に放つとは、パパチチイヤン様が警戒されるだけのことはあるブヒヒィンな!」


「焼き豚チャーシューになっておしまい!」


「しかーし、舐めるなよ。オレサマは魔族の王。こんな程度で倒されるものかブヒヒィン! 【悪臭爆弾】!!!」


 トンペチーノが両手を開くと、たわわな胸を中心に茶色いエネルギーが集まる!


「な、なんだこの異様な臭さは!?」


 そしてエスドエムの魔法を茶色いエネルギーが包み込んだ。


「我輩の魔法をッ!?」


 そして巻き起こる大爆発!

 

 本来ならばトンペチーノに着弾してから炸裂するはずだった炎の巨球は、エスドエムが思っていたよりも手前で爆発してしまった。魔法を放った本人がそれに巻き込まれる。


 トンペチーノのが出した【悪臭爆弾】とは、メタンを主成分とした可燃性ガスの塊であり、本来ならば敵に纏わりつかせて剣戟などにより生じた火花などで着火させ、大爆発を起こさせる技だったのである。


「自分を丸焼きにした気分はどうブヒヒィ? 焼き目がついてさぞ美味そうにな…」


 勝利を確信したトンペチーノはニヤリと笑ったが、爆煙の中から血まみれのエスドエムが飛び出す!


「ぬぬッ!?」


 そしてメイスでトンペチーノを横殴りにする!


(魔導師の癖に速い! しかも、この腕力…)


 防御した腕が痺れるのに、トンペチーノは眼を細める。


「キサマ! 本来は戦士か…ブヒヒィ!」


「フン! そう思うか? なら貴様の眼が節穴だというだけだ!」


「? オレサマが人間のことを知らんと思っているブヒヒな? 乳房で戦うことこそ知らなんだが、人間は得手な戦い方を“職業”としている! そして本当は戦士だというパターン! とどのつまり、魔法職は偽装だブヒヒーン!!」


 看破したものとトンペチーノのが恍惚とした表情を浮かべる。


「偽装? そんな必要はない!」


 エスドエムの舌が高速でペロペロと動く。


──スキル【三倍速詠唱】&スキル【独壇場】

──


 “乳”を使って敵を倒すことに拘ってはいた。しかし、だからといって魔法の訓練を彼は欠かしたことがない。


「『鬼子畏れる久遠の業火…』」


「!? その詠唱…まさか最上級魔法かッ?!」


 まるでテープレコーダーを早回ししたかのような勢いでエスドエムは続けるのに、トンペチーノは驚愕する!


「させないブヒヒィ!」


「うるさい! いま我輩が詠唱してるでしょうが!!」「『煉獄より来たりたもう憤怒の炎』…』」


「な、なんだと!?」


 まるでエスドエムの声が二重音声の様に聞こえ、トンペチーノは怪訝そうにする。


「近接戦闘をしつつ、高レベル魔法の口述詠唱を続行だと!?」


「我輩がシングルでダブルパイパイである所以がこれよ!」「『灼熱の濁流と為す息吹が逆巻き荒れ狂う…』」


 トンペチーノの攻撃をメイスでいなしながら、エスドエムは詠唱を続ける。


「ま、マズイ!」


 詠唱が完成してしまうのに、トンペチーノは慌てる。


「『穢れし此方の大地を、汝が災厄の爆炎にて塵芥と化させ給え…』」



──エクスプロード──




──




 大爆発が起きて、町の間から猛烈な爆風がアタシたちに叩きつけられる!!


「な、なんだいまの!?」


「【エクスプロード】…火炎系魔法の最上級魔法にゃ。いったい誰が…」


「え? ウィルテさんが驚くような魔法で?」


「あ、当たり前よ! 私たちの使う魔法よりも遥かに上よ!」


 ウィルテもトレーナさんも半ば青い顔をしていた。


「ダブルパイパイ様ですよぉ!!」

 

 リュションが鼻息荒く言う。


「待てよ! エスドエムはそんな魔法まで使えたのか!?」


「うむ。そういえば聞いておらなんだな。トレーナよ、エスドエムのレベルは幾つなんじゃ?」


「レベル…76よ」


「「マジか?!」」


 アタシとマイザーは同時に驚く。トレーナさんの魔眼はかなり正確に相手の力量を測れるらしい。

 

「俺たちのレベルの3倍かよ! 強ぇえわけだぜ…」


「ならオークキングにも楽勝じゃ…」


「いや、もしかしてオークキングがオクルス並の強さだったとしたら…」


 シェイミが不安気に言う。


「ちょい待てよ! あんな魔王クラスの化け物がゴロゴロしててたまるかよ!」


 確かにマイザーの言う通りだと思うけれど、世の中には他にデモスソードみたいなヤツもいる。


「トレーナ。オークキングのレベルはどうなんじゃ?」


「…アイジャールさんの水晶球を通してじゃ見えなかったわ」


「あの爆発の中で生きていたとしたら本物の化け物だぜ」



 そして、アタシたちは絶望する。


 オークキングに頭を鷲掴みにされて、宙吊りになったエスドエムを見て……

 


──魔族が優勢すぎて面白味がないといいましょうか──



「そんな…レベル……255…」


 トレーナさんが膝を付く。


 オークキングの眼がアタシたちのを捉えてニタリと笑う。


「ブヒヒィ。貴様らは…飛んで腹に入るツマミだブヒヒーンッ!!」

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